会社売却を考え始めたとき、多くの方が最初につまずくのが「結局、どんな書類が必要なの?」という点です。
「まだ売ると決めたわけじゃないのに、準備しないといけないのかな…」と迷ったり、逆に、いざ相談しようとして書類が手元になくて話が進まない…ということもよく起こります。
ただ、最初から完璧にそろえる必要はありません。まずは“これだけあると話が前に進みやすい”という書類を押さえ、足りないものはどこにあるか・誰に聞けば出てくるかを整理しておくだけでも、準備の負担はぐっと軽くなります。
この記事では、会社売却で求められやすい書類を種類ごとにわかりやすく整理しながら、最初に揃えたい書類と、あとから追加で求められやすい書類の考え方、そして集め方・まとめ方のコツまでを紹介します。「何から手をつければいいか分からない」という状態を、ここで一度スッキリさせていきましょう。
まず知っておきたい「必要書類」の考え方
会社売却の準備で書類を集め始めると、途中で「こんなに必要なの…?」と気が重くなることがあります。ですが、ここで大切なのは、書類集めを“作業”として頑張り切ることではありません。
書類にはそれぞれ役割があり、目的が分かると、必要なものの優先順位も自然と見えてきます。
必要書類は「相手に安心してもらう材料」
会社売却で求められる書類は、ひと言でいえば「相手に安心してもらう材料」です。
買い手側(または検討する側)は、あなたの会社を初めて見る立場です。どれだけ良い事業でも、口頭の説明だけでは伝わりにくい部分があります。そこで、数字・契約・体制などを客観的に確認できる書類があると、次のような不安が減ります。
- この会社はきちんと運営されているのか
- 売上や利益はどのように生まれているのか
- 契約や権利関係に大きな抜け漏れがないか
- 引き継いだあとも事業が回る体制か
つまり、書類は「査定のため」だけではなく、相手の不安をほどいて話を前に進めるための“共通言語”でもあります。
逆に言うと、書類が少ないと、相手は確認に時間がかかり、結果として検討が止まってしまうことがあります。
「最初に必要な書類」と「あとから追加で求められる書類」は分けて考える
もうひとつ、気持ちがラクになる考え方があります。必要書類は、最初から全部そろえるものではありません。
会社売却で書類が求められる場面は、大きく分けて2段階あります。
- 最初に必要な書類:まず「どんな会社か」を理解してもらい、検討の土台を作るためのもの
- あとから追加で求められる書類:関心が高まり、より具体的に確認したい点が出てきたときのもの
最初の段階で大切なのは、完璧さよりも“説明できる状態”です。
たとえば「この書類はすぐ出せます」「これは今探していて、いつ頃出せます」「ここはまだ整理中です」と、現状を正直に言えることが、安心につながります。
一方で、検討が進むほど「追加で確認したいこと」が増え、必要書類も細かくなっていきます。これはあなたの会社が疑われているというより、相手が真剣に検討しているからこそ起きる自然な流れです。
なので、まずは“最初の一歩に必要な書類”に絞って整える。それだけで、準備のハードルはぐっと下がります。
この章の結論はシンプルで、書類は「相手に安心してもらうため」、そして「最初」と「あとから」に分けて考える——この2つを押さえておけば、書類準備は必要以上に重くなりません。
はじめに揃えたい「会社の基本がわかる書類」
会社売却の話を進めるうえで、最初に求められやすいのが「この会社は、そもそもどんな会社か」を確認できる書類です。
ここで目指したいゴールは、細かい説明を完璧にすることではありません。まずは、会社の輪郭(法人・株主・意思決定)が一通り説明できる状態を作ることです。これが整うと、相手も安心して次の検討に進みやすくなります。
登記・定款など、会社の“身元”を示すもの
まず押さえておきたいのは、会社の“身元”が分かる書類です。これは、相手が「この会社の基本情報にズレがないか」を確認するために使います。
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)(会社名、本店所在地、役員、資本金などが確認できます)
- 定款(会社のルールや事業目的などの基本が分かります)
