事業承継で日本の未来へカケハシを

事業承継

事業承継計画書とは?作成手順やひな形・記入例についてご紹介

事業を継続的に成長させるためには、そのリーダーシップのバトンタッチが避けられない時が来ます。
このバトンタッチのプロセスを「事業承継」と言います。
しかし、事業承継は単に経営者が変わるだけのシンプルなものではありません。
経営の理念やビジョン、そして事業の資産やリスクを適切に引き継ぐための計画が必要です。
その計画を明文化したものが「事業承継計画書」となります。

この記事では、事業承継計画書の重要性やその作成手順、さらには実際のひな形や記入例を通じて、事業承継のスムーズな進行をサポートする方法を詳しくご紹介します。
経営者の方はもちろん、後継者を目指す方や関連するスタッフの方にも役立つ情報を詰め込んでいますので、ぜひ最後までお読みください。

事業承継計画書とは?

事業承継計画書は、企業の中長期の経営方針を明確にし、その中で事業承継の時期や課題、そして具体的な対策を組み込んだ文書のことを指します。
事業承継は、企業の存続や発展のための重要なステップであり、そのプロセスは非常に複雑です。
企業の現状や将来のビジョン、関係者の意向や状況など、多くの要因を考慮しながら計画を策定する必要があります。

事業承継を考える際、各企業が直面する状況や課題は一様ではありません。
経営者は、後継者や親族、取引先、従業員、金融機関など、さまざまな関係者とのコミュニケーションを密に取りながら、最適な承継計画を策定していく必要があります。

事業承継の成功の鍵は、早期の計画策定にあります。
事業承継に関わる課題を正確に把握し、その課題に対する具体的な対策を速やかに計画書にまとめることで、スムーズな承継を実現することができます。
事業承継計画書は、そのための指南書とも言える重要なドキュメントです。

事業承継計画書が必要とされる理由

近年、中小企業の経営者の高齢化が進行しており、2025年までには70歳を超える経営者が約245万人に達すると予測されています。
驚くべきことに、この数のうち約127万人、つまり日本企業全体の約3割が後継者を持たない状態となっています。
このような背景から、事業承継は今後の中小企業経営において、非常に重要な課題として浮上しています。

事業承継のプロセスは決して短期間で完了するものではありません。
後継者の育成や準備には5年から10年の時間が必要とされています。
しかし、多くの企業ではこの事業承継の準備が十分に進められていないのが現実です。

このような状況を解決するための一つの方法として、事業承継計画の策定が強く推奨されています。
事業承継計画は、企業の将来を見据えた計画的な取り組みを促進し、スムーズな承継を実現するための重要なツールとなります。
また、国もこの問題の重要性を認識し、各地域に「事業承継ネットワーク」を設置。
このネットワークを通じて、事業承継の課題を診断し、計画の策定をサポートしています。

事業承継計画書は、企業の未来を守り、成長を継続するための不可欠なステップと言えるでしょう。

事業承継計画書を作成する3つのメリット

事業承継計画書の策定は、企業の将来を見据えた重要なステップです。
以下に、事業承継計画書を作成する際の主なメリットを3つご紹介します。

・経営状況が明確になる

事業承継計画書には、現在の経営状況や承継後のビジョンが詳細に記載されます。
これにより、経営者や後継者は、事業承継に関連する課題や必要な手続きを明確に把握することができます。
事業承継の成功のためには、まず現状の理解と問題点の洗い出しが不可欠です。

・後継者教育の助けとなる

後継者の育成は時間がかかるプロセスです。
事業承継計画書を活用することで、後継者は経営の目標や方針を理解し、経営者としての知識や経験を深めることができます。
また、従業員との信頼関係の構築もスムーズに進めることができます。

・関係者との協力を得るための道具

事業承継計画書は、関係者とのコミュニケーションのツールとしても非常に有効です。
計画書を共有することで、親族や従業員、取引先などの関係者との間で経営方針や承継後の方針についての認識を統一することができます。
特に、後継者が第三者である場合やM&Aを検討している場合、事業承継計画書は円滑なコミュニケーションをサポートします。

事業承継計画を活用して受けられる補助金制度や融資制度

事業承継は、多くの企業にとって大きな課題となっています。
しかし、適切な計画とサポートを受けることで、スムーズな事業承継が可能となります。
特に、事業承継計画を策定することで、以下のような補助金制度や融資制度を活用することができます。

