「会社を売るなら、できるだけ高く売りたい」。そう思うのは自然なことです。
ただ、会社売却で買い手が見ているのは、利益の大きさだけではありません。“この会社は引き継いだあとも、安心して回るか”という点も、とても大きな判断材料になります。
そのため、企業価値を高める取り組みは、派手な改革をすることではなく、儲かる力を分かりやすくすることと、不安を減らして引き継ぎやすくすることが中心になります。言い換えると、「高く」だけでなく「安心して」引き継いでもらう準備です。
一方で、「何をすれば価値が上がるのか」が曖昧なままだと、時間も労力もかけたのに効果が薄い…ということが起こりがちです。特に、売却を急いでいない段階でも、“やることを絞って、効く順番で整える”だけで、選択肢が広がるケースは少なくありません。
この記事では、会社売却に向けた企業価値向上を、できるだけかみくだいて整理します。買い手が価値を感じるポイントを踏まえながら、利益とキャッシュの整え方、リスクの減らし方、属人性(社長頼み)を薄める考え方、そして優先順位のつけ方まで、順番に解説していきます。
まず「企業価値向上」の意味をそろえる(買い手が見ているのは何か)
「企業価値を上げたい」と言うと、売上を伸ばすことや、利益を増やすことを思い浮かべる方が多いです。もちろんそれも大切です。
ただ、会社売却の場面では、買い手はそれだけを見ているわけではありません。まず最初に、買い手が“価値”として見ているものは何かをそろえておくと、やるべきことがブレにくくなります。
買い手が気にするのは「儲かる力」と「不安の少なさ」
買い手が知りたいのは、ひと言で言うとこの2つです。
- この会社は、これからも安定して儲かるのか(儲かる力)
- 引き継いだあとに、想定外の問題が起きにくいか(不安の少なさ)
「儲かる力」は、利益が出ていることだけではなく、なぜ利益が出ているのかを説明できるかも含まれます。たとえば、どんなお客様が多いのか、どの商品・サービスで利益が出ているのか、値上げができている理由は何か。こうした点が言葉で説明できる状態だと、買い手は判断しやすくなります。
一方で「不安の少なさ」は、数字では見えにくいところで差が出ます。たとえば、
- 特定の取引先に売上が偏りすぎていないか
- 契約やルールがあいまいで、後から揉めそうな要素がないか
- 重要な情報が一部の人だけにしか分からない状態になっていないか
こうした不安が少ないほど、買い手は「安心して引き継げそう」と感じやすくなります。結果として、話が進みやすくなるのも現実です。
「社長がいなくても回るか」が大きな分かれ目
買い手目線で、特に大きな分かれ目になりやすいのが、社長がいなくても事業が回るかです。
ここで言う「社長がいなくても回る」とは、社長が不要という意味ではありません。そうではなく、社長がいないと止まる仕事が多すぎないか、という話です。
たとえば、次のような状態だと、買い手は不安を感じやすくなります。
- 見積もりや価格の決定が、社長の感覚だけで決まっている
- 主要なお客様との関係が、社長個人に強くひも付いている
- 現場の判断が全部社長に集まっていて、決裁が遅れると仕事が止まる
- 「あの人しか分からない」仕事が多く、引き継ぎが難しそう
逆に言えば、社長が重要な役割を担っていても、判断基準や進め方が見える形になっているだけで、買い手の印象は変わります。「引き継ぎできそう」という感覚が持てるからです。
企業価値向上を考えるときは、売上や利益を増やす取り組みだけでなく、“社長頼みの部分を減らし、引き継ぎやすくする”という視点を持つことが、とても大切になります。
「企業価値」と聞くと、利益に何倍をかけるのか、といった評価の計算(倍率)が気になる方もいらっしゃると思います。
つまり、企業価値向上とは、買い手が判断しやすい形に「儲かる力」を見える化し、同時に「不安の種」を減らしていく取り組みです。この意味をそろえたうえで進めると、やるべきことが整理しやすくなります。
現状をつかむための“土台”を整える
企業価値を上げようと思ったとき、いきなり「何を改善するか」を考え始めると、途中で迷子になりやすいです。
理由はシンプルで、現状がつかめていないと、打ち手の良し悪しを判断できないからです。逆に言えば、完璧でなくても最低限の現状把握ができているだけで、「いま何を優先すべきか」が見えやすくなります。
数字が「説明できる形」になっているか(どこで儲け、どこで減るか)
