会社売却を進めていて、売買契約書(会社売却の契約書)のドラフトを受け取ったとき、最初に感じるのは「どこを見ればいいのか分からない」という不安かもしれません。文章が長くて、見慣れない言葉も多く、つい後回しにしたくなるのも自然です。
ただ、売買契約書は「売却価格を書くだけの書類」ではありません。いつ・どんな条件で会社を引き渡すのか、そして売却後に何か問題が起きたとき、売主がどこまで責任を負うのかまで、まとめて決める“最終ルール”になります。ここをよく分からないまま進めると、あとから「そんな約束だったの?」と揉める火種になりやすいのが正直なところです。
この記事では、売買契約書を読むときに売主として必ず押さえたいポイントを、できるだけかみ砕いて整理します。法律の細かい解説を覚えることが目的ではありません。読む順番や見落としやすい箇所を知って、「何を確認し、何を相談すべきか」が判断できる状態を目指します。
サインの直前で焦らないために、まずは全体像から一緒に掴んでいきましょう。
会社売却の「売買契約書」って、結局なにを決める書類?
会社売却を進めていると、途中で「売買契約書(会社売却の契約書)」という大きな書類が出てきます。ページ数も多く、読むだけで疲れてしまう…という方も少なくありません。
でも、ここは避けて通れません。売買契約書は、ひと言でいうと「会社売却の最終ルールを確定させる書類」です。価格だけでなく、条件や責任まで含めて“何が約束で、何が約束ではないか”をはっきりさせます。
口約束と違って「あとから揉めないため」の最終ルールになる
交渉中は、電話や面談、メールでいろいろな話が進みます。
たとえば、こんなやり取りが起きがちです。
- 「その条件は大丈夫です」
- 「それくらいなら柔軟に対応します」
- 「まあ常識の範囲で」
ただ、こうした言葉は人によって受け取り方が違うことがあります。売る側は「問題ないと言っていた」と思っても、買う側は「確約したわけではない」と考えている、というズレが起きやすいです。
売買契約書は、そのズレを埋めるためにあります。交渉の結果を文章で確定させ、“どちらが正しいか”で揉める余地を減らすためのものです。
ここで大事なのは、「言った・言わない」を防ぐために、あえて細かく書くという発想です。細かさは意地悪ではなく、後のトラブルを防ぐための保険に近いものです。
「価格の紙」ではなく、責任と条件まで決めるのが本質
売買契約書は「いくらで売るか」だけを書く紙ではありません。むしろ、価格以外の部分が本体と言ってもいいくらいです。
具体的には、次のようなことがまとまって決まります。
| 決まること(例) | 売主にとっての意味 |
|---|---|
| 売却の成立条件(何が揃えば取引が成立するか) | 「いつ売れるか」「どこで止まる可能性があるか」が見える |
| 引渡し日(クロージング)までに守る約束 | 交渉中にやっていいこと・ダメなことが決まる場合がある |
| 売主が伝える内容の範囲(表明保証など) | 売却後に問題が出たときの責任に直結しやすい |
| 情報の扱い(秘密保持) | 売却後も含めて、何を話していいかが制限されることがある |
| 違反したときの扱い(解除・損害の扱いなど) | 万一のときに、売主がどんな不利益を受ける可能性があるかが分かる |
つまり、売買契約書は「売却を成立させるための条件」と「売却後の責任の線引き」をセットで決める書類です。
売主としては、価格だけに目が行きがちですが、実務的には“責任の重さ”と“条件の厳しさ”のほうが後から効いてくることもあります。だからこそ、ここは丁寧に見ておきたいポイントです。
サインした瞬間から、売主の義務が動き出すことがある
「引渡しはまだ先だし、サインしただけでは何も変わらない」と感じる方もいます。ですが、契約によっては、サインした瞬間から売主が守るべき約束が始まることがあります。
たとえば、よくあるのは次のような内容です。
- ふだん通りの経営を続ける(大きな変更をしない、勝手に重要な判断をしない)
- 重要なことがあれば買主に共有する(大きな取引、トラブル、主要メンバーの退職など)
- 買主が進める準備に協力する(必要な資料提供、確認への対応など)
こうした約束があると、売主側は「いつも通りやっているつもり」でも、契約上は注意が必要になります。
また、契約によっては、サイン後に条件が整わない場合のルール(解除や延期など)も書かれます。つまり、サインはゴールではなく、次の段階に進む“スタートの合図”になり得ます。
だからこそ、この章で覚えておいてほしいのは、次の一点です。
売買契約書は「価格を確定する紙」ではなく、売却前から売却後までの“約束ごと”を確定する最終ルールです。
サインした瞬間から、売主の行動に影響が出る場合もあります。
この理解があるだけで、売買契約書の読み方が変わります。「全部読むのが大変」という方でも、何のために読むのかがはっきりすると、確認すべきポイントが見えやすくなります。
売買契約書の全体像をつかむ(よくある構成)
売買契約書は、最初に見たとき「文字が多すぎて、どこから読めばいいか分からない」と感じやすい書類です。ですが、安心してください。多くの契約書は、だいたい同じような並び(型)で作られています。
まずは細かい条文を追う前に、全体がどういう部品でできているかを押さえるだけで、読みやすさがぐっと上がります。
前文・定義・本文・別紙の関係を先に押さえる
売買契約書は、ざっくり言うと次の4つのブロックでできていることが多いです。
- 前文:誰と誰が、何のために契約するのか(取引の前提)
