
東京都では、毎年どれくらいの会社が事業をやめているのでしょうか。
会社が市場から姿を消す場面として、まず「倒産」を思い浮かべる方は多いかもしれません。しかし、実際には倒産よりもはるかに多くの企業が、法的整理に至る前に事業を止め、会社を解散しています。
帝国データバンクの調査によると、2025年に東京都で休業・廃業、解散を行った企業は1万5,806件でした。前年から4.5%増え、3年連続の増加です。現在の基準で集計が始まった2016年以降では、過去最多を更新しました。
ただし、この数字だけを見て「東京の会社は急に経営が悪化した」と判断するのは正確ではありません。休廃業・解散には、赤字や債務超過によって事業を続けられなくなった会社だけでなく、黒字や資産超過の状態で自ら事業を終えた会社も含まれるからです。
この記事では、東京都の休廃業・解散件数を2016年から2025年までの10年推移で確認します。そのうえで、どの時期に流れが変わったのか、なぜコロナ禍よりもその後に件数が増えたのか、「静かな退場」という言葉が何を表しているのかを読み解きます。
この記事の結論
東京都の休廃業・解散は、2016年から2022年までは年間約1万2,000件で推移していました。ところが2023年から急増し、2025年には1万5,806件となりました。2022年から3年間の増加率は約34.1%です。東京では、倒産として表面化する前に事業を終える企業が明確に増えています。
東京都の休廃業・解散は2025年に1万5,806件
2025年に東京都で休業・廃業、解散を行った企業は、個人事業主を含めて1万5,806件でした。2024年の1万5,126件から680件増え、前年比では4.5%の増加です。
2023年は1万3,376件、2024年は1万5,126件、2025年は1万5,806件です。これで3年連続の増加となり、2016年以降の現行基準では3年続けて最多件数を更新したことになります。

2025年の東京都の企業倒産は1,740件でした。休廃業・解散は、その約9.1倍です。両方を単純に合計すると、2025年には東京都で1万7,500社を超える企業が市場から退出した計算になります。
倒産件数だけを見ていても、会社が市場から退出する動きの全体像は分かりません。表立った法的整理の背後で、その約9倍の企業が休廃業・解散という形で活動を終えています。
10年間の件数を一覧で確認する
帝国データバンクが現行基準で集計した東京都の休廃業・解散件数は、次のとおりです。
| 年 | 件数 | 前年比 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 2016 | 12,789件 | ― | 現行基準の開始年 |
| 2017 | 12,461件 | ▲2.6% | 減少 |
| 2018 | 12,398件 | ▲0.5% | ほぼ横ばい |
| 2019 | 12,350件 | ▲0.4% | ほぼ横ばい |
| 2020 | 12,106件 | ▲2.0% | コロナ禍でも減少 |
| 2021 | 12,123件 | +0.1% | ほぼ横ばい |
| 2022 | 11,786件 | ▲2.8% | 10年間で最少 |
| 2023 | 13,376件 | +13.5% | 増加へ転換 |
| 2024 | 15,126件 | +13.1% | 初の1万5,000件台 |
| 2025 | 15,806件 | +4.5% | 過去最多 |
この表から分かるのは、10年間を通して少しずつ増えたのではなく、2022年までの安定期と、2023年以降の急増期がはっきり分かれていることです。
2016年から2022年までの7年間の平均は約1万2,288件でした。これに対し、2025年は1万5,806件です。コロナ前を含む安定期の平均より約3,518件、率にして約28.6%多い水準です。
10年推移は三つの期間に分けると理解しやすい
2016~2019年:緩やかに減少した安定期
2016年の1万2,789件から、2017年は1万2,461件、2018年は1万2,398件、2019年は1万2,350件へ推移しました。4年間で439件、約3.4%の減少です。
年ごとの変化は小さく、2018年は前年比0.5%減、2019年は0.4%減でした。この期間は毎年1万2,000件台の企業が退出していましたが、急増局面ではありませんでした。
一方、2016年時点ですでに年間1万2,000件を超えていた点も重要です。「静かな退場」は2023年に突然始まった現象ではなく、以前から一定数の会社が倒産とは異なる形で市場から退出していました。
2020~2022年:コロナ禍でも件数は増えなかった
