会社売却を考え始めたとき、多くの方が最初に気になるのが「税金って、結局いくら引かれるの?」という点だと思います。
価格の話はよく聞く一方で、税金は仕組みが見えにくく、調べるほど不安が増えてしまうこともあります。
ただ、最初から細かい計算までやろうとしなくて大丈夫です。会社売却の税金は、いきなり複雑に見えても、実は「どんな売り方か」と「誰が受け取るか」で、だいぶ整理できます。
ここが整理できると、税理士さんや支援者に相談するときも話が早くなり、見積もりのブレも小さくなります。
この記事では、「会社売却にかかる税金の種類」をテーマに、まずは何がどこで増えやすいのかを、やさしく整理します。
大切なのは、いま完璧に理解することではなく、「自分のケースはどこに当てはまりそうか」を掴むことです。
この導入で押さえるポイント
- 会社売却の税金は、売り方で種類が変わる
- 誰がお金を受け取るかで、見え方が変わる
- まずは全体像をつかむだけで、不安はかなり減る
読み終わるころには、「自分はどの税金が関係しそうか」「何を準備して相談すればいいか」が、スッと整理できる状態を目指します。
会社売却で税金が変わるポイントを先に押さえる
会社売却の税金は、いきなり細かい計算から入ると混乱しやすいです。
先に押さえておきたいのは、税金が変わる理由がだいたい「どんな売り方か」「誰が受け取るか」「どう受け取るか」の3点に集まることです。
ここが整理できると、見積もりの話になったときに「何の税金の話をしているのか」がズレにくくなります。逆に、この3点が曖昧なままだと、同じ「会社売却」のつもりでも、前提が違って話が噛み合わないことが起きます。
株式を売るのか事業を売るのかで税金が変わる
まず大きい分かれ道は、株式を売るのか、事業を売るのかです。
言い方を変えると、会社そのものの持ち主が変わる取引なのか、会社の中身の一部を切り出して売る取引なのか、という違いです。
この違いがなぜ重要かというと、税金は「何を売ったのか」によって扱いが変わるからです。
株式を売る場合は、基本的に株を持っている人が売ったという扱いになります。
一方で事業を売る場合は、基本的に会社が事業の中の資産や契約などを売ったという扱いになります。
つまり、同じ金額で売れたとしても、誰に利益が立つのかが変わりやすい、ということです。
ここを取り違えると、あとから「思っていた税金と違った」という不安につながります。
| 分かれ道 | 何を売る取引か | 利益が出やすい先 | 税金の話が始まる相手 |
|---|---|---|---|
| 株式を売る | 株主が持つ株 | 株主側 | 株主個人の確定申告や、株主法人の申告 |
| 事業を売る | 会社の中の事業や資産 | 会社側 | 会社の決算・申告 |
この表は「ざっくりの方向性」を掴むためのものです。実際は契約の組み方によって要素が増えることがありますが、まずは株式か事業かを押さえるだけで、税金の話が整理しやすくなります。
売り手が個人か法人かで税金が変わる
次に、売り手が個人なのか、法人なのかで税金が変わります。ここでいう売り手は、「契約書に売主として出る人・会社」と考えると分かりやすいです。
たとえば株式を売る場合でも、株を持っているのが社長個人なら、利益は社長個人に入ります。
一方で、株を持っているのが法人(持株会社など)なら、利益は法人に入ります。
同じ「株を売る」でも、入ってくる先が違うので、税金の計算の枠組みも変わります。
ここで大事なのは、「自分は社長だから個人の税金だろう」と決めつけないことです。
株の名義や持ち方によっては、売り手が法人になることもあります。
税金の話を始める前に、まず株の名義や契約上の売主を確認しておくと安心です。
よくあるズレ
- 「会社を売る」つもりで話していたが、実際は株主が株を売る話だった
- 「個人の税金の話」をしていたが、売り手が法人になっていた
このズレは、誰かが悪いというより、言葉が同じでも前提が違いやすいことが原因です。だからこそ、最初に売り手の名義を確認するだけでも、不要な不安が減ります。
お金の受け取り方が複数あると税目が分かれる
最後に、会社売却ではお金の受け取り方が1つとは限らない点も押さえておきたいです。
「売却代金を一括でもらう」だけなら話は比較的シンプルになりやすいのですが、実務ではいくつかの名目が混ざることがあります。
ここが重要で、名目が増えると、税金も同じ扱いではなくなることがあります。