- 定義:この契約書の中で使う言葉の意味を決める場所
- 本文:約束ごとの本体(やること・守ること・責任など)
- 別紙(添付資料):個別の一覧や詳細をまとめて載せる場所
ここで大事なのは、本文と別紙はセットで1つの契約だという点です。
たとえば本文に「別紙◯◯に記載のとおり」と書かれていたら、その別紙に書かれた内容も、本文と同じ強さで約束ごとになります。別紙は「参考資料」ではなく、契約の一部として扱われるのが基本です。
なので、最初に全体をめくって、別紙が何枚あるか/どんなタイトルの別紙が付いているかを確認するだけでも、見落としを減らせます。
ポイント:売買契約書は「本文だけ読めばOK」ではありません。
本文+別紙をセットで読むのが基本です。
「本文に書くこと」「別紙に寄せること」の違い
読んでいると、「同じような情報が本文にあったり、別紙にあったりして混乱する」ということがあります。これは、役割が違うからです。
イメージとしては、本文はルール(枠組み)、別紙はその中身の一覧(個別情報)です。
- 本文:ルール・条件・責任・手続き(「どうするか」)
- 別紙:一覧・明細・例外・対象範囲(「何が対象か」)
たとえば、「売主が開示した事項は別紙に記載する」といった形で、本文では“書き方のルール”を決め、別紙で“実際の内容”を書きます。
ここで注意したいのは、別紙が“後から差し替えられやすい”ことです。ドラフトのやり取りをしていると、本文の修正は目につくのですが、別紙の更新は見落とされがちです。
売主としては、次の点を意識すると安全です。
- 別紙の版(更新日・バージョン)が最新か
- 本文の「別紙参照」の番号がズレていないか
- 最後のドラフトで、別紙が空欄のままになっていないか
「本文は整っているのに、別紙が未完成だった」という状態でサインしてしまうと、あとから不安が残りやすいです。
本文を読んだら、必ず別紙もセットで確認する。この習慣だけでも、契約書の安心感は変わります。
読み方のコツは“金額・条件・責任”の3点から当てること
全部を順番に精読しようとすると、途中で疲れてしまうことがあります。そんなときは、読み方を変えてしまうのがおすすめです。
売主として、まず当てにいくべきは次の3点です。
- 金額:いくらで、いつ、どう支払われるか
- 条件:何が揃えば成立するのか/いつまでに何をするのか
- 責任:売却後に問題が出たとき、売主がどこまで負うのか
この3点は、契約書の中で散らばって書かれていることも多いのですが、逆に言うと、ここさえ押さえれば「怖い部分」はだいたい見えてきます。
読み進めるときは、次のように線引きしていくと整理しやすいです。
- 金額に関係する条文(価格、支払方法、調整など)
- 条件に関係する条文(条件、期限、解除など)
- 責任に関係する条文(表明保証、補償、上限など)
そして、分からない表現が出てきたら、いきなり悩まずに「定義」に戻るのがコツです。契約書は、言葉の意味を先に決めてから進む設計になっていることが多いので、定義を見れば「あ、こういう意味で使っているのか」と腑に落ちる場面がよくあります。
読み方のコツ:全部を完璧に理解しようとしなくて大丈夫です。
まずは「金額・条件・責任」の3点に当たりをつけて、気になる条文を拾っていくと、読み疲れが減ります。
売買契約書は、読み方さえ分かれば「怖い書類」から「確認すべき場所が分かる書類」に変わっていきます。まずはこの章の内容を土台に、全体を落ち着いて眺められる状態を作っていきましょう。
お金まわりで確認したいポイント(売却価格・支払い・調整)
売買契約書でいちばん気になるのは、やはり「いくらで売れるか」だと思います。ですが、ここで注意したいのは、“金額そのもの”だけ見ても安心とは限らないという点です。
同じ「1億円で売る」でも、いつ・どう払われるのか、あとから調整が入るのか、どんな費用が差し引かれるのかで、手元に残るお金も、安心感も変わります。
この章では、売主として押さえておきたい「お金まわり」の見どころを、やさしく整理します。
支払いタイミングと方法(分割・エスクローなど)が合っているか
まず確認したいのは、売却代金が「いつ」「どんな形で」支払われるかです。ここは契約書の中でも重要度が高いところです。
よくある支払いのパターンは、ざっくり次のようなものです。
- 一括払い:クロージング(引渡し)時に全額支払い
- 分割払い:一定期間に分けて支払い(例:引渡し時+半年後など)
- エスクロー:第三者に一部を預け、条件が揃ったら支払われる
- アーンアウト:将来の業績などの条件によって追加で支払いが発生する
ここで大事なのは、支払いが後ろにずれるほど、売主にとって「回収のリスク」が増えるという点です。分割や条件付きの支払いが悪いという話ではありません。ただ、売主としては、次のような観点で「自分に合っているか」を確認しておくのがおすすめです。
- 分割の場合:支払いの期限が明確か/遅れたときの取り決めがあるか
- エスクローの場合:何が起きたら解除・支払いになるのかが分かりやすいか
- 条件付きの場合:条件の決め方があいまいになっていないか
確認のコツ:売却価格だけでなく、「支払いの確実さ」をセットで見ると安心です。
特に分割・預け(エスクロー)・条件付きは、条件の書き方で印象が大きく変わります。
価格調整条項の考え方(運転資金・ネットデット等の扱い)
売買契約書では、「売却価格が確定」と書かれていても、実際にはあとから調整が入ることがあります。これが価格調整条項です。