ここで大切なのは、会計の知識を増やすことではなく、自社の数字を“言葉で説明できる状態”にすることです。
まず押さえたいのは、次の3点です。
- どこで儲けているか(利益の出どころ)
- どこで減っているか(利益を削っている要因)
- 何が変わると数字が動くか(売上・粗利・固定費のうち、どれが効くか)
たとえば、こんな問いに答えられる状態を目指します。
- 主力の商品・サービスはどれで、利益率はどれくらいか
- お客様のタイプによって、利益の出方は違うか(法人/個人、業界、規模など)
- 繁忙期・閑散期で、売上や利益がどう動くか
- 固定費の中で「増えると重いもの」「減らせる余地があるもの」は何か
ここでのポイントは、数字を細かく揃えることではありません。買い手に説明する場面を想定して、「自分の言葉で、筋道を立てて話せる」ことが重要です。
もし数字が揃っていなくても、「どこが分からないか」を言えるだけで前進です。現状把握は、完璧主義で止まるより、まず“説明できる範囲”を増やすのが現実的です。
強み・弱みが一言で言えるか(商品、顧客、地域、提供価値)
次に整えたいのが、数字以外の「会社の中身」です。買い手が判断しやすい会社は、だいたい強みと弱みが整理されていて、言い切れる傾向があります。
難しく考えず、まずは一言で言う練習が効果的です。たとえば、次の切り口で整理します。
- 商品・サービス:何が選ばれているのか(品質、スピード、対応範囲、独自性など)
- 顧客:どんなお客様に強いのか(業界、規模、継続性、紹介が多い等)
- 地域:地域特性の追い風があるか(地場の強いネットワークなど)
- 提供価値:結局、お客様の何を解決しているのか(困りごとが明確か)
そして、ここも「強み」だけでなく、弱みも同じくらい大事です。弱みというのは、恥ずかしい話ではなく、今後の改善テーマのタネになります。
たとえば、こんな形で整理できると十分です。
- 強み:紹介が多く、継続率が高い(信頼で選ばれている)
- 弱み:新規の獲得が特定のチャネルに偏っている(止まると怖い)
この「一言」があるだけで、買い手の理解が進み、話が早くなります。さらに、社内でも「何を守り、何を変えるか」が共有しやすくなります。
現状把握のために、確認したい項目は本来たくさんあります。ただ、この章ではチェックリストを網羅することはしません。
ここで扱うのは、価値向上のスタート地点としての最低限です。
- 数字を説明できる形にする(どこで儲け、どこで減っているか)
- 強み・弱みを一言で言えるようにする(会社の中身を整理する)
この2つがそろうと、次に何をするにしても判断がしやすくなります。まずはここを“土台”として整えるところから始めてみてください。
利益とキャッシュを伸ばす(“値上げ”より先に見直すポイントもある)
企業価値を上げる話になると、「とにかく売上を伸ばす」「値上げをする」といった話が先に出がちです。もちろん、それが有効なケースもあります。
ただ、会社売却を意識するなら、買い手が評価しやすいのは“再現性のある利益”と“手元に残るキャッシュ”です。だからこそ、派手な施策よりも、今ある事業の中で、利益とキャッシュが残りやすい形に整えるほうが、現実的で効きやすいことが多いです。
粗利から見直す(価格・原価・ミックスのどれが効くか)
まず見直したいのは、利益の入口になる粗利(売上から原価を引いた残り)です。
粗利の改善は、大きく言うと次の3つのどれか(または組み合わせ)で起きます。
- 価格:同じ価値でも、適正な価格になっているか
- 原価:仕入れ・外注・材料・手戻りが増えていないか
- ミックス:利益率の高い商品・サービスの比率を上げられないか
ここで大事なのは、いきなり値上げに飛びつかないことです。値上げは強力ですが、やり方を間違えると関係が悪くなったり、受注が落ちたりするリスクもあります。
値上げより先に確認したい“見直しポイント”は、たとえば次のようなものです。
- 値引きが当たり前になっていないか(理由のない値引きが習慣化していないか)
- 低利益の案件を抱え続けていないか(忙しいのに利益が薄い状態)
- 手戻り・やり直しが多くないか(実は原価が膨らむ原因になりやすい)
- 見積もりに入れ忘れている作業がないか(サービス業でよく起きます)
粗利は、売上よりも早く改善しやすいことがあります。「売上を増やす前に、同じ売上でも残るお金を増やす」という順番は、買い手目線でも納得されやすい動きです。
固定費の「効いていない支出」を減らす(痛みの少ない順)
