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会社売却

会社売却の評価方法とは?よく使われる3つの考え方と、金額の見方をやさしく整理

会社売却を考え始めると、まず気になるのが「うちの会社はいくらで売れるのか?」という点ではないでしょうか。

ただ、この問いに対して返ってくる言葉は、「相場です」「利益の◯倍です」「DCFです」など、少し分かりにくいものになりがちです。聞いたことはあっても、それがどういう意味で、どこを見れば妥当性を判断できるのかが分からないまま話が進むと、不安が増えてしまいます。

この記事では、会社売却でよく使われる「評価方法(価値の出し方)」を、難しい専門用語に振り回されない形で整理します。具体的には、よくある3つの考え方(利益から見る/似た会社と比べる/資産から見る)をベースに、評価額がどうやって動くのか、そして提示された金額を見たときに何を確認すればいいのかを、やさしく解説していきます。

大事なのは、ぴったりの金額を当てることではありません。「この金額は、どういう前提で出ているのか」を理解し、納得できる条件で進めるための土台を作ることです。読み終わるころには、買い手や仲介から金額の話が出ても、必要な質問ができる状態になっているはずです。

目次

まず押さえたい「評価」と「売れる金額」の違い

会社売却の話で混乱しやすいのが、「評価(バリュエーション)」「実際に売れる金額」が、同じものとして扱われてしまうことです。ここを最初に分けておくと、買い手や仲介から金額の話が出たときに、必要以上に振り回されにくくなります。

評価は“計算結果”、売れる金額は“交渉の着地”

評価は、会社の価値をあるルールで計算した「見立て(計算結果)」です。たとえば「利益の何倍」「将来の利益を現在の価値に直す」など、一定の前提を置いて数字を出します。

一方で、売れる金額は、買い手と売り手が話し合い、条件をすり合わせたうえで決まる「交渉の着地」です。つまり、評価が高くても交渉で下がることもあれば、評価が控えめでも条件次第で上がることもあります。

ここで大切なのは、「評価=正解の金額」ではないということです。評価はあくまで判断材料で、売れる金額は条件込みの結果です。金額を見たときは、「高い/安い」だけで終わらせず、その数字が“何を前提にした評価なのか”、そして“どんな条件でその金額を目指しているのか”を分けて考えると、話が整理しやすくなります。

評価は1つに決まらない(レンジで考えるのが自然)

会社の評価は、株価のように毎日1つの数字が表示されるものではありません。実務では、評価は「一点」ではなく「レンジ(幅)」で考えるのが自然です。

理由はシンプルで、評価には必ず前提が入るからです。たとえば「今の利益が今後も続く」という前提なのか、「成長していく」という前提なのかで、計算結果は変わります。さらに、買い手が感じるリスク(人への依存、取引先の偏り、設備投資の必要性など)によっても、同じ数字でも受け取り方が変わります。

なので、最初から「いくらが正解ですか?」と一点を求めるより、“この条件ならこのくらい”“このリスクが大きいとこのくらい”というように、上下の幅を持っておく方が、現実に合った考え方になります。

また、レンジで持てると、交渉の場での心の揺れも小さくなります。提示額がレンジ内なら「前提の違いかな」と落ち着いて確認できますし、レンジを大きく外れるなら「どの前提がこうなっているのか」を冷静に聞けます。

同じ会社でも評価がブレる理由(前提条件が違う)

「同じ会社なのに、A社は高く、B社は低い評価だった」──これは珍しい話ではありません。多くの場合、原因は会社の中身が変わったのではなく、見ている前提条件が違うことにあります。

たとえば、同じ利益でも、買い手がこう考えると評価が変わります。

  • 利益が今後も続くか(継続性の見立て)
  • 人に依存していないか(社長・キーパーソンへの依存度)
  • 取引先が偏っていないか(上位顧客への集中)
  • 追加投資が必要か(設備更新・採用・システム投資など)
  • 引き継ぎ後に同じ運営ができるか(再現性の見立て)

さらに、「評価の対象に何を含めるか」でもズレが出ます。たとえば、会社に現預金が多い場合、それをどう扱うかで数字は変わりますし、将来の計画(新規事業・拠点展開など)をどこまで織り込むかでもブレます。

ここで意識しておきたいのは、ブレ=誰かが嘘をついているとは限らない、という点です。評価のブレの多くは、前提の置き方の違いから起きます。だからこそ、金額そのものに反応するより先に、まずは「どの前提でこの数字になっていますか?」と確認することが、売主にとって一番安心につながります。

もし説明が短くて不安なときは、次の2つだけでも聞いてみてください。「どの前提が一番評価に効いていますか?」、そして「その前提を変えると数字はどれくらい動きますか?」。これだけでも、交渉の土台がぐっと見えやすくなります。

会社売却でよく出てくる評価方法は大きく3つ

会社売却の場では、「評価はこうやって出します」と言われても、いきなり専門用語が並んで戸惑うことがあります。ですが、落ち着いて整理すると、考え方は大きく3つに分けられます。

それぞれが見ているポイントが違うので、どれか1つが絶対に正しい、という話ではありません。むしろ実務では、複数の見方を組み合わせて、納得できるレンジを作ることが多いです。