難しく感じるかもしれませんが、イメージはシンプルで、引渡し時点の会社の状態(お金の残り方・借入の残り方など)によって、価格を微調整する考え方です。
例えば、引渡し直前に会社の現預金が大きく増えていたり、逆に借入が増えていたりすると、買主としては「想定と違う」と感じることがあります。そのズレを、事前にルール化しておくのが調整条項です。
売主としては、次の点を確認しておくと読みやすくなります。
- 何を基準に調整するのか(現預金、借入、運転資金など)
- 基準となる数字はいつ時点なのか(直近決算か、引渡し時点か)
- 計算方法は誰が、どうやって確定させるのか(揉めたときの決め方)
また、ここでありがちなのが、用語がわかりにくいまま進むことです。契約書の中に定義が置かれていることが多いので、分からない言葉は「定義に戻る」だけでも理解が楽になります。
大切なのは、「調整がある/ない」ではなく、調整ルールが“売主にも納得できる形”になっているかです。調整の対象や計算があいまいだと、あとで話が食い違いやすくなります。
手数料や税金の負担が、どちら側になっているか
意外と見落としやすいのが、取引に伴う費用の負担です。
たとえば、契約書には次のような費用について、「どちらが負担するか」を書くことがあります。
- 契約書に貼る印紙などの契約関連の費用
- 登記・名義変更などの手続きにかかる費用
- 弁護士・会計士などの専門家費用(各自負担が多い)
税金についても、売主側が負担すること自体は珍しくありませんが、売買契約書の中で「税務上の扱い」「負担の考え方」がどのように整理されているかは確認しておくと安心です。
ここは、「どちらが得か」というより、知らないうちに売主の負担が増えていないかを見る場所です。
見落とし防止:費用負担の条文は本文の後ろの方に出てくることもあります。
「細かい話」に見えて、積み上がると差が出るので、さらっとでも必ず確認しておくと安心です。
クロージングまでに“数字を動かす制限”があるか
売買契約書には、サインから引渡し(クロージング)までの間、売主が会社を運営する上でのルールが書かれていることがあります。
ここでいう「数字を動かす制限」とは、たとえば次のようなものです。
- 大きな支出や設備投資を勝手にしない
- 借入を増やしたり、返済条件を変えたりしない
- 役員報酬や大きな給与改定、臨時賞与などを勝手に決めない
- 取引条件を大きく変える(値引き、支払サイト変更など)ことをしない
売主としては、「普段通りの経営を続けているつもり」でも、契約上は買主の同意が必要になるケースがあります。
ここで大切なのは、縛られること自体が悪いという話ではありません。買主としても、引渡し直前に会社の状態が大きく変わると困るので、一定のルールを置くのは自然です。
ただし、売主側としては、次の点を確認しておくと不安が減ります。
- 「同意が必要」な範囲が広すぎないか
- 緊急時(トラブル対応など)に現場が止まる内容になっていないか
- 違反した場合の扱いが重すぎないか
売却の話が進んでいるほど、現場では「いつも通り」の判断が必要になります。契約書に書かれた運営ルールを把握しておくと、クロージングまでの余計なストレスを減らせます。
お金まわりは、契約書の中でも特に見落としが「後から効く」部分です。売却価格だけで判断せず、支払い・調整・費用負担・引渡しまでの制限をセットで確認できると、納得感のある売却に近づきます。
条件まわりでつまずきやすい点(成立する条件・解除できる条件)
売買契約書を読んでいて、意外と見落とされやすいのが「条件」の部分です。価格や支払い方法に目が行きやすい一方で、条件は文章が長く、細かい項目が並ぶため、流し読みになりがちです。
でも、ここはとても大事です。条件は、ひと言でいうと「この売却が本当に成立するために必要なこと」を決める場所です。逆に言えば、条件が整わなければ、話が止まったり、場合によっては契約が解除されたりすることもあります。
この章では、売主としてつまずきやすいポイントを、やさしく整理します。
クロージング条件は「やることリスト」になっている
契約書の中には、よく「クロージング条件」(引渡し=クロージングまでに満たすべき条件)が書かれています。
これは感覚としては、「引渡しの日までに、これを全部クリアしないといけません」というチェックリストです。
売主側の条件、買主側の条件、両方にまたがる条件が並ぶことが多く、内容は取引ごとに変わります。ここで大切なのは、条件を“条文”として読むのではなく、やることリストに変換して理解することです。
- 誰がやるのか(売主/買主/双方/第三者)
- 何をやるのか(手続き、書類、同意、返済、解除など)
- いつまでにやるのか(期限、段取り、前後関係)
この3点に置き換えるだけで、「読めるけど実行できない条件」が見えやすくなります。
ポイント:クロージング条件は“法律の文章”ではなく「実務のタスク」として見ると理解しやすいです。
読めたつもりでも、誰が・何を・いつまでにが曖昧だと止まりやすくなります。
許認可・契約の引継ぎ・取引先同意など、抜けやすい条件
条件で特につまずきやすいのが、「会社の外側」に関わるものです。社内で決めれば終わり、ではなく、役所や取引先など第三者が関わる条件は、思ったより時間がかかったり、そもそも同意が取れない可能性があったりします。
代表的なものとしては、次のような条件が挙げられます(取引によって有無は異なります)。
- 許認可の引継ぎ・変更手続き(業種によっては必須になることがあります)
- 重要な契約の承継・名義変更(契約上、同意が必要な場合があります)
