会社売却を考え始めると、どこかのタイミングで必ず出てくるのが「デューデリジェンス(DD)」です。
ただ、はじめて聞いた方からすると、
- 「何をされるの?」
- 「どこまで見られるの?」
- 「変なものが出たら、価格が下がるのでは…」
こんな不安が一気に押し寄せやすい工程でもあります。資料の依頼が増え、質問も次々に来るので、社長が一人で抱えると心も時間も削られやすいです。
でも、最初に押さえておきたいのは、デューデリジェンスは「売主を疑うためのもの」ではなく、買い手が安心して買うための確認作業だということです。ここを理解しておくと、必要以上に怖がらずに、落ち着いて対応しやすくなります。
この記事では、会社売却時のデューデリジェンスとは何かを、売主目線でやさしく整理します。
- 何を見られるのか
- どんな流れで進むのか
- 売主は何を準備すればラクになるのか
- つまずきやすい落とし穴と、その避け方
「完璧にそろえてからじゃないと進められない」と思う必要はありません。大事なのは、分からないことを分からないままにしないことと、説明できる形に整えていくことです。
これからDDに入る方も、すでに資料請求が始まっている方も、読み終わるころには「次に何をすればいいか」が見える状態を目指していきましょう。
デューデリジェンスを一言でいうと何?
「買い手が安心して買うための確認作業」
デューデリジェンス(DD)を一言でいうと、買い手が「この会社を買って大丈夫だ」と判断するための確認作業です。
会社売却は、金額も大きく、買い手にとっては「買ったあとに想定外の問題が出ないか」が一番の心配になります。だからこそ、買い手は数字・契約・人・運営の実態を、できるだけ事前に確かめようとします。
売主側としては、急に「資料をください」「この点を説明してください」と言われて戸惑うことも多いのですが、DDは売主を責めるための場ではありません。買い手が納得して前に進むために、必要な情報をそろえていく工程だと捉えると、必要以上に怖がらずに対応しやすくなります。
監査や詮索ではなく、判断材料をそろえる工程
「調査」と聞くと、どうしても監査のように粗探しをされるのではと感じてしまうかもしれません。実際、DDの過程で「想定していなかった指摘」が出ることもあります。
ただ、DDの本質は詮索や揚げ足取りではなく、買い手が判断に必要な材料を集め、整理することにあります。たとえば買い手は、次のようなことを確かめたいだけ、というケースが多いです。
- 数字は実態と大きくズレていないか(売上・利益・運転資金など)
- 契約や取引に「急に止まるリスク」がないか(主要顧客、解除条項、更新条件など)
- 特定の人に依存しすぎていないか(社長・キーパーソンが抜けたあとも回るか)
- 法令やルール面で大きな問題がないか(許認可、雇用、税務など)
ここで大事なのは、完璧な会社だけが売れるわけではないという点です。会社にはそれぞれ事情があり、グレーに見える部分や、説明が必要な部分は少なからず出てきます。
DDで本当に困るのは、問題そのものというより、「なぜそうなっているのか説明できない」状態です。逆にいえば、背景や経緯、現状の整理ができていれば、買い手も判断しやすくなり、話が前に進みやすくなります。
DDが入るタイミング(いつ始まり、いつ終わるか)
DDは、会社売却の流れの中で、いきなり最初に始まるものではありません。多くの場合は、買い手候補がある程度「買いたい」という意思を持ち、具体的な検討に入った段階で進みます。
タイミング感を、できるだけシンプルにすると次のイメージです。
- DDが始まるタイミング:買い手が本格検討に入り、資料開示や質問がスタートするとき
- DDの最中:資料提出と質疑応答が続き、買い手側が論点を整理していく期間
- DDが終わるタイミング:買い手側が「判断に足りる材料がそろった」として結論を出せる状態になったとき
「いつ終わるのか」は案件によって差がありますが、売主側の感覚としては、追加の質問が落ち着き、論点が出尽くしたと感じるころに終盤に入っていきます。
ここで注意したいのは、DDは買い手が納得するための工程なので、売主が「もう十分でしょう」と思っても、買い手が不安を残したままだと長引きやすい点です。逆に、最初から出せる情報を整理して出し、質問に対して一貫した説明ができると、余計な往復が減り、結果として負担も小さくなります。
また、DD中は「追加資料」「追加質問」が出やすいです。これは異常ではなく、買い手が理解を深める過程で自然に起きることです。社長としては、すべてを一人で返そうとせず、回答の窓口を決める、期限をそろえる、出す順番を整理するだけでも、対応がかなり楽になります。
なぜDDが必要なのか(買い手が見ているポイント)
数字の正しさだけでなく「続くかどうか」を見ている
買い手がDDで見たいのは、単に「決算書が正しいか」だけではありません。むしろ多くの場合、買い手が一番気にしているのはこの会社の利益や売上が、買ったあとも続きそうかという点です。
たとえば、同じ「利益が出ている会社」でも、次のような違いがあると、買い手の見方は大きく変わります。
- 特定の1社に売上が偏っている(その取引が止まったらどうなるか)
- 社長や一部の人の属人的な動きで回っている(引き継いだあとも回るか)
- 一時的な要因で利益が膨らんでいる(来期も同じ水準か)
- 数字に出ない負担が溜まっている(在庫・未収・設備の老朽化など)
買い手は、こうした「続くかどうか」を確かめるために、数字だけでなく、その背景にある事業の仕組みや現場の実態も見ようとします。売主側としては緊張する場面もありますが、ここは会社の良さを理解してもらうための材料出しでもあります。