- 会社概要が分かる資料(パンフレット、Webサイトの会社情報、社内資料などでもOKです)
ポイントは、これらを「提出するため」に集めるというより、説明の土台として手元に置いておく感覚です。
特に登記事項証明書は、相手が基本情報を確認する入口になりやすいので、準備しておくと安心です。
株主や役員の情報など、意思決定の前提がわかるもの
次に大事なのが、「誰がこの会社を売却できる立場なのか」が分かる情報です。会社売却では、買い手側も「話が進んだあとで、決裁がひっくり返らないか」を気にします。
そのため、早い段階で以下が整理できていると、話がスムーズになりやすいです。
- 株主の構成が分かるもの(株主名、持株比率が分かるメモでも可。株主名簿がある場合はなお良いです)
- 役員の一覧(代表者、取締役、監査役など)
- 意思決定の流れが分かる情報(例:株主総会が必要か、誰の同意が必要か、社内の決裁ルートなど)
ここで意識したいのは、法律用語をきれいに並べることではなく、「売却の意思決定に関わる人が誰か」が分かる状態にしておくことです。
もし株主が複数いる場合は、早めに「関係者の認識合わせ」が必要になることがあります。
グループ会社・関連会社がある場合に添える情報
会社が単体ではなく、グループ会社や関連会社とつながっている場合は、相手にとって「全体像」が見えないと不安になりやすいです。
ここで大切なのは、難しい資料を作り込むことではなく、関係性がざっくり分かる情報を添えることです。
- グループの全体像が分かるメモ(会社名と関係性を矢印でつないだ簡単な図でもOKです)
- 代表者・株主が共通している会社の一覧
- 取引やお金の流れが濃い会社があるか(ある場合は「ある」と分かる程度で十分です)
まとめると、この章で揃えたいのは、会社の身元と意思決定の前提、そして(該当する場合は)関係会社の全体像です。ここが整うと、売却の話は一気に進めやすくなります。
「お金の状況」を説明するための書類
会社売却の話が進むかどうかは、実は「説明の上手さ」よりも、数字の根拠をいつでも出せるかで決まる場面が多いです。
買い手側が見たいのは、立派な資料というより、「この数字は何を元にしているのか」が確認できる状態です。ここが曖昧だと、確認が長引いてしまい、結果として検討が止まってしまうことがあります。
この章では、数字の根拠を“いつでも出せる形”に整えるために、まず揃えたい書類を整理します。
決算書・試算表など、基本の財務資料
まず必要になるのは、会社の成績や財務体質が分かる基本の財務資料です。これは「売上や利益の規模」「資産・負債の状況」を、客観的に説明するための土台になります。
- 決算書(一般的には直近数期分。手元にある範囲でまずOKです)
- 勘定科目内訳書(科目の中身を確認するために求められることがあります)
- 総勘定元帳(より詳しい確認が必要になったときに参照されます)
- 試算表(月次・四半期など、直近の動きが分かるもの)
- 資金繰り表(作成していれば。必須ではありませんが説明がしやすくなります)
ここで大事なのは、書類を並べることではなく、「最新の数字がどれか」が分かる状態にしておくことです。
たとえば試算表は、社内で複数版が存在しがちです。相手に渡す・説明する前提で、最新版の年月がひと目で分かるようにしておくと、話が止まりにくくなります。
借入・返済・担保など、金融機関まわりの一覧
次に、買い手側が特に気にするのが借入の状況です。借入があること自体が問題というわけではありません。ただ、情報が整理されていないと、相手は「見えない負担があるのでは」と感じやすくなります。
準備としては、細かい資料を山ほど揃えるよりも、まず一覧で説明できる状態を作るのが効果的です。
- 借入金の一覧(金融機関名/借入残高/金利/返済条件/返済期限など)
- 返済予定が分かるもの(返済表、返済予定表など)
- 担保・保証の状況が分かるもの(不動産担保、保証協会、代表者保証など「ある/ない」が分かるメモでも)
- リース契約の一覧(実質的に固定費として見られるため、確認されることがあります)
この段階でのゴールは、「借入は何本あって、いま残りはいくらで、いつまで返すか」が説明できることです。
もし担保や保証が絡む場合も、まずは“事実が分かる形”で整理しておくと、相手とのすれ違いが減ります。
税務申告に関する資料