- 取引先・顧客・金融機関の同意(チェンジ・オブ・コントロール条項などがある場合)
- 賃貸借契約の名義や保証の扱い(オーナーとの協議が必要なことがあります)
ここでの落とし穴は、「条件として書かれているけれど、実際に取れるかが未確認」という状態です。契約書の条文の中ではさらっと書かれていても、現場は交渉や調整が必要だったりします。
売主としては、条件を見たら次のように考えると安全です。
- その条件は社内で完結するか、第三者が必要か
- 第三者が必要なら、誰に・いつ・どう説明する想定か
- 万一うまくいかなかったとき、代替策があるか(別の契約形態、条件の調整など)
「契約書に書いてあるから、何とかなるだろう」と進めるより、現実に進められるかを早めに見立てておくほうが、結果的に安心です。
解除条項のバランス(買主だけ有利になっていないか)
条件とセットで確認したいのが、解除条項です。簡単に言うと、「こういう場合は契約をやめられます」というルールです。
解除条項があること自体は自然です。予期せぬ重大な出来事が起きたとき、どちらも一切動けない状態になるのは困るからです。
ただ、売主として注意したいのは、解除できる範囲が買主側だけ広すぎる形になっていないか、という点です。
たとえば、次のような状態だと、売主側が不安になりやすいです。
- 買主が「やっぱりやめたい」と思ったときに、解除しやすい書き方になっている
- 解除理由があいまいで、判断が買主の気分に寄るように見える
- 買主が解除した場合でも、売主側に大きな負担や損が残る
逆に、売主側にも「こういう場合は守られる」という形があると安心です。
見方のコツ:解除条項は“どちらが解除できるか”だけでなく、解除した後にどうなるかまでセットで確認すると安心です。
「解除できる=終わり」ではなく、解除後の整理が書かれていることがあります。
もちろん、契約は交渉の結果なので一律に「これが正解」とは言い切れません。ただ、少なくとも解除が一方だけの武器になっていないかは、売主として目を向けておきたいポイントです。
スケジュールが現実的か(期限・延長・ペナルティ)
条件は「やることリスト」なので、当然ながら時間が絡みます。ここでよく起こるのが、「書類上の期限は短いけれど、現実には間に合わない」というズレです。
たとえば、第三者同意や許認可の手続き、金融機関対応などは、売主が頑張るだけで短縮できない部分もあります。
だからこそ、スケジュールは次の観点で確認しておくと安心です。
- 期限は現実的か(必要な手続きの期間に合うか)
- 遅れた場合に自動で解除にならないか
- 延長のルールがあるか(延長できる条件、手続き、期間)
- 遅れたときの扱いが極端に重い(ペナルティが過大)になっていないか
売主としては、「絶対に遅れないように頑張る」よりも、遅れたときにどう立て直せるかが決まっているほうが、精神的にも現実的にも進めやすいです。
大事な視点:スケジュールは気合いで守るものではなく、現実に動く前提で組むものです。
条件の内容だけでなく、期限・延長・遅れたときの扱いまで一緒に確認すると、後で焦りにくくなります。
条件まわりを押さえておくと、売却の話が進んだあとに「ここが原因で止まった」という事態を減らしやすくなります。売買契約書を読むときは、条件を“タスクと段取り”に置き換えて、現実に回る形になっているかを確認していきましょう。
売主の責任が重くなりやすい条項(表明保証・補償・上限)
売買契約書の中で、売主がいちばん慎重に読みたいのが「売却後の責任」に関わる部分です。ここは文章が難しそうに見えますが、要点はシンプルです。
つまり、「売ったあとに何か問題が見つかったとき、売主がどこまで責任を負うのか」を決めています。
この章では、売主の責任が重くなりやすい条項を、できるだけ分かりやすく整理します。
表明保証は「知らなかった」では済まない形になり得る
表明保証は、ひと言でいうと、売主が買主に対して「うちの会社は、こういう状態です」と伝え、その内容に責任を持つ約束です。
たとえば、よくある表明保証には次のような方向性があります(内容は案件ごとに異なります)。
- 会社の基本情報が正しい
- 帳簿や資料が大きく間違っていない
- 重大な訴訟やトラブルが隠れていない
- 重要な契約が有効に続いている
ここで怖いのは、表明保証が「売主が知っていた範囲だけ」に限定されていない場合です。書き方によっては、売主が本当に知らなかったことでも、あとから見つかると責任の話になり得ます。
注意点:表明保証は、書き方次第で「知らなかった」では済まない形になり得ます。
“どこまでを保証するのか”が、売主の肌感と合っているかを確認するのが大切です。
もちろん、買主側としても「買ったあとに大きな爆弾が出てくるのは困る」という事情があります。なので表明保証があること自体は自然です。ただ売主としては、背負える範囲に収まっているかを冷静に見ておく必要があります。
補償の範囲と期間(いつまで・何について)が広すぎないか
補償は、表明保証などが事実と違っていた場合に、売主が買主の損害を埋める(補う)ルールです。
ここで確認したいのは、次の2つです。
- 範囲:何について補償するのか(対象が広すぎないか)
- 期間:いつまで補償するのか(期限が長すぎないか)
補償の対象が「一切の損害」など、かなり広い言い方になっていると、売主としては不安が残りやすくなります。また、期限が長いほど、売却後もずっと気が休まらない状態になりがちです。
売主としては、次のような観点で見ると整理しやすいです。