想定外のリスクを減らしたい(あとから揉めないため)
DDが必要なもう一つの理由は、買い手が「買ったあとに想定外の問題が出ること」を一番避けたいからです。
たとえば、売主側に悪気がなくても、買収後に次のようなことが起きると、トラブルになりやすくなります。
- 重要な契約に「解除されやすい条件」があった
- 税務や労務で、あとから指摘される可能性があった
- 口約束で回していた取引が、引き継いだ途端に崩れた
- 実は必要な許認可がそろっていなかった
こうした点は、買い手が買ってから気づくと、「聞いていない」「想定と違う」になりやすいです。DDは、そうならないために、買う前に不安の芽をできるだけ潰しておく工程です。
売主にとっても、DDで論点が表に出ることには意味があります。買収後に揉めるより、買う前に論点を整理しておいた方が、結果として安心して譲渡を進めやすくなるからです。
DDの結果が、価格や条件にどう反映されるか
DDの結果は、買い手の意思決定に影響します。そしてその影響は、ざっくり言うと「価格に反映される」か「条件に反映される」のどちらかになりやすいです。
ここは、売主側が必要以上に不安になりやすいポイントなので、整理しておきます。DDで何か論点が見つかった場合、買い手は次のような方向で調整を考えます。
| DDで見つかったこと | 買い手が考えやすい対応 | 売主側で意識したいこと |
|---|---|---|
| 数字や実態にズレがある(利益・在庫・未収など) | 価格の見直し(想定よりリスクが高いと判断) | ズレの理由と再発しない見立てを説明できるか |
| トラブルの可能性があるが、影響が読める | 条件の追加(一定期間の補償、支払い条件の調整など) | 論点を隠さず、現実的な落としどころを作れるか |
| 重大で、買い手が受け止めきれない | 検討の中止や延期 | 早期に把握し、打ち手があるか整理できるか |
もちろん、DDで何かが出たら必ず価格が下がる、という話ではありません。実際には、論点があってもきちんと説明できる、または対処の道筋が見えるだけで、買い手の不安が小さくなり、結果として話が進みやすくなることもあります。
買い手は「完璧な会社」だけを探しているわけではなく、納得できる材料と、現実的な判断ができる状態を求めています。売主としては、DDを「攻められる場」と捉えるより、買い手が判断できるように情報を整える場と考えた方が、対応の軸がブレにくくなります。
DDで調べられる範囲(主な種類)
デューデリジェンス(DD)は、ひとことで言うと「買い手が判断するための確認」ですが、実際には確認する範囲がいくつかに分かれます。
ここで大切なのは、DDの種類を知ること自体よりも、「どこを聞かれやすいか」「どんな意図で見られているか」を押さえることです。見られる観点がわかると、急に質問が来ても慌てにくくなります。
| DDの種類 | 主に見られること | 買い手の狙い(不安の正体) |
|---|---|---|
| 財務DD | 売上・利益・運転資金・資産負債の実態 | 数字が本当に再現性あるか/資金繰りに無理がないか |
| 税務DD | 申告・経費処理・過去の処理の妥当性 | あとから税務リスクが出ないか |
| 法務DD | 契約・許認可・訴訟リスク・株主関係 | 権利関係がクリアか/買っても運営できるか |
| ビジネスDD | 顧客・競合・強み・成長性 | 事業として伸びるか/競争に勝てるか |
| 人・労務DD | 雇用契約・残業・規程・キーパーソン依存 | 人の面で爆弾がないか/引き継げる体制か |
| IT・情報DD | システム・セキュリティ・データ管理 | 止まらないか/情報事故が起きないか |
財務DD(売上・利益・運転資金・実態の確認)
財務DDは、いわゆる「お金の中身」を確認するものです。買い手は、決算書の数字を見ながら、利益がどのように作られているか、そして買収後も同じように回りそうかを見ます。
よく確認されやすいのは、たとえば次のようなポイントです。
- 売上がどこから来ているか(特定の取引先に偏りがないか)
- 利益が一時的に膨らんでいないか(今期だけの要因がないか)
- 運転資金のクセ(入金と支払いのズレ、資金繰りの余裕)
- 在庫・未収・前払などの実態(帳簿と現実が合っているか)
- 借入やリースの状況(返済負担が事業に対して重すぎないか)
ここで買い手が怖がるのは、「数字が間違っていること」よりも、数字の背景が説明できないことです。理由がわかれば判断できるので、説明の材料があるほど進めやすくなります。
税務DD(申告の癖、否認リスク、過去の処理の確認)
税務DDは、税金の申告や処理について、あとから問題になりそうな点がないかを確認します。買い手が気にするのは、ざっくり言うと「買ったあとに税務で追加の負担が出ないか」です。
確認されやすい例としては、次のようなものがあります。
- 申告や処理の一貫性(毎年のやり方がブレていないか)
- 経費の扱い(説明が必要な支出がないか)
- 過去の税務リスク(指摘されやすい論点が放置されていないか)
注意したいのは、税務DDは「怪しいものを探す」ためではなく、買い手がリスクの大きさを見積もるために行われるということです。だからこそ、過去の処理に事情がある場合でも、経緯と考え方を言葉にできるだけで、受け止められ方が変わることがあります。
法務DD(契約・許認可・訴訟リスク・株主関係)
法務DDは、会社を買ったあとに「法的に困ることが起きないか」を確認します。買い手は、契約や許認可、権利関係がきれいかどうかを見て、買収後にスムーズに運営できるかを判断します。