最後に、税務申告に関する資料です。ここも「正しいかどうかを詰める」というより、相手が申告内容と数字のつながりを確認するために見られることが多い部分です。
- 法人税の申告書一式(控え)
- 消費税の申告書(課税・免税の状況確認として見られることがあります)
- 地方税(法人住民税・事業税など)の申告に関する資料(手元にあれば)
まとめると、この章で整えたいのは、決算・試算表などの基本資料、借入まわりの全体像、申告書の控えです。
数字の根拠がすぐ出せるだけで、確認がスムーズになり、話が止まりにくくなります。
「事業の中身」を伝えるための書類
会社売却では、数字が大事なのは間違いありません。ただ、数字だけを見ても、買い手側は「なぜその売上・利益が出ているのか」までは分かりません。
そこで必要になるのが、事業の中身(売上の作り方・運営の実態)を伝えるための書類です。ここが整理されていると、相手の誤解や不安が減り、会話がスムーズになります。
この章では、売上の作り方と事業運営の実態を、相手に誤解なく伝えられる状態にするために、まず揃えたい書類を整理します。
主要な取引先・商品サービスがわかる資料
最初に押さえたいのは、「何を、誰に、どうやって提供している会社か」が分かる情報です。
難しい資料を作り込む必要はなく、相手が全体像をつかめる材料があるだけで十分役に立ちます。
- 商品・サービスの一覧(主力商品、提供メニュー、価格帯など)
- 売上の内訳が分かる資料(商品別・顧客別・チャネル別など、手元にある範囲でOK)
- 主要取引先の概要が分かるメモ(社名、取引年数、取引内容、依存度が高い取引先があればその旨)
- 営業資料・提案書・会社案内(既存のもので十分です)
- Webサイト・パンフレット(外部に見せている説明として参考になります)
ポイントは、相手が気にする「よくある疑問」を先回りして答えられることです。たとえば、売上が特定の取引先に偏っているか、単発取引が多いのか継続が多いのかなどは、誤解が生まれやすい部分なので、分かる範囲で整理しておくと安心です。
契約書・発注書など、取引の根拠になる資料
次に必要になるのが、「その売上はどんな約束(契約)に基づいているのか」を示す資料です。
ここが弱いと、相手は「取引がいつでも切れるのでは?」と感じやすくなります。
- 基本契約書(取引基本契約、業務委託契約、販売契約など)
- 個別契約書・注文書・発注書(案件ごとの根拠が分かるもの)
- 見積書・請求書(契約書がない取引の補足材料として)
- 利用規約・約款(サブスクやサービス提供型の場合)
- 賃貸借契約書(事務所・工場・店舗など、拠点がある場合は確認されやすいです)
契約書が全てそろっていないケースも、現実にはあります。その場合でも、ここで大切なのは「ないことを隠さない」ことです。
「契約書はないが、発注書と請求書は残っている」「継続取引だが更新はメール合意」など、取引の実態が説明できる材料を揃えるだけでも、相手の不安はかなり減ります。
また、相手が特に気にしやすいのは、契約の中身そのものよりも、継続性とリスク(解除条件やペナルティなど)です。細かい読み込みはこの段階で完璧でなくても構いませんが、必要になったときにすぐ確認できるよう、保管場所を整えておくと安心です。
許認可・資格・業界特有の届出(該当がある場合)
業種によっては、許認可や資格がないと事業が続けられないことがあります。買い手側はここをとても重視します。
逆に言うと、該当するものが整理されているだけで、相手は「継続できる事業だ」と判断しやすくなります。
- 許認可証・登録証(有効期限や更新の有無が分かるもの)
- 必要資格を持つ人の情報(誰が保有しているか、退職予定がないか等。個人情報の扱いには注意)
- 業界特有の届出・報告書(該当があれば、提出済みが分かる控え)
- 行政からの指導・改善報告などがある場合の記録(ある場合は事実が分かる形で)
この部分は「ある/ない」が大きな違いになることがあります。もし自社で何が該当するか曖昧なら、まずは“うちの事業は許認可が必要かもしれない”という前提で、手元資料を探してみるだけでも一歩前進です。
まとめると、この章で揃えたいのは、何を売っている会社かが分かる材料、取引の根拠が分かる資料、そして(該当する場合は)許認可・資格の証拠です。