- 補償の対象は具体的か(何でも含むように見えないか)
- 期限があるか(いつまで責任が続くのかが書かれているか)
- 例外的に長くなるものがある場合、その理由が納得できるか
「どれくらいが一般的か」は案件の規模や業種で変わるため、ここで断定はできません。ですが、少なくとも範囲と期間が“ぼんやり広い”ままだと、後から揉めやすくなります。
責任上限・免責・しきい値(バスケット等)の入れ方
売主の責任を現実的な範囲に収めるために、契約書では「上限」や「免責」、「小さいものは対象外にする仕組み」が置かれることがあります。
難しい言葉に見えますが、考え方はシンプルです。
- 責任上限:売主が負う金額に上限をつける(無限にしない)
- 免責:この条件に当てはまるものは責任を負わない、と決める
- しきい値:小さな請求が積み上がるのを防ぐ仕組み(一定額を超えたら対象、など)
特にしきい値は、契約書でバスケットなどの呼び方をされることがあります。名前は難しくても、目的は「細かい話で終わらないようにする」ことです。
売主としては、次の点を確認しておくと安心です。
- 責任上限がゼロ(無制限)になっていないか
- 小さなクレームまで延々と請求されない仕組みになっているか
- 免責の条件が、売主にとって筋が通っているか
確認のコツ:ここは「細かい条文」ではなく、売主の安心ラインを決める場所です。
上限があるか/小さな請求がどう扱われるかを見ておくと、売却後の不安が減ります。
例外事項は「別紙」に正しく落とせているか
表明保証や補償は、「全部きれいに守れている会社」ほど読みやすいのですが、現実にはそうはいきません。
どんな会社にも、説明しておいたほうがいい事情や、完璧には言い切れない点があるものです。
そこで重要になるのが、例外事項(開示事項)です。契約書の本文で「売主はこう保証します」と書かれていても、別紙で「ただし、次の点は例外です」と正しく開示しておけば、後で「隠していた」という扱いになりにくくなります(契約の書き方によります)。
売主としては、次の観点で別紙を見ておくと安心です。
- 例外にしたい内容が、別紙に具体的に書かれているか
- 本文の「別紙参照」の番号がズレていないか
- 最終版で別紙が差し替えられていないか(古い版のままになっていないか)
- 「口頭では伝えた」ことが、別紙に落ちているか
重要:売主にとって、別紙の例外事項は“自分を守るためのメモ”です。
「言ったつもり」ではなく、書面に残っているかを最後に確認するだけで、安心感が変わります。
表明保証・補償・上限は、売却後の心の重さに直結します。読みづらい部分ですが、ここを丁寧に見ておくと、売却後に「こんなはずじゃなかった」を減らしやすくなります。
売主の行動を縛る条項(競業・勧誘・情報管理)
売買契約書には、「売ったあと」の話だけでなく、売主の行動を一定期間しばる条項が入ることがあります。代表的なのが、競業避止(同じ事業をしない約束)、勧誘禁止(従業員や取引先を引き抜かない約束)、そして秘密保持(情報を外に出さない約束)です。
これらは買主側から見ると自然な防衛策です。買った会社の価値が、売主の行動で急に下がってしまうと困るからです。
一方で売主としては、内容によっては「売ったのに、次の仕事ができない」状態になりかねません。だからこそ、ここは現実的な範囲に収まっているかを落ち着いて確認したいところです。
競業避止は、地域・期間・業務範囲が現実的か
競業避止は、「一定期間、同じような事業をしない」という約束です。契約書の書き方によっては、売主の今後の活動に大きく影響します。
確認の基本は、次の3つです。
- 期間:いつからいつまで縛られるのか
- 地域:どのエリアで縛られるのか(国内全域なのか、特定地域なのか)
- 業務範囲:何を「同業」とみなすのか(広すぎないか)
この3つのどれかが広すぎると、売主としては身動きが取りづらくなります。とくに業務範囲は、表現が広いと「自分の経験を活かした仕事」まで引っかかってしまうことがあります。
ポイント:競業避止は「期間・地域・業務範囲」の3点セットで見ます。
どれかが広いほど、売主の選択肢が減りやすいので、現実的に守れる範囲かを確認しましょう。
「買主が不安になるのも分かる。でも、売主の将来が詰むのは困る」――このバランスを取る場所が、競業避止条項です。
従業員や取引先の引き抜き禁止(勧誘禁止)の影響を読む
勧誘禁止(引き抜き禁止)は、売主が、元の会社の従業員や取引先に対して、移籍や取引変更を持ちかけないようにする約束です。
ここで大事なのは、「誰が対象か」「何が禁止か」「どれくらいの期間か」です。
- 対象:全従業員なのか、特定の重要人物だけなのか/主要取引先だけなのか
- 禁止行為:直接の勧誘だけか、間接的な勧誘も含むのか
- 期間:いつまで続くのか
売主にとって難しいのは、「勧誘していないつもり」でも、状況によっては誤解され得ることです。たとえば、売主が新しい事業を始めたときに、元の従業員が「働きたい」と連絡してきた場合、契約上どう扱うのかが曖昧だと不安が残ります。
なので、勧誘禁止条項は、次のように読むのがおすすめです。
- 禁止されているのは「勧誘」なのか、それとも「採用そのもの」までなのか
- 取引先については、営業行為が全面禁止なのか、特定先だけなのか
- 「相手から来た場合」の扱いが、条文上どう読めるか
ここは売主の今後の仕事にも絡みやすいので、読みながら「自分の将来の動きに当たるかも」と感じたら、早めに確認しておくほうが安心です。
秘密保持は、売主の今後の事業に支障が出ない形か