評価の考え方 何をベースにする? この見方が強い場面 ズレが出やすいポイント
利益から考える 将来どれくらい稼げるか 利益が出ていて、再現性もある会社 将来予測の置き方で幅が出る
似た会社と比べる 相場・倍率(例:利益の何倍) 相場感を素早くつかみたいとき 「似ている」の定義で結果が変わる
資産から考える 持っている資産と負債の差 資産が厚い/利益が読みづらい会社 帳簿と実態がズレていると調整が必要

利益から考える方法(将来の稼ぐ力をベースにする)

一番イメージしやすいのは、「この会社は今後どれくらい稼げる会社なのか」を軸に評価する方法です。考え方としてはシンプルで、将来生み出す利益(キャッシュ)をベースに価値を見立てる、というものです。

ここで大事なのは、「今の利益」だけを見て終わりではないことです。買い手は、たとえば次のような点を見ながら、「この利益は続くのか」「伸びるのか」を考えます。

  • 利益の安定性(毎年同じように出ているか、波が大きいか)
  • 再現性(社長の個人技ではなく、仕組みで回っているか)
  • 成長の余地(伸びる余白があるか、もう頭打ちか)
  • 必要な投資(設備更新や採用など、追加コストがどれくらいかかるか)

つまり、利益から考える評価は、「将来の見立て」が入るぶん、レンジが出やすいのが特徴です。逆に言えば、売主側も「将来の稼ぐ力」を説明できるほど、評価の納得感を作りやすくなります。

似た会社と比べる方法(相場・倍率を使う)

次に出てきやすいのが、「相場」を使う方法です。よくある言い方だと、「利益の◯倍」「売上の◯倍」のように、ある指標に倍率(倍数)を掛けて評価を見立てます。

この方法の良いところは、話が早いことです。特に初期の段階では、細かい前提を全部置かなくても、ざっくりと「このくらいのレンジになりやすい」という目安を作れます。

一方で注意したいのは、「似た会社」の定義があいまいになりやすい点です。業種が同じでも、次のような違いがあると、倍率は大きく変わります。

  • 利益の質(一時的に出た利益か、積み上げ型か)
  • 売上の安定性(固定契約が多いか、単発が多いか)
  • 顧客の分散(特定顧客への依存が強いか)
  • 人への依存(社長が抜けても回るか)

相場・倍率で見た数字を聞いたときは、「倍率はいくつですか?」だけでなく、「なぜその倍率なんですか?」をセットで確認できると、評価の根拠がぐっと明確になります。

資産から考える方法(持っているものを土台にする)

もう1つは、会社が持っている資産や負債をベースに、「今この会社を清算したら、どれくらい残るか」という発想で価値を考える方法です。ざっくり言うと、資産 − 負債の差を土台にします。

この方法は、利益が安定していない会社や、将来予測が立てづらい会社でも、最低限の“土台”を作りやすいのが特徴です。たとえば、現預金が多い、在庫や不動産などの資産が厚い、といったケースでは、この見方がよく使われます。

ただし、ここでも注意点があります。帳簿に載っている数字が、そのまま実態を表しているとは限りません。たとえば、在庫の評価、古い設備の価値、回収しにくい売掛金など、「帳簿の数字」と「実際の価値」がズレていることがあります。

そのため資産から考える評価は、土台としては分かりやすい反面、調整が入ることが前提になります。買い手がどこを「資産」と見て、どこを「リスク」と見ているかを聞けると、数字の理由が理解しやすくなります。

利益から考える評価(「将来いくら稼げるか」で見る)

会社売却の評価でよく使われる考え方のひとつが、「この会社は、これからどれくらい利益(お金)を生み出せるのか」をベースに価値を見立てる方法です。

言い方は難しく聞こえることがありますが、発想自体はとてもシンプルです。将来の稼ぐ力が大きい会社ほど、価値は高くなりやすい。逆に、将来の見通しが不安定なほど、評価は慎重になりやすい。まずはこの軸をつかむだけで、提示された数字の意味が理解しやすくなります。

ざっくりの発想:今後の利益を“現在の価値”に直す

利益から考える評価では、基本的に「将来の利益」と「今もらえるお金」では価値が違うという考え方を使います。

たとえば、同じ1,000万円でも、今すぐ確実にもらえる1,000万円と、5年後にもらえるかもしれない1,000万円では、受け取る側の安心感が違いますよね。時間がかかるほど不確実さが増えるので、一般的には将来の利益は、そのまま足し算せず「今の価値」に直して考える、という発想になります。

この「今の価値に直す」ために、将来の見通し(どれくらい稼げるか)と、不確実さ(どれくらいリスクがあるか)をセットで見ていきます。ここが変わると、同じ会社でも評価が変わります。

DCFと言われたときに確認したいポイント(前提の置き方)

買い手やアドバイザーから「DCFで見ています」と言われることがあります。DCFという言葉自体は難しく聞こえますが、売主として大切なのは用語を覚えることではなく、「どんな前提でその数字になっているのか」を把握することです。

DCFの計算は、ざっくり言えば「将来の利益(キャッシュ)予測」「リスク(割引の考え方)」でできています。ここが少し動くだけで結果が変わるので、次のポイントを聞けると安心です。