つまり、「総額はいくら」とだけ見てしまうと、税金の種類が混ざって話が分かりにくくなります。
受け取りが複数になりやすい例
- 株式の売却代金とは別に、別名目の支払いがある
- 会社と個人の両方にお金が支払われる形になっている
- 支払いが一括ではなく、複数回に分かれている
こうした場合は、まず「お金の名目を分けて把握する」のが先です。
「誰が」「何の名目で」「いくら受け取るのか」を分けて書き出すだけでも、税金の話が急に分かりやすくなります。
もし買い手側から提示が来ているなら、いきなり判断せずに、支払いの内訳がどうなっているかを確認しておくと安心です。受け取り方が複数だと、税金だけでなく、後からの説明や手続きも増えやすいからです。
株式を売るときに出やすい税金
株式の売却は、会社そのものの資産を売るのではなく、株主が持っている株を売る形です。
そのため、税金も「会社にかかる」というより、株を売った人や会社にどう課税されるかが中心になります。
ここでは、株式を売るときに出やすい税金を、個人が売る場合と法人が売る場合に分けて整理します。さらに、売却代金以外の支払いがあるときに、税金の話が増えやすい点も押さえます。
個人株主にかかる税金は譲渡所得が中心になる
株式を個人が売って利益が出た場合、基本的には株式の譲渡で得た利益に対して税金がかかります。
ポイントは、「売却代金の全額」にかかるのではなく、利益の部分が課税の対象になりやすいことです。
イメージとしては、次のように考えると整理しやすいです。
- 売った金額から
- その株を手に入れたときのお金や
- 売るために直接かかった費用などを引いて
- 残ったものが利益として扱われやすい
ここでつまずきやすいのは、株式が上場株ではなくオーナー企業の株である場合、「その株をいくらで取得したか」の情報がすぐ出てこないことです。
昔に設立して、何度か増資や贈与・相続が絡んでいると、取得に関する情報が複雑になりやすいので、早めに資料を集めておくと安心です。
また、個人の場合は、売却の形や状況によっては確定申告が必要になることがあります。ここも「どうせ相手が処理してくれるだろう」と放置すると不安が残りやすいポイントなので、売却が具体化してきた段階で、申告の要否を確認しておくのが安全です。
法人が株式を売ると法人税などが関係してくる
株式を売るのが個人ではなく法人の場合、税金の考え方が変わります。
この場合、株式を売って出た利益は、基本的に法人の利益として扱われ、法人税などが関係してきます。
個人と違って「譲渡所得」という名前で切り分けて管理するというより、会社の決算の中で利益として合算されるイメージに近いです。
そのため、株式売却で大きな利益が出ると、その期の税負担や納税資金の見通しが一気に変わることがあります。
法人で注意しやすいのは、株式の売却益と売却損の扱いです。
「利益が出たときは課税」「損が出たときはいつでも同じように相殺できる」と思い込みがちですが、実務では状況によって見え方が変わります。損益の扱いは前提条件で変わることがあるため、売却の前に「この利益はどの期にどう入るのか」を確認しておくと、あとで慌てにくくなります。
配当や退職金など別の支払いがあると税金の種類が増える
株式の売却は、本来は売却代金が中心です。
ただし実際の交渉では、売却代金以外に、さまざまな名目の支払いがセットになることがあります。
ここが重要で、名目が増えると、税金も同じ扱いではなくなることがあります。
つまり、「総額はいくら」とだけ見てしまうと、税金の種類が混ざって話が分かりにくくなります。
たとえば、次のような名目が出てくることがあります。
| お金の名目 | 税金の見え方 | なぜ分けて考える必要があるか |
|---|---|---|
| 株式の売却代金 | 株を売った利益に対する課税になりやすい | 売却益の計算の対象が「利益部分」になりやすい |
| 配当 | 配当としての課税になりやすい | 株の売却益とは別のルールで扱われやすい |
| 役員退職金 | 退職金としての扱いになりやすい | 同じお金でも性質が違い、手続きや計算の前提が変わりやすい |
| 顧問料やコンサル料 | 報酬としての扱いになりやすい | 継続支払いになると、毎年の課税や支払い方法の整理が必要になりやすい |
ここでのポイントは、何かを否定することではなく、名目を分けて把握することです。
