会社売却を考え始めたとき、いちばん最初に不安になるのが「うちの会社はいくらが適正なのか」という点ではないでしょうか。
ネットで相場を調べても、出てくるのは「年商◯倍」「利益◯年分」などの話が多く、自社に当てはめると急に分からなくなる…という方は少なくありません。さらに、仲介会社や買い手から金額を提示されたときに、高いのか安いのか判断できず、不安だけが大きくなることもあります。
ここで大切なのは、適正価格は“1つの正解の数字”ではないという前提です。会社売却の価格は、会社の実力だけで決まるものではなく、市場の見え方や買い手の事情、そして契約条件によっても変わります。だからこそ、「当てっこ」をするよりも、自分が納得して判断できる基準(レンジ)を持つことが重要になります。
この記事では、会社売却の「適正価格」を、できるだけ難しい言葉を使わずに整理します。適正価格を決める材料、レンジの作り方、提示額が妥当かを見るチェックポイントまで、売主側が迷いにくくなる考え方をまとめました。読み終わるころには、提示された金額を前にしても、感情だけで揺れずに整理できる状態を目指します。
会社売却の「適正価格」とは何か
「正しい1つの値段」ではなく「納得できるレンジ」
会社売却の価格について調べると、「適正価格は◯円」と1つの数字を知りたくなりますよね。ですが実際には、会社売却の価格は“一点”ではなく“幅(レンジ)”で考えるものです。
理由はシンプルで、会社の価値は「テストの答え」のように誰が見ても同じにはなりにくいからです。たとえば、同じ会社でも、買い手が違えば評価の仕方が変わります。数字だけでは測れない要素(強み・リスク・将来性)も含めて判断されるため、価格には自然と幅が生まれます。
ここで大事なのは、レンジで考えることは「曖昧にする」という意味ではないという点です。むしろ、レンジで持っておくことで、提示された金額に対して落ち着いて判断できるようになります。
- この価格なら納得できる(受けてもいいライン)
- この価格を下回るなら理由を確認したい(見直しが必要なライン)
- この価格を目指せるなら条件も含めて狙いたい(上振れライン)
こうした“幅”がある状態は、交渉のためというより、何より売主の不安を減らすために役立ちます。
売主・買主・第三者で“適正”の見え方は変わる
「適正価格」の難しさは、立場によって見え方が違うところにあります。どれかが間違っているというより、見ている目的が違うため、自然と判断が変わります。
- 売主:これまでの努力や思い、将来の生活設計も含めて「納得できるか」を重視しやすい
- 買主:買った後に回収できるか、失敗したときの痛手はどれくらいか、という「採算」と「リスク」を重視しやすい
- 第三者(専門家・金融機関など):説明できる根拠があるか、前提は現実的か、といった「妥当性」や「説明のしやすさ」を重視しやすい
たとえば買主は、未来の利益が読みにくいと感じれば価格を抑えたくなります。一方で、買主にとって「すぐに伸ばせる見込み」や「買う理由」がはっきりしている場合は、同じ会社でも高く評価されることがあります。
つまり、適正価格は誰の視点で“適正”なのかを切り分けないと、話がかみ合いません。売主としては、まず「自分にとっての適正(納得できるレンジ)」を言葉にしつつ、相手がどう見ているかを根拠ベースで確認することが現実的です。
価格だけでなく「条件」もセットで考えるのが現実的
会社売却では、数字としての価格(いくら)だけを見てしまいがちですが、実務では条件しだいで“実質の価値”が大きく変わります。同じ1億円でも、「いつ・どうやって・何を前提に」支払われるのかで、安心感も手取り感も変わってしまうからです。
たとえば、次のような条件は価格とセットで見ておく必要があります。
| 見るべき条件 | なぜ重要か | 気をつけたいポイント |
|---|---|---|
| 支払い方法(現金一括/分割など) | 同じ金額でも、確実性と安心感が変わるため | 分割の場合は支払いの条件や遅延時の取り決めを確認 |