確認したいポイント なぜ大事? 売主が聞きやすい質問例
将来の利益の前提 予測が強気か慎重かで評価が大きく変わる 「売上や利益の伸びは、どんな前提で置いていますか?」
予測期間 何年分を見るかで“将来価値”の重みが変わる 「何年分の計画で見ていますか?その理由は何ですか?」
投資やコストの見込み 採用・設備・広告などの見込みで利益が変わる 「今後の採用や投資は、どの程度織り込んでいますか?」
リスクの置き方 不確実さを強く見れば、現在価値は小さくなる 「リスクはどこが大きいと見ていて、数字にどう反映していますか?」
“現状維持”か“成長”か 成長前提かどうかで評価レンジが変わりやすい 「成長はどのくらい織り込んでいますか?織り込まない場合の評価は?」

このときのコツは、細かい計算式を追いかけるよりも、前提がどこで置かれているかを把握することです。評価の話が噛み合わないときは、だいたい「前提」がズレています。

中小企業でブレやすい論点(人依存・景気影響・投資計画)

中小企業の会社売却では、利益から考える評価がブレやすい論点がいくつかあります。ここを理解しておくと、提示額が違ったときに「なぜ?」を落ち着いて整理できます。

  • 人依存(社長・キーパーソンへの依存)
    社長や特定の社員の力量で回っている会社は、買い手が「引き継いだあとも同じように稼げるか」を慎重に見ます。引き継ぎの設計(誰が何を担うか、どれくらいの期間で移すか)が見えるほど、評価の不確実さは下がりやすくなります。
  • 景気・外部環境の影響
    市況に左右されやすい業種や、特定の業界に依存している場合、将来利益の見立てが保守的になりがちです。売主側としては、「悪いときでもどう耐えてきたか」「売上の柱が複数あるか」など、安定性を説明できる材料があると話が早くなります。
  • 投資計画(採用・設備・広告など)
    今後の成長に投資が必要な会社ほど、短期の利益は減りやすくなります。買い手が投資をどう織り込むかで評価が変わるため、売主側も「何に、いつ、どれくらい投資が必要か」「投資するとどう利益が変わるか」をざっくりでも言えると、前提のすり合わせがしやすくなります。

利益から考える評価は、「将来の稼ぐ力」を見られるぶん、会社の良さを説明できれば強みになります。一方で、将来の前提があいまいなままだと、買い手は安全側に倒して数字を置きやすいです。だからこそ、評価の金額を聞いたときは、「この数字は、どんな前提で出ていますか?」を丁寧に確認するだけでも、交渉の見え方が変わってきます。

似た会社と比べる評価(「相場の倍率」で見る)

会社売却の話でよく出てくるのが、「相場は利益の◯倍くらいです」のような言い方です。これは、世の中の似た取引事例や市場感を参考にして、「ある指標 × 倍率(マルチプル)」で価値の目安を作る考え方です。

この方法の良いところは、難しい将来予測を細かく作らなくても、“ざっくりの相場感”を早めにつかめる点です。一方で、倍率は固定の数字ではなく、会社の状況や見られ方で動きます。だからこそ、倍率そのものを暗記するより、「なぜその倍率になるのか」を理解しておく方が安心につながります。

マルチプル(倍率)って何?ざっくりの読み方

マルチプル(倍率)は、簡単に言うと「この会社は、その指標の何年分くらいの価値があると見られているか」という発想です。

たとえば「利益の5倍」と言われたら、ざっくりは「今の利益が同じように続くなら、5年分くらいの価値を見ている」というイメージに近いです(もちろん、実際はリスクや成長も含めて判断されます)。

ここで大事なのは、倍率は“相場の数字”であって、あなたの会社の確定価格ではないということです。倍率は、買い手側の見立て(リスクの見え方、統合のしやすさ、成長の期待など)によって変わります。なので、倍率を聞いたらまずは「その倍率の根拠は何ですか?」と聞けると、話が一気に分かりやすくなります。

何に倍率を掛けるのか(売上/利益/EBITDAなど)

倍率は、何に掛けるかで意味が変わります。代表的には売上利益、そしてEBITDAなどが使われます。

ただ、ここで無理に専門用語を覚える必要はありません。ポイントは、「その指標は、会社の稼ぐ力をちゃんと表しているか」と、「一時的な数字になっていないか」です。

倍率を掛ける対象 ざっくり何を表す? 使われやすい場面 注意しやすい点
売上 事業規模の大きさ 利益が不安定/先行投資中で利益が薄い 売上があっても利益が残らないと違和感が出やすい
利益(営業利益など) いまの収益力 利益が安定している/説明がシンプル 一時的な費用・収益でブレることがある
EBITDA 本業の稼ぐ力の目安(ざっくり) 設備投資が大きい/減価償却の影響をならしたい 定義の取り方で数字が変わるので“何を含めたか”確認が必要

EBITDAは聞き慣れないかもしれませんが、ざっくり言えば「本業でどれくらい稼げているか」を見やすくするための指標として使われることがあります。売主としては、用語を覚えるより、「このEBITDAは、どの数字を足し引きして作っていますか?」と確認できれば十分です。定義が会社ごとに微妙に違うことがあるため、ここを曖昧にしたまま進むと混乱しやすいです。