事業承継税制の特例

事業承継の際、税金の負担は避けられません。
しかし、2018年(平成30年)の税制改正により、事業承継税制の特例が導入されました。
この特例を利用することで、税負担を大幅に軽減することが可能です。
事業承継計画書の策定は、この特例を利用するための条件の一つとなっています。
特例措置を活用することで、税金の負担を大幅に軽減することができるので、ぜひこの機会に利用を検討してみてください。

日本公庫の事業承継・集約・活性化支援資金

日本公庫は、事業承継計画を策定している企業を対象に、事業承継のための資金融資をサポートしています。
この制度を利用するためには、日本公庫が定めた「事業承継計画書」の様式に従って、計画書を記載・提出する必要があります。
この資金は、事業承継の際に必要となるさまざまな費用をカバーするためのもので、事業承継を円滑に進めるための大きなサポートとなります。
日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金について解説した以下の記事もぜひご覧下さい。

日本政策金融公庫の融資制度「事業承継・集約・活性化支援資金」を徹底解説!

事業承継は、一つの企業の未来を決める重要なステップです。
適切な計画と、これらの補助金や融資制度の活用により、よりスムーズで成功確率の高い事業承継を実現することができます。

「事業承継計画」策定の流れ。3つのステップ

事業承継は、企業の将来を見据えた大切なプロセスです。
以下に、事業承継計画を策定するまでの主要なステップをご紹介します。

STEP 1: 現状の把握

  • 事業承継診断
    • 会社概要の把握: 現在の状況、将来の予測、キャッシュフロー、知的資産などを詳細に確認します。
    • 株主や親族関係の確認: 企業の所有構造や家族間の関係を明確にします。
    • 個人財産の概要: 保有する自社株式、個人名義の土地や建物、個人の負債や保証などを確認します。

STEP 2: 後継者・承継方法の検討

  • 後継者の選定
    • 親族内の後継者候補: 家族内での後継者がいるかを確認します。
    • 社内の後継者候補: 社内での後継者の有無やその適性を検討します。
    • 後継者の能力と適性: 候補者のスキルや経験、適性を評価します。
    • 意思確認: 候補者の事業承継に対する意向を確認します。
  • 承継方法の選択: 親族内承継、従業員承継、第三者承継など、最適な方法を選択します。

STEP 3: 事業承継計画の策定

  • 関係者の理解: 事業承継の重要性や方針を関係者に伝え、理解を深めます。
  • 後継者教育: 後継者のスキルや知識を向上させるための教育を行います。
  • 会社の魅力の強化: 企業価値を高めるためのプランを検討し進めます。
  • 株式・財産の分配: 承継に伴う資産の移動や分配を計画します。
  • 生前贈与: 資産の移転を円滑に進めるための手続きを検討します。
  • 会社法の活用: 事業承継をサポートするための法的手段を活用します。
  • 遺言の利用: 承継に関する意向を明確に伝えるための遺言を検討します。
  • 経営承継円滑化法の活用: 事業承継をスムーズに進めるための法的措置を取り入れます。
  • 個人保証・担保の処理: 事業承継に伴うリスクを最小限に抑えるための対策を講じます。

事業承継計画の策定は、企業の将来を確実にするための重要なステップです。
適切な計画と実行により、企業の継続的な成長と発展を実現することができます。

事業承継計画策定時に確認すべきポイントとは?

事業承継計画の策定は、企業の未来を左右する重要なプロセスです。
そのため、計画策定時には「現状の把握」と「将来の見通し」の2つの視点から、以下のポイントをしっかりと確認することが必要です。
また、専門的な知識や経験が求められるため、専門家や支援機関のサポートを活用することをおすすめします。

現状の把握について

  1. 会社の経営資源
    従業員の数や年齢層、会社の資産や負債、キャッシュフローの状態、そして将来の予測を確認しましょう。
  2. 経営リスク
    事業の外部環境や競争力、そしてその将来性を評価します。
  3. 経営者の資産
    自社の株式保有状況や、個人名義の土地・建物、負債、そして個人保証の状態を確認します。
  4. 後継者の有無
    後継者が親族内にいるか、社内、あるいは外部からの招聘を考えているかを明確にします。また、後継者の能力や適性、経歴、意欲なども評価します。
  5. 相続の問題点
    法定相続人の関係や株式の保有状況を確認し、相続税の試算や納税方法の検討を行います。

将来の見通しについて

  1. 中長期の経営計画
    会社の現状分析を基に、経営の方向性や数値目標を設定し、それを達成するための行動計画を策定します。
  2. 事業承継の時期
    事業承継には時間がかかるため、具体的な時期を早めに検討しましょう。
  3. 支援策の活用
    相続税の納税猶予制度や遺留分の特例など、さまざまな支援策を活用して、事業承継を円滑に進める方法を検討します。

事業承継計画の策定は、企業の将来を見据えた大切なステップです。
上記のポイントを参考に、計画を進める際の確認事項として活用してください。

事業承継計画書のひな型・記入例・サンプルはどこで手に入る?