事業の実態が伝わると、相手の誤解が減り、検討は前に進みやすくなります。
「人・体制」を説明するための書類
会社売却で意外と大きなテーマになるのが、「引き継いだあと、この会社はちゃんと回るのか」という点です。
そして、その不安の中心に来やすいのが“人”です。
ここで大切なのは、従業員さんの情報を細かく並べることではありません。相手に伝える目的は、「どんな体制で事業が動いているのか」を必要十分に説明することです。
この章では、引き継ぎの不安になりやすい“人の情報”を、出し過ぎず・隠し過ぎず整理するための書類と考え方をまとめます。
従業員の一覧(人数・雇用形態・役割の見える化)
まず揃えたいのは、会社の体制が分かる従業員の一覧です。
相手が知りたいのは、「誰がいくらもらっているか」よりも、人員構成と役割分担です。
例えば、次のような項目が分かる一覧があると話が進みやすくなります(最初はメモ程度でも十分です)。
- 人数(正社員/契約社員/パート・アルバイトなどの内訳)
- 職種・役割(営業、製造、事務、開発、現場責任者など)
- 勤務形態(フルタイム/時短/シフト制など)
- 組織のつながり(だれがだれを見ているか、簡単な体制図があるとより伝わります)
注意したいのは、最初から個人名や個人が特定される情報を出し過ぎないことです。
必要な範囲で、役割が分かる形に整えておくだけでも、相手は引き継ぎのイメージを持ちやすくなります。
就業規則・雇用契約など、労務まわりの基本書類
次に、会社としての運用が整っているかを見るために、労務まわりの基本書類が確認されることがあります。
ここは「完璧に整っている会社だけが売れる」という話ではありません。ですが、書類が揃っているほど、相手の安心感は増えます。
- 就業規則(作成・届出している場合)
- 雇用契約書/労働条件通知書(雇用条件の根拠になるもの)
- 賃金規程・退職金規程などの社内ルール(ある場合)
- 36協定(該当する場合。締結・届出の控え)
- 社会保険・労働保険に関する書類(加入状況が分かるもの)
ポイントは、細かい法律の話に踏み込むことではなく、「運用の土台があるか」を説明できる状態にしておくことです。
また、これらは従業員さんの個人情報を含む場合があるため、管理・共有の際は取り扱いに注意が必要です。
キーマン依存・採用難など、事業継続に関わる点のまとめ方
人の話で、相手が最も気にしやすいのは「この人がいないと回らない」状態になっていないかです。いわゆるキーマン依存や、採用が難しい職種がある場合は、引き継ぎの計画に直結します。
ここで大切なのは、良い・悪いの評価ではなく、事実を分かる形にしておくことです。隠そうとすると、あとでズレが出やすくなります。
- キーマン業務の棚卸し(例:特定の人しかできない業務/属人的な取引先対応)
- 引き継ぎに必要な期間の目安(数日で可能なのか、数か月必要なのか)
- マニュアル・手順書の有無(あるなら所在、ないなら「ない」と分かるメモ)
- 採用の現実(採用に時間がかかる職種、直近の採用活動の状況など)
この整理は、ネガティブな告白ではありません。むしろ相手にとっては、「課題が見えている=対策が打てる」という安心材料になります。
また、伝え方のコツとしては、「できていないこと」だけで終わらせず、現状の回し方(誰がカバーしているか、どこまで仕組み化できているか)も合わせて書いておくと、話が建設的になりやすいです。
まとめると、この章で揃えたいのは、体制が分かる従業員一覧、労務の基本書類、そして事業継続に関わる“人のリスク”の見える化です。
人と体制が説明できると、引き継ぎの不安が減り、検討は前に進みやすくなります。
「心配の芽」を早めに共有するための資料
会社売却で揉めやすいのは、「大問題がある会社」よりも、小さな引っかかりが後から出てきた会社だったりします。
最初は順調に見えていたのに、途中で「聞いていなかった話」が出てくると、相手は不安になります。すると確認が増え、話が止まったり、関係がぎくしゃくしたりしやすいです。
だからこそ、ここで大切なのは隠さないことです。完璧な会社に見せるより、心配の芽を整理して“先に見える化”しておくほうが、結果的にスムーズに進みやすくなります。
口約束の取引・未整理の契約がある場合の扱い方
