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会社売却

会社売却の相場はどれくらい?よくあげられる目安と、数字がブレる理由をわかりやすく整理

会社売却を考え始めたとき、多くのオーナー社長が最初に気になるのが「うちの会社はいくらくらいで売れるのか」という相場ではないでしょうか。

ネットで調べると、「利益の◯倍」「売上の◯倍」など、いろいろな数字が出てきます。でも、それを見れば見るほど、結局どれが自社に当てはまるのか分からない…となりやすいのも事実です。

さらにややこしいのは、会社売却の相場はひとつの正解がある“定価”ではないことです。業種・利益の出し方・社長依存の度合い・取引先の偏りなど、前提が少し変わるだけで、見え方が大きく変わります。

この記事では、「会社売却の相場って結局なに?」という疑問に対して、難しい言葉はできるだけ避けながら、相場の“見方”を整理します。特定の金額を断定するのではなく、相場を誤解なく使い、自社の相場感を安全に掴むための考え方をお伝えします。

読み終わるころには、ネットの数字に振り回されず、「自社の場合は、どんな条件で上がる/下がるのか」を落ち着いて判断できる状態を目指します。

目次

会社売却の「相場」って、そもそも何を指すの?

「会社売却の相場はいくらですか?」という質問は、とても自然です。ですが、ここで最初にお伝えしたいのは、会社売却の相場はスーパーの商品みたいに“全員が同じ値段”で決まるものではないということです。

相場という言葉は便利ですが、実際には「この条件なら、このあたりになりやすい」という“目安のレンジ(幅)”を指していることがほとんどです。相場を正しく使うには、まず「何の話をしている相場なのか」を丁寧にほどいていく必要があります。

「みんな同じ値段」ではなく、条件でレンジが動く

会社の値段は、同じ業種・同じ売上規模でも、条件次第で変わります。たとえば、次のような違いだけでも、買い手から見た印象は大きく変わります。

  • 利益が安定しているか(毎年だいたい同じ水準か、波が大きいか)
  • 社長がいなくても回るか(社長が全部見ているか、任せられる体制があるか)
  • 売上の偏りがあるか(特定の取引先に依存していないか)
  • 契約やルールが整っているか(口約束が多いか、書面で整理されているか)

つまり「相場」という言葉があっても、実際は会社ごとの条件でレンジが動くものです。相場をひとつの数字として鵜呑みにすると、期待しすぎて苦しくなったり、逆に安く見積もりすぎて損をしたりすることがあります。

相場には“前提”がある(何の利益?どのスキーム?いつの数字?)

相場の話がズレる最大の理由は、相場は必ず「前提つき」なのに、その前提が省略されがちだからです。

たとえば「利益の〇倍が相場」という言い方を見かけても、次のような前提が人によってバラバラです。

  • その「利益」は営業利益なのか、税引前なのか、オーナー報酬をどう扱うのか
  • 売り方は株式譲渡なのか、事業譲渡なのか
  • 使っている数字は直近1年なのか、平均なのか、今期の見込みなのか

前提が違うまま相場を比較すると、同じ「相場」という言葉を使っているのに、話が噛み合わなくなります。逆に言えば、相場を聞くときは「その相場は、何を基準にした話ですか?」と前提を確認するだけで、情報の精度が一気に上がります。

ここで、相場の話を整理するために、よく混ざりやすい前提をまとめます。

よく混ざるポイント 確認したいこと ズレると起きやすいこと
「利益」の意味 どの利益を使っているか(営業利益?税引前?) 同じ〇倍でも金額感が大きく変わる
売り方(スキーム) 株式譲渡か、事業譲渡か 含まれるもの(資産・負債など)の前提が変わる
使う年度 直近・平均・今期見込みのどれか 一時的な好調/不調で判断がブレやすい

難しい言葉に見えるかもしれませんが、やっていることはシンプルです。「どの数字を使って、どんな売り方を前提に、いつの実績で話しているのか」をそろえるだけで、相場の情報は比較しやすくなります。