買い手から提示された条件に、売却代金以外の支払いが含まれているなら、まずは誰に対する支払いか、そして何の対価としての支払いかを、書類上で整理しておくと安心です。
税金は「損したくない」という気持ちが強いほど、話がぼやけやすい分野です。だからこそ、最初に売却代金とそれ以外を分けて見るだけで、不安がかなり減ります。
事業を売るときに出やすい税金
事業を売る形は、株式を売る形と比べて、税金の話が少し複雑に見えやすいです。理由はシンプルで、事業譲渡は「ひとつの物を売る」のではなく、会社の中の資産や契約などを、いくつかに分けて売る取引になりやすいからです。
その結果、税金も「売却益に税金がかかる」という一言では終わらず、何をいくらで売ったのかによって扱いが分かれていきます。ここでは、事業を売るときに出やすい税金を、押さえる順番に整理します。
会社に利益が出ると法人税などがかかる
事業を売るときにまず押さえたいのは、利益が出るのは基本的に株主ではなく、会社だという点です。
事業譲渡では、会社が自分の資産や契約を売ってお金を受け取るため、そこで利益が出れば、会社の利益として扱われます。
この利益に対して、通常は法人税などが関係してきます。
ここでの注意点は、「入金があった=全部が利益」ではないことです。利益かどうかは、売ったものの帳簿上の金額や、売却にかかった費用などを踏まえて決まります。
ただ、実務では細かい計算よりも先に、まず会社に利益が残る取引であることを認識しておくのが重要です。
この前提があるだけで、あとから「税金の支払い資金が足りない」という不安を減らしやすくなります。
売る対象が資産ごとに分かれると税金の扱いも分かれる
事業譲渡の特徴は、売る対象がまとめて一つではなく、資産ごとに分かれることです。
たとえば、同じ「事業を売る」でも、次のようなものがセットで動くことがあります。
- 設備や機械
- 在庫
- 車両
- ソフトウェアやシステム
- 取引先との契約
- ノウハウやブランド
これらは性質が違うので、帳簿上の扱いも違い、結果として税金の扱いも分かれやすくなります。
つまり、事業譲渡は「いくらで売れたか」だけでなく、内訳がどうなっているかがとても大事になります。
内訳が大事になる理由は、税金のためだけではありません。内訳が曖昧だと、あとから「何を引き継ぐのか」「何が譲渡対象なのか」で揉めやすくなり、契約上のトラブルにもつながりやすいからです。
ここでは、イメージを掴むために、内訳が分かれると何が起きやすいかを表にします。
| 売る対象の例 | 内訳が重要になる理由 | 起きやすいズレ |
|---|---|---|
| 設備や機械 | 帳簿上の金額と売却額の差で利益の出方が変わりやすい | 「古いから価値がない」と思っていたが、売却額が付いて利益が出る |
| 在庫 | 評価方法や数量の確認で金額が動きやすい | 引き渡し時点の在庫量で最終金額が変わる |
| 契約やノウハウ | 目に見えない対象ほど内訳が曖昧になりやすい | 「どこまでが対価に含まれるか」が後から曖昧になる |
ここでのポイントは、内訳を細かくすること自体が目的ではなく、売却金額の中身が何に紐づいているかを把握することです。
内訳が分かれば、税金の見通しも立ちやすくなり、交渉のすれ違いも減らしやすくなります。
消費税が関係する取引と関係しない取引がある
事業を売るときに、もう一つ混乱しやすいのが消費税です。
というのも、事業譲渡では「いろいろなものを売る」ため、消費税が関係するものと関係しないものが混ざることがあるからです。
ここは断定せずに言うと、一般的に、消費税は取引の種類によって扱いが分かれます。
そのため、事業譲渡では「総額に消費税が乗るのか」「一部だけが対象なのか」が論点になりやすいです。
たとえば、設備や在庫など、目に見える資産が含まれる場合は、消費税の話が出やすくなります。一方で、取引の性質によっては、同じ事業譲渡でも消費税の扱いが異なることがあります。
この部分で大事なのは、売買価格の提示を見たときに、税込なのか税別なのか、そして消費税の対象がどこまでかを、早めに確認することです。
消費税が関係するかどうかで、手元に残るお金も、支払いの段取りも変わってしまうことがあるからです。
もし相手から提示された条件に消費税の記載が見当たらない場合でも、すぐに「関係ない」と決めつけず、何が譲渡対象になっているのかとセットで確認しておくと安心です。