現実として、すべての取引が契約書で固まっている会社ばかりではありません。
長年の付き合いで、口約束やメールのやり取りだけで回っている取引もあると思います。
ここでやっておきたいのは、「契約書がないこと」を消すことではなく、取引の実態が説明できる材料を揃えることです。
- 契約書がない(または見つからない)取引の一覧(取引先名/内容/開始時期/頻度など)
- 実態を裏づける資料(発注書、見積書、請求書、納品書、メールのやり取りなど)
- 更新の考え方(毎年更新なのか、都度発注なのか、暗黙の継続なのか)
ポイントは、相手が「この取引は続く前提なのか、いつでも切れるのか」を判断できるようにしておくことです。
契約書がないこと自体よりも、実態が見えないことが相手の不安になります。
クレーム・係争・未払いなど、リスク情報のまとめ方
次に、後から出てくると特に揉めやすいのが、トラブルや未解決事項です。
「大したことではない」と思っている内容でも、相手にとっては判断材料になります。
ここでのコツは、感情的に説明するのではなく、事実を短く整理しておくことです。たとえば、次のような形にすると伝わりやすいです。
- クレーム・トラブルの一覧(発生日/相手/内容/現在の状況/再発防止の取り組み)
- 係争・紛争がある場合の整理(訴訟・調停など、進行状況が分かる資料)
- 未払い・滞納の状況(売掛金の滞留、支払い遅延、回収見込みの整理)
- 保証・返品・無償対応のルール(口頭ルールでも、現状が分かるメモがあると安心です)
大事なのは、良い印象に見せることではなく、「何が起きていて、今どうなっているか」を説明できることです。
そして、もし解決しているなら、“解決済み”と分かる資料を添えておくと、相手は安心しやすくなります。
個人保証・担保など、社長個人に紐づく論点
最後に、会社売却で見落とされがちですが、かなり重要なのが社長個人に紐づくものです。代表者保証や個人名義の担保などがあると、会社だけの話では終わらないことがあります。
ここで目指すのは「解消方法まで決め切る」ことではなく、まず“何があるか”を見える化しておくことです。
- 代表者保証の有無(どの借入に付いているか)
- 担保の状況(会社資産なのか、個人資産なのか)
- 個人と会社が混ざりやすい項目(例:社長個人名義の賃貸借、個人所有の不動産を事業で使っている等)
これらは、早めに共有しておくほど、話がこじれにくくなります。
まとめると、この章で大切なのは、「心配の芽」を隠さず、事実として整理して先に見える化することです。
完璧に見せるより、誠実に整理されているほうが、相手は安心して検討しやすくなります。
書類の集め方と、ラクになる整理ルール
必要書類は、集め始めると「思ったより散らばっている…」と感じやすいものです。
そして、いちばん大変なのは集めること以上に、あとから「あの書類どこだっけ?」となる瞬間だったりします。
この章の目的は、書類を集めるだけで終わらせず、「探せる・更新できる」状態に整えることです。
最初に少しだけ整理のルールを決めておくと、その後の負担が驚くほどラクになります。
どこから集める?(社内・税理士・社労士・金融機関など)
書類は「自分のPCの中」だけにあるとは限りません。まずは、どこに何がありそうかを当たりを付けるのがコツです。
- 社内:総務・経理・人事・営業など。紙のファイル、共有サーバー、個人PCに分かれていることが多いです
- 税理士:決算書、申告書、総勘定元帳、勘定科目内訳など(事務所によって保管形式はさまざまです)
- 社労士:就業規則、36協定、労務関連の届出控え、社会保険・労働保険の書類など
- 金融機関:借入の返済予定表、借入条件が分かる書類、担保・保証に関する資料など
- 司法書士/行政書士など:登記関連、定款、許認可の申請控えなど(関与している場合)
集めるときは、いきなり全部を揃えようとせず、まずは「いま手元にあるもの」と「外部にお願いすれば出てくるもの」に分けてリスト化すると、頭の中が整理されます。
特に外部(税理士・社労士・金融機関など)に依頼するものは、出てくるまでに時間がかかることもあるので、早めに当たりをつけるだけでも価値があります。
フォルダ構成と命名ルール(最新版が迷子にならない工夫)
書類整理で一番ありがちなミスは、同じ名前のファイルが増えて、どれが最新版か分からなくなることです。