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの事業者が大きな影響を受けました。それでも東京都の休廃業・解散は1万2,106件で、前年から2.0%減少しています。
2021年も1万2,123件とほぼ横ばいでした。2022年は1万1,786件まで減り、現行基準の10年間では最も少なくなっています。
背景には、持続化給付金、雇用調整助成金、各種協力金、実質無利子・無担保融資など、官民による大規模な資金繰り支援がありました。売上が急減した企業でも、給付や融資で当面の資金を確保できたため、休廃業や解散を急がずに済んだと考えられます。
統計を読むポイント:コロナ禍では経営課題がなくなったのではなく、支援策によって倒産や廃業の時期が後ろにずれた企業がありました。2022年の低い件数は、その後の増加を考える重要な基準点です。
2023~2025年:流れが変わり、3年で34.1%増加
2023年は1万3,376件となり、前年から1,590件、13.5%増えました。2024年はさらに1,750件増え、前年比13.1%増の1万5,126件です。2025年は増加率こそ4.5%に鈍化したものの、680件増えて1万5,806件となりました。
2022年から2025年まで、わずか3年間で4,020件、約34.1%増えています。10年間の変化の大部分は、2023年以降の3年間に集中しています。
なぜコロナ禍ではなく、2023年以降に増えたのか
2023年以降の急増は、一つの原因だけでは説明できません。複数の問題が重なり、事業継続の判断を難しくしたと考えられます。
資金繰り支援の縮小と返済開始
コロナ期に企業を支えた給付金や協力金は、経済活動の正常化とともに終了・縮小しました。実質無利子・無担保融資を利用した企業では、据置期間が終わり、元本返済が始まる時期も重なりました。
売上が十分に戻っていない企業にとって、借入金の返済は毎月の資金繰りを圧迫します。確保された時間の中で収益構造を改善できなかった場合、事業継続を見直さざるを得ません。
原材料・人件費・電気代の上昇
原材料、商品仕入れ、物流費、電気代、人件費など、多くのコストが上昇しました。売上が同じでも以前と同じ利益を残しにくくなっています。
中小企業では、取引関係や競争環境からコスト上昇分を販売価格へ十分に転嫁できないことがあります。黒字でも利益が縮小し、設備更新や採用へ資金を回せなければ、中長期の継続は難しくなります。
人手不足と設備の老朽化
受注や顧客があっても、必要な人材を採用できなければ事業は続けられません。経営者自身が現場を支える会社では、経営者の年齢や体調が事業継続に直結します。
また、機械、車両、店舗、システムなどの更新にはまとまった資金が必要です。将来の売上を見通しにくい状況で多額の投資に踏み切れず、故障や契約更新をきっかけに事業を終えるケースもあります。
高齢化と後継者問題
2025年に休廃業・解散した東京都企業の代表者平均年齢は69.7歳でした。70代が28.8%、80代以上が26.2%を占めます。
業績だけを見れば続けられる会社でも、後継者が決まっていなければ、経営者の引退と同時に事業を終える可能性があります。コロナ期の支援は資金繰りを助けましたが、後継者問題を解決するものではありませんでした。
「休廃業・解散」は倒産と同じではない
休廃業は企業活動が止まっている状態
帝国データバンクは「休廃業」を、倒産などの法的整理を行わず、企業活動が停止したことを確認できた状態として集計しています。廃業届を提出したケースのほか、調査時点で活動が止まっているケースも含まれます。
将来の再開可能性まで否定するものではありません。また、休廃業後に法的整理へ移行した場合は、倒産として再集計されることがあります。
解散は会社を清算する段階へ入ること
会社の解散は、法人が通常の営業活動を終え、清算手続きへ入ることです。解散しただけで法人格が直ちに消えるわけではありません。
解散後は債権回収、債務の支払い、資産売却、残余財産の分配を行い、清算結了の登記で法人格が消滅します。
倒産は事業継続が行き詰まった状態
倒産には法律上の単一定義はありませんが、一般には債務の支払いができないなど、事業継続が困難になった状態を指します。一方、休廃業・解散には、借入金を返済し、従業員や取引先への対応を済ませ、自主的に会社を終えるケースも含まれます。
休廃業・解散件数の増加を、そのまま経営破綻の増加と読み替えることはできません。
2025年の数字から見える「余力を残した退出」

71.8%は資産超過だった
休廃業・解散した企業のうち、総資産が債務を上回る「資産超過型」は71.8%でした。帳簿上の資産をすべて換金できるとは限りませんが、債務超過の会社だけが休廃業しているわけではありません。