- 主要な契約(解除条項、更新条件、名義変更の可否など)
- 許認可(必要なものがそろっているか、引き継げるか)
- 訴訟・クレームのリスク(過去のトラブルの経緯や再発可能性)
- 株主関係(株の持ち主、合意が必要な人がいないか)
ここでのポイントは、買い手の不安は「難しい法的論点」よりも、現実に止まるリスクに向きやすいことです。たとえば、契約が口約束中心だったり、許認可の名義がズレていたりすると、買い手は急に慎重になります。
ビジネスDD(顧客、競合、強み、成長性の確認)
ビジネスDDは、事業そのものの中身を見て、買い手が「この会社を買う意味があるか」を判断するための確認です。特に買い手は、強みが何で、どうやって勝っているのかを知りたがります。
- 顧客(主要顧客、継続率、依存度、解約理由の傾向)
- 競合(競争環境、勝ち筋、価格競争に巻き込まれないか)
- 強み(選ばれる理由が説明できるか、再現できるか)
- 成長性(伸びる余地、課題、投資するとしたらどこか)
売主としては、「うまく言語化できないけど、なぜか選ばれている」というケースもあります。ここを買い手に伝えるには、きれいな資料よりも、現場の具体(どんな顧客が、どんな理由で、何を評価しているか)を話せる方が役に立つことが多いです。
人・労務DD(雇用契約、残業、キーパーソン依存)
人・労務DDは、社員や働き方に関わるリスクを確認します。買い手が気にするのは、引き継いだあとに「人の問題」で火がつかないか、そして体制として回り続けるかです。
- 雇用契約(雇用条件、契約形態、重要ポジションの条件)
- 残業や労働時間(運用と実態にズレがないか)
- 規程やルール(最低限の整備がされているか)
- キーパーソン依存(特定の人が抜けると止まらないか)
買い手の視点だと、「社長がいなくても回るか」だけでなく、現場が疲弊していないか、引き継ぎで離職が起きないかも重要になります。ここは数字では見えないので、質問が多くなることもあります。
IT・情報DD(システム、セキュリティ、データ管理)
IT・情報DDは、システム面や情報管理の実態を確認します。買い手が恐れるのは、買収後に業務が止まる、あるいは情報事故が起きることです。
- 基幹システムや業務ツール(何で回しているか、属人化していないか)
- アカウント管理(誰が何を管理しているか、共有IDだらけでないか)
- データの保管(どこに何があるか、バックアップがあるか)
- セキュリティ(最低限の対策が取られているか)
ITに強い会社でなくても、買い手が求めるのは「最新の仕組み」ではなく、まずは現状が把握できていて、引き継げる状態であることが多いです。逆に、社長や特定の担当者しか分からない状態だと、買い手は不安を感じやすくなります。
DDの進み方(売主から見る全体の流れ)
デューデリジェンス(DD)は、始まってみると「思っていたより事務作業が多い」と感じる方が少なくありません。売主としては、流れを先にイメージできているだけで、精神的な負担がかなり軽くなります。
資料リストが来る→データを出す→質問が増える、が基本形
DDの基本形は、とてもシンプルです。買い手(または買い手が依頼した専門家)から資料のリストが届き、売主が資料を提出し、その内容を見た買い手側から追加質問が来る、という流れです。
ポイントは、ここからが売主にとっての“本番”になりやすいことです。資料を出した瞬間に終わるのではなく、むしろ資料を出した後に質問が増えるのが自然です。
- 最初の資料リスト:広めに来る(「まず全体を把握したい」)
- 資料提出後:論点が見えてくる(「ここを詳しく知りたい」)
- 追加質問:深掘りが始まる(「この数字の根拠は?」「この契約の例外は?」)
このとき、売主側が不安になりやすいのが「質問が増えた=疑われているのでは」という感覚です。ただ、実際には買い手が理解を進めるほど質問が増えるのは普通です。買い手は“粗探し”というより、買った後に困らないための材料を集めています。
また、買い手側の質問の仕方は、必ずしも丁寧とは限りません。単発の質問が連投されたり、同じ論点を言い換えて聞かれたりします。これは相手が悪いというより、買い手側も複数人(担当者・上司・専門家)で見ているため、質問が分散しやすいことが原因になりがちです。
データルーム(共有フォルダ)の考え方と注意点
DDでは、資料の受け渡しを効率化するために、共有フォルダを使うことがよくあります。これを一般的にデータルームと呼びます。
データルームは、売主から見ると「資料置き場」です。ここに資料を入れることで、買い手側は必要な資料を同じ場所から確認でき、やり取りの手間が減ります。
一方で、便利な反面、注意点もあります。ここは売主が疲れやすいポイントなので、最低限押さえておきたいです。
- 出した資料は“残る”:後から差し替えると混乱しやすい
- 誰が見ているかが増えやすい:買い手担当だけでなく、専門家や意思決定者も見ることがある
- フォルダ構成が乱れると事故る:同じ資料の別バージョンが複数あると揉めやすい
- アクセス権限の管理が重要:必要以上に広い権限を付けない
特に「差し替え」は要注意です。たとえば、最新の試算表を出したつもりでも、フォルダ内に旧版が残っていると、買い手側が旧版を見て質問してしまうことがあります。すると売主側は「何の話だろう?」となり、余計な往復が増えます。
データルームで意識したいのは、資料の置き方を“管理”として扱うことです。きれいな資料を作るより、まずは迷子にならない状態を作るだけで、DDのストレスはかなり減ります。
質疑応答をどう回すか(担当・期限・回答の形を決める)
