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会社売却

会社売却の譲渡契約書はどう作る?準備・進め方・失敗しないチェックポイント

会社売却を進めていく中で、多くのオーナー社長が一度は立ち止まるのが「譲渡契約書(最終契約書)」です。

「ひな形が届いたけれど、どこを見ればいいのか分からない」
「修正してほしい点はあるけど、どう伝えればいいのか不安」
「サインしたあとに、取り返しがつかないことにならないだろうか」

こうした不安は、とても自然なものです。譲渡契約書は、単に“決まったことを文章にする書類”ではありません。サインした瞬間から、売主側の責任の範囲支払い条件引継ぎの約束、そして万が一のときのルールまでが、現実に効いてきます。

一方で、契約書は専門用語が多く、読むだけで疲れてしまうこともあります。だからこそ、最初から完璧に理解しようとして止まるよりも、「自分にとって重要なポイントを押さえて、必要なところを専門家に任せる」という進め方のほうが、結果として安全でスムーズです。

この記事では、会社売却における譲渡契約書について、作成の流れ作成前に整理しておくべきこと、そして売主が見落としやすいチェックポイントを、できるだけ分かりやすく整理します。

「何を決めておけばいいのか」「どこでつまずきやすいのか」が見えるだけでも、契約書への向き合い方は大きく変わります。サイン前の不安を減らし、納得して前に進むために、ぜひ順番に確認していきましょう。

目次

譲渡契約書とは何か(作成が必要になるタイミング)

基本合意のあと、何が「契約書」で確定していくのか

会社売却の話が進むと、途中で「基本合意(基本合意書)」という言葉が出てくることがあります。ここで一度、売却の方向性や大枠の条件が整理されます。

ただ、基本合意の段階では、まだ「最終的にこれで確定」と言い切れない項目が残っていることが多いです。そこで次に作られていくのが、譲渡契約書(最終契約書)です。

譲渡契約書で確定していくのは、たとえば次のような内容です。

  • 何を譲渡するのか(株式なのか、事業なのか/対象の範囲)
  • いくらで譲渡するのか(譲渡価格/価格調整があるか)
  • いつ、どうやって支払うのか(一括か分割か/支払いのタイミング)
  • 引継ぎはどうするのか(協力する範囲/期間)
  • もし問題が起きたらどうするのか(解除・損害賠償・違約金など)

「話がまとまってきたから、最後に契約書にサインする」くらいの感覚で進むケースもありますが、実際にはこの段階で条件の細部が初めて具体的に決まることも珍しくありません。

作成が必要になるタイミングとしては、ざっくり言えば買い手との交渉が進み、最終条件を決めにいくフェーズです。サインの直前になって慌てないためにも、譲渡契約書は「最後の紙」ではなく、条件を固めるための重要な工程として捉えるのが安全です。

「決まった話を文章にする」だけではない理由

譲渡契約書は、単なる“議事録”ではありません。大きな違いは、サインした瞬間から法的な約束として効き始める点です。

たとえば口頭のやり取りで「引継ぎはできる範囲で協力します」と話していたとしても、契約書に「売主は○年間、○○の業務に協力する」と具体的に書かれたら、そこが基準になります。言い方を変えると、譲渡契約書は“後から揉めないためのルールブック”でもあります。

また、契約書には「お金」と「責任」の話が必ず入ります。ここが一番重要です。

  • 支払いが遅れた場合、どうなるか
  • 想定外の問題が発覚した場合、誰が負担するか
  • 契約をやめる(解除する)条件は何か

これらは、普段の会話では曖昧に流されがちです。しかし契約書では、曖昧なままだと困るので、どちらかに寄った形で文章化されます。だからこそ、「決まった話を文章にするだけ」ではなく、文章にする過程で“条件の本当の形”が見えてくるのです。

このタイミングで違和感に気づけるのは、むしろ良いことです。違和感があるのにそのままサインしてしまうと、あとから「そんなつもりじゃなかった」が起きやすくなります。

売主が不利になりやすいのはどんなときか

譲渡契約書で売主が不利になりやすい場面には、いくつか典型があります。ここを知っておくだけで、読むときのアンテナが立ちます。

不利になりやすい典型パターンは、次のようなときです。

  • 「急いで終わらせたい」気持ちが強いとき
    早く決めたいほど、細かい条文を流してしまいがちです。結果的に「あとから効いてくる条件」が入りやすくなります。
  • 契約書が“相手のひな形のまま”で進むとき
    ひな形自体は悪いものではありませんが、初期状態では買い手側に都合が良い表現になっていることもあります。売主にとって必要な条件が抜けていることもあります。
  • 「当然こうなるはず」と思い込んでいるとき
    たとえば「引継ぎは数ヶ月で終わるはず」「支払いは当然一括のはず」など、“当たり前”が人によって違うことがあります。契約書は書いてあることが基準になるので、思い込みは危険です。
  • 責任の範囲を広げる条文が、さらっと入っているとき
    典型は、売主が保証する内容が広すぎるケースです。「どこまで責任を持つのか」が必要以上に広がると、売却後に想定外の負担が発生しやすくなります。
  • “もしものとき”の条件が買い手に寄っているとき
    解除できる条件、損害賠償の考え方、支払いが止まったときの対応などは、売主にとって重要です。ここが弱いと、トラブル時に立場が苦しくなります。