ゼロから事業承継計画書を作成するのはなかなか難しいと思います。
そこで、事業承継計画書のひな型や記入例のサンプルについてご紹介させていただきます。

事業承継計画書のひな型(エクセル)について

事業承継計画書のひな型については、中小機構の提供しているひな形がシンプルで使いやすくおすすめです。
認定支援機関という、中小企業を支援する機関向けに提供されている資料ですが、社長様ご自身でもご利用頂けます。

中小機構が提供する事業承継計画書のひな型(エクセル)ダウンロードページは【こちら】

・事業承継計画表記入様式

・事業承継計画書(骨子)記入様式

事業承継計画書の記入例について

記入例については、日本政策金融公庫のホームページにて、中小機構が提供する計画書を用いた記入例がありますので、そちらもご参考ください。

日本政策金融公庫が公開している事業承継計画書の記入例・サンプルは【こちら】 ※スライド3枚目

・事業承継計画書記入例

事業承継計画書作成後の注意点

事業承継計画書の策定は、企業の将来を見据えた重要なステップですが、策定後も以下の点に注意が必要です。

開示の範囲を限定する

事業承継計画書は、基本的に後継者と経営陣のみに開示されるべき文書です。
これは、計画書には企業の経営戦略や将来の方針など、機密性の高い情報が含まれているためです。

M&Aや事業譲渡が絡む場合の情報管理

第三者への事業譲渡を検討する場合、特にM&Aの情報は慎重に取り扱う必要があります。
M&Aの実施に関する情報は、実施が確定した後に公開するのが一般的です。
事前にこの情報が漏れると、従業員の不安や混乱を引き起こすリスクがあります。
また、取引先や顧客からの問い合わせが増え、業務に支障をきたす可能性も考えられます。

専門家とのコミュニケーション

事業承継計画書には、税務や法務などの専門的な内容も含まれることが多いです。
そのため、税理士や会計士、弁護士などの専門家とのコンサルティングが必要となる場合があります。
計画書の内容を外部に漏らすことなく、安全に相談するために、必要があればNDA(秘密保持契約)を結ぶこともご検討ください。

事業承継計画書は、企業の未来を見据えるための大切な文書です。その内容を適切に管理し、関係者とのコミュニケーションを円滑に進めることで、スムーズな事業承継を実現することができます。

事業承継計画策定の相談先は?

事業承継は、企業の継続と発展のための重要なステップです。
その策定と実行には、多様な専門知識が不可欠です。
この複雑なプロセスを円滑に進めるためには、適切な専門家や支援機関のアドバイスやサポートを活用することがおすすめです。

商工会議所・商工会・中央会

地域のビジネスコミュニティを代表する組織で、事業承継に関する基本的な情報やネットワークを提供します。

事業承継引継ぎ支援センター

事業承継の具体的な手続きや方法に関する専門的なアドバイスを提供します。

事業承継引継ぎ支援センターについて解説した以下の記事もぜひご覧ください。

東京都事業承継・引継ぎ支援センターの魅力と利用の手引き。相談実績や利用動向は?

公認会計士・税理士

財務や税務に関する専門的な知識を持ち、事業承継における資産評価や税務処理などのアドバイスを行います。

その他士業専門家

法律や経営に関する専門家で、事業承継の法的手続きや経営戦略の策定などをサポートします。

金融機関

事業承継に伴う資金調達や金融アドバイスを提供します。

認定支援機関やコンサルティング会社(M&Aアドバイザー含む)

事業承継の戦略策定やM&Aのアドバイスを行います。

これらの専門家や支援機関を適切に活用することで、事業承継計画の策定と実行をスムーズに進めることができます。

まとめ

事業承継は、企業の未来を託す重要なプロセスです。
適切な事業承継計画書を策定することで、スムーズな経営のバトンタッチが可能となり、企業の持続的な成長と発展をサポートします。
この記事を通じて、事業承継計画書の作成手順やひな形、記入例についての理解を深めることができたことを願っています。
もし、事業承継に関する疑問や不安があれば、専門家としてのサポートも可能ですので、お気軽にご相談ください。
企業の未来をしっかりと築くための一歩、一緒に踏み出しましょう。

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