| 引き継ぎ後の関与(どれくらい手伝うか) | 売却後の負担が増えると、実質的な価値が下がるため | 期間・役割・報酬の有無を具体的にすり合わせる |
| 従業員・取引先の扱い | 社長として守りたいものが価格以上に大切な場合があるため | 言いにくくても最初に希望を言葉にする |
| 前提条件(達成できたら追加、など) | 条件達成が難しいと、想定より受け取れない可能性があるため | 「何を達成とみなすか」を曖昧にしない |
ここでお伝えしたいのは、「条件があるのは悪いこと」という話ではありません。現実の取引では、買主もリスクを取りながら判断しているため、条件が付くこと自体は珍しくありません。
ただ、売主としては、価格だけを見て「高い/安い」と判断すると、あとから想定外の負担が出て苦しくなることがあります。だからこそ、最初から価格と条件をセットで並べて考えるのが、いちばん現実的で、結果的に安心につながります。
適正価格を決める材料は大きく3つ
会社売却の価格は、気分や交渉力だけで決まるものではありません。とはいえ、計算式ひとつで自動的に出るものでもありません。
現実的には、価格は「土台(会社の実力)」があり、そこに「外の基準(市場の目線)」が重なり、最後に「買い手の事情」で上下します。ここを押さえると、提示された金額を見たときに「なぜこの価格なのか」を落ち着いて分解できるようになります。
会社の実力(利益・資産・成長性)が土台になる
まず土台になるのは、やはり会社そのものの実力です。買主から見ると、「買ったあとにどれくらい安定して利益が出るか」「何か問題があって損をしないか」が最重要なので、ここが弱いと高い価格はつきにくくなります。
実力といっても、特別な数字を用意する必要はありません。一般的に見られやすいのは、次のような要素です。
- 利益の出方:利益が出ているか/波が大きすぎないか/一時的ではないか
- 資産・負債:現金や在庫、設備などの状態/借入の規模や内容
- 成長性:伸びる理由が説明できるか/売上が特定の取引先に偏りすぎていないか
- 再現性:社長が抜けても回る仕組みがあるか/属人化が強すぎないか
ここで大事なのは、「数字をよく見せる」ことではなく、説明できる状態にしておくことです。買主は完璧を求めているというより、「この利益はどうやって生まれているのか」「続く可能性はどれくらいか」を納得したいだけ、という場面が多いからです。
つまり、土台の強さは“利益の大きさ”だけではなく、“利益の理由が分かりやすいか”で決まることもあります。
市場の目線(似た会社の取引感覚)が外の基準になる
次に入るのが市場の目線です。これは「世間の相場感」のようなもので、同じ業界・同じ規模感の会社が、だいたいどんなレンジで取引されやすいか、という外部の基準です。
ただし、市場の目線は“テンプレの倍率”を当てはめれば終わりという話ではありません。似た会社でも、
- 利益の安定度
- 顧客の偏り
- 人材の定着度
- 契約・取引の継続性
こうした違いで評価は簡単に変わります。だから市場の目線は、価格を決めるための正解というより、「外れすぎていないか」をチェックする物差しとして使うと、現実に合いやすいです。
たとえば、会社の実力から考えて「かなり強いはず」と思っていても、市場の感覚がそこまで高くない業界であれば、上振れには理由が必要になります。逆に、市場として買いが強いタイミングなら、同じ実力でも評価が上がることもあります。
買い手の事情(目的・シナジー・リスク)が上下を決める
最後に価格を動かすのが買い手の事情です。ここが、価格が“一点”にならない最大の理由です。
買い手は「良い会社だから買う」だけでなく、たとえば次のような目的で買います。
- 時間を買う:ゼロから立ち上げるより早く事業を伸ばしたい
- 顧客や販路を広げたい:すでにある取引関係を活かしたい
- 人材を確保したい:チームやノウハウをまとめて得たい
- 地域や業界に入りたい:入口を一気に手に入れたい