倍率が変わる主な理由(成長性・安定性・再現性)

同じ業種でも、倍率が高くなる会社と低くなる会社があります。よくある違いは、次の3つです。

  • 成長性
    伸びる余地が大きい会社ほど、買い手は将来の上振れを期待しやすく、倍率が上がりやすい傾向があります。逆に、頭打ちに見えると慎重になりやすいです。
  • 安定性
    売上・利益が安定している(波が小さい)ほど、将来の見立てが立てやすく、倍率が上がりやすくなります。特定顧客への依存が強い、案件が単発中心、景気の影響を強く受ける場合は、下がりやすい方向に働きます。
  • 再現性
    社長の個人技ではなく、仕組みやチームで回っている会社は「引き継いでも同じように動く」と見られやすく、倍率が上がりやすいです。逆に、キーパーソンが抜けると止まりそうだと、倍率は慎重になります。

倍率の話が出たときに役立つのは、「うちは何倍が普通ですか?」と聞くより、「どの点が評価されて倍率が上がっていますか?逆に、倍率を下げている懸念はどこですか?」と聞くことです。こう聞くと、買い手の見立てが具体的に見えるようになり、次にどう動けばいいか(説明を補うのか、条件を調整するのか)が判断しやすくなります。

資産から考える評価(「会社に残っているもの」で見る)

会社売却の評価は「将来の稼ぐ力」だけで決まるわけではありません。もう一つよく使われるのが、「会社に今残っているもの(資産)」を土台にして価値を見立てる方法です。

この考え方は、言い換えると「今この会社を引き継いだとき、会社の中に何が残っていて、何を背負うことになるのか」を見るイメージです。利益の見通しが立てづらい会社でも、まずは土台を作りやすいので、実務でも登場しやすい見方です。

純資産ベースの考え方(資産−負債のイメージ)

資産から考える評価の基本は、資産 − 負債です。これを純資産(じゅんしさん)と呼ぶことがありますが、ここでは難しく考えず、「会社に残っているものから、借金などの支払い義務を引いた残り」くらいの理解で大丈夫です。

たとえば、会社に現預金や売掛金、在庫、設備などがあり、一方で借入金や買掛金などの負債がある。これらを差し引いたときに、プラスが大きいほど「会社の土台が厚い」と見られやすくなります。

この見方が役に立つのは、買い手が「この会社を買った瞬間に、会社の中に何が残るのか」を具体的にイメージできるからです。特に現預金が多い借入が少ない資産がしっかりある会社は、土台として評価を説明しやすくなります。

帳簿の数字だけでは足りない場面(含み損益・評価替え)

ただし、資産から考える評価には注意点があります。それは、帳簿に載っている数字が「実際の価値」と一致しないことがあるという点です。

帳簿上は「この金額」と書かれていても、実際に売れる値段や回収できる金額が違うことがあります。代表的な例は次のようなものです。

  • 不動産:購入時の金額や帳簿価額と、今の市場価格がズレることがある(上がっている場合も、下がっている場合もあります)
  • 在庫:帳簿上は価値があっても、実際には売れにくい・陳腐化している場合がある
  • 売掛金:帳簿上は資産でも、回収が遅い・回収できないリスクがある
  • 設備・機械:帳簿上の価値と、中古市場での価値が一致しないことがある

この「帳簿と実態のズレ」を、実務では含み損益(帳簿に出ていないプラス・マイナス)として意識します。難しく聞こえますが、言いたいことは「帳簿に見えない差があるかもしれない」というだけです。

そのため買い手は、資産評価をするときに「帳簿の数字をそのまま使う」より、実態に近づける調整(評価の見直し)を入れることがあります。売主としても、資産の数字を根拠に話すときは、“帳簿の数字”なのか、“実態に近い数字”なのかを分けておくと、後で話が食い違いにくくなります。

利益が出にくい業種・資産が厚い会社での使われ方

資産から考える評価は、特に次のようなケースで登場しやすいです。

  • 利益が出にくい(または波が大きい)業種
    たとえば、景気や案件タイミングで利益がブレやすい場合、将来利益の見立てが難しくなります。そういうときに、まずは資産−負債で土台を作り、そこから「稼ぐ力」をどう上乗せするか、という発想になりやすいです。
  • 資産が厚い会社
    現預金が多い、在庫や設備、不動産などが大きいなど、会社の中に「形のあるもの」「数値で見えるもの」が多い場合は、資産ベースの見方が説得力を持ちやすいです。買い手にとっても、買った瞬間の安心材料になりやすいからです。
  • 清算価値の意識が強い場面
    買い手が慎重な場合、「最悪の場合でもどれくらい回収できるか」という視点で資産を見ます。ここで土台が薄いと、価格は保守的になりやすいです。

資産から考える評価は、数字の形が見えやすいぶん、安心材料になりやすい一方で、帳簿の数字だけで話を決めてしまうとズレが出やすいという特徴があります。買い手と同じ数字を見ているつもりでも、実は「帳簿ベース」なのか「実態ベース」なのかで前提が違っていることがあるので、資産の話が出たら、「この資産は帳簿の数字ですか?実態に合わせた調整後ですか?」と確認できると安心です。