資産超過でも、現預金不足、換金しにくい資産、設備投資負担などの問題は起こります。それでも、資産をすべて失った後ではなく、一定の余力がある段階で終える会社が多い点は重要です。
52.1%は直前期が黒字だった
休廃業・解散直前の決算で当期純損益が黒字だった企業は52.1%でした。詳しい意味はT01「東京都の黒字廃業」で扱っているため、ここでは繰り返しません。T02で押さえるべきなのは、増加が赤字企業の退出だけで起きているわけではないことです。
代表者平均年齢は69.7歳だった
休廃業・解散時の代表者平均年齢は69.7歳で、前年より1.1歳上昇しました。最も件数が多かった年齢は76歳です。単年度の利益が出ていても、経営者が高齢になり後継者が決まっていなければ、事業継続は難しくなります。
なぜ「静かな退場」と呼ばれるのか
倒産は、裁判所での手続きや債権者への影響を伴うため、ニュースや倒産情報で公表されることがあります。一方、休廃業・解散は、経営者が自ら判断し、取引先や従業員へ個別に説明しながら進めるケースが中心です。
店舗が閉まり、法人登記が変わり、取引が終わっても、法的整理でなければ大きく報道されません。年間1万5,000社を超える企業が退出していても、社会からは見えにくいままです。これが「静かな退場」と呼ばれる理由です。
静かであっても影響は小さくありません。会社がなくなれば、技術、従業員の経験、顧客関係、仕入先との取引、許認可、ブランドなどが失われる可能性があります。
10年推移を読むときの三つの注意点
古い公表値と現行基準を混ぜない
帝国データバンクは2020年に集計対象と基準を一部変更し、2016年まで遡って再集計しています。そのため、変更前に公表された過去資料と、現在の10年推移の件数が異なる場合があります。
年ごとの増減は同じ基準で比較しなければなりません。本記事では、2022年および2025年の東京都調査に掲載された現行基準の数値へ統一しています。
個人事業主も含まれる
この統計には法人だけでなく個人事業主も含まれます。「1万5,806社すべてが株式会社などの法人」という意味ではありません。また、行政へ提出された廃業届だけを数えた統計とも異なります。
件数だけで他地域と比較しない
東京都は企業数そのものが多いため、休廃業・解散件数も多くなります。件数だけで「東京は全国で最も廃業しやすい」とは言えません。
全国比較はT03、23区と多摩の違いはT04の担当テーマです。この記事では東京都内の10年推移に範囲を限定します。
経営者は統計をどう受け止めればよいか

休廃業・解散が過去最多になったからといって、廃業という判断自体が間違いなのではありません。赤字拡大や債務超過を避け、従業員や取引先への影響を抑えながら会社を終えることも重要な経営判断です。
一方、半数超が黒字で、7割超が資産超過だったことを考えると、別の選択肢を検討できる段階で退出した会社もあったと考えられます。
会社を閉じる場合には、設備・在庫の処分、原状回復、従業員対応、契約解約、税務・登記手続きなどが必要です。その前に、会社や事業を第三者へ引き継げないか確認する余地があります。会社全体の株式譲渡が難しくても、顧客、店舗、従業員、技術、ブランド、許認可などに引き継ぐ価値が残る場合があります。
すべての会社に買い手が見つかるわけではありません。だからこそ、資金も時間もなくなってからではなく、黒字や資産超過のうちに、継続・承継・売却・廃業の選択肢を比較することが重要です。
まとめ|東京では2023年から「静かな退場」が急増した
- 2016~2019年は1万2,000件台で緩やかに減少
- 2020~2022年は支援策により低い水準で推移
- 2023年から増加へ転じ、3年連続で最多更新
- 2022~2025年の3年間で4,020件、約34.1%増加
- 2025年の休廃業・解散は倒産件数の約9.1倍
この10年間は、休廃業・解散が少しずつ増えた期間ではありません。2022年までの安定した流れが、2023年を境に明確に変わりました。
2025年に休廃業・解散した企業の71.8%は資産超過、52.1%は直前期が黒字でした。経営が完全に破綻してからではなく、余力のあるうちに事業を終える「静かな退場」が東京で増えています。
会社を終えることを考え始めた段階では、廃業だけに選択肢を絞る必要はありません。KAKEHASHIでは売主側に立ち、会社や事業に第三者へ引き継げる価値があるかを整理します。会社売却の可能性を確認してから廃業を判断したい方は、早い段階でご相談ください。
主な出典
・帝国データバンク「東京都・休廃業・解散動向調査(2025年)」
・帝国データバンク「東京都内企業・休廃業・解散動向調査(2022年)」
・帝国データバンク「全国企業・休廃業・解散動向調査(2025年)」