この目的に、売却する会社がぴったりハマると、価格は上がりやすくなります。いわゆる「相性が良い」状態です。逆に、買い手にとっては魅力があるものの、リスクが大きいと感じれば、価格は下がるか、条件が厳しくなります。
買い手がリスクとして見やすいのは、たとえばこういう点です。
- 利益が社長の個人スキルに依存している
- 特定の取引先に売上が偏っている
- 人が辞めると回らない体制になっている
- 将来の課題が見えているのに、対策が不明
ここも「欠点を隠す」より、どういうリスクがあり、どう扱うかを整理するほうが、結果的に価格のブレを小さくできます。買い手はリスクがゼロの会社を探しているのではなく、リスクが見えていて、納得して判断できる状態を求めています。
この3つを分けて考えられるようになると、「会社の実力はこう」「市場感はこのあたり」「買い手の事情で上下しそう」という整理ができ、提示額を見たときに必要以上に振り回されにくくなります。
「レンジ」で持つための考え方(下限・中央・上限の作り方)
会社売却の価格で迷いが強くなる原因のひとつが、「いくらが正解なのか」を一点で決めようとすることです。ですが実際には、提示される金額も、交渉の進み方も、買い手の感じ方も変わります。
だからこそおすすめしたいのが、最初から価格を「レンジ(幅)」で持つ考え方です。レンジといっても、ただ「だいたいこの辺」でぼかすのではありません。下限・中央・上限を分けておくと、話が一気に整理しやすくなります。
イメージとしては、次の3本線を自分の中に引く感じです。
| 線の名前 | 意味 | この線があると何が楽になる? |
|---|---|---|
| 下限 | ここを割ると苦しくなる「守りたいライン」 | 値下げ圧力が来ても崩さない軸ができる |
| 中央 | 説明しやすく、合意しやすい「現実の着地点」 | 交渉の中心ができて迷いが減る |
| 上限 | 上振れの理由があるときだけ狙える「主張ライン」 | 高めの提案を根拠つきで出せる |
それぞれの線は、「強気」「弱気」の気分で決めるものではなく、理由があるかどうかで決めていきます。
下限:ここを割ると苦しくなる“守りたいライン”
下限は、言い換えると「これ以上は下げたくない」というラインです。ここを持っていないと、交渉中に不安になって、相手のペースでズルズル下げてしまいやすくなります。
下限は、次のような観点で考えると現実に合いやすいです。
- 売却後に残したい手元資金(次の生活・投資・家族の計画)
- 返済や整理に必要なお金(借入、退職金、清算したいもの)
- 価格以外の負担を引いた“実質”(引き継ぎ稼働が重い、分割払いなど)
ポイントは、下限は「希望」ではなく、ここを割ると自分が苦しくなる境界線として置くことです。感情的に「これくらい欲しい」ではなく、理由が説明できる下限にしておくと、ブレにくくなります。
中央:説明しやすく、合意しやすい“現実の着地点”
中央は、交渉の中で最も使うラインになります。買い手の提案を見たときに、まず照らし合わせるのも中央ですし、こちらから「このあたりが妥当だと思います」と話すときの中心にもなります。
中央の作り方はシンプルで、「会社の実力」と「市場の目線」を踏まえて、説明できる価格にすることです。つまり、
- なぜこの価格なのか
- どんな前提で見ているのか
- 買い手が気にしそうな点にどう答えるか
この3つが自然に話せる水準が、中央になりやすいです。
ここで大事なのは、中央は「最大化」ではなく、合意の確率が上がる“現実の着地点”だということです。中央があると、交渉が揺れても「戻る場所」があるので、話が崩れにくくなります。
上限:上振れの理由があるときだけ狙える“主張ライン”
上限は、ただ強気に「高く売りたい」と言うためのラインではありません。上限は“上振れの理由”があるときだけ狙えるラインです。
たとえば、買い手にとって次のような要素があると、上限を主張しやすくなります。
- 買い手の目的にハマっている(すぐに伸ばせる販路、欲しい顧客層など)
- 伸びる根拠が説明できる(再現性のある成長、継続性の高い契約など)