秘密保持は、売主が知り得た情報を外に出さないための約束です。これも買主からすると自然な要望です。
ただ、売主として注意したいのは、「秘密」の定義が広すぎて、自分の今後の事業や発信がやりづらくなる形になっていないか、という点です。
例えば、次のような観点で見ておくと安心です。
- 秘密に当たる情報の範囲が現実的か(何でも秘密、になっていないか)
- 期間があるか(いつまで守るのかが明確か)
- 公知の情報や、自分がもともと持っていた知見まで縛る形になっていないか
また、秘密保持は「売却が成立したあと」だけでなく、「交渉中の情報」についても書かれることがあります。条文がどこまでカバーしているかを知っておくと、関係者への説明や情報共有のときに迷いにくくなります。
確認のコツ:秘密保持は守るべきことを明確にして、売主が安心して動けるようにする条項でもあります。
「何が秘密で、どこまで話していいか」が分かる形だと、あとで困りにくくなります。
違反時のペナルティが過大になっていないか
競業避止・勧誘禁止・秘密保持は、「守る」ことが前提の約束です。だからこそ、違反した場合の扱い(ペナルティ)もセットで書かれていることがあります。
ここで売主が見ておきたいのは、ペナルティが現実から離れて重すぎないか、という点です。
たとえば、次のような場合は注意して読みたいところです。
- 違反があった場合に、一律で高額の支払いが発生する形になっている
- 「違反」の定義があいまいで、境界が分かりにくい
- 小さなミスでも、同じ重さで扱われるように読める
もちろん、買主側も「抑止力」が欲しいので、一定の厳しさが入ることはあります。ただ、売主としては、うっかり・誤解でも大きな問題になってしまう設計になっていないかを確認しておくと安心です。
まとめ:この章の条項は、売主の「これからの動き方」に直結します。
期間・地域・範囲、そして違反時の扱いまで含めて、「守れる約束」になっているかを確認しましょう。
売主の行動を縛る条項は、読み飛ばすと後から効きやすい部分です。怖がる必要はありませんが、自分の将来に影響が出る約束が含まれていないかだけは、丁寧に見ておくのがおすすめです。
人と現場に関わる条項(従業員・役員・引継ぎ)
会社売却は、契約や数字の話に見えますが、実際に動くのは人と現場です。売買契約書にも、従業員への説明、役員の扱い、引継ぎの進め方など、「現場が混乱しないため」の取り決めが入ることがあります。
この部分は、書き方次第で売主の負担が大きくなったり、逆に「やるべきこと」が整理されて安心につながったりします。ポイントを押さえて読めるように、順番に見ていきましょう。
従業員への説明タイミングが“契約上の義務”になっていないか
まず確認したいのは、従業員への説明について、契約書の中でいつ・どう伝えるかが決められていないか、という点です。
従業員への説明は、タイミングを間違えると、現場がざわついたり、キーパーソンが不安になって離れてしまったりすることがあります。だからこそ、売主としては「自分の判断でコントロールしたい」と思うのが自然です。
ところが契約書によっては、
- クロージング前に説明すること
- 買主の同意を得た内容で説明すること
- 特定の日までに通知すること
のように、説明が契約上の義務として書かれることがあります。
確認ポイント:従業員への説明が「いつまでに」「誰が」「どんな形で」義務化されていないか。
義務になっているなら、現場の実情に合う期限かを必ず見ておきましょう。
説明を急がされる形になっていると、売主としては余計に不安が増えます。契約書の中で説明タイミングが固定されている場合は、現実的に回るかどうかを冷静に確認したいところです。
役員退任・顧問契約・引継ぎ支援の条件を明確にする
次に見たいのは、売主(オーナー社長)や役員の扱いです。会社売却では、オーナーがすぐに退任するケースもあれば、一定期間は残って引継ぎをするケースもあります。
契約書に、次のような内容が含まれることがあります。
- 役員退任のタイミング(引渡し日付で退任、一定期間後に退任など)
- 顧問契約の有無(就任するか、しないか)
- 引継ぎ支援の内容(何を、どの範囲で支援するか)
- 報酬や費用の扱い(支払い方法、交通費など)
ここで大切なのは、「やる/やらない」ではなく「条件が明確か」です。たとえば「引継ぎに協力する」とだけ書かれていると、どこまでやれば十分なのかが分かりづらく、売主として不安が残ります。
売主としては、最低限、次のような形で具体化されていると安心です。
- 支援する内容が、具体的に列挙されている
- 頻度(例:週何回・月何回など)や時間の目安がある
- 報酬や費用の扱いが、誤解なく読める
「引継ぎ=無制限の協力」になってしまうと、売却後も仕事が終わらない感覚になりやすいので、ここは線引きを意識したいポイントです。
キーパーソンの処遇が、曖昧なまま残っていないか
現場の安心に直結するのが、キーパーソン(重要な社員、幹部、職人、営業の中心人物など)の扱いです。買主としても、キーパーソンが抜けると事業の継続に不安が出るため、この点に関心が高くなりがちです。
ただし売主としては、ここが契約書の中で曖昧なままだと、クロージング直前に「急に条件が増えた」と感じたり、現場の説明が難しくなったりします。
契約書にキーパーソンの話が出てくる場合、次の点を確認すると整理しやすいです。
- キーパーソンの「在籍」や「継続勤務」が、クロージング条件になっていないか
- 条件になっているなら、売主がコントロールできる内容か(強制できない約束になっていないか)