契約や名義変更で発生しやすい税金
会社売却では、売却益にかかる税金だけでなく、手続きの途中で「契約書」や「名義変更」が発生したタイミングで、別の税金や費用が出てくることがあります。
ここを見落とすと、あとから「想定より手取りが減った」「手続き費用が膨らんだ」と感じやすいので、最初にポイントだけ押さえておくと安心です。
譲渡契約書で印紙税が発生することがある
譲渡契約書などの契約書は、内容によって印紙税が関係することがあります。
印紙税は、ざっくり言うと「一定の種類の契約書を作成したときにかかる税金」です。
ここで大事なのは、「どんな契約書か」と「どんな形で作るか」で扱いが変わる可能性がある点です。
たとえば、同じ取引でも、書面の種類や作成の仕方によって、印紙税が関係するかどうかの確認が必要になることがあります。
現場で起きやすいのは、契約の最終段階で慌てて「印紙は必要ですか?」となるパターンです。契約書のドラフトが出てきたら、早めに「この契約書は印紙税の対象になりそうか」を確認しておくと、余計な手戻りが減ります。
不動産が含まれると別の税金が関係することがある
売却対象に不動産が含まれる場合は、株式の売却や事業の売却とは別に、不動産に関する税金が関係してくることがあります。
不動産が絡むと何がややこしくなるかというと、「不動産をどう動かすのか」で手続きも費用も変わりやすい点です。
たとえば、名義が変わるのか、権利関係が変わるのか、売買として扱うのかなど、取引の形によって論点が増えます。
ここは無理に自分で判定しようとせず、まずは「不動産が取引の中に入っているか」を明確にすることが大切です。
不動産が含まれているだけで、税金だけでなく、登記や評価、金融機関との調整など、関連する手続きが増えることがあるためです。
許認可や車両など名義変更で費用が増える場面がある
売却の形によっては、取引後に名義変更や登録変更が必要になります。ここで発生するのは、税金だけとは限らず、手数料や登録費用などの「費用」です。
たとえば、次のような対象は名義変更が絡みやすいです。
| 対象 | 起きやすい手続き | 増えやすい費用の種類 |
|---|---|---|
| 許認可 | 名義変更、再取得、届出 | 申請手数料、専門家費用、準備コスト |
| 車両 | 名義変更、登録変更 | 登録に関する費用、手続き代行費用 |
| リースやレンタル契約 | 契約の引き直し、承継手続き | 契約変更手数料、違約金が出るケースもある |
| 口座や各種アカウント | 名義の引き継ぎ、権限変更 | 費用よりも工数と時間が膨らみやすい |
このあたりは「税金」というより実務コストですが、結果的に手元に残る金額やスケジュールに影響します。
特に許認可は、業種によっては「名義変更できると思っていたが、実際は取り直しが必要だった」ということも起き得ます。
だからこそ、売却の話が進み始めたら、早い段階で「名義変更が必要なものをリスト化する」のがおすすめです。
金額の大小よりも、抜け漏れがあると後で一気に面倒が増えるからです。
税金はいつ確定していつ払うのか
会社売却の税金で不安になりやすいのは、税率そのものよりも、「いつ税金が決まって」「いつ払うのか」が見えにくいところだと思います。
売却でお金が入ったあとに「納税のタイミングが想像と違った」となると、気持ちも資金繰りも一気に苦しくなります。
ここでは、個人と法人で、申告と納付の流れがどう違うのかを、なるべくやさしく整理します。
個人は確定申告で申告と納付をする
株式を個人が売って利益が出た場合など、個人側に税金が出るケースでは、基本的に確定申告で税額を確定させて、納付する流れになります。
所得税の確定申告は、原則として翌年2月16日から3月15日までが申告の期間で、期限は原則3月15日です。曜日の関係で期限がずれる年もあります。
このあたりで大切なのは、売却した日=すぐ納税ではないことです。
ただし「あとで払えばいい」と油断すると、申告期限が一気に近づいて焦りやすいので、売却が固まってきた時点で申告が必要になりそうかを早めに確認しておくと安心です。
法人は決算と申告で納付の時期が決まる
会社側に利益が出る取引では、法人が決算をして、法人税などの申告を行い、納付時期が決まります。
法人税の確定申告書は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に提出する必要があります。納付も基本的に同じ期限の考え方になります。