DDで一番消耗しやすいのは、資料提出よりも、実は質疑応答(Q&A)です。質問がバラバラに来て、社長がその都度対応していると、日常業務がどんどん圧迫されます。
ここで重要なのは、DDを「気合い」ではなく、仕組みで回すことです。最低限、次の3つを決めるだけで負担が下がります。
- 担当:誰が回答をまとめるか(窓口を一本化する)
- 期限:いつまでに返すか(即レスで消耗しない)
- 回答の形:文章で返すか/資料で返すか/口頭で補足するか
特に「回答の形」は大事です。質問のすべてを文章で返そうとすると、時間が溶けます。逆に、資料で答えられるものは資料で済ませ、口頭で補足した方が早いものは口頭に寄せた方が、全体のスピードが上がります。
| 質問のタイプ | おすすめの返し方 | 売主側の狙い |
|---|---|---|
| 数字の根拠(例:この売上の内訳は?) | 資料で回答(内訳表、集計、補足資料) | 解釈のズレを減らす |
| 実態の確認(例:この取引はどう回している?) | 文章+短い補足(必要なら口頭) | 背景を誤解されない |
| 判断が絡む(例:今後の方針は?例外は?) | 口頭で整理→必要部分だけ文章化 | 論点を広げすぎない |
もう一つ、売主側がラクになるコツは、質問が来たら「すぐ返す」より、いったん集めてまとめて返すことです。質問をまとめることで、重複が減り、論点の整理もしやすくなります。
そして、どの返し方でも共通して大切なのは、回答がブレないことです。人が変わると説明が変わる、資料と説明が食い違う、回答のたびに数字が変わる。こうしたズレは、買い手の不安を一気に増やします。だからこそ、担当・期限・回答の形を先に決め、売主側で“交通整理”をしておくことが大きな価値になります。
売主が最初にそろえると楽になる資料(最低限のセット)
DDが始まってから資料を集めようとすると、社内がバタつきやすく、社長の頭の中もずっと「次は何を出すんだっけ?」で埋まってしまいます。
逆に、最初に最低限のセットだけでも用意しておくと、買い手からの依頼に対して「出せる・出せない」を落ち着いて判断でき、やり取りの往復が減ります。ここでは、完璧ではなく、あくまで最初にそろえると楽になる範囲に絞って整理します。
| カテゴリ | 最低限そろえるもの(例) | 買い手が見たいこと |
|---|---|---|
| 会社の基本 | 会社概要、沿革、組織図、拠点、許認可の一覧 | 会社の全体像と、運営に必要な条件 |
| お金 | 決算書、直近の試算表、資金繰りのイメージ、借入一覧 | 数字の実態と、資金繰りのクセ |
| 取引 | 主要顧客・仕入先一覧、主要契約、価格条件の概要 | 売上の安定性と、止まるリスク |
| 人 | 従業員一覧、雇用条件の概要、規程の有無、外注の実態 | 引き継ぎやすさと、労務リスク |
会社の基本情報(沿革、組織、拠点、許認可など)
まずは「会社の土台となる情報」です。ここが整っていると、買い手側は全体像をつかみやすく、質問も整理された形で来やすくなります。
- 会社概要(商号、所在地、事業内容、代表者、資本金など)
- 沿革(創業~現在までの大きな出来事、事業転換など)
- 組織(部署や役割、キーパーソンが誰かが分かる程度でOK)
- 拠点(本社・店舗・工場・倉庫など、どこで何をしているか)
- 許認可の一覧(必要な業種の場合は特に重要)
ここで重要なのは、立派な資料を作ることではなく、買い手が「この会社はどういう構造で動いているのか」を迷わず理解できる状態にすることです。
お金の資料(決算、試算表、資金繰り、借入の一覧)
次に「数字」です。買い手が最初に確認したいのは、決算書の数字が、現場の実態と大きくズレていないかという点です。
- 決算書(直近数期分があると望ましいが、まずは直近からでも)
- 直近の試算表(最新の状況が分かるもの)
- 資金繰りの状況が分かるもの(月次の資金繰り表があれば理想。無ければ、入金と支払いのクセが説明できるメモでも)
- 借入の一覧(金融機関、残高、返済額、担保・保証の有無などが分かる範囲で)
ここは「細部まで作り込む」よりも、買い手が困るポイントを先回りして、現状が読み取れる材料を出せることが大切です。試算表が更新されていない、借入が整理されていない、というだけで、買い手は不安になりやすいからです。
取引の資料(主要顧客、仕入先、主要契約、価格条件)
買い手が強く気にするのが、取引の安定性です。ここは「売上がある」だけでは足りず、その売上がどうやって成り立っているかが問われます。
- 主要顧客の一覧(上位数社でOK。売上比率が分かると尚よい)
- 主要仕入先の一覧(依存が強い場合は特に重要)
- 主要契約(取引基本契約、業務委託、賃貸借、リースなど)
- 価格条件の概要(定価なのか、個別見積なのか、値引きのルールがあるのか)
契約書がそろっていない取引も、現実にはあります。その場合でも、いきなり不利になるわけではありません。ただ、買い手は「止まるリスク」を知りたいので、口約束で回している理由や実際にどう運用しているかを説明できると、受け止められ方が変わります。
人の資料(従業員一覧、雇用条件、規程、外注の実態)
人に関する情報は、買い手が「引き継いだあとに回るか」を判断する材料です。ここも、完璧な人事制度を求められているというより、実態が把握できるかが重要です。
- 従業員一覧(職種、役割、雇用形態、勤続年数などが分かる範囲で)
- 雇用条件の概要(給与体系、手当、賞与、社会保険の状況など)
- 就業規則や規程の有無(整備済みか、未整備かが分かればまずOK)
- 外注の実態(実は外注が重要業務を握っている、などがあると買い手の見方が変わる)