ここを防ぐために、最初にフォルダ構成と命名ルールを決めておくのがおすすめです。
例えば、フォルダは「種類」で分けるとシンプルです。
- 01_会社の基本
- 02_財務(決算・試算表)
- 03_借入・金融機関
- 04_事業(取引・契約)
- 05_人・労務
- 06_許認可
- 99_その他(判断保留)(迷ったものを一時避難させる場所)
命名ルールは、日付+内容にしておくと、並べたときに迷子になりにくいです。
- 例:2025-03_試算表.pdf
- 例:2024年度_決算書一式.pdf
- 例:2026-01-08_借入一覧.xlsx
ポイントは、作った人しか分からない名前(例:final、最新版、最新、new2 など)を避けることです。
日付が入っているだけで、「どれを見るべきか」が一気に分かりやすくなります。
共有時の注意(機密情報・個人情報の扱い/マスキングの考え方)
書類が整ってくると、次に出てくるのが「共有」の問題です。ここは慎重に考えたいポイントで、出し過ぎると危ない一方で、出さなさ過ぎると話が進まないこともあります。
基本の考え方は、“必要な人に、必要な範囲で”です。特に注意したいのは次の2つです。
- 機密情報:取引先名、単価、原価、ノウハウ、契約条件など
- 個人情報:従業員の氏名、住所、給与、マイナンバーなど(含まれていないか要注意です)
そこで役に立つのが、マスキング(見せない部分を隠す)という考え方です。
例えば、最初の段階では「全体像が分かれば十分」ということも多いので、
- 取引先名をA社・B社に置き換える
- 個人名を役職名に置き換える
- 個人情報が載っている箇所は黒塗り(非表示)にする
といった工夫で、必要な情報だけを安全に共有しやすくなります。
また、共有方法も大切です。メール添付でバラバラに送ると、相手も自分も管理が大変になります。
できれば、「ここを見れば最新が揃っている」という置き場所を決めて、そこで更新していく形にするとラクです。
まとめると、書類準備は「集める」だけだと必ず途中で疲れます。
だからこそ、集める場所を押さえ、フォルダと名前のルールを決め、共有は安全に必要十分にする。
この3点を先に整えるだけで、後からの手戻りが減り、準備がぐっと進めやすくなります。
よくあるつまずきと、現実的なリカバリー
書類準備を進めていると、「うちは足りないものが多いかも…」と不安になる瞬間が出てきます。
でも、先にお伝えしたいのはここです。不足がある=売れない、ではありません。
実際には、どの会社にも多少の抜けや曖昧さはあります。大切なのは、足りないことを責めることではなく、「いま何がないか」を把握して、現実的に埋めることです。
この章では、つまずきやすいポイントと、無理なくできるリカバリーを整理します。
契約書が見当たらない/口頭取引が多い
よくあるのがこのパターンです。長年の取引ほど、契約書が更新されていなかったり、そもそも紙が残っていなかったりします。
ここでのリカバリーの考え方はシンプルで、「契約書がないなら、取引の実態を説明できる形にする」です。
- 契約書が見つからない取引の一覧を作る(取引先名/内容/開始時期/頻度/金額感)
- 代わりになる証拠を集める(発注書、見積書、請求書、納品書、メールやチャットのやり取り)
- 継続取引なら、「どういう流れで発注・更新されているか」を短くメモする
相手が気にするのは、「契約書があるか」以上に、取引が続く前提なのか/いつでも切れるのかという点です。
契約書がないことを隠そうとすると、後でズレが出やすくなります。“ないなら、ないなりに説明できる形”に整えておくのが、現実的で強い対応です。
決算書はあるが、補足説明ができない
決算書自体はあるものの、「この科目って何が入ってるんだっけ?」と聞かれたときに止まってしまうケースもよくあります。
ここでのリカバリーは、専門知識で武装することではなく、“説明用のメモ”を用意することです。
例えば、次のようなメモがあるだけで、会話が止まりにくくなります。
- 大きい科目の中身(例:雑収入、外注費、支払手数料など「何が多いか」)
- 前年差が大きい理由(売上の増減、利益の変動、特別な支出があった等)
- 一時的な数字の説明(単発の大型案件、補助金、保険金、設備投資など)