売主として大切なのは、「強く交渉しないといけない」という話ではありません。そうではなく、“どこが自分に影響する条文なのか”を把握したうえで、必要なところだけ丁寧に整えることです。

契約書が長く感じても、最初から全部を完璧に理解する必要はありません。まずは「何が確定する書類なのか」「文章にした瞬間に何が変わるのか」「不利になりやすい場面はどこか」を押さえるだけでも、読み方がガラッと変わります。

作成に入る前に、先に言葉にしておくべき前提

譲渡契約書は、いきなり条文から考え始めると迷子になりやすい書類です。先に、社長の頭の中にある「こうしたい」を短い言葉で整理しておくと、契約書づくりが一気にスムーズになります。

ここでは、作成に入る前に最低限そろえておきたい前提を4つに絞って整理します。どれも難しい話ではなく、「何を、どう決めておくと安心か」の話です。

譲渡の形(株式か事業か)と、契約書の中身が変わる点

まず最初に決めたいのが、譲渡の形です。大きく分けて「株式譲渡」「事業譲渡」があります。名前は似ていますが、契約書で扱う内容がかなり変わります。

  • 株式譲渡:会社そのもののオーナーが変わるイメージ(会社はそのまま残る)
  • 事業譲渡:会社の中の“事業”を切り出して渡すイメージ(何を渡すかを細かく決める)

どちらが良い・悪いという話ではありません。ただ、契約書の「作りやすさ」と「揉めやすいポイント」が違うのは事実です。

たとえば事業譲渡は「渡すもの・渡さないもの」を一つずつ決める必要があるため、契約書に入れる情報が増えやすく、確認事項も多くなります。一方で株式譲渡は枠組みが比較的シンプルに見える反面、「会社の中にあるものも基本的には引き継がれる」ため、後から問題になる論点(責任の範囲など)が契約条文に出やすくなります。

この段階で大切なのは、専門用語を理解することよりも、「今回はどっちの形で進める話なのか」を社長自身がはっきり言える状態にしておくことです。

当事者・対象・範囲(何を、どこまで渡すのか)をあいまいにしない

次に重要なのが、「誰が」「何を」「どこまで」渡すのかです。ここがあいまいだと、契約書は作れても、あとから揉めやすくなります。

たとえば、同じ“会社売却”でも、実務では次のようなズレが起きがちです。

  • 当事者のズレ:株主が複数いるのに、誰が売るのかが曖昧
  • 対象のズレ:対象は会社全体なのか、特定事業だけなのかが曖昧
  • 範囲のズレ:資産・負債・契約・人員のどこまでを含むのかが曖昧

特に「範囲」は、口頭では「それも一緒に」というノリで話が進みますが、契約書ではそうはいきません。だからこそ、作成に入る前に、社長の中でいったん次を言える状態にしておくのが安心です。

  • 売る側は誰か(株主は誰で、署名する人は誰か)
  • 売る対象は何か(会社全体/事業/子会社など)
  • 含める・含めないの線引き(不動産、借入、特定契約、在庫、知的財産など)

完璧に棚卸ししなくても大丈夫です。ただし、「ここはあいまいだから契約書で確認が必要」とあいまいな点を自覚できていることが重要です。自覚がないまま進むと、相手の認識で文章化されてしまい、後から気づいたときに直しづらくなります。

価格と支払い条件(いつ・どう払うか)を整理しておく

譲渡価格そのものも大事ですが、同じくらい大事なのが「支払い条件」です。ここがぼんやりしていると、契約書が“買い手に都合の良い形”になりやすいからです。

最低限、次の点は言葉にしておくと安心です。

  • 支払いは一括か、分割か
  • 支払いのタイミング(サイン時/クロージング時/後日など)
  • 支払い方法(振込、エスクローなど)
  • 条件付きの支払いがあるか(一定の条件を満たしたら追加で支払う等)

ここで大事なのは、難しいスキームを理解することではなく、売主としての希望を短い日本語で持っておくことです。

例えば、こんなイメージです。

  • 「できる限り一括で受け取りたい」
  • 「分割になるなら、未払いリスクを減らす条件が欲しい」
  • 「支払いが遅れたときの対応は必ず明確にしたい」

契約書は、支払いのルールが具体的であればあるほど、後からトラブルになりにくいです。逆に、「まあ大丈夫でしょう」でぼかすと、問題が起きたときに頼れるものがなくなります。

引継ぎの考え方(いつから誰が運営するか)を先に合わせる

会社売却で、意外と後から揉めやすいのが「引継ぎ」です。なぜなら、引継ぎは“気持ち”の話ではなく、実際には時間と労力の話だからです。

作成前に、次の点だけは先に合わせておくと安心です。

  • 運営の責任が切り替わるタイミング(いつから買い手が実質運営するのか)
  • 売主が協力する範囲(どこまで・どんな形で協力するのか)
  • 協力する期間(何ヶ月/何年の想定か)
  • 社長が残るのか、退くのか(残る場合の役割や条件)

ここでよくあるのが、売主側は「引継ぎは常識の範囲で」と思っているのに、買い手側は「しっかり数年は手伝ってほしい」と思っているケースです。どちらが正しいという話ではなく、前提がズレたまま契約書に入ると、あとで苦しくなるという話です。