- 処遇(役職・給与・雇用条件など)について、誰が決めるのかが曖昧になっていないか
ここは売主が「約束したくても約束できない」内容になりやすいので、契約書上の書き方が現実とズレていないかを見ておくと、後で揉めにくくなります。
引継ぎ期間の役割と責任(どこまで・いつまで)を切る
最後に、引継ぎ期間についてです。売却後、一定期間は売主が引継ぎのために関わることがあります。これは買主にとって安心材料ですし、売主にとっても「円滑に引き渡したい」という気持ちがあると思います。
ただ、ここが曖昧だと、売主側の負担が膨らみやすくなります。特に注意したいのは、引継ぎの役割が“何でも屋”になってしまうことです。
確認したいのは、次の3点です。
- いつからいつまで関わるのか(期間)
- 何をするのか(役割の範囲)
- 何をしないのか(責任の線引き)
重要:引継ぎは「協力する気持ち」だけで進めると、負担が増えやすいです。
契約書上で期間・役割・責任が切れていると、売主も買主も安心しやすくなります。
引継ぎ期間の条項は、売主の「売却後の生活」に直結します。無理なく協力できる範囲で、どこまで・いつまでが読める形になっているかを確認しておくと、売却後のストレスを減らしやすくなります。
別紙・添付資料で差が出る(書き漏れがトラブルになる場所)
売買契約書を読むとき、多くの方が本文(条文)に意識を向けます。もちろん本文も大切です。
ただ、実務で「あとから困った」が起きやすいのは、本文よりも別紙・添付資料だったりします。理由はシンプルで、別紙は情報量が多いうえに、ドラフトのやり取りの中で差し替えや更新が発生しやすいからです。
この章では、売主として押さえたい「別紙の見どころ」と「事故を防ぐ考え方」を整理します。
例外事項リスト(開示リスト)の作り方と注意点
別紙の中でも特に重要になりやすいのが、例外事項リスト(開示リスト)です。
これは、本文で「こうである」と書かれている約束に対して、「ただし、この点は例外です」と伝えるためのリストです。
ここが大事なのは、売主にとって開示リストは“自分を守るための場所”になり得るからです。会社は完璧ではありません。だからこそ、知っていること・把握していることを隠さずに書面で出すことが、後々の誤解を減らします。
作り方のコツは、難しい言葉でまとめることではなく、買主が読んでも意味が取れる具体性にすることです。たとえば、次のような観点を入れると整理しやすくなります。
- 何の話か(どの契約・どの取引先・どの出来事か)
- いつの話か(発生時期、経緯)
- いまどうなっているか(継続中/解決済み/対応中)
- 関係する資料(契約書、メール、請求書など)
重要:例外事項リストは「できるだけ少なくする」より、「誤解が起きない形で開示する」ことが大切です。
曖昧な書き方のほうが、あとから揉めやすくなります。
また、ありがちな注意点として、本文の条文と別紙の内容が噛み合っていないケースがあります。本文で「別紙〇〇に記載のとおり」となっているなら、その別紙が本当に“例外として十分”な内容になっているかを見ておくと安心です。
契約一覧・訴訟/クレーム・知財・資産の記載は“更新日”が命
別紙には、会社の情報が「一覧」として載ることがあります。たとえば、
- 契約一覧(重要な取引先契約、リース、保証、賃貸借など)
- 訴訟・クレーム・トラブルの一覧(係争、苦情、返金対応など)
- 知的財産(商標、特許、著作物、ソフトウェアなど)
- 資産(設備、車両、在庫、不動産など)
こうした一覧で重要なのは、細かい表現よりも「情報が最新か」です。ドラフトを作った時点では正しかったのに、その後に契約が増えたり、トラブルが発生したり、設備を入れ替えたりすると、別紙がすぐ古くなります。
だからこそ、売主としては別紙を読むときに、まず更新日を確認するのが効果的です。
- 別紙に作成日・更新日が書かれているか
- いつ時点の情報なのかが分かるか(例:◯月末時点、など)
- 最新版に差し替えたとき、差分が追える状態か
見落とし防止:別紙は「中身」より先に、更新日・版を確認すると事故が減ります。
最新でない別紙のまま契約が確定すると、後から説明が難しくなりやすいです。
口頭で伝えたことは、原則として別紙に落とす
交渉中、売主が誠実に説明していても、口頭だけだと「伝えたつもり」が残りやすいです。買主側が担当者交代したり、社内共有の過程で情報が抜けたりすると、「聞いていない」という話になってしまうことがあります。
だからこそ、実務的には、口頭で伝えた重要事項は、原則として別紙(開示リスト等)に落とすほうが安全です。
ここでのポイントは、売主にとって別紙が“買主のため”だけのものではないということです。むしろ、売主が「ちゃんと伝えた」と言える証拠にもなります。
もし迷ったら、次のような基準で考えると整理しやすいです。
- あとから知られたら、買主が嫌がりそうな情報か
- 金額が大きい、または影響が大きい話か
- 「大丈夫だと思っているが、100%言い切れない」話か
この基準に当てはまるなら、別紙に書く方向で考えたほうが、結果的に安心につながりやすいです。
ドラフト更新で“別紙だけ古い”事故を防ぐ管理方法
別紙で起きがちな事故の代表例が、「本文は最新版なのに、別紙だけ古い」という状態です。ドラフト更新のたびに本文は赤入れで追えるのに、別紙はファイルが別扱いで、差し替えが漏れることがあります。
これを防ぐために、売主側でできるシンプルな工夫があります。難しい管理は不要で、次のような点を押さえるだけでも事故が減ります。
- 別紙ごとにファイル名に日付(版)を入れる