ここでの注意点は、個人と違って「翌年の春」ではなく、決算日から数えて割と早いタイミングで納税が来る可能性があることです。売却が決算期に近い場合は特に、資金の置き方を意識しておくと安心です。
税金の支払いに備えて手元資金を見ておく
税金は、利益が出ていれば基本的に避けられません。だからこそ、早めにやっておきたいのは、節税のテクニック探しよりも、「いつまでに、どれくらいの現金が必要になりそうか」を見える形にすることです。
目安として、納税のタイミングは次のように考えると整理しやすいです(あくまで一般的なイメージです)。
| 誰に税金が出るか | 税金が決まるタイミング | 納付が近づくタイミング |
|---|---|---|
| 個人 | 確定申告で確定しやすい | 原則、翌年2月16日〜3月15日ごろの申告期限に合わせて意識する |
| 法人 | 決算と法人の申告で確定しやすい | 原則、決算日から2か月以内を強く意識する |
実際に備えるときは、まず「税金が出るのは個人か法人か」を分けて、次に「申告期限のカレンダー」を先に押さえるのが効果的です。
納税資金は、売却代金の一部を最初から別枠で置いておくだけでも、精神的な余裕がかなり変わります。
税金の見立てに必要な数字と書類
会社売却の税金は、税率の暗記よりも先に、「何の数字を、どの書類で確認するか」が分かっているかどうかで、安心感が大きく変わります。
逆にいうと、資料がそろっていない状態で「税金はいくらですか?」と聞いても、答えがブレやすく、話が進みにくくなります。
ここでは、税金の見立てをするために、まず揃えておきたい数字と書類を3つに分けて整理します。細かい計算は専門家に任せるとしても、この3つがあるだけで会話が一気にスムーズになります。
売却額と取得費が分かる資料をそろえる
税金の話で最初に必要になるのは、シンプルにいくらで売れるのかです。
ただし「売却額」は、最終契約の金額だけとは限りません。分割払い、条件付き、別名目の支払いが混ざると、見え方が変わります。だからこそ、まずは売却額の内訳が分かる資料が必要になります。
そしてもう一つ、見落とされがちなのが取得費です。
これは、ざっくり言うとその株や資産を手に入れたときに、いくらかかったかの情報です。税金は「売却額の全部」ではなく、利益の部分が論点になりやすいので、取得費が分からないと見立てが難しくなります。
揃えるべき資料の例
- 売却額:意向表明書、条件提示書、ドラフトの譲渡契約書、金額の内訳メモ
- 取得費:株式を取得したときの契約書、増資の資料、株主名簿、払込の証憑、相続・贈与があればその記録
取得費がすぐ出てこない場合もよくあります。そのときは、焦って推測で埋めるより、「分からない部分がどこか」をはっきりさせるだけでも前進です。専門家に相談するときも、分からない箇所が明確なほうが話が早いです。
直近の決算書と税務申告書を用意する
次に必要なのが、会社の直近の決算書と税務申告書です。
決算書は会社の状態をざっくり掴むための土台で、税務申告書は税務上どう処理しているかを確認するための土台になります。
「決算書はあるけど申告書は手元にない」というケースも多いですが、税金の見立てという意味では、申告書があると情報の粒度が上がりやすいです。
もちろん、完璧に揃っていないと相談できないわけではありません。ただ、用意できる範囲で揃えるほど、見立ての精度は上がり、やり取りの回数も減りやすくなります。
最低限そろえる目安
- 直近2〜3期分の決算書
- 直近2〜3期分の税務申告書一式(控え)
紙でもPDFでも構いません。大事なのは「存在するかどうか」と「すぐ渡せるかどうか」です。
資産や負債の内訳が分かる一覧を作る
税金の見立てで最後に効くのが、資産と負債の内訳が分かる一覧です。
決算書に数字は載っていますが、売却の実務では「その中身は何か」が論点になります。中身が分かっていると、税金の話だけでなく、条件交渉でも認識ズレが起きにくくなります。
一覧は、きれいな資料にする必要はありません。最初はエクセルやスプレッドシートで十分です。
「何があるか」「いくらくらいか」「補足」の3列だけでも、ぐっと整理が進みます。
| 項目 | 金額の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 現預金 | 〇〇円 | 口座が複数なら内訳もメモ |