実務では「調整」が入る(ここで金額が動きやすい)

評価の話を聞いていると、「利益の◯倍」「DCFで算出」など、きれいな計算式で出た数字が提示されることがあります。ですが実務では、そのままストレートに当てはめるというより、「この会社の実態に合わせて数字を整える」工程が入ります。これをここでは調整と呼びます。

この調整が入る理由はシンプルで、決算書の数字は税金や社内事情、タイミングの影響を受けやすく、「本当にこの会社がどれくらい稼げるのか」「買い手が引き継いだとき何が残るのか」をそのまま表していないことがあるからです。

そしてこの調整こそが、売主が「え、そんなに変わるの?」と感じやすいポイントでもあります。ここを押さえておくと、提示額が上下したときに、理由を落ち着いて確認しやすくなります。

利益の調整:一時的な費用・役員報酬・家族給与はどう扱う?

まず金額が動きやすいのが、利益の扱いです。買い手は「この会社を買ったあと、同じように利益が出るか」を見ます。そのため、決算書に出ている利益が一時的な要因で上下している場合、そこをならして考えようとします。

よく論点になりやすいのは、次のような項目です。

  • 一時的な費用(例:一回きりの修繕、訴訟費用、特別なコンサル費など)
    毎年発生するものではないなら、「将来の利益を見積もるときは分けて考えたい」という発想になります。
  • 役員報酬
    オーナー社長の報酬は、税金対策や生活設計の都合で決まっていることが多く、必ずしも「事業運営に必要な水準」と一致しません。買い手は、「引き継いだ後に社長がいないなら、この報酬はどうなるのか」「代わりの経営者を置くならいくらかかるのか」といった視点で見ます。
  • 家族給与
    実際に業務に必要な人件費であれば自然ですが、業務量と比べて金額が大きい/役割が曖昧という場合は、買い手が「引き継いだ後も同じ支出になるか」を確認したくなります。

ここは誤解されやすいのですが、買い手が調整の話をするのは、必ずしも「粗探し」ではありません。“将来の運営に必要なコスト”に近づけたいという動機で整理していることが多いです。

売主としては、相手の言う通りに飲み込む必要はありません。大切なのは、「何を一時的と見て、何を恒常的と見ているか」を確認することです。話が曖昧なままだと、調整が積み重なって数字が小さく見えやすくなります。

現預金・借入の調整:手元資金と有利子負債の見られ方

次に金額に影響しやすいのが、現預金(手元資金)借入の扱いです。会社を買うということは、「事業」だけでなく会社の中身(お金・負債)も一緒に引き継ぐ形になることがあるため、ここは買い手がとても気にします。

まず基本として、現預金が多い=プラス材料になりやすい一方で、借入が多い=マイナス材料になりやすいという方向性があります。ただし、これも単純な足し引きで終わらないことがあります。

  • 手元資金は「どこまで残すのが自然か」
    会社を回すために必要な資金(支払い・仕入れ・給与など)があるため、買い手は「運転に必要な分は残し、それ以上はどう扱うか」という見方をします。
  • 借入は「条件」と「実態」で見られる
    借入があっても、返済が無理なく回っているなら問題になりにくいこともあります。一方で、金利や返済負担が重い、資金繰りに影響している場合は、評価に強く影響します。

ここでよく出てくる言葉に「有利子負債(利息が付く借入など)」がありますが、難しく覚えなくて大丈夫です。売主としては、「この借入は評価の中でどう扱っていますか?」と確認し、現預金と借入がどの前提で計算に入っているかを把握できれば十分です。

運転資金の調整:在庫・売掛金・買掛金が与える影響

最後に、見落とされやすいのに金額が動きやすいのが、運転資金の扱いです。運転資金は、ざっくり言うと「会社を日々回すために必要なお金のかたち」です。

ここでは、特に次の3つが論点になりやすいです。

  • 在庫(仕入れて持っている商品・材料)
  • 売掛金(売ったけど、まだ入金されていないお金)
  • 買掛金(仕入れたけど、まだ支払っていないお金)

これらは、会社によって「通常の水準」が違います。たとえば繁忙期前に在庫が増える業種もありますし、売掛金が月末に膨らみやすいビジネスもあります。

買い手は、引き継いだ直後に資金繰りが苦しくなるのを嫌うので、「通常運転に必要な運転資金がちゃんと残っているか」を見ます。逆に、普段より運転資金が大きく膨らんでいる状態で譲渡すると、買い手から「その増えた分は調整したい」と言われることがあります。

この論点は専門的に見えますが、売主としては次の一言が非常に効きます。「運転資金は、どの月の数字を基準にしていますか?」です。季節性のある会社だと、どの時点を基準にするかで見え方が変わるため、ここを確認するだけで不利な誤解を減らせます。

評価の話が出たら、まずここを確認すると安心

評価の数字を提示されると、どうしても「高い/低い」に意識が引っ張られがちです。ですが、金額そのものより先に、最低限ここだけは確認しておくと、話が一気に整理しやすくなります。

特に、買い手や仲介からの説明が短いときほど、こちらが落ち着いて質問できるかどうかで、後の交渉の安心感が変わります。ここでは、難しい計算式を追いかけずに済むように、“最初に見るべき3点”をまとめます。

どの方法で見ているか(1つだけ?組み合わせ?)