次に見直したいのが固定費です。固定費は一度下げると、毎月ずっと効きます。その一方で、やり方を間違えると現場が回らなくなったり、将来の成長を止めたりすることもあります。
おすすめは、“痛みの少ない順”に見直すことです。たとえば、次の順番で考えると整理しやすいです。
- 使っていないサブスク・ツール:契約だけ残っているものは、止めても影響が小さい
- 効果が測れない広告・外注:成果が見えないものは、やめるか内容を見直す
- 重複している業務:同じ作業を二重にしていないか(手作業の転記など)
- 運用が形骸化した取り組み:続けている理由が説明できないもの
ここでのポイントは、単に削るのではなく、「何のために使っているか」を言語化することです。言い換えると、支出の説明ができる状態にして、説明できない支出は整理していく、という考え方です。
固定費の見直しは、会社の体力をつけるだけでなく、買い手に対しても“数字の管理ができている会社”という印象につながりやすいです。
継続売上・繰り返し売上を増やす(単発依存を薄める)
利益とキャッシュを安定させたいときに、強いのが継続売上や繰り返し売上です。単発の受注だけで回っていると、月によってブレが大きくなりやすく、どうしても不安定に見えます。
継続売上というと、いきなりサブスクを作るような大きな話に聞こえるかもしれません。でも、必ずしもそうではありません。たとえば、次のような形でも“繰り返し”は作れます。
- 定期点検・保守・メンテナンスを商品として用意する
- 単発サービスに継続のフォローをセット化する
- 追加注文が起きやすい導線をつくる(納品後の提案、次のおすすめ)
- よくある依頼をパッケージ化して頼みやすくする
継続売上が増えると、将来の売上見込みが立ちやすくなり、資金繰りも安定しやすくなります。買い手にとっても、「引き継いだ後の見通しが立つ」のは大きな安心材料です。
まとめると、この章でお伝えしたいのは、利益とキャッシュを伸ばすために、
- 粗利を改善する(価格・原価・ミックスのどれが効くかを見極める)
- 固定費を整える(痛みの少ない順に、効いていない支出を減らす)
- 継続性を作る(単発依存を薄め、見通しを立てやすくする)
この3つを、できる範囲から順に進めることです。派手な改革よりも、買い手が評価しやすい“整った利益”に近づけることが、結果的に強い価値向上につながります。
リスクを減らす(同じ利益でも“安心”がある会社のほうが選ばれる)
会社売却を意識すると、「利益を増やすこと」ばかりに目が向きがちです。もちろん利益は大切です。
ただ、買い手は同時に「引き継いだあと、想定外の問題が起きないか」をとても気にします。だからこそ、同じ利益水準の会社が並んだとき、選ばれやすいのは“安心して引き継げそうな会社”です。
ここでいうリスクとは、特別なトラブルだけではありません。日々の事業の中にある「もし◯◯が起きたら止まる」という不安要素のことです。これを減らしていくと、買い手の不安が小さくなり、結果として話が進みやすい状態に近づきます。
特定の人・取引先への依存を下げる(上位顧客、キーマン、外注先)
リスクの中でも、買い手が特に敏感なのが依存です。たとえば、次のような依存があると、買い手は「引き継いだ瞬間に崩れるかも」と感じやすくなります。
- 上位顧客への依存:売上の多くが数社に偏っている
- キーマンへの依存:特定の社員・社長がいないと回らない
- 外注先への依存:特定の協力会社がいないと納品できない
ここで大事なのは、「依存がある=悪い」と決めつけないことです。中小企業では、ある程度の集中は自然に起きます。問題になるのは、代わりがない状態で放置されていることです。
依存を下げるために、まず取り組みやすいのは次の3つです。
- 見える化する:売上上位の顧客、重要な担当者、主要な外注先をリスト化する
- 「もしも」を想定する:1社が離れたらどうなるか/1人が休んだら何が止まるかを言葉にする
- 代替案を用意する:新規開拓の優先順位、引き継ぎ手順、外注先の候補など“次の手”を持つ
全部を一気に分散させようとすると、現場が疲れてしまいます。まずは、買い手が不安に思いそうなポイントから、「この会社は手を打っている」と伝えられる状態を作るのが現実的です。
たとえば、上位顧客が少数でも、契約や取引の経緯が整理されている、代替となる見込み顧客が動いている、社内で複数人が対応できるといった要素があるだけで、安心感は上がります。