- リスクが小さい/見えている(引き継ぎ後に崩れにくい体制)
逆に言うと、上限を置くなら、「なぜ上振れするのか」をセットで用意する必要があります。理由が弱いまま上限だけを主張すると、買い手の不信感を招いたり、交渉全体がこじれたりしやすいからです。
上限を使う場面は、「最初からそこを押し通す」ではなく、買い手の反応や条件を見ながら、根拠と一緒に提示するのが現実的です。上限は“夢の数字”ではなく、理由があるときの選択肢として置いておくと、交渉で役に立ちます。
適正価格を見誤りやすいパターン(よくある落とし穴)
会社売却の価格で「こんなはずじゃなかった…」が起きるとき、たいていは計算が間違っているというより、見ている前提がズレていることが原因です。
ここでは、売主側がつまずきやすい代表的な落とし穴を整理します。あらかじめ知っておくだけで、提示額を見たときのショックや迷いが減り、冷静に「どこを直せばいいか」が見えやすくなります。
売上や従業員数だけで決め打ちしてしまう
「年商がこれくらいだから、このくらいで売れるはず」
「社員が多いから高いはず」
こう考えたくなる気持ちは自然です。ですが、売上や従業員数は会社の規模感を表す指標であって、価格を決める主役ではありません。
買い手が見ているのは、ざっくり言えば“その売上がどれだけ利益につながっているか”と、“その状態が続くのか”です。売上が大きくても利益が薄ければ、買い手からは「回収が難しい」と見られます。社員数が多い場合も、体制が強いと見られることもあれば、固定費が重いと見られることもあります。
数字が大きいこと自体が悪いわけではありません。ただ、売上や人数は価格の根拠の“入口”にはなっても、それだけで結論を出すとズレやすい、という点を押さえておくと安心です。
過去の最高益だけを前提にしてしまう
「一番良かった年」を基準にしたくなるのも、よくあるパターンです。自分にとっては確かに実績ですし、頑張って作った数字なので、正当に評価してほしいと思うのは当然です。
ただ、買い手は“これから”の回収を考えます。過去の最高益が、
- 一時的な特需だった
- 大型案件がたまたま重なった
- 社長の無理な稼働で作った
こういう要因で生まれていると、買い手は「再現性が低い」と判断し、価格を強くは乗せにくくなります。
ここで大事なのは、最高益を否定することではなく、最高益を使うなら「なぜ出たのか」「今後も出せるのか」をセットで説明できるようにすることです。説明ができれば、最高益も評価材料になり得ますが、説明がないと「たまたま」と扱われやすい、というイメージです。
節税・役員報酬・私的支出が混ざったまま比べてしまう
中小企業では特に、会社の数字に社長の判断(節税や報酬設計)が強く反映されていることが多いです。これは悪いことではなく、現実として自然なことです。
ただ、この状態のまま他社の相場と比べたり、買い手の評価と突き合わせたりすると、ズレやすくなります。たとえば、会社に次のようなものが混ざっていると、利益の見え方が変わります。
- 役員報酬の調整(利益を残さない設計になっている)
- 節税のための支出(必要以上の保険、タイミングの調整など)
- 私的支出の混在(車、交際費、家賃、出張などが実態より多め)
買い手が気にするのは、「この利益は実力としてどうなのか」「実態としてはどれくらい出せるのか」という点です。だから、混ざっていること自体よりも、混ざっているなら“どこが何なのか”を分けて説明できるかが重要になります。
難しく考えなくて大丈夫です。最低限、「会社としての利益」と「社長の判断で動かした部分」を分けて語れるだけでも、価格の納得感は上がりやすくなります。
借入や個人保証など“引き継ぎの負担”を見落とす
価格を考えるとき、意外と見落とされがちなのが引き継ぎの負担です。ここでいう負担は、会社の借入だけではありません。中小企業では特に、
- 借入の残高や条件
- 個人保証
- 担保
- 実務上の引き継ぎ負担(社長に依存している業務など)