まず確認したいのは、どの評価方法で見ているのかです。評価には複数の見方があり、実務では1つだけで決め打ちするより、組み合わせてレンジを作ることが多いです。

ところが、相手が「利益の◯倍です」とだけ言う場合でも、内心では「資産の状況」や「将来計画」を加味していることがあります。こちらが方法を把握できていないと、後から別の論点が出てきたときに、「話が変わった」と感じて不安になりやすいです。

なので最初に、次のように聞けると安心です。

  • 「今回の評価は、どの見方をベースにしていますか?」
  • 「1つの方法だけですか?それとも複数を組み合わせていますか?」
  • 「他の見方で出すと、どれくらいレンジが変わりますか?」

この確認ができると、金額の“根っこ”が見えるので、次に何を説明すればいいのかも判断しやすくなります。

前提条件は何か(計画・成長率・リスクの置き方)

評価の数字は、前提条件で決まります。言い換えると、同じ会社でも、前提が違えば数字が違って当たり前です。

ここで大事なのは、前提を全部理解することではなく、「どの前提が評価に一番効いているか」を押さえることです。特に確認したいのは、次の3つです。

  • 計画(どんな数字を将来の前提にしているか)
    会社の計画をそのまま織り込んでいるのか、保守的に見ているのかで結果が変わります。
  • 成長率(伸びる前提なのか、現状維持なのか)
    「伸びる」と置けば評価は上がりやすく、「伸びない」と置けば下がりやすいです。
  • リスクの置き方(不確実さをどのくらい強く見ているか)
    人への依存、取引先の集中、景気影響、投資の必要性など、どこをリスクと見ているかで数字が変わります。

前提を確認するときは、難しく聞こえる質問にする必要はありません。たとえば、次のような言い方で十分です。

  • 「この評価の前提は、現状維持ですか?成長も入っていますか?」
  • 「一番大きく効いているリスクは何ですか?」
  • 「前提を変えると、評価はどれくらい動きますか?」

この3つを押さえるだけで、「なぜこの数字なのか」が説明できるようになり、相手の説明が短くても不安が減ります。

その評価は「企業価値」なのか「株式価値」なのか

最後に、意外とここでズレやすいのが、その金額が何の“価値”を指しているのかです。評価の話では、似たような金額に見えても、指している範囲が違うことがあります。

一般的に、次の2つが区別されます。

  • 企業価値:事業そのものの価値(会社が生み出す力)を中心に見たもの
  • 株式価値:最終的に株主(オーナー)に帰ってくる価値

ここでポイントになるのが、借入(負債)や現預金の扱いです。説明が曖昧なまま話が進むと、売主が「提示額=自分の手取り」と思っていたのに、後から「借入は別で考えます」となって、認識がズレることがあります。

なので、金額を聞いたら早い段階で、次の一言を入れておくと安心です。

  • 「この金額は、株式の金額(株式価値)ですか?それとも会社全体(企業価値)の話ですか?」
  • 「借入や現預金は、この数字に含めた上での金額ですか?」

この確認は、相手を疑うためではなく、同じ前提で会話をするためのすり合わせです。ここが揃っているだけで、後半の交渉のストレスがかなり減ります。

オーナー社長が自分で“概算レンジ”をつかむ手順

評価の話は専門家に任せるとしても、オーナー社長が自分で「概算レンジ(このくらいになりそう)」を持っておくと、提示された金額に振り回されにくくなります。

ここで目指すのは、ぴったり当てることではありません。「なぜその金額なのか」を理解できる下地を作り、買い手や仲介と話すときに、落ち着いて質問できる状態にすることです。

以下は、難しい計算をせずに、ざっくりとレンジをつかむための手順です。手元の決算書があれば進められます。

まずは「実態の利益」をざっくり整える(調整のたたき台)

最初にやることは、決算書に出ている利益をそのまま使うのではなく、「この会社の実態として、毎年どれくらい稼げているのか」をざっくり整えることです。ここがブレていると、どんな倍率を掛けても数字が安定しません。

といっても、細かい専門処理は不要です。まずは“調整のたたき台”として、次のような項目があるかをメモするだけで十分です。

  • 一回きりの費用・収益(毎年は起きないもの)
  • 役員報酬(引き継ぎ後も同じ金額が必要か?)
  • 家族給与(役割と金額のバランス)
  • 個人的な支出が混ざっていないか(会社経費になっているもの)

ここで大事なのは、「正解の調整」を作ることではなく、説明できる状態にすることです。買い手が調整を入れてきても、「それは一時的です」「これは引き継ぎ後に必要です」と会話がしやすくなります。

目安としては、直近3期くらいを見て、あまりにブレがある場合は「なぜブレたか」を一言で書けるようにしておくと、実態の利益がつかみやすくなります。

倍率の当て方は1本にしない(強気・標準・保守で3段)