契約・許認可・ルールが「後出し」にならない状態にする
次に重要なのが、契約や許認可、社内ルールなどが「後から出てくる」状態を避けることです。
買い手が一番嫌がるのは、引き継ぐ直前になって「実は…」が出ることです。悪意がなくても、後出しに見えるだけで、不信感や慎重姿勢につながりやすくなります。
たとえば、次のような項目は、早めに整理しておくと安心です。
- 主要な契約:取引基本契約、業務委託、賃貸借、リースなど
- 許認可・届出:事業に必要な許可・登録・更新の状況
- 社内ルール:決裁のルール、値引きの基準、情報管理の決まりごと
ここでのゴールは、「書類を完璧に揃える」ではありません。まずは把握している状態にすることです。
- 何があるか(契約・許認可・ルールの一覧)
- どこにあるか(保管場所・データの場所)
- 誰が分かるか(担当者・責任者)
この3点が整理されているだけで、買い手の不安はかなり下がります。さらに、更新漏れや契約条件の見落としといった、日常的なリスクも減りやすくなります。
リスクを減らす話をすると、「どんな資料を求められるのか」「どう対応すべきか」といったDD(買収監査)の具体に関心が向くかもしれません。
ただ、この章ではDDの進め方や資料要求の詳細には踏み込みません。ここでお伝えしたいのは、DDの前段として、買い手が不安に思うポイントを日頃の状態として減らしておくことです。
まとめると、リスクを減らすとは、
- 依存を見える化し、代替案を持つ(上位顧客・キーマン・外注先)
- 契約・許認可・ルールを整理し、後出しを防ぐ
という取り組みです。派手な改善ではありませんが、こうした準備がある会社は、買い手にとって「引き継ぎやすい会社」になり、結果として話が前に進みやすくなります。
属人性を減らして「引き継げる会社」にする(社長が頑張る会社から、仕組みの会社へ)
会社の強みが「社長の力」になっているケースは多いです。営業も現場も、社長が先頭に立ってきたからこそ、ここまで会社を育ててきた。これは、とても誇れることだと思います。
ただ、会社売却を考えたときに壁になりやすいのが、“社長がいないと回らない”という状態です。買い手は、引き継いだあとに事業が止まることを一番避けたいからです。
ここで目指したいのは、完璧なマニュアル会社ではありません。ポイントは、最低限の仕組みがあり、「引き継げる」と相手が感じられる状態を作ることです。
業務の流れを見える化する(最低限の手順書・チェックだけで十分な所もある)
属人性を減らす最初の一歩は、業務の流れを見える化することです。難しく考えなくて大丈夫です。いきなり分厚い手順書を作る必要もありません。
まずは、次のように「何が」「どんな順番で」動いているかを、ざっくり書き出します。
- 問い合わせ〜受注まで(誰が、どの資料で、何を確認するか)
- 納品・提供の流れ(作業の順番、チェックポイント)
- 請求・入金・アフターフォロー(締め日、請求書、対応窓口)
そのうえで、特に止まりやすいところだけ、最低限の「チェック」を作るのがおすすめです。たとえば、
- 見積もり前チェック(抜けやすい確認項目だけ)
- 納品前チェック(ミスが起きやすい点だけ)
- 請求前チェック(金額・締め・条件の確認だけ)
この程度でも、「社長の頭の中にある暗黙知」が少しずつ外に出ていきます。買い手にとっても、“引き継ぎの見通しが立つ会社”に見えやすくなります。
権限と判断基準を整える(誰が何を決めるか)
属人性が強い会社ほど、決めることが社長に集まりやすくなります。社長としては「自分が見たほうが早い」「任せるのが不安」という気持ちも当然あります。
ただ、引き継ぎやすさを上げるなら、“誰が何を決めるか”を整理しておくことが大切です。
ここも、複雑に作る必要はありません。まずは次の3段階くらいで十分です。
- 現場で決めていいこと(金額の上限、対応の範囲など)
- 上長(責任者)が決めること(例外対応、優先順位の変更など)
- 社長が決めること(重要顧客、投資判断、契約の最終決裁など)
そして、もう一つ大事なのが判断基準です。たとえば値引きひとつでも、基準がないと判断が止まります。
全部をルール化できなくても、「こういうときはOK」「こういうときは相談」という線引きがあるだけで、会社は回りやすくなります。
権限と判断基準が整ってくると、社長が不在でも業務が進みやすくなり、買い手にも「引き継いだ後の運営が想像できる」という安心につながります。