引継ぎの論点は、条文にすると重く感じるかもしれません。でも実際は、先に言葉で決めておけば、契約書はむしろ作りやすくなります。

先に決めたいこと 言葉にする例(短くでOK)
運営の切り替え 「○月○日からは買い手が意思決定する」
引継ぎの範囲 「主要顧客の引き継ぎと社内の引継ぎに協力する」
引継ぎの期間 「原則○ヶ月、延長するなら条件を決める」
売主の関与 「退任する/顧問として月○回だけ関与する」

譲渡契約書づくりは、条文の前に“前提の言語化”で勝負が決まる場面が多いです。ここを丁寧に整えるだけで、相手から出てくる契約書を見たときに、違和感に早く気づけるようになります。

譲渡契約書づくりの進め方(実務の流れ)

譲渡契約書の作成は、「法律の話だから専門家に任せればいい」と感じやすい一方で、実際には売主の意思(何を守りたいか)がはっきりしていないと、うまく進みません。

ここでは、現場でよくある進め方をベースに、売主が迷いにくい形で整理します。ポイントは、“条文を読む”前に、“流れ”を押さえることです。

ひな形は誰が出す?売主側から出す?相手側から来る?

譲渡契約書の「最初のひな形(ドラフト)」は、次のいずれかでスタートすることが多いです。

  • 買い手側(買い手の弁護士)が出す
  • 売主側(売主の弁護士)が出す
  • FAや仲介が雛形のベースを用意し、弁護士が整える

どちらが正解というわけではありません。ただ、ひな形を誰が出しても、最終的に大切なのは「売主の前提が契約書に反映されているか」です。

よくある誤解として、「相手が出してきたひな形=相手が正しい」があります。実際には、ひな形はあくまでスタート地点で、最初は相手に都合の良い表現になっていることもあり得る、という前提で見るほうが安全です。

売主側からひな形を出すケースは、売主が守りたい条件が明確で、早い段階からそれを文章で提示したいときに向いています。一方で、買い手側から来るケースは一般的で、スピードは出やすい反面、売主は「どこを直すべきか」の目線が必要になります。

いずれにしても、最初のひな形が来たときに売主がやるべきことは、「完璧に読む」ではなく、まず“全体の骨格”が自分の認識と合っているかを確認することです。

合意内容を「条文」に落とすときの手順(漏れを作らない)

契約書づくりで一番怖いのは、重要な合意が「言った・言わない」に戻ってしまうことです。漏れを防ぐためには、条文に落とす順番をとして持っておくのが効果的です。

おすすめの手順は、次のような流れです。

  1. 前提を一枚にまとめる(当事者・対象・価格・支払い・引継ぎなど)
  2. 契約書の目次(条項の並び)で、論点が揃っているか確認する
  3. “お金・責任・もしものとき”から先に見る(重要度が高い)
  4. 最後に、細部(定義・手続き・通知方法など)を整える

ここで大切なのは、条文を一行ずつ読む前に、「必要な論点が書かれているか」を先に確認することです。書かれていなければ、どれだけ丁寧に読んでも、抜けは抜けのままになります。

また、合意内容を条文に落とすときは、言葉の強さ(義務の重さ)が変わりやすいです。たとえば、会話で「できる範囲で」と言っていた内容が、条文では「売主は〜しなければならない」となっていることがあります。こういうズレは、“悪意”というより“文章の都合”で起きがちなので、落ち着いて拾っていくのがコツです。

レビュー→修正依頼→再レビューの回し方(感情的にならないコツ)

譲渡契約書は、通常1回で完成しません。多くの場合、ドラフトを何度か往復させて整えていきます。ここで流れが止まる原因のひとつが、修正依頼の出し方です。

売主側としては、次の回し方を意識するとスムーズです。

  • 最初のレビューは「全体の方向性」重視(いきなり枝葉に入らない)
  • 修正依頼は「理由」と「代案」をセットにする
  • 優先順位をつける(絶対に譲れない/できれば直したい/確認だけ)
  • 言葉を柔らかくする(相手を責めない)

感情的にならないコツは、修正点を「人格」ではなく「リスク」として扱うことです。たとえば、次のように言い換えるだけで空気が変わります。

  • ×「この条文はおかしいです」
  • ○「この表現だと解釈が広がりそうなので、範囲を明確にしたいです」

また、修正依頼は文章で残すのが基本です。口頭だけで進めると、やり取りが増えたときに整理が崩れます。おすすめは、契約書の該当箇所を指しながら、

  • どの条文の、どの部分を
  • どう変えたいか
  • なぜ変えたいか

を短く書く形です。相手も検討しやすく、売主側も後から見返せます。

止まりやすい論点と、早めのすり合わせポイント

譲渡契約書のやり取りは、ある地点で止まりやすくなります。止まるのは珍しいことではありません。ただ、止まりやすい論点はある程度パターン化されています。早めにすり合わせておくと、後半で一気に詰まるのを防げます。

止まりやすい代表的な論点は、次の4つです。

  • 価格と支払い条件(分割・条件付き支払い・支払いの安全性)
  • 責任の範囲(売主がどこまで保証するか、期間・上限はどうするか)
  • 解除・違約金などの“もしものとき”(どちらがどんな条件で解除できるか)
  • 引継ぎ・協力の範囲(どれくらい、何を、どの形で協力するか)