相場を知る目的を決める(期待しすぎないための使い方)

相場を調べる前に、ひとつだけ決めておくと安心なのが、「何のために相場を知りたいのか」です。

目的が曖昧なままだと、ネットで見つけた高い数字に引っ張られて期待が膨らんだり、逆に低い数字を見て落ち込んだりして、冷静な判断が難しくなります。

相場の使い方として現実的なのは、次のような目的です。

  • 「相談する価値があるか」のあたりを付ける(今すぐ動くべきかの判断材料)
  • 「希望条件」を考えるための土台にする(価格だけでなく条件も含めて)
  • 「安く買われそうなポイント」を先に知る(不安の正体を言語化する)

この段階で大切なのは、相場を「答え」として握るのではなく、「考えるための材料」として持つことです。相場を知る目的が定まっていると、情報の集め方も、受け取り方も、ずっと楽になります。

よく見かける相場の言い方(難しい言葉はかみ砕いて)

会社売却の相場を調べていると、「利益の〇倍」「資産+〇〇」「株式譲渡と事業譲渡で違う」など、いろいろな言い方が出てきます。

ここで大事なのは、どれが正しい・間違いというより、それぞれ“見ているものが違う”という点です。見ているものが違えば、当然、出てくる数字も変わります。

この章では、よく見かける相場の言い方を、できるだけかみ砕いて整理します。「この言い方は、何を基準にしているのか」が分かるだけで、相場の情報に振り回されにくくなります。

「利益(もうけ)」を基準に見る考え方(〇年分、〇倍という表現)

ネットでも一番よく見かけるのが、「利益の〇年分」「利益の〇倍」という表現です。これは、ざっくり言うと「この会社は毎年これくらい儲かっているから、何年分で買うのが妥当か」という発想です。

ただし、ここで注意したいのは、“どの利益(もうけ)を使うか”で数字が変わることです。

  • 本業のもうけを見ているのか
  • 一時的な要因(たまたま大口案件が入った、補助金が入った等)が混ざっていないか
  • 社長の役員報酬が高い/低いことで、見た目の利益が変わっていないか

つまり「〇倍」という言葉だけ聞いても、そのまま自社に当てはめるのは危険です。相場として使うなら、まずは「その〇倍は、何を利益として見ている話なのか」を確認しておくと安心です。

また、利益ベースの相場観は、買い手から見ると「買ったあとに回収できそうか」の目安でもあります。利益が安定していて、先の見通しが立ちやすいほど、買い手は安心しやすくなります。

「資産」を基準に見る考え方(現預金・借入・在庫などの見られ方)

もうひとつよくあるのが、「資産」を基準に見る考え方です。これは、会社の中にある現預金・売掛金・在庫・設備などを見て、さらに借入や買掛金なども含めて、「会社の中身はどうなっているか」をベースに考えます。

イメージとしては、“家を買うときに、土地建物の状態やローン残高を見る”のに近いです。利益だけでは分からない部分を、資産・負債から確かめる感じです。

この見方で特に影響が出やすいのは、次のような項目です。

  • 現預金が多い/少ない
  • 売掛金が回収できそうか(回収が遅れがちな取引が多い等)
  • 在庫の中身(売れ筋なのか、古くて動かないものが多いのか)
  • 借入の状況(返済負担が重いかどうか)

資産ベースで見られる場面では、会社の中身がシンプルで分かりやすいほど、買い手の不安が減りやすいです。逆に、在庫や売掛金の中身が分かりにくいと、買い手は「想定外が出たら怖い」と感じやすくなります。

ここも重要なのですが、「資産が多い=高く売れる」と単純に決まるわけではありません。資産の中身が実際に価値として回収できるか、そして借入などとセットで見て全体としてどうかが見られます。