- 未収・未払が大きいなら、何が原因か(回収サイト、仕入条件、季節要因など)
コツは、立派な文章にすることではなく、「聞かれそうなところだけ、先に自分の言葉でまとめる」ことです。
もし社内だけで難しければ、決算資料を扱っている人(経理担当や顧問税理士)に「この数字、ひと言でどう説明できる?」と聞いて、メモに落とすだけでも十分リカバリーになります。
株主・役員まわりがあいまいで、話が進みにくい
もう一つ、地味に効いてくるのがここです。
買い手側は「この話は本当に決まるのか」を気にします。株主や役員まわりが曖昧だと、途中で止まりやすくなります。
リカバリーとしては、まず“いま分かっている事実”を整理するのが先です。
- 株主は誰か(個人・法人、だいたいの持株比率)
- 役員は誰か(代表、取締役など)
- 意思決定に関わる人は誰か(同意が必要になりそうな人がいるか)
もし「昔の共同創業者が少し持っている」「親族名義が混ざっている」などがある場合も、ここでやることは同じです。
把握できていないまま進めないことが大切で、まずは「現状こうなっている」という整理を作ります。
まとめると、つまずきは誰にでも起きます。
大切なのは、不足をゼロにすることではなく、不足を把握して、説明できる形に整えることです。
その姿勢があるだけで、相手の安心感は大きく変わります。
この時点で「ひとまずOK」と言える状態
書類準備をしていると、「もっと揃えてから相談しないと…」と手が止まりがちです。
でも、会社売却の準備は、最初から完璧を目指すほどしんどくなります。
ここでお伝えしたいのは、“ひとまずOK”の基準です。
完璧主義で止まらず、次の相談・検討に進めるように、最低限の揃え方をまとめます。
「会社の基本」「数字」「事業」「人」の説明が一通りできる
まず、この時点で目指したいのは、書類が全部そろっていることではなく、会社の全体像を一通り説明できることです。
ざっくりで構いませんので、次の4つが「説明できる」状態になっていれば、ひとまずOKと言えます。
- 会社の基本:どんな法人で、誰が意思決定できるか(会社の輪郭が説明できる)
- 数字:売上・利益・資産負債・借入など、お金の状況が説明できる
- 事業:何を売り、どうやって売上が立っているか(取引の実態が説明できる)
- 人:どんな体制で回っているか(引き継ぎのイメージが持てる)
この「説明できる」は、専門家のように話せるという意味ではありません。
相手が質問できるだけの材料がある、という意味です。ここまで来ていれば、相談や検討は十分に前へ進められます。
不足があっても“どこが未整備か”を説明できるメモがある
次に大事なのは、足りないものをゼロにすることではなく、足りないものが何か分かっていることです。
例えば、こんな短いメモがあるだけで、準備の完成度はぐっと上がります。
- 契約書が見つからない取引がある(代わりに請求書・メールはある)
- 最新の試算表がまだ確定していない(○月分までなら出せる)
- 株主の持株比率が手元で確定できていない(確認中の人がいる)
- 許認可の更新状況を確認中(書類の保管場所を探している)
ここでのポイントは、「ない」ことを隠さないことです。
その代わりに、「いま分かっていること/次に確認すること」をメモにしておく。これだけで、相手も状況を理解でき、話が止まりにくくなります。
そして何より、このメモはあなた自身のためにも役立ちます。準備が進むほど情報が増えるので、“未整備の棚卸し”があると迷子になりません。
ここから先で追加書類が増える点
最後に、安心してほしいことがあります。
ここまで整えて「ひとまずOK」になっても、今後の流れの中で追加の書類が求められることはよくあります。
これは、準備不足だからではありません。相手が検討を深めるほど、「もう少しここを確認したい」というポイントが出てくるのは自然なことです。
なので、この段階では、未来の追加要求をすべて先回りして揃える必要はありません。
大切なのは、今ある情報を整理して、必要になったらすぐ出せる形にしておくことです。
まとめると、全体像が一通り説明できること、不足があっても未整備ポイントを言語化できること。
この2つが揃っていれば、準備は「ひとまずOK」です。ここから先は、必要に応じて足し算していけば大丈夫です。