ここを後回しにすると、条文の細かい修正は進んでいるのに、結局最後に重要論点で止まってしまい、時間が溶けやすくなります。

早めのすり合わせでおすすめなのは、細かい条文の議論に入る前に、上の4つについて「売主の希望ライン」を言葉にして共有しておくことです。たとえば、こんな形で十分です。

  • 「支払いはできる限り一括で。分割なら安全策を入れたい」
  • 「売却後の責任は無制限にはできないので、範囲と期間を明確にしたい」
  • 「解除条件は、こちらが不意打ちを受けない形にしておきたい」
  • 「引継ぎは協力するが、期間と内容は現実的な範囲で決めたい」

これだけでも、相手がドラフトを作るときの方向性が定まり、後で大きく揉めるリスクが下がります。

譲渡契約書づくりは、細かい条文を完璧に読む競技ではありません。売主としては、「何が重要で、どこで止まりやすいか」を知ったうえで、レビューと修正を落ち着いて回すことが、結果的に一番の近道になります。

売主が用意しておくとスムーズになる資料・情報

譲渡契約書づくりがスムーズに進むかどうかは、法律の知識よりも、実は「必要な情報が揃っているか」で決まることが多いです。

ここでいう“揃っている”は、完璧なファイル整理ができている、という意味ではありません。大切なのは、相手や専門家から質問が来たときに、「すぐ答えられる」「確認して返せる」状態になっていることです。

この章では、売主が事前に用意しておくと、契約書の作成・レビューが進みやすくなる資料と情報を整理します。

「契約書に書くための情報」と「確認のための情報」を分ける

まず最初に、資料の考え方をシンプルにします。用意すべき情報は大きく2種類あります。

  • 契約書に書くための情報(契約書の条文・別紙に入るもの)
  • 確認のための情報(内容が正しいか、リスクがないかを判断するためのもの)

ここを混ぜると、「何をどこまで出せばいいのか」が分からなくなり、手が止まりやすくなります。

たとえば、会社名・所在地・当事者は契約書に書くための情報です。一方で、重要な取引先との契約内容は、契約書にそのまま全文を書くというより、「引継ぎに問題がないか」を確認するための情報になりやすいです。

この分け方ができるだけで、相手から「資料ください」と言われたときに、“何の目的の資料なのか”を整理しながら出せるようになります。結果的に、不要な資料まで出して不安になる、ということも減ります。

よく求められる基本情報(会社・株主・許認可・契約関係・人)

譲渡契約書を作るとき、ほぼ確実に確認されやすい「基本情報」があります。先に揃えておくと、やり取りが止まりにくくなります。

以下は、よく求められる情報の代表例です。

区分 よく求められる内容 ポイント
会社 会社名、所在地、代表者、事業内容、設立日など 正式名称や表記ゆれに注意
株主 株主の構成、持株比率、売主が誰か 売る人(署名者)が明確か
許認可 許可・登録・届出の有無、名義、更新状況 引継ぎの可否が論点になりやすい
契約関係 重要取引先との契約、賃貸借、リース、借入など 名義変更・承諾が必要かの確認
従業員数、雇用形態、役員体制、キーパーソン 実態が説明できるかが重要

ここでのコツは、「全部完璧に集めてから動く」ではなく、まずは“何があるか”の一覧を作ることです。一覧があると、追加で求められたときも「確認して返します」が言えます。

逆に、何があるかも分からない状態だと、質問が来るたびに社内を探し回ることになり、契約書のやり取りがどんどん遅れます。

数字まわりで最低限そろえておきたいもの(過不足の考え方)

数字の資料は、用意しすぎても疲れますし、足りないと話が進みません。ここでの考え方はシンプルで、まずは「説明できる最低限」を揃えるのが現実的です。

最低限として求められやすいのは、次のようなものです。

  • 決算書(直近の期+可能なら数期分)
  • 試算表(直近の月次)
  • 借入の状況(どこから・いくら・返済条件はどうか)
  • 税金の未納がないか(もしあるなら状況)

ただし、ここで注意したいのは「細かく作り込みすぎない」ことです。譲渡契約書づくりの場面では、細かな分析資料よりも、まずは“事実としての数字”が説明できることが大切です。

たとえば、売主として次を言えるだけでも十分前に進みます。

  • 「直近はこういう理由で利益が増えた(または減った)」
  • 「借入はこの条件で、返済はこういう状況」
  • 「一時的な要因と、継続的な数字を分けて説明できる」

逆に、必要以上に数字を“よく見せよう”として資料を作り込むと、後で説明が苦しくなることがあります。ここは無理をせず、“ありのままを整理して説明できる形”を優先するほうが安全です。

口約束を残さないためのメモ(合意事項の記録の取り方)

契約書づくりでよく起きるのが、「確かに話したはずなのに、契約書に入っていない」という状況です。これは揉める原因になりやすいので、売主側でできる対策を持っておくと安心です。

おすすめは、交渉の途中からでもいいので、“合意事項メモ”を作っておくことです。難しい形式は不要で、次の3点が揃っていれば十分です。

  • 何を合意したか
  • いつ(どの打合せで)合意したか
  • 合意の条件(例:この条件ならOK、など)