採用・育成の「再現性」を作る(人が入れ替わっても困らない)
引き継ぎを考えるとき、意外と見落とされやすいのが人の問題です。中小企業では、誰か一人が抜けただけで現場が大きく揺れることもあります。
だからこそ、採用や育成を「気合いと根性」ではなく、再現性がある形に近づけておくと強いです。
再現性といっても、難しい仕組みを作ることではありません。まずは次のような“最低限”で十分です。
- 求める人物像が一言で言える(どんな人なら活躍しやすいか)
- 入社後1〜3か月の育成ステップがある(最初に何を覚えるか)
- OJTが人によってバラつかない(教える順番・見るポイントが決まっている)
たとえば、育成ステップは「1週目はこれ」「1か月目はこれ」と大まかに決めて、チェック項目を置くだけでも効果があります。人が入れ替わっても、最低限の引き継ぎができるようになります。
採用も同じで、「とりあえず人が欲しい」だけだとミスマッチが起きやすいです。どんな仕事を任せるのか、どんな性格や経験が合いやすいのかを簡単に言語化しておくと、採用の精度が上がりやすくなります。
まとめると、属人性を減らして「引き継げる会社」にするためには、
- 業務の流れを見える化し、止まりやすい所だけチェックを作る
- 権限と判断基準を整理し、誰でも動ける範囲を増やす
- 採用・育成の再現性を作り、人が入れ替わっても困りにくくする
この3つを、できるところから少しずつ整えることです。完璧を目指す必要はありません。「引き継げそう」と感じてもらえる土台があるだけで、会社の見え方は大きく変わります。
成長ストーリーを言葉にする(将来の伸びしろが説明できると強い)
会社売却を考えるとき、「今の利益」だけで話が決まるとは限りません。買い手は、引き継いだあとにどう伸ばせる会社なのかも見ています。
だからこそ強いのが、成長ストーリーを“言葉で説明できる”状態です。ここでいうストーリーは、立派なプレゼン資料のことではありません。無理のない範囲で、筋の通った“伸び方”が説明できれば十分です。
成長ストーリーがあると、買い手は投資判断がしやすくなります。逆に、「伸びそう」と感じても理由が言語化されていないと、買い手は慎重になりやすいです。
伸びる理由を3点で言えるようにする(市場・強み・打ち手)
成長ストーリーを作るときにおすすめなのが、「伸びる理由を3点に絞る」ことです。長く語るほど説得力が出るわけではなく、むしろ買い手には伝わりにくくなります。
整理の型はシンプルで、次の3つです。
- 市場:そもそも追い風があるのか(需要が増えている、困りごとが大きい、競合が少ない等)
- 強み:自社が勝てる理由は何か(選ばれる理由、継続される理由、紹介が起きる理由等)
- 打ち手:具体的に何をやると伸びるのか(営業、商品、採用、拠点、提携など)
たとえば、言い方の例としてはこのくらいの粒度でOKです。
- 市場:この業界では、○○の需要が増えている
- 強み:当社は△△が強く、リピートや紹介が多い
- 打ち手:今は人手不足で取りこぼしているが、□□を整えれば受注を増やせる
ここで大事なのは、背伸びをしないことです。買い手は「夢」よりも、実行したら伸びそうな現実感を求めます。
もし「伸びる打ち手」がまだ曖昧なら、無理に大きな話にしなくても大丈夫です。たとえば、“今できていないことを、ちゃんとできるようにする”だけでも、伸びしろとして十分伝わるケースがあります。
KPIを少数に絞って追えるようにする(売上以外の指標も)
成長ストーリーを「絵に描いた餅」にしないために、買い手が安心するのがKPIです。難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、ここでは“売上につながる途中の数字”くらいの理解で大丈夫です。
ポイントは、たくさん追わないことです。むしろ、少数に絞って、継続して見られるほうが強いです。
業種によって違いはありますが、たとえば次のような指標が考えられます。
- 問い合わせ数(新規が増える兆し)
- 見積もり件数/受注率(営業の質や取りこぼし)
- 平均単価(値引きやミックスの改善)
- 継続率/解約率(安定性と満足度)
- 粗利率(儲かり方の改善)
- 納期遵守率/クレーム件数(運営の安定度)
ここでのゴールは、「完璧な管理表を作る」ことではありません。まずは、
- 伸びる打ち手に直結するKPIを1〜3個選ぶ
- 毎月(または毎週)見られる形にする
- 数字が動いた理由を一言で言える
この状態を目指すのが現実的です。