| 売掛金 | 〇〇円 | 回収状況が気になるものがあれば記載 |
| 在庫 | 〇〇円 | 滞留在庫があれば別枠でメモ |
| 設備や車両 | 〇〇円 | 大きいものだけでも可、リース有無もメモ |
| 借入金 | 〇〇円 | 金融機関別、返済条件が分かればなお良い |
| 未払金や買掛金 | 〇〇円 | 支払予定が近いものがあれば記載 |
この一覧を作る目的は、細かい監査ではなく、税金の見立てに必要な前提をそろえることです。
「この3点が揃っている」と、税金の話が感覚論ではなく、具体的な数字に落ちやすくなります。
相談するときに話が早くなる聞き方
会社売却の税金は、ひとりで調べ始めると情報が多すぎて、かえって不安が増えがちです。
だからこそ、相談はとても有効なのですが、ここでよく起きるのが「質問が散らばって、結局よく分からないまま終わる」という状態です。
相談を短時間で前に進めるコツは、知識の量ではなく、聞き方の設計です。
この章では、話が早くなる聞き方を3つに分けて整理します。
まず確認したい質問を三つに絞る
最初から全部を理解しようとすると、質問が20個になります。すると相手も「どこから話すべきか」が分からなくなり、結果として説明が長くなって疲れてしまいます。
おすすめは、最初の面談や相談では、まず三つだけに絞ることです。三つに絞ると、自然と優先順位がつき、答えも具体的になります。
三つに絞るときの型
- 質問1:私のケースは税金の種類として何が関係しますか
- 質問2:税金が増えやすい分かれ道はどこですか
- 質問3:いま手元の情報で、どれくらいの幅で見ておくべきですか
ここで大事なのは、細かい税率や例外を最初に聞かないことです。
税率の話は、前提が固まってからの方が正確になります。まずは「何が論点か」が分かれば十分です。
税理士に聞くこととM&A実務で詰めることを分ける
税金の相談が長引く理由の一つに、税理士に聞くべき話と、M&Aの実務で詰めるべき話が混ざってしまうことがあります。
混ざると、相手が悪いのではなく、単純に答えが出ない質問が増えます。
税理士が答えやすいのは、税金の仕組みや申告の扱い、必要資料、試算の前提の置き方です。
一方で、M&A実務で詰めるのは、契約の形や条件の組み方、支払い方法など、取引設計そのものです。
| 相談テーマ | 税理士に聞くと早い | M&A実務で詰めると早い |
|---|---|---|
| 税金の種類 | どの税目が関係するかの整理 | 取引の形が未確定なら前提を固める |
| 手取りの見込み | 税額試算の考え方、申告時期の確認 | 売却額や支払い条件の確定、内訳の整理 |
| 支払いの名目 | 名目ごとの税務上の論点の整理 | 名目をどう設計するか、条件交渉 |
この切り分けをしておくと、相談先が複数でも混乱しにくくなります。
「今日は税理士に税金の論点を整理してもらう」「次は実務側で条件の詰めをする」と分けるだけで、進み方がかなり軽くなります。
試算を依頼するときは前提条件をそろえる
税金の試算をお願いするときに、一番もったいないのは、前提条件がバラバラで、試算が何度もやり直しになることです。
試算は、正確さも大事ですが、それ以上に「比較できる形」になっていることが大事です。
そのためには、依頼するときに前提条件をそろえるのが効果的です。
完璧な資料がなくても、最低限この辺りを揃えて渡すと、見立てが早くなります。
試算依頼でそろえておく前提条件の例
- 売却の形:株式売却か事業譲渡か
- 売却額:総額と内訳、分割払いの有無
- 売り手:個人か法人か、誰が受け取るか
- 取得費や簿価:分かる範囲で資料を提示
- 別名目の支払い:配当、退職金、報酬などがあるか
- 売却予定時期:いつの取引として扱う想定か
さらに、試算を依頼するときは、「一つの数字」を求めすぎない方が安心です。
前提がまだ固まっていない段階では、税金も手取りも幅が出るのが自然です。なので、たとえば「条件Aならこのくらい、条件Bならこのくらい」のように、比較できる形で見てもらうと、判断がしやすくなります。
前提条件がそろっていると、相談の場で「それは資料がないと分かりません」で止まりにくくなり、次にやるべきこともはっきりします。
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