具体的には、次のような粒度で大丈夫です。

  • 「支払いは原則一括。分割の場合は安全策を入れる前提」
  • 「引継ぎ期間は○ヶ月を想定。延長するなら条件を再協議」
  • 「この取引先契約は名義変更が必要。相手の承諾を取る」

このメモがあると、契約書のドラフトを見たときに、「入っていない」「表現が違う」を早く見つけられます。修正依頼も、感情ではなく“合意とのズレ”として伝えられるので、話が拗れにくくなります。

売主が用意すべき資料や情報は、全部を整えてから動くためのものではありません。やり取りの中で発生する質問に対して、「すぐ答えられる」「確認して返せる」状態を作るためのものです。その状態ができるだけで、契約書づくりは驚くほど前に進みやすくなります。

作成時に必ずチェックしたいポイント(売主目線)

譲渡契約書を読むとき、全部を完璧に理解しようとすると疲れてしまいます。売主として大切なのは、まず「あとから効いてくる条文」を優先して押さえることです。

ここでは、売主目線で必ずチェックしたいポイントを整理します。難しい法律の言葉を覚える必要はありません。読むときに「この方向に寄りすぎていないか?」という目線を持てれば十分です。

責任の範囲が広がりすぎていないか(「全部売主の責任」にしない)

譲渡契約書で、売主が一番注意したいのは責任の範囲です。気づかないうちに、売主が「何かあったら全部責任を負う」形になっていることがあります。

典型的なのは、次のような状態です。

  • 売主が保証する内容が多すぎる(現実に確認しきれない範囲まで含む)
  • 売主の責任期間が長すぎる(いつまで責任が残るのかが不安定)
  • 損害賠償の上限がない(金額が青天井になっている)

ここでのポイントは、売主が「責任ゼロにしたい」という話ではありません。売主が負うべき範囲は当然あります。ただ、契約書の表現によっては、売主が把握しきれないことまで一方的に背負う形になりやすいのが怖いところです。

チェックするときは、次の問いを自分に投げると分かりやすいです。

  • この内容は、社長として確認できる範囲だろうか?
  • 問題が起きたとき、売主の責任が無制限になっていないか?
  • 責任が残る期間は、現実的な長さだろうか?

もし不安がある場合は、「全部ダメ」ではなく、範囲・期間・上限の3点を整える方向で考えると、話が前に進みやすいです。

支払い・解除・違約金など「もしものとき」の条件が現実的か

契約書を読むときは、つい「うまくいく前提」で読みがちです。ですが、契約書が本当に役に立つのは、実はうまくいかなかったときです。

特に売主としては、次の点をしっかり見ておく必要があります。

  • 支払いが遅れた・止まったとき、どうなるか
  • どんな場合に解除できるのか(買い手だけが強くないか)
  • 違約金や損害賠償が、現実離れしていないか

ここでありがちなのは、「解除できる条件」が買い手側に有利すぎることです。たとえば、買い手は少しの理由で解除できるのに、売主側は支払いが止まっても解除しにくい、という形だと、売主はとても苦しくなります。

また、違約金がある場合は、金額だけでなく、どんな場面で発生するのかも重要です。「知らないうちに違約になる」条件が入っていると、売主は常にビクビクしながら進めることになります。

チェックのコツは、次のように最悪のケースを1つだけ想像して読むことです。

  • 「支払いが予定日に入らない」
  • 「引継ぎが思ったより難航する」
  • 「相手と揉めて連絡が途切れる」

このとき、売主が動ける選択肢が契約書にあるかを見てください。なければ、そこが弱点になりやすいです。

引継ぎ・協力義務が重すぎないか(やれること/やれないこと)

引継ぎや協力の条文は、買い手としては安心材料になるので、つい厚く書きたくなります。ですが、売主としては「やれること/やれないこと」を線引きしないと、あとで苦しくなります。

注意したいのは、次のようなケースです。

  • 協力期間が長すぎる(年単位で縛られる)
  • 協力内容が広すぎる(何でも対応するように読める)
  • 協力の条件が曖昧(時間・頻度・範囲が決まっていない)

「協力します」という姿勢は大事ですが、協力は無限ではありません。売主にも生活があり、次の仕事や引退の予定があるはずです。だからこそ、条文としては現実的にできる形に落とすのが大切です。

確認するときは、次の観点で見ると分かりやすいです。

  • いつまで、どのくらいの頻度で協力するのか
  • 協力の範囲は「具体的に何か」
  • できない事態が起きたときの扱いはどうなるか

「誠実に協力する」と「無制限に対応する」は別物です。契約書上は、後者にならないように注意したいところです。

競業・勧誘など、後から生活に効いてくる制限が適切か

譲渡契約書の中で、サインしたあとにじわじわ効いてくるのが、競業(同じ業界での活動の制限)勧誘(顧客・社員への接触の制限)です。

これは、買い手側にとっては「買った事業を守る」意味があるため、条文として入ること自体は珍しくありません。ただ、売主としては、ここが強すぎると売却後の働き方や生活に直接影響します。