こうしたものが「買った後にどうなるか」は、買い手の安心感に直結します。買い手が「負担が大きい」と感じれば、価格は下がるか、条件が厳しくなりやすいです。
ここも大切なのは、「借入がある=売れない」という話ではありません。借入があっても売れるケースは普通にあります。ただ、買い手が知りたいのは、借入があることよりも、“その負担をどう引き継ぐのか”が整理されているかどうかです。
たとえば、個人保証が残る形だと売主が不安になりますし、買い手も慎重になります。反対に、整理の方向性(どう扱う想定か)が見えるだけでも、話は進めやすくなります。
提示された金額が「適正か」を見分けるチェックポイント
買い手や仲介会社から金額を提示されたとき、一番つらいのは「高いのか安いのか分からない」状態だと思います。
このときにおすすめなのは、いきなり「受ける/断る」を決めるのではなく、提示額を4つの視点で分解することです。分解できると、感情が落ち着き、「どこを確認すればいいか」「何を交渉すればいいか」が見えてきます。
根拠が説明されているか(前提が見えるか)
まず確認したいのは、金額そのものよりも「なぜその金額なのか」です。適正かどうかは、根拠が見えないと判断できません。
根拠の説明で特に見たいのは、次のような前提です。
- どの数字を基準にしているか(直近なのか、平均なのか、調整後なのか)
- 一時的な要因をどう扱っているか(特需・単発案件・一時費用など)
- 会社の強み/弱みをどう見ているか(評価している点、気にしている点)
- 何を織り込んでいるか(成長性、リスク、引き継ぎ負担など)
ここで大事なのは、完璧な資料を求めることではありません。最低限、相手の説明が「この前提だからこの金額」という形になっているかどうかです。
もし根拠があいまいなら、交渉に入る前に「前提を確認する」だけで、話が整理されて進みやすくなります。
条件が価格に影響していないか(支払い方法・分割など)
次に重要なのは、提示されている「価格」が、どんな条件とセットなのかです。同じ金額でも、条件しだいで実質の安心感は大きく変わります。
たとえば、次のような条件は価格の印象を変えやすいです。
| チェックしたい条件 | 見落とすと起きやすいこと | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 支払い方法(一括/分割) | 金額は高いのに、受け取りまでの不安が残る | 分割ならいつ・いくら・どんな条件で支払われるか |
| 追加の条件(達成したら増える等) | 想定より受け取れない可能性が出る | 達成の定義が曖昧になっていないか |
| 売主の関与(引き継ぎ期間・稼働) | 売却後も負担が重く、実質的な価値が下がる | 期間・役割・報酬を具体化できているか |
| 費用負担(税務・法務・手続き等) | 手取りが想定より減る | どこまでが売主負担かを先に明確化 |
ポイントは、「条件が付いている=悪い」ではなく、条件の中身が価格に見合っているかを見極めることです。条件が重いのに価格が低いなら、そこは交渉の余地になりますし、条件が軽いなら価格が少し低くても納得できる場合もあります。
リスクが何で、どれだけ織り込まれているか
提示額が低く見えるとき、理由の多くはリスクの見立てにあります。買い手は「リスクがあるから買わない」ではなく、リスクがあるなら価格や条件で調整します。
だからこそ、提示額の妥当性を見るには、相手が何をリスクと捉えているかを把握することが近道です。
- 利益が続くか(特定顧客への依存、単発売上が多い等)
- 人が抜けたら回るか(キーパーソン依存、属人化)
- 引き継ぎが重くないか(社長の稼働が前提になっている)
- 数字の読み方に不安がないか(調整が必要、説明が不足等)
ここで大切なのは、リスクを「否定」することではありません。相手がリスクと言っている内容に対して、
- 事実としてどうなのか
- どこまで影響するのか
- 対策や補足説明ができるのか
この3点を整理するだけで、価格の見え方が変わることがあります。逆に、相手がリスクを理由にしているのに具体性がない場合は、「何を、どれだけ織り込んだのか」を確認する価値があります。