ここで買い手が怖いのは、買ってから「人に関する問題」が噴き出すことです。だからこそ、未整備な点がある場合も、隠すよりどこが未整備かが分かる方が、むしろ安心につながります。
「まだ出せない」資料があるときの伝え方(隠さないコツ)
DDでは、すべての資料が最初から出せるとは限りません。社内の整理が追いつかないこともあれば、そもそも存在しない資料もあります。また、情報の性質上、出すタイミングを慎重にしたいものもあります。
ここで大切なのは、「出せない」を黙ることではなく、買い手が判断できる形で「今は出せない理由」と「いつどう出すか」をセットで伝えることです。
- 資料が存在しない:その事実を伝えた上で、代わりに何で説明できるかを出す(メモ、一覧、運用の説明など)
- 整理が間に合っていない:いつまでに用意できるか、期限を置く
- タイミングを選びたい:なぜ慎重なのかを説明し、開示の順番を提案する
買い手が不安になるのは、「資料がないこと」よりも、何がどうなっているのか分からない状態です。だから、出せないときほど、
(1)今の状況 → (2)理由 → (3)代案または提出予定
この順番で伝えるだけで、余計な疑念を招きにくくなります。
DDは、早く・多く出すほど正解、という話でもありません。売主側の現実を守りながら、買い手が判断できる材料を整えることが大切です。そのために、最初の段階でこの最低限セットを用意しておくと、後半の消耗がかなり減ります。
DDでつまずきやすい落とし穴(価格が下がりやすい原因)
DDで価格が下がったり、条件が厳しくなったりする場面には、一定のパターンがあります。売主としては「悪いことをした覚えはないのに…」と感じることもありますが、買い手は“損をしないため”というより、“想定外を避けるため”に慎重になります。
ここでは、DDでつまずきやすい落とし穴を、売主目線で整理します。先に知っておくだけで、余計な不信感や値下げのきっかけを作りにくくなります。
数字のズレより怖いのは「説明がつかない状態」
DDで一番怖いのは、実は「数字のズレ」そのものではありません。買い手が本当に不安になるのは、ズレが起きた理由が説明できない、あるいは説明がその場その場で変わる状態です。
たとえば、
- 試算表と決算書で数字の見え方が違う
- 売上の内訳が、担当者によって言い方が変わる
- 在庫や未収の状況を聞かれても、すぐに答えられない
こうしたこと自体は、どの会社にも起こり得ます。問題は、買い手側が「この会社、全体を把握できていないのでは」と感じてしまうことです。買い手は、買収後に自分が責任を負うので、把握できていない会社に対しては、どうしても厳しくなります。
逆に言えば、数字のズレがあっても、
- なぜズレているのか
- どこまでが確定で、どこが推定か
- 今後どう管理していくか
ここが筋道立って説明できれば、買い手は判断しやすくなります。
口約束・個人依存・例外対応が多いと不安が増える
次に多い落とし穴が、取引や業務が「人」や「例外」で回りすぎているケースです。売主からすると「長年の関係でうまく回っているだけ」なのですが、買い手から見ると引き継いだ瞬間に崩れるリスクに映ります。
- 口約束で成立している取引(契約書がない、条件が曖昧)
- 社長だけが握っている関係(社長が出ないと話が進まない)
- 特別対応が常態化(値引き、納期、支払いなどが都度例外)
- 特定の担当者しかできない作業(属人化している)
買い手が嫌がるのは、「例外があること」ではなく、例外がどれだけあるのか分からないことです。つまり、見えないリスクが大きいほど、買い手は安全側に倒れます。
もし心当たりがある場合は、隠すよりも、どの取引が口約束なのか、例外対応はどの範囲なのか、社長依存はどこなのかを言葉にしておくだけで、買い手の不安は下がりやすくなります。
過去の処理の“クセ”が指摘される(意図と根拠の整理)
DDでは、過去の会計・税務・労務などの処理について、「この処理はどういう考え方ですか?」と聞かれることがあります。ここで売主がつまずきやすいのが、処理そのものよりも、意図や根拠を説明しづらい“クセ”が残っているケースです。
たとえば、
- 毎期の処理が少しずつ違う(基準が固定されていない)
- 慣習的にそうしてきたが、理由を言語化できない
- 担当者が変わったことで、説明が途切れている
このとき買い手が不安になるのは、「間違いがあるかもしれない」というより、買ったあとに追加の負担が出るかもしれないという点です。だから、売主側としては、正解を並べるよりも、
- なぜその処理をしてきたのか(背景)
- 当時どう判断したのか(考え方)
- 今はどういう認識か(現状)
この3点を整理しておくと、買い手にとって判断材料になります。逆に、「昔からこうなので」「よく分かりません」は、買い手の不安を強くします。
情報の出し方で不信感が生まれる(遅い・抜ける・変わる)
DDで意外と効いてしまうのが、資料の中身以前に情報の出し方です。買い手は、DDの過程で「この会社は管理ができているか」を見ています。ここで不信感が生まれやすいのが、次の3つです。
- 遅い:期限が読めない、返答が止まる、いつ出るか分からない
- 抜ける:出すべき資料が抜けたり、質問に回答漏れが出たりする
- 変わる:提出資料の数字が後から変わる、説明がブレる
買い手が嫌がるのは、「忙しくて遅れること」そのものではなく、先が読めないことです。だから、遅れそうなら、黙って遅れるのではなく、
- いつ出せるか
- なぜ時間がかかるか
- 代わりに先に出せるものはあるか
この3点をセットで伝えるだけで、受け止められ方は変わります。