チェックするときは、次の点を見てください。

  • 期間:何年間制限されるのか
  • 地域:どのエリアで制限されるのか
  • 範囲:どんな業務・どんな相手が対象なのか

たとえば、期間が長すぎたり、地域が広すぎたり、対象が曖昧で「何でもダメ」に読めたりすると、売主にとっては負担が大きくなります。

ここは感覚で「嫌だ」と言うより、「この範囲だと現実的に生活に支障が出る」という形で話すほうが、すり合わせがしやすくなります。

付け足されやすい条文(さらっと入るので要注意)

譲渡契約書には、最初のドラフトにはなかった条文が、やり取りの途中で「さらっと」足されることがあります。悪意があるというより、弁護士や相手の社内事情で追加されることもあります。

だからこそ、売主としては“増えた条文”に敏感でいるのが大事です。

付け足されやすく、売主に影響が出やすいのは、たとえば次のような条文です。

  • 秘密保持(いつまで、何が対象か)
  • 表現が広い免責・責任(売主の責任が増える形)
  • 協力義務の追加(“合理的な範囲”が実質無限になる)
  • 誓約事項の追加(行動制限が増える)
  • 通知方法・期限(短すぎる期限がさらっと入る)

チェックのコツは、条文単体を読むよりも、まず「前回から何が変わったか」を確認することです。差分を見ずに最新版だけ読むと、追加条文を見落としやすくなります。

もし見慣れない条文が増えていたら、まずは「これは何のための条文ですか?」と確認し、必要なら売主にとっての影響を言葉にして検討するのが安全です。

専門家に頼むなら、どこを任せると安心か

譲渡契約書は、全部を社長ひとりで抱えるほど、しんどくなりやすい領域です。とはいえ「専門家に全部任せれば安心」とも限りません。なぜなら、専門家は“代わりに決めてくれる人”ではなく、基本的には社長の意思決定を支える人だからです。

ここでは、専門家に頼むときにどこを任せると安心か、そして頼み方のコツを整理します。

法務(契約書)・税務(税金)・実務(引継ぎ)の役割分担

譲渡契約書まわりの相談は、一人の専門家ですべてが完結するとは限りません。扱うテーマが大きく3つに分かれるからです。

  • 法務(契約書):条文の意味、リスク、修正案、署名手続きなど
  • 税務(税金):売却による税金、手取り、税務上の注意点など
  • 実務(引継ぎ):引継ぎの進め方、社内外の段取り、現場で無理がないか

どれも大事ですが、役割を混ぜると混乱します。たとえば、弁護士に「税金的に得ですか?」を聞いても、十分な答えが出ないことがあります。逆に、税理士に「この条文の責任範囲は妥当ですか?」を聞いても、判断が難しいことがあります。

売主としては、次のように分けて考えるとスムーズです。

論点 主に任せたい相手 売主が伝えるべきこと
契約書の条文・責任・解除・違約金 弁護士 守りたい条件、許容できないリスク
税金・手取り・税務上の注意点 税理士 売却スケジュール、資産状況、今後の予定
引継ぎ・体制・現場の段取り FA/社内キーパーソン 誰が何をできるか、現実的な負荷

もちろん、実際の体制はケースによって違います。ただ、「何を誰に聞くべきか」を整理しておくと、相談が早くなり、契約書の往復も止まりにくくなります。

「全部お任せ」より安全な頼み方(目的と優先順位を渡す)

専門家に依頼するとき、つい「全部お任せで」と言いたくなると思います。気持ちはよく分かります。ただ、譲渡契約書では“全部お任せ”が危険になる場面もあります。

理由はシンプルで、専門家は社長の人生設計まで把握しているわけではないからです。契約書として整っていても、社長にとって「それは困る」という条件が入り込むことがあります。

だからこそ、安全な頼み方は、次の3点を先に渡すことです。

  • 目的:今回の売却で何を実現したいか(例:早期に譲渡したい/手取りを守りたい/引継ぎ負担を減らしたい)
  • 優先順位:譲れない条件/できれば守りたい条件/妥協できる条件
  • 前提:売主の事情(例:いつまで関与できるか、次の予定、体力的な限界)

この3点があると、専門家は「何を守るために、どこを戦うべきか」を判断しやすくなります。逆に、何も渡さないと、専門家は一般的な安全策を厚くしがちで、結果として交渉が長引いたり、売主の負担が増えることがあります。

おすすめは、長い説明ではなく、次のような短いメモで渡すことです。

  • 譲れない:支払いは原則一括/責任は無制限にしない/引継ぎは○ヶ月まで
  • できれば:競業制限は期間短め/顧客への連絡方法は売主主導
  • 妥協可:表現の細部は相手に合わせてもよい

このメモがあるだけで、レビューの質が上がり、「ここは売主にとって危険」「ここは受けても問題ない」が整理されやすくなります。

売主が自分で判断しないほうがいいサイン(早めに相談する基準)

譲渡契約書には、「ここは社長が自力で頑張るより、早めに専門家に投げたほうが安全」というポイントがあります。判断を間違えると、サイン後に取り返しがつかないこともあるため、“相談の合図”を知っておくと安心です。