- 契約書の最後に、別紙の一覧があるなら、全別紙のタイトルと版を確認する
- ドラフトを受け取るたびに、本文だけでなく別紙が全部添付されているか確認する
- 変更があった別紙は、どこが変わったかをメモしておく
事故防止の要点:別紙は「添付されているか」と「最新版か」が命です。
本文に集中しすぎず、別紙の版管理を一段だけ丁寧にするだけで、ミスが減ります。
別紙・添付資料は、本文に比べて“後回しにされやすい”場所です。ですが、だからこそ差が出ます。売主としては、別紙を「情報の山」として怖がるのではなく、「伝えるべきことを整理する場所」として捉えると、読み方がぐっと楽になります。
サイン前にやっておきたい最終チェック(売主の安心につながる)
売買契約書は、最後にサインしたら終わり……ではなく、サインした瞬間から「約束ごと」が動き出す書類です。だからこそ、サイン直前のチェックは「細かい確認」ではなく、売主の安心を作るための作業になります。
ここでは、サイン前にやっておきたい最終チェックを、できるだけ実務に寄せて整理します。完璧に全部理解することが目的ではありません。「知らずに受けてしまった」を防ぐことが目的です。
「不利でも受ける」と「知らずに受ける」を分けて整理する
交渉が進むほど、「多少の不利は飲まないと進まない」という場面は出てきます。それ自体は珍しいことではありません。
ただ、売主として一番避けたいのは、知らないまま受けてしまうことです。あとから気づくと、精神的にも実務的にもつらくなりやすいからです。
そこでおすすめなのが、サイン前に条項を次の2つに分けて整理することです。
- 不利でも受ける(納得して受ける):理由があり、覚悟の上で受けるもの
- 知らずに受けてしまいそう(要注意):理解が曖昧、影響が読めていないもの
この分け方ができるだけで、契約書の読み方が変わります。前者は「判断済み」なので気持ちが落ち着きます。後者は「要確認」なので、相談や修正依頼をするべき場所が明確になります。
大事な考え方:サイン前に目指すのは“有利な契約”よりも、“納得できる契約”です。
知らずに受けるをゼロにできると、売却後の不安が大きく減ります。
修正依頼は“理由”と“代案”をセットにする
契約書を読んで「ここは直したい」と思っても、修正依頼の出し方によって、その後の進み方が変わります。感情的に否定すると話がこじれやすい一方で、丸のみしてしまうと後悔が残りやすいです。
おすすめは、修正依頼を「理由」と「代案」でセットにすることです。
- 理由:なぜそのままだと困るのか(現場・リスク・実行可能性)
- 代案:どう直せば受けられるのか(文言、条件、期限の調整など)
たとえば「この条文は広すぎるので困ります」だけだと、相手はどう直せばいいか分かりません。ですが、「広すぎるので、対象を◯◯に限定してほしい」のように代案を出すと、話が前に進みやすいです。
売主側が全部の文章を作り直す必要はありません。ここでの狙いは、交渉を“対立”ではなく“調整”にすることです。
コツ:修正依頼は「NO」ではなく「こうならOK」にする。
“理由+代案”で出すと、相手も社内説明がしやすくなります。
専門家に相談すべきライン(法務・税務・実務の切り分け)
売買契約書は、売主が一人で抱え込むと消耗しやすい書類です。とはいえ、全部を専門家に丸投げするのも現実的ではありません。
そこで役に立つのが、「どこから先は相談すべきか」の線引きです。イメージとしては、次のように切り分けると整理しやすいです。
- 法務(弁護士):責任、解除、損害、義務、権利など“契約の効き方”に関わるところ
- 税務(税理士):支払いの形や費用負担など“税金や会計の扱い”に影響するところ
- 実務(現場の視点):引継ぎ、従業員対応、期限、必要書類など“実行できるか”に関わるところ
売主としては、「不安の種類」を見分けるだけでも、相談がスムーズになります。
- これって法的にまずいのでは? → 法務
- これって税金や会計に響くのでは? → 税務
- これって現場が回らないのでは? → 実務
もちろん境界が重なる場面もあります。ただ、ざっくりでも切り分けておくと、「誰に何を聞けばいいか」がはっきりして、サイン前の焦りが減ります。
電子署名・原本保管・権限者確認など、手続きの落とし穴を潰す
契約書は内容だけでなく、手続きにも落とし穴があります。内容が良くても、手続きでミスがあると後から手間になったり、不安が残ったりします。
サイン前後で、売主として確認しておきたいのは次のような点です。
- 署名(または押印)の方法が決まっているか(電子署名/紙の契約書)
- 誰が署名するのか(会社の権限者として適切か)
- 契約書の部数(何通作るか、双方が原本を持つか)
- 原本の保管方法(どこに保管するか、PDFはどこに保存するか)
- 添付資料・別紙がサイン時点で揃っているか(抜けがないか)
特に電子署名の場合、「どのファイルが最終版か」が分かりづらくなることがあります。別紙・添付資料まで含めて、最終版が一式そろっている状態でサインすることが大切です。
最終チェックの要点:内容の理解と同じくらい、「最終版の一式がそろっているか」が重要です。
本文だけでなく、別紙・添付資料・署名者・保管まで確認しておくと安心です。
サイン前のチェックは、気持ちを落ち着かせるための準備でもあります。焦りや疲れが出やすいタイミングだからこそ、「納得して受ける」ものと「要確認」なものを分け、必要なところだけ相談して、手続きの抜けも潰しておく。これだけでも、売主の安心感は大きく変わります。