交渉できる部分/できない部分を切り分ける
提示額が妥当かどうかを考えるとき、最後にやっておきたいのが、交渉できる部分と、しにくい部分を分けることです。
全部を一気にひっくり返そうとすると、話が荒れやすく、相手も身構えます。一方で、切り分けて話すと、現実的に動かせるポイントが見えます。
- 交渉しやすい:条件(支払い方法、引き継ぎ、役割、期間など)/前提の置き方(数字の見方、調整)
- 交渉しにくい:買い手が絶対に許容できないリスク判断/投資方針そのもの(この案件に出せる上限)
ここを分けた上で、交渉の基本は「感情」ではなく整理です。たとえば、
- 前提が違うなら、前提を合わせる
- 条件が重いなら、価格ではなく条件を軽くする
- リスクが誤解なら、事実と対策を出す
こういう形で話せると、相手との会話が「押し問答」になりにくく、結果として納得できる条件に近づきやすくなります。
適正価格に近づけるために、売主ができること
会社売却の価格は、売主が「こうしたい」と願うだけで決まるものではありません。ですが一方で、売主の準備しだいで“適正な評価に近づきやすくなる”のも事実です。
ここでいう準備は、難しい資料を山ほど作ることではありません。買い手が判断しやすくなり、誤解が減り、交渉がスムーズになるように、「説明できる状態」を整えることです。
「説明できる材料」をそろえる(数字・顧客・強み・体制)
買い手が価格を決めるときに困るのは、会社が悪いことよりも、「判断材料が足りない」ことです。材料が足りないと、買い手は安全側に倒れやすく、結果として価格が伸びにくくなります。
だからまずは、難しい分析ではなくて大丈夫なので、次の4つを説明できる形にしておくのがおすすめです。
- 数字:直近の売上・利益の流れ、利益が出る仕組み(ざっくりでOK)
- 顧客:主要顧客の特徴、売上の偏り、継続の見込み
- 強み:選ばれる理由、他社との違い、再現性があるか
- 体制:誰が何をして回っているか、属人化している部分はどこか
ポイントは「完璧な資料」ではなく、質問されたときに迷わず答えられる状態を作ることです。買い手が納得しやすくなるほど、価格は“低めの安全運転”から外れやすくなります。
不安要素を先に出して整理する(後出しで下がるのを防ぐ)
価格が大きく下がるきっかけで多いのが、交渉の途中で「想定外の不安要素」が出てくるパターンです。これは、悪意がなくても起きます。「言うほどのことじゃないと思っていた」「聞かれなかったから言っていない」でも、後から出ると買い手は構えてしまいます。
大切なのは、問題を隠さないことではなく、“不安要素の扱い方”を先に決めておくことです。たとえば、
- 事実は何か(起きていることを短く言える)
- 影響はどれくらいか(売上・利益・体制への影響)
- どう対処しているか(対策・再発防止・代替案)
この3点が整理されているだけで、買い手の見え方は変わります。逆に、「後から出てきた」「説明が曖昧」という状態だと、リスクが過大に見られ、価格の調整が大きくなりがちです。
価格以外の希望条件も言葉にしておく(譲れない軸を作る)
売主が価格に振り回されやすいのは、価格だけを軸にしてしまうからです。実際の会社売却では、売主が大事にしたいのは価格だけではないことも多いですよね。
たとえば、
- 従業員の雇用を守りたい
- 取引先との関係を壊したくない
- 自分はいつまで、どの程度関わるのか
- 社名やブランドをどうするか
こうした希望条件が言語化されていないと、「提示額が高いから…」と無理に飲んでしまい、あとから苦しくなることがあります。
逆に、価格以外の希望条件も含めて「譲れない軸」があると、交渉が整理しやすくなります。価格が少し低くても条件が満たされるなら納得できる場合もありますし、逆に価格が高くても条件が合わないなら避ける判断ができます。
ここは立派な文章にしなくて大丈夫です。まずは自分の中で、
- 絶対に守りたい
- できれば守りたい