たとえば、次のようなサインが出たら、早めに専門家のチェックを入れる価値があります。

  • 条文の意味が複数に読める(解釈で結論が変わりそう)
  • 売主の責任が広がっている気がする(期間・上限・範囲が曖昧、または重い)
  • 支払いに不安が残る(分割、条件付き、支払いが遅れたときの手当が薄い)
  • 解除・違約金が強い(少しのことで解除されそう、違約金の発生条件が広い)
  • 引継ぎが“無限”に見える(協力義務が広く、期間も長い)
  • 競業・勧誘の制限が生活に影響しそう(期間・地域・範囲が過大)
  • 相手が急かしてくる(「今日中に」「今週中に」など、検討時間が極端に短い)

ここで大切なのは、「不安だから全部止める」ではありません。不安な点があるなら、まずどの条文の、何が不安かを特定して、専門家に短く共有するのが一番効率的です。

また、相談は“揉めてから”ではなく、“揉めそうな匂いがした時点”が効果的です。譲渡契約書は、サインが近づくほど修正がしにくくなるため、早いほど選択肢が多くなります。

専門家をうまく使うポイントは、丸投げではなく、売主として「守りたいもの」を言葉にして渡し、判断が難しいところを任せることです。そうすると、契約書づくりは「読めない不安」から「整理して前に進める作業」に変わっていきます。

サイン直前・直後にやること(手続きで損しないために)

譲渡契約書は、内容の確認だけでなく「手続き」がとても大切です。どれだけ良い条件でまとまっていても、サイン前後の段取りが雑だと、あとから「あれ?これってどれが正しい版?」「誰がサインした契約なの?」といった不安が残ります。

ここでは、サイン直前・直後に売主側で押さえておきたいポイントを、できるだけ分かりやすく整理します。

最終版の確認ポイント(版管理・差分・添付資料)

サイン直前に一番多いトラブルは、「最後に届いたファイルが、こちらが合意した内容とズレていた」というものです。悪意があるというより、差し替えや修正の履歴が多いと、単純に混線しやすいのが原因です。

まずやるべきは、“最終版”を一つに確定させることです。確認ポイントは次の通りです。

  • ファイル名・日付・バージョン(例:v○、YYYYMMDD など)が一致しているか
  • 修正履歴(差分)が反映されているか(直したはずの箇所が戻っていないか)
  • 本文だけでなく別紙・添付資料も含めて最終になっているか

特に見落としやすいのが、別紙や添付資料です。譲渡契約書は、本文で「別紙の通り」と書かれていることが多く、別紙の中身が実質的に“契約の本体”になっていることもあります。

確認のコツは、全文をもう一度読むことより、まず差分を見ることです。直近で修正が入った箇所を中心に、次のようにチェックします。

  • 直したいと言っていた条文が、期待した表現になっているか
  • 追加された条文がないか(増えていたら要注意
  • 数字・日付・名前などの「機械的なミス」がないか

「最後は時間がなくて流し読み」になりがちですが、ここだけは踏ん張りどころです。差分の確認は、売主の安心に直結します。

署名・押印・電子署名の注意点(誰が権限者かの確認)

内容がまとまっていても、署名する人や押印の扱いを間違えると、後からやり直しになったり、相手から「この契約は有効ですか?」と疑問を持たれる原因になります。

ここで大切なのは、まず「誰が権限者か」を明確にすることです。売主側で確認したいポイントは次の通りです。

  • 売主は誰か(株主なのか、会社なのか)
  • 署名する人は誰か(代表者なのか、株主本人なのか)
  • 複数人の署名が必要か(株主が複数いる、共同保有など)

押印については、紙の契約書の場合、実務上は会社の実印や代表印が使われることが多い一方で、どの印鑑を使うべきかはケースで変わります。ここは「一般論で断定」すると危険なので、迷う場合は早めに確認するのが安全です。

電子署名の場合も、便利な反面、注意点があります。特に次の点は見ておくと安心です。

  • 署名の方法が合意されているか(電子でOKか、紙が必要か)
  • 署名者が正しいか(権限のある人のアカウントで署名しているか)
  • 最終版のファイルに署名しているか(一つ前の版に署名してしまう事故がある)

サインの段階は、心理的にも「早く終わらせたい」モードになりがちです。だからこそ、ここでは“作業を急がない”ことが一番のリスク管理になります。

原本保管と共有範囲(社内での扱い方も含めて)

サインが終わったあと、意外と大事なのが「契約書をどう扱うか」です。契約書はサインしたら終わりではなく、あとから参照する場面が必ず出ます。

まず、紙の場合は原本の保管を明確にします。

  • 原本が何通あるか(どちらが何通持つか)
  • どこに保管するか(社内で紛失しない場所)
  • 誰が取り出せるか(必要なときに探せる状態にする)

電子署名の場合も、同じ考え方が必要です。ファイルがメールやチャットに散らばると、後から見つけられずに困ります。少なくとも、次はセットで残しておくのがおすすめです。

  • 署名済みの最終版PDF
  • 別紙・添付資料一式
  • 署名の完了が分かる通知や記録(後で確認できるように)

そして、もう一つ大切なのが社内での共有範囲です。譲渡契約書には、価格や責任範囲など、センシティブな情報が多く含まれます。関係者に共有する必要はありますが、「誰でも見られる状態」にすると、思わぬ混乱が起きます。

おすすめは、次のように分けることです。

  • 全文を共有する人:意思決定や実務対応に必要な最低限のメンバー
  • 必要箇所だけ共有する人:引継ぎで関係する範囲の担当者
  • 共有しない:関係が薄く、情報の漏れや混乱のリスクが高い層

社内での扱いが整理できていると、サイン後に「そんな話聞いてない」「どれが正しいの?」といった混乱が起きにくくなります。契約書は、内容だけでなく、手続きと管理まで含めて初めて“安心”につながります。

よくある質問(作成フェーズで不安になりやすい点)

譲渡契約書の作成フェーズは、内容そのものよりも「進め方」や「コミュニケーション」で不安が出やすい場面です。ここでは、売主の方からよく出る質問を、できるだけ分かりやすく整理します。

相手のひな形のまま進めても大丈夫?