次に、整えた「実態の利益」に、相場感として倍率を当ててみます。このときのコツは、倍率を1本に決め打ちしないことです。

倍率は、買い手の見立て(成長性・安定性・引き継ぎやすさ)で動きます。だから最初から強気/標準/保守の3段で置いておくと、話が現実的になります。

倍率レンジ 考え方のイメージ こういう要素があると近づきやすい
強気 良い前提がそろった場合の上振れ 成長が見える/仕組みで回る/顧客が分散/収益が安定
標準 大きなプラスもマイナスもない現実ライン 安定しているが、伸びしろは説明が必要
保守 慎重に見られた場合の下振れ 人依存/取引先集中/利益の波/投資が必要

倍率の数字そのものは、この段階では「ざっくりでOK」です。目的は、レンジを持ち、提示額が出たときに「どの前提でその位置になったのか」を考えられる状態にすることです。

なお、もし相手が「利益ではなくEBITDAで見ています」と言ってきても、焦らなくて大丈夫です。売主としては、まず「何を基準の数字にして、どんな調整を入れたか」を聞ければ、同じようにレンジを作れます。

最後に「現預金・借入」を足して引いて、見える形にする

最後にやっておきたいのが、現預金借入を入れて、数字を“見える形”にすることです。

評価の話は、相手が会社全体(事業)を見ているのか、最終的にオーナーが持つ株式を見ているのかで、見え方が変わることがあります。ここで混乱が起きやすいので、自分のメモの中では、最低限次の形にしておくと安心です。

  • 事業の価値の目安(=利益×倍率で出したレンジ)
  • + 現預金(会社に残っているお金)
  • − 借入(利息が付く借入など)

厳密な計算ではなくても、「現預金が多いからこの分は上に効く」「借入があるからこの分は下に効く」という感覚が持てるだけで、提示額の納得感が作りやすくなります。

もし、現預金が多い会社や、季節によって運転資金が大きく動く会社であれば、なおさら「どの時点の残高を見ているか」を意識するのがおすすめです。月末や繁忙期で数字が大きく変わることがあるため、相手と前提がズレると、同じ会社なのに話が噛み合わなくなります。

よくあるつまずき(不安になりやすいポイント)

評価の話は、数字が出てくるぶん、どうしても不安が強くなりやすいです。しかも相手の説明が短いと、「なんとなく安く見られている気がする」という感覚だけが残ってしまうこともあります。

ここでは、会社売却の現場でよく起きるつまずきを3つ取り上げます。どれも、専門知識がなくても“確認の順番”さえ押さえれば、落ち着いて整理できます。

提示額が低い気がする…どこを見れば理由が分かる?

まず結論から言うと、提示額が低く見えたときは、いきなり「安すぎませんか?」と返すより、“どこで数字が削られているか”を順番に確認した方が、話が早く進みます。

見るべきポイントは、大きく3つです。

  • 基準にしている利益(または指標)が何か
    決算書の利益そのままなのか、調整後の利益なのか。もし調整しているなら、何をどう調整したのかが肝です。
  • 倍率(またはリスクの見立て)がどう置かれているか
    「利益の◯倍」と言われた場合、その倍率の根拠はどこにあるのか。リスクが強く見られていると倍率は下がりやすいです。
  • 現預金・借入・運転資金がどう扱われているか
    事業の価値の話なのか、株式の金額の話なのか。借入をどう引いているか。運転資金をどう見ているか。ここがズレると、数字の印象が大きく変わります。

確認の仕方は、次のような言い方が角が立ちにくいです。

  • 「この金額は、どの利益(または指標)を基準にしていますか?」
  • 「調整している場合、主な調整項目を教えてください」
  • 「倍率(またはリスクの置き方)は、何を根拠にしていますか?」
  • 「現預金・借入・運転資金は、この数字にどう反映していますか?」

相手の回答を聞くときは、全部を理解する必要はありません。「利益」「倍率(リスク)」「現預金・借入」のどこが主因なのかが分かれば、次に打てる手(説明を補う、前提を直す、条件を調整する)が見えてきます。

DCFと言われたけど難しい…最低限の確認項目は?

DCFという言葉が出たときに、無理に計算式を理解しようとすると疲れてしまいます。売主として最低限押さえたいのは、「そのDCFは、どんな前提で作られているか」です。

ここは、以下の4つだけ確認できれば十分です。

最低限の確認項目 なぜ重要? そのまま使える質問
将来の数字の前提 売上・利益の見立てが強気か保守かで大きく変わる 「将来の売上・利益は、どんな前提で置いていますか?」
何年分で見ているか 期間が違うと“将来価値”の重みが変わる 「何年分の計画で見ていますか?その理由は?」
投資・コストの織り込み 採用や設備投資をどう見るかで利益が変わる 「今後の投資や採用は、どの程度織り込んでいますか?」
リスクの置き方 不確実さを強く見れば、現在価値は小さくなる 「一番大きいリスクは何で、数字にはどう反映していますか?」

もし相手の説明が長くなりそうなら、最後にこう聞くと一気に整理できます。「この前提を1つ変えると、評価はどれくらい動きますか?」。これで“効いているポイント”が分かります。

評価の説明があいまい…質問していい“聞き方”は?