また、「変わる」については、修正自体が悪いわけではありません。問題は、買い手が「どれが最新版なのか分からない」状態になることです。提出物に日付を入れる、版を分ける、差し替え理由を短く添えるなど、ちょっとした工夫で不信感の芽を減らせます。
DDの負担を減らす進め方(売主が疲れない設計)
DDは、正直に言うと「体力勝負」になりやすい工程です。日常業務を回しながら、資料を集め、質問に答え、追加資料に対応する。これを社長が全部抱えると、どこかで息切れします。
ただ、DDは気合いではなく、設計(回し方)で負担を大きく減らせます。ここでは、売主が疲れないための現実的な進め方を整理します。
窓口を一本化する(社長が全部返さない)
まず最優先で効くのが、窓口を一本化することです。買い手側は、担当者・上司・専門家など複数人で動いていることが多く、質問も色々なところから飛んできます。ここに社長が都度反応すると、
- 同じ質問に何度も答える
- 言い方が変わってブレる
- 返信の優先順位がつかずに疲れる
こうした状態になりやすいです。
理想は、社内(もしくは支援者)で「DDの受け口」を1つに決めることです。受け口が質問を集約し、社長は必要な判断と補足だけをする形にすると、負担が一気に下がります。
窓口に向いているのは、たとえば次のような人です。
- 社内で数字や資料を把握している人(経理・総務など)
- 外部の支援者(アドバイザーなど、整理と交通整理ができる人)
- 社長の右腕(社内事情を理解しつつ、文章化ができる人)
社長が窓口になると、「答える」だけでなく「質問を整理する」役まで背負ってしまい、消耗が加速します。社長は事業の説明と意思決定に力を残しておく方が、結果としてDDもスムーズに進みやすいです。
出す順番を決める(重要度が高い順に段取り)
DDがしんどくなる原因の一つが、「出す資料の順番が場当たりになること」です。買い手の依頼にその場で反応していると、社内はいつまでも追われ続けます。
そこで、最初におすすめしたいのが、出す順番を決めることです。ポイントは、全部を一気に出すことではなく、重要度が高い順に段取りすることです。
たとえば、売主側の負担を下げやすい並べ方はこんなイメージです。
| 優先度 | 先に出すとラクになるもの | 理由 |
|---|---|---|
| 高 | 決算・試算表、借入一覧、主要契約、主要顧客の概要 | 買い手の判断に直結し、ここが揃うと質問が整理されやすい |
| 中 | 内訳資料、運用の説明メモ、規程、人の一覧 | 理解が深まると必要になる。準備の手間も大きいので順番が効く |
| 低〜個別 | 個別の例外対応、特殊案件、過去の補足資料 | 論点が出てからで十分なことが多く、最初に出すと混乱しやすい |
出す順番が決まると、窓口側も「今週はここまで」と区切りがつき、社長も日常業務に戻りやすくなります。買い手に対しても、期限の見通しを伝えやすくなり、無駄な催促が減ります。
回答のルールを作る(誰が、いつまでに、どこまで)
DDで疲れるのは、質問そのものよりも、質問への対応が“終わりのない作業”に見えることです。これを防ぐには、売主側で回答のルールを決めてしまうのが効果的です。
ルールと言っても難しい話ではなく、最低限次の3つを決めるだけで十分です。
- 誰が:質問を受けて整理する担当(窓口)/社長が答える範囲
- いつまでに:回答期限(即レスをやめ、まとめて返す日を作る)
- どこまで:回答の深さ(資料で出す/文章で返す/口頭で補足する)
特に効くのが、「即レスしない」ことです。もちろん、止まりそうな論点は早めに返した方がいいですが、すべてを即レスで返そうとすると、社長の仕事がDDに吸い取られます。
現実的には、たとえば次のような運用がラクです。
- 質問は窓口で集約し、1日1回 or 週に数回まとめて返す
- 回答は「資料で答える」「短文で答える」「口頭で補足する」を使い分ける
- 社長が答えるのは、事業の意図・方針・例外の判断に絞る
回答のルールを作る目的は、買い手をコントロールすることではありません。売主側が継続して対応できる形に整えることです。対応が続かなくなる方が、結果として交渉全体が苦しくなります。
専門家に任せる範囲(税務・法務・労務の切り分け)
DDでは、社長が頑張っても「専門家でないと正しく答えにくい質問」が出てきます。ここで社長が無理に答えようとすると、
- 言い切れずに説明が曖昧になる
- 後から訂正が必要になり、信頼が落ちる
- 社長の疲労が一気に増える
こうなりがちです。
だからこそ、最初から「どこから先は専門家に任せるか」を切り分けておくと、DDが回りやすくなります。
| 領域 | 専門家に任せた方がよい質問の例 | 社長が担うと良い部分 |
|---|---|---|
| 税務 | 申告・処理の妥当性、過去処理の論点、税務リスクの見立て | 当時の背景や実態(なぜそうしていたか) |
| 法務 | 契約条項の解釈、株主関係、許認可の扱い、紛争リスク | 取引の実態、例外運用、相手との関係性 |
| 労務 | 残業・雇用条件・規程の整合、運用と法令のズレの整理 | 現場の実態、採用・配置の意図、キーパーソンの状況 |
専門家に任せることは、「丸投げ」ではありません。社長は社長で、現場の実態や判断の背景を説明する役割があります。ただ、税務・法務・労務の論点は、言い回し一つで受け止められ方が変わることがあるので、無理に自分だけで抱えない方が安全です。
DDは、社長が頑張り続けるほど良い結果になるとは限りません。窓口、順番、ルール、専門家の切り分けを先に整えるだけで、同じDDでも疲れ方がまったく変わってきます。
DDの結果で条件が変わるとき、どう考える?