結論から言うと、相手のひな形からスタートすること自体は珍しくありません。むしろ実務では、買い手側(または買い手側の弁護士)からドラフトが出てくるケースも多いです。

ただし、「ひな形のままサインしてOK」とは別の話です。ひな形はあくまで出発点であり、最初の状態では次のようになりやすいからです。

  • 買い手側の安心が厚め(売主の責任が広く書かれている、解除条件が強い、など)
  • 売主に必要な条件が薄い/抜けている(支払いが遅れた時の手当、引継ぎの線引き、など)
  • “一般的な文言”が、あなたの会社には合っていない

大事なのは、ひな形の出どころではなく、最終的に売主の前提が反映されているかです。ひな形が相手側のものでも、修正の往復で整えれば問題ありません。

チェックのコツは、「このひな形はダメ」と構えるのではなく、まず“自分に影響が大きいところ”だけを先に見ることです。具体的には、

  • 支払い
  • 責任の範囲
  • 解除・違約金
  • 引継ぎ・協力
  • 競業・勧誘の制限

このあたりが売主に不利な形のままだと、ひな形のまま進めるのは危険です。逆に、この部分が整っていれば、細かい表現は後で整えられます。

まだ決まっていない項目があるのに、契約書を作り始めていい?

これもよくある不安です。結論としては、決まっていない項目があっても、作り始めること自体は可能です。実務では、契約書のドラフトを作りながら詰めていくことは珍しくありません。

ただし、ここには1つだけ大事な条件があります。それは、「決まっていない項目が、何かを双方が認識している」ことです。

危ないのは、「決まっていないのに、契約書では決まったように書かれてしまう」ことです。こうなると、後で直すのが大変になります。

作り始める場合は、売主側として次のスタンスを持っておくと安全です。

  • 決まっていない項目は、“未確定”として明示する
  • 未確定の部分は、仮置きの案として扱う(確定ではない)
  • どこまで決まればサインに進むか、判断ラインを持っておく

「まだ決まっていない」こと自体が問題なのではなく、未確定のまま既成事実化されるのが問題です。ドラフトは、議論の土台として使う。こう捉えると、少し気持ちが楽になります。

修正をお願いするとき、角が立たない伝え方はある?

あります。修正依頼で角が立つのは、相手を責める言い方になったときです。逆に、相手も納得しやすいのは「リスク」や「認識のズレ」を理由にする伝え方です。

ポイントは、次の3点をセットにすることです。

  • どの条文の、どの部分か
  • なぜ気になるか(解釈が広がりそう、現実に難しい、など)
  • どうしたいか(代案・落としどころ)

たとえば、言い方はこんな形がスムーズです。

  • 「この表現だと範囲が広く読めそうなので、対象を明確にしたいです」
  • 「こちら側の実務だとこの期間は難しいので、期間の考え方を調整したいです」
  • 「支払いが遅れた場合の扱いが不明確なので、ルールを入れておきたいです」

逆に避けたいのは、次のような言い方です。

  • 「この条文はおかしい」
  • 「あり得ない」
  • 「そちらが悪い」

気持ちは分かりますが、こう言うと相手は身構えます。修正は勝ち負けではなく、最終的に揉めないための整備です。伝え方が柔らかいほど、結果として早く進むことが多いです。

契約書が長すぎて読めない…最低限どこを見ればいい?

これは本当に多い悩みです。契約書が長いのは、売主を困らせるためではなく、後から揉めないために細かく書くからです。でも、全部を一字一句読むのは大変です。

最低限で見るなら、売主としては「あとからお金と責任に効くところ」を優先して見てください。おすすめの順番は次の通りです。

優先度 最低限チェックしたいところ 見るポイント
支払い条件 いつ・いくら・どう払う/遅れたらどうなる
解除・違約金・損害賠償 どんな時に解除できる/ペナルティが現実的か
売主の責任(保証・責任範囲) 範囲・期間・上限があるか/広すぎないか
引継ぎ・協力義務 期間・頻度・内容が現実的か
競業・勧誘などの制限 期間・地域・範囲が生活に影響しないか
別紙・添付資料 本文より重要な内容が入っていないか

この順番で見るだけでも、「ここは要相談」「ここは大丈夫そう」が切り分けやすくなります。全部読めなくても、重要箇所を押さえるだけで、契約書への不安はかなり減ります。

そしてもう一つ、現実的なコツがあります。それは、最初から読破を目指さず、“疑問が出た箇所に印をつける”ことです。印がついた箇所だけを後で専門家に聞けば、時間も労力も節約できます。

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