評価の説明があいまいなとき、「詳しく教えてください」と言っても、相手がまた曖昧に返してしまうことがあります。こういうときは、質問を“具体的に、短く”すると通りやすいです。

そしてもう1つ大事なのが、相手を責める言い方にしないことです。目的は論破ではなく、同じ前提で会話をすることなので、次のような言い回しが使いやすいです。

  • 「私の理解が合っているか確認したいのですが…」
  • 「判断のために、前提だけ教えてください」
  • 「どこが一番評価に効いているか、1つだけ挙げるならどれですか?」

具体的な質問の“型”としては、この3点が強いです。

  • 「基準にしている数字は何ですか?」(利益/売上/EBITDAなど)
  • 「前提は何ですか?」(成長/現状維持/投資の見込み/リスク)
  • 「この数字は何の価値ですか?」(企業価値/株式価値、借入や現預金の扱い)

この聞き方をすると、相手が説明できる人かどうかも見えます。もしそれでも答えがふわっとしているなら、あなたが悪いのではなく、説明の解像度が足りていない状態です。質問すること自体は失礼ではありません。むしろ、会社売却という大きな意思決定では、分からないまま進めない姿勢が、後で自分を守ってくれます。

評価の説明が弱いときに、抱え込まないための考え方

評価の数字を出されても、理由の説明が薄いと、売主としては不安になります。

「相場です」「このくらいが一般的です」と言われても、どこがどう効いてその金額になったのかが分からないと、納得しようがありません。ここで怖いのは、分からないまま進めてしまい、後から「そんなつもりじゃなかった」と感じることです。

この章では、説明が弱いときに自分だけで抱え込まないための考え方を整理します。大切なのは、相手を疑うことではなく、同じ前提で会話できる状態を作ることです。

「根拠の言語化」がない評価は、そのまま飲み込まない

評価の数字には、必ず前提があります。前提がある以上、根拠の説明がない評価は、正しい・間違い以前に、判断材料として不足しています。

たとえば、次のような状態は注意が必要です。

  • 「相場だから」の一言で終わる
  • どの数字を基準にしたのか(利益/売上など)が曖昧
  • 倍率やリスクの置き方が説明されない
  • 現預金・借入の扱いが不明なまま金額だけ提示される

このとき、売主が遠慮して「分かりました」と飲み込むと、後から条件交渉の場面で不利になりやすいです。なぜなら、根拠が共有されていないと、どこを直せば金額が動くのかが見えず、交渉の土台が作れないからです。

根拠を求めることは、失礼ではありません。会社売却は人生の大きな意思決定なので、むしろ「根拠を言葉にしてもらう」のは自然な行動です。言い方としては、次のように柔らかく聞けます。

  • 「判断材料として、前提だけ教えてください」
  • 「私の理解が合っているか確認したいので、根拠を簡単に整理してもらえますか?」
  • 「この金額に一番効いている要素は何ですか?」

論点を3つに分ける(利益・倍率・現預金/借入)

説明が弱いときほど、話がごちゃつきやすいです。そんなときは、論点を3つに分けると、整理しやすくなります。

評価の話は、突き詰めると多くの場合、次の3点に落ちます。

  • 利益(基準となる稼ぐ力の数字)
  • 倍率(またはリスクの置き方)
  • 現預金・借入(お金と負債の扱い)

相手の説明が曖昧でも、この3点を順番に聞けば、自然と根拠が見えてきます。たとえば、質問をこの順で投げるだけで十分です。

  • 「まず、どの利益(または指標)を基準にしていますか?」
  • 「次に、その倍率(またはリスクの置き方)の根拠は何ですか?」
  • 「最後に、現預金や借入はこの数字にどう反映していますか?」

この形で聞くと、相手も答えやすく、こちらも受け止めやすいです。逆に言うと、この3点に答えられないまま「いくらです」と言われても、売主は納得しづらいのが自然です。

第三者に頼るべきライン(税務・会計・M&A実務の切り分け)

評価の説明が弱いとき、売主が一人で抱え込む必要はありません。むしろ、頼るべきポイントは早めに切り分けた方が安全です。

ただし、第三者に相談するといっても、論点によって適した相手が違います。ざっくり分けると、次の3つです。

困りごと 相談の向き先 理由(何を見てくれる?)
役員報酬・家族給与・決算書の調整が絡む 税務・会計の専門家 決算書の数字の意味や、実態利益の整理が得意
倍率の妥当性、リスクの見られ方が分からない M&A実務の経験者 買い手目線の評価ポイントや交渉の論点整理が得意
現預金・借入・運転資金の扱いが噛み合わない M&A実務+会計の両面 「企業価値/株式価値」の整理と、数字のつなぎ込みが必要

「まだ相談するほどでは…」と感じるかもしれませんが、次のような状態なら、早めに外の視点を入れた方が安心です。

  • 説明が抽象的なまま、話だけが前に進む
  • 質問しても、根拠がはっきりしない
  • “どの数字が何を意味しているか”が噛み合っていない
  • 提示額が大きく動いたのに、その理由が説明されない

評価の話は、売主の人生に直結するテーマです。だからこそ、遠慮して抱え込むより、根拠を言葉にしてもらい、必要なら第三者の視点で整理する方が、納得できる判断につながります。

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