DDが進むと、買い手から「条件を少し見直したい」と言われることがあります。売主としては、ここが一番心が揺れやすい場面かもしれません。
ただ、ここで大切なのは、条件の見直しが出たからといって、すぐに「失敗だ」「もう終わりだ」と考えないことです。買い手はDDを通じて、不安を“数字”か“条件”で処理したいだけのことが多いです。つまり、論点の性質によって、落としどころが変わります。
価格調整になりやすい論点(運転資金・偶発債務など)
まず、買い手が価格を動かしたくなるのは、ざっくり言うと「お金の実態が想定と違った」ときです。特に議論になりやすいのが、運転資金と偶発債務です。
運転資金は、事業を回すために必要なお金のことです。会社を買ったあと、買い手は「通常どおり回すだけで、どれくらい資金が寝るのか」を気にします。ここが想定より重いと、買い手の負担が増えるため、価格調整の話になりやすいです。
偶発債務は、今は表に出ていないけれど、将来負担が発生するかもしれないものです。たとえば、争いが残っている案件や、過去処理の論点など、将来にお金が出ていく可能性があるものは、買い手が慎重になります。
- 売掛金や在庫が想定より重い(資金が寝る)
- 買掛金や未払費用の扱いが想定と違う
- 回収が怪しい未収がある
- 将来に発生しうる支払い(偶発債務)が見える
ここで売主がやりがちな失敗は、「とにかく否定する」「そんなはずはない」と押し返してしまうことです。買い手が見たいのは感情ではなく、実態と根拠です。
価格調整の話が出たときは、まずどの論点が、いくら分の影響になっているのかを冷静に切り分ける方が、結果として話が前に進みやすくなります。
契約条件で吸収される論点(表明保証・補償・エスクロー等)
一方で、DDで論点が出ても、価格ではなく契約条件で整理されることもよくあります。ここでよく登場するのが、表明保証、補償、エスクローといった考え方です。
言葉は難しく聞こえますが、発想はシンプルです。買い手は、
- 「本当にそうだと言えるなら、後から違ったときに守ってほしい」
- 「リスクがゼロではないなら、その分の安全装置がほしい」
こう考えます。
たとえば、次のような論点は、価格ではなく契約条件で吸収されることが多いです。
- リスクはあるが、影響範囲が読める
- 今すぐお金が出るわけではないが、可能性がゼロではない
- 資料はある程度あるが、解釈に幅がある
ここで売主が押さえたいのは、契約条件の調整は「罰」ではなく、買い手が不安を処理するための落としどころの一つだということです。
もちろん、条件を無制限に受ける必要はありません。ただ、価格で下げられるより、条件で限定的に整理した方が、売主として結果が良くなることもあります。だからこそ、条件の話が出たときは、
- 対象(何について)
- 期間(いつまで)
- 上限(いくらまで)
この3点がどうなっているかを、必ずセットで確認することが大切です。ここが曖昧なままだと、売主の不安がずっと残り続けます。
「指摘=即アウト」ではない(対処案を出せるかが大事)
DDで何か指摘が出ると、「もう買ってもらえないのでは」と焦る方もいます。ただ、現実には、指摘が出ること自体は珍しくありません。どの会社にも、未整備な点や、説明が必要な点は出てきます。
ここで分かれ道になるのは、指摘が出たときに、売主側が対処案を出せるかです。
たとえば、同じ指摘でも、買い手の受け止め方は変わります。
- 「よく分かりません」→ 不安が増える
- 「こういう背景でこうなっています。現状はこうで、対応策はこれです」→ 判断できる
対処案といっても、大げさな改善計画を作る必要はありません。買い手が欲しいのは、
- 事実関係の整理(何が起きているか)
- 影響範囲(どれくらいの話か)
- 落としどころ(価格なのか、条件なのか、運用なのか)
この3点が見えることです。
DDの指摘は、「売主が責められている」サインではなく、買い手が不安を言語化しているサインでもあります。だからこそ、指摘が出たときほど、感情で反応するより、論点を切り分けて、現実的な選択肢を提示できるかが大切になります。
よくある質問(DDで不安になりやすいところ)
DDは、やること自体は「資料を出して、質問に答える」なのですが、はじめての方ほど不安になりやすいポイントがいくつかあります。ここでは、よく聞かれる質問に、売主目線でわかりやすく答えます。
DDの期間はどれくらい?何が長引く原因?
DDの期間は、案件ごとに差が大きいので「必ず何週間」とは言い切れません。会社の規模や業種、買い手側の体制、確認したい範囲によって変わります。
ただ、売主側の体感としては、DDが長引くときには共通した原因があります。代表的なのは次のようなケースです。
- 資料が分散していて集まらない(担当者がいない/置き場がバラバラ)
- 同じ論点で往復している(説明がブレる/最新版が分からない)
- 買い手側の意思決定が遅い(担当は動くが、上が判断しない)
- 重要論点が後半まで出てこない(後から「実はこれも…」が出る)
売主側でコントロールしやすいのは、最初の2つです。つまり、資料の置き場を整えることと、回答の管理(ブレ・版・期限)をすること。ここができるだけで、DDの“無駄な延長”は起きにくくなります。
逆に、買い手側の内部都合(稟議や体制)は売主側では変えにくいので、そこは「起きうるもの」として、やり取りの往復を減らすことに集中する方がラクです。
費用は誰が払う?売主側にも費用はかかる?
DDでは、買い手が税理士や弁護士などの専門家に依頼して進めることが多く、その買い手側のDD費用は基本的に買い手負担になるのが一般的です。
一方で、売主側にも「費用がゼロとは限らない」ポイントがあります。たとえば、次のような場面では、売主側でコストが発生することがあります。
- 資料作成や整理に外部の手を借りる(経理の整理、契約の棚卸しなど)
- 売主側の専門家に相談する(税務・法務・労務の論点整理)
- コピー・郵送・証明書取得などの実費(案件による)
ここで大切なのは、「費用をかけること」自体よりも、どこに費用をかけるとラクになるかを見極めることです。無理に全部を自社だけで抱えると、時間と疲労のコストが膨らみ、肝心の通常業務が崩れやすくなります。
売主側でお金がかかる可能性がある場合は、後から驚かないように、早めに“発生しそうな費用の棚卸し”をしておくと安心です。
社員や取引先にいつ伝えるべき?秘密は守れる?