買い手にとっては、「伸びると言っているけれど、何を見れば伸びていると言えるのか」が分かると安心です。つまり、KPIは成長ストーリーの“根拠”になります。
成長ストーリーを言葉にすると、「どう伝えれば有利になるのか」「交渉でどう使うのか」といった話が気になるかもしれません。
まとめると、成長ストーリーは、
- 市場・強み・打ち手で「伸びる理由」を3点に絞って語れる
- KPIを少数に絞り、売上以外の途中の数字も追える
この2つがそろうだけで、買い手から見たときの安心感が増します。背伸びをせず、現実的に伸びる道筋を言葉にしていくのがコツです。
やることを絞る(価値向上は“全部やる”ほど失敗しやすい)
企業価値を上げたいと思うほど、「あれもこれも整えなきゃ」となりやすいです。特に真面目な方ほど、完璧を目指してしまいます。
でも現実には、価値向上は“全部やる”ほど失敗しやすい面があります。理由は単純で、社内の時間も体力も限られているからです。手を広げすぎると、どれも中途半端になり、現場が疲れて、結果として何も進まない状態になりがちです。
この章では、限られた時間の中で効果が出やすいように、やることを絞って優先順位をつける考え方をまとめます。
「短期で効く」「中期で効く」「時間がかかる」を分けて考える
優先順位をつけるときにおすすめなのが、施策を時間軸で分けることです。
たとえば、こんな3つに分けて考えます。
- 短期で効く:数週間〜数か月で効果が見えやすいもの
- 中期で効く:数か月〜半年〜1年で効いてくるもの
- 時間がかかる:1年以上かかることもあるが、効くと強いもの
ここでのポイントは、短期と中期を“混ぜない”ことです。中期で効く取り組みを、短期の成果で評価しようとすると、「効果がない」と誤解して途中でやめてしまいがちです。
分けたあとは、さらに次の観点で絞り込みます。
- 影響が大きいところから(利益・キャッシュ・安定性に効く)
- 手間が少ないところから(今すぐ着手できる)
- 止まりやすいところから(ボトルネックを先に外す)
迷ったときは、「短期で効くものを1〜2個」「中期で効くものを1個」くらいに絞るのがおすすめです。やることが少ないほど、実行できる確率が上がるからです。
やりすぎ注意の典型(無理なコスト削減・見せかけの利益づくり)
価値向上の場面で、よくある“やりすぎ”があります。悪気がなくても、焦るほど起きやすいので、先に知っておくと安心です。
典型例は、次の2つです。
- 無理なコスト削減
- 見せかけの利益づくり
無理なコスト削減は、短期的には数字が良く見えます。でも、現場が回らなくなったり、品質が落ちたり、社員の不満が溜まったりすると、結局は売上や継続率に跳ね返ってきます。特に、必要な人員や必要な外注まで削ってしまうと、会社の体力そのものが落ちてしまいます。
見せかけの利益づくりも注意が必要です。たとえば、無理な前倒し売上、将来必要な投資の先送り、通常ならやるべき修繕や採用を止める、などです。こうした動きは、その時だけ数字が良く見えても、後から負担が出やすくなります。
価値向上で本当に大切なのは、「続く形で良くなること」です。短期の数字だけを追いすぎず、無理が出ていないかを常にセットで確認するのが安心です。
いつでも立ち止まれる進め方(社内負荷を上げすぎない)
価値向上を成功させるコツの一つは、頑張りすぎないことです。ここで目指したいのは、気合いで走り切るプロジェクトではなく、止まらずに続く進め方です。
おすすめは、「小さく決めて、小さく回す」やり方です。たとえば、こんな進め方が現実的です。
- やることを“3つまで”に絞る(増やさない)
- 期限を短く区切る(1か月、2か月など)
- 毎週10分でも確認する(進んだか、止まったか、理由は何か)
そして、いちばん大事なのが、いつでも立ち止まれる設計にしておくことです。社内には繁忙期もあれば、予期せぬトラブルもあります。だから、
- 止めても大事故にならない
- 再開しやすい
- 担当者が疲れにくい
この3点を意識すると、無理なく続きやすくなります。
まとめると、この章でお伝えしたいのは、価値向上を進めるときは、
- 短期・中期・時間がかかるで分けて、時間軸のズレを防ぐ
- やりすぎ(無理な削減・見せかけの利益)を避け、続く改善にする
- 止まっても再開できるように、社内負荷を上げすぎない
という考え方です。焦らず、でも止まらずに進めるために、「やることを絞る」を最初のルールにしてみてください。