- 譲ってもいい
この3つに分けて言葉にしておくだけでも、交渉のブレが減ります。
初期提案を鵜呑みにせず「比較できる状態」を作る
最初に提示された金額は、あくまで「最初の提案」です。もちろん、そのまま進んでうまくいくケースもありますが、初期提案を鵜呑みにすると、売主側が判断材料を持たないまま意思決定してしまうことがあります。
ここでいう「比較」は、無理に何社も当てるという意味ではありません。少なくとも、次のような比較ができる状態を作ることが大切です。
- 前提の比較:その金額はどんな前提で出ているのか
- 条件の比較:支払い方法や関与期間など、実質の価値はどうか
- リスクの比較:何をリスクとして見ていて、どれだけ織り込んでいるか
比較ができると、「この金額は安い/高い」という感情の話ではなく、どこが違って、どこを直せばよくなるかという建設的な話に変わります。
そしてもう一つ大事なのが、比較できる状態は、売主が相手を疑うためではなく、自分が納得して決めるために必要だという点です。納得して決められると、その後の交渉や引き継ぎでも、気持ちがブレにくくなります。
最後に|適正価格で悩んだときの考え方
会社売却の価格は、どうしても気持ちが揺れます。数字の話のはずなのに、これまでの努力や、社員のこと、家族のこと、将来の不安まで全部が重なってくるからです。
だから「悩むのが悪い」わけではありません。大切なのは、悩んでいるときに“どの方向に考えを進めればいいか”を自分でつかめることです。ここでは、迷いを減らすための整理の仕方を2つお伝えします。
迷いを減らす3つの質問(何を守り、何を取りにいくか)
価格で迷ったとき、頭の中でぐるぐるしやすいのは「高い/安い」だけで考えてしまうからです。そんなときは、次の3つの質問に答えると、判断の軸が戻りやすくなります。
- 私は何を守りたいのか?
(例:手元資金、社員の雇用、取引先との関係、自分の時間、社名・ブランドなど) - 私は何を取りにいくのか?
(例:価格の最大化、スピード、条件の安定、引き継ぎ負担の軽さ、再スタートの余力など) - それを守る/取りにいくために、何は譲れるのか?
(例:価格は少し譲るが条件は守る、スピードは譲るが雇用は守る、など)
この3つに答えると、「結局どうしたいんだっけ?」が明確になります。価格の数字は大事ですが、価格だけで決めると、あとから「本当はそこじゃなかった」と感じることがあります。
逆に、守りたいもの・取りにいくものが言葉になっていると、提示された金額を見たときに“自分にとっての妥当性”で判断しやすくなります。
もし言葉にしづらい場合は、次のように分けるだけでも十分です。
- 絶対に守りたい
- できれば守りたい
- 譲ってもいい
この整理があるだけで、交渉の場でも気持ちがブレにくくなります。
自分だけで抱えないための相談の仕方(聞くポイントを絞る)
価格の悩みは、ひとりで抱えるほど苦しくなりやすいです。とはいえ、やみくもに相談すると、意見が増えて余計に迷うこともあります。
相談を「役に立つ形」にするコツは、聞きたいことを絞ることです。たとえば、次の2〜3個に絞るだけで、話がかなり整理されます。
- この提示額の根拠は妥当か?(前提にズレはないか)
- 価格を上げる余地があるなら、どこか?(条件・説明・リスク整理のどれか)
- 自分の優先順位だと、どこを守るべきか?(価格か条件か、何を先に置くか)
相談の前に、簡単なメモを用意しておくと、相手の回答の質が上がります。完璧でなくて大丈夫です。たとえばこれだけで十分です。
- 提示された金額と条件(支払い方法、引き継ぎ期間など)
- 自社の現状(利益の状況、気になるリスク、強み)
- 自分の希望(守りたいこと、譲れること)
このメモがあると、相談が「一般論」になりにくく、あなたの状況に合わせた整理になりやすいです。何より、相談した後に「結局どうすればいいの?」と戻りにくくなります。
価格の悩みは、最後までゼロにはなりません。ただ、考え方と相談の仕方が整うと、悩みは“決断の材料”に変わっていきます。