DDの段階で多くの方が不安になるのが、「社員や取引先にバレないか」という点です。ここは会社ごとに事情が違うので、万能の正解はありません。
ただ、一般的な考え方として押さえておきたいのは、DDの性質上、情報が動く範囲が広がりやすいという点です。買い手担当者だけでなく、買い手側の専門家や意思決定者も資料を見ることがあり、情報に触れる人が増える可能性があります。
だからこそ、売主としては、次の2点を意識しておくと安心です。
- 守る前提を作る:秘密保持の枠組みがある状態で進める
- 出し方で守る:最初から「社名が分かる情報」や「特定できる情報」を出しすぎない
社員や取引先に伝えるタイミングは、早すぎても遅すぎても難しくなります。早すぎると不安が広がり、遅すぎると引き継ぎの準備が間に合わなくなることがあります。
そのため、売主側の現実的な対応としては、
- 伝える範囲を絞る(必要最小限の関係者に留める)
- 伝える理由を整理する(なぜ今伝えるのか)
- 伝えた後の混乱を想定する(質問への答え方、社内の動揺への備え)
こうした「準備」をしてから動く方が、結果として守りやすくなります。
全部出さないと売れない?出し方に工夫はできる?
DDでは資料の提出が求められますが、だからといって「最初から全部出さないと売れない」というわけではありません。
買い手が欲しいのは、完璧な資料一式というより、判断に必要な材料がそろうことです。つまり、資料の出し方には工夫の余地があります。
たとえば、売主側がよく使う考え方としては、次のようなものがあります。
- 優先順位をつける:重要度の高いものから出し、必要になったら深掘り資料を出す
- 代替資料で説明する:正式な資料がない場合、一覧表やメモで実態を説明する
- 特定される情報は段階的に出す:必要性が高まってから開示する
ただし、「工夫」と「隠す」は違います。買い手が不安になるのは、出していないこと自体より、何が出ていないのかが分からないことです。
だから、出せないものがある場合は、
- 何が出せないか
- 理由
- いつ・どの条件なら出せるか(または代案)
この3点をセットで伝えるのがコツです。こうしておくと、買い手側も判断しやすくなり、不要な疑念を招きにくくなります。
不安が強いときの相談ポイント(動き方の目安)
DDは、資料の準備や質疑応答も大変ですが、それ以上にしんどいのが「この対応で合っているのか分からない」という不安です。
買い手の要求が増えるほど、「全部出さないと壊れるのでは」「ここで変なことを言ったら値下げされるのでは」と、頭の中が休まらなくなります。
そんなときは、一人で抱え込むよりも、相談して“判断の軸”を外に置く方が結果的に進みやすくなります。ここでは、動き方の目安を整理します。
買い手の要求が過剰かどうかの見分け方
買い手からの依頼が増えると、「これは普通なのか?やりすぎなのか?」が分からなくなりがちです。ここは、感情で判断するより、いくつかの視点で切り分けると冷静になれます。
過剰かどうかを見分けるときは、次のようなポイントを見ます。
- 目的が説明されているか(なぜそれが必要なのかが言語化されている)
- 範囲が決まっているか(どこまで出せば足りるかが見える)
- 優先順位があるか(「今ほしいもの」と「後でいいもの」が分かれている)
- 代替案が通るか(資料が無いときに、一覧やメモで代替できるか)
- 同じ論点を繰り返していないか(質問が散らばっているだけなのか、疑念が残っているのか)
逆に、警戒した方がいいのは、
- 理由なく「全部出して」と言う
- 期限だけが短く、優先順位がない
- 出したのに「まだ足りない」と言い続ける
こうしたときは、要求の内容そのものより、要求の出し方に問題があることが多いです。売主側としては、相手のペースに飲まれる前に、
- 何のために必要なのか
- 優先順位はどれか
- いつまでに、どの形で出せば十分か
この3点を確認するだけでも、要求が“整理された形”に変わることがあります。
社内だけで抱えない方がいいサイン(早めに外へ出す)
DDの相談は、「問題が起きてから」では遅いこともあります。不安が強いときほど、早めに外へ出した方が、結果としてダメージが小さくなります。
社内だけで抱えない方がいいサインは、たとえば次のようなものです。
- 社長が通常業務に戻れない(DD対応で毎日が埋まっている)
- 回答がブレ始めている(誰が答えても言い方が変わる)
- 「出せない理由」を説明できない(結果として黙って遅れる)
- 専門領域の質問が増えている(税務・法務・労務の論点が濃い)
- 買い手の要求がエスカレートしている(範囲や期限が膨らむ)
- 条件の話が急に出てきた(値下げや追加条件の提示が始まる)
この状態で社長が一人で踏ん張ると、疲れが溜まって判断が荒くなりやすいです。DDは、最後の最後で「言い方一つ」「出し方一つ」が効く場面があるので、疲れ切った状態で戦うのは避けたいところです。
外へ出すというのは、大げさな話ではありません。たとえば、
- 質問と回答の交通整理だけ手伝ってもらう
- 専門領域の論点だけチェックしてもらう
- 条件の提案が妥当か、第三者に見てもらう
こうした“部分的な相談”でも、負担はかなり下がります。
相談前にまとめておくと話が早いメモ(現状・論点・希望)
相談するときに、頭の中が散らかったままだと、話が長くなり、余計に疲れます。逆に、短いメモがあるだけで、相談の質が上がり、結論が出やすくなります。
おすすめは、A4一枚でもいいので、次の3つを箇条書きでまとめておくことです。
| 項目 | 書く内容(例) | 狙い |
|---|---|---|
| 現状 | DDの進捗、誰が相手か、今出している資料、詰まっているやり取り | 状況を一気に共有できる |
| 論点 | 相手の要求で気になる点、指摘された点、出せない資料、条件の話の有無 | 相談の焦点がブレない |
| 希望 | 譲れない条件、開示の優先順位、期限の希望、やりたくないこと | 落としどころを作りやすい |
このメモがあると、相談相手は「何を判断すればいいか」が明確になります。売主側も、相談が終わった後に「結局何を決めたんだっけ?」となりにくいです。
不安が強いときほど、全部を解決しようとせず、まずは判断の軸を作ることが大切です。買い手の要求が普通かどうか、どこから外に出すべきか、何を先に決めるべきか。これが整理されるだけで、DDの負担は目に見えて下がっていきます。