「株式譲渡」と「事業譲渡」で、相場の見え方が変わる

相場の話がややこしくなる大きな理由のひとつが、「株式譲渡」と「事業譲渡」で、売っているものの範囲が変わることです。

難しく聞こえるかもしれませんが、イメージはこうです。

  • 株式譲渡:会社そのものを引き継ぐ(会社の中身をまとめて引き継ぐ)
  • 事業譲渡:事業の一部(または必要なもの)を選んで引き継ぐ

株式譲渡は、会社の中にある資産や負債、契約関係なども含めて引き継ぐ形になりやすいので、相場を語るときに「会社の中身(資産・借入など)もセットで考える」必要が出てきます。

一方で事業譲渡は、引き継ぐ対象を選べることが多く、買い手が「欲しい部分」を中心に考えるため、同じ会社でも相場の見え方が変わることがあります。

ここまでの話を、相場の言い方として整理すると、次のようになります。

相場の言い方 主に見ているもの ズレやすいポイント
利益の〇倍/〇年分 毎年どれくらいもうけが出るか 「どの利益」を使うかで金額感が変わる
資産を基準 現預金・売掛金・在庫・設備、借入など 資産の“中身”が分かりにくいと不安が増える
株式譲渡/事業譲渡 売る範囲(会社丸ごとか、事業を選ぶか) 含まれるものが違うので、同じ相場で比べにくい

相場の話を聞いたり調べたりするときは、まず「その相場は、利益の話?資産の話?それとも売り方(株式譲渡/事業譲渡)の話?」を切り分けるだけで、情報の整理が一気にラクになります。

相場が上がったり下がったりする主な理由

会社売却の相場が「〇倍」と言われても、実際にはその通りにならないことが多いです。これは、相場がいい加減というより、会社ごとに“見られるポイント”が違い、評価が動く理由がはっきりあるからです。

ここでは、相場が上がったり下がったりしやすい代表的な理由を整理します。自社がどこで強く見られ、どこで不安を持たれやすいのかを、落ち着いて見直す材料になります。

業種・ビジネスモデルで変わる(安定型/成長型/プロジェクト型など)

まず大きいのが、業種や「売上の作り方」です。同じ利益額でも、買い手から見た“安心感”が違えば、相場感も変わります。

  • 安定型:毎月の売上が読みやすい(継続契約、リピートが多いなど)
  • 成長型:今後伸びる余地が大きい(伸びている市場、拡大中の販路など)
  • プロジェクト型:案件ごとの波が大きい(受注タイミングで利益が上下しやすい)

安定型は、買い手にとって「買ったあとに予想外が起きにくい」ため、評価されやすい傾向があります。一方でプロジェクト型は、うまく回れば大きく稼げますが、波が大きいぶん「次の売上が見えない」と感じられると、相場が慎重になりやすいです。

成長型は魅力がある反面、買い手は「その成長は続くのか」を強く見ます。勢いだけで伸びているのか、仕組みとして伸びているのかで、相場の見え方が変わります。

規模と体制で変わる(社長依存・キーマン依存が強いと下がりやすい)

次に大きいのが、会社の体制です。特に見られやすいのは、社長や特定の人に業務が集中していないか、という点です。

たとえば、次のような状態だと、買い手は不安になりやすいです。

  • 社長が営業・見積・現場判断・クレーム対応まで全部見ている
  • 特定の社員だけが重要な取引先を握っている(引き継ぎが難しい)
  • 業務の流れが「その人の頭の中」にあり、マニュアルや共有が少ない

これは、社長やキーマンが悪いという話ではありません。むしろ、創業期や小規模の会社では自然な形です。ただ、売却の場面では「その人が抜けたら回るのか」が論点になります。

逆に言えば、規模が大きくなくても、誰がやっても回る仕組みが少しでもあると評価されやすいです。買い手は「引き継いだあとに崩れないか」を気にするからです。

数字の“質”で変わる(一時的な利益・粉飾に見える形・節税の影響)

同じ利益額でも、相場が変わる理由として見落とされがちなのが、数字の“質”です。ここでいう質とは、「この利益は今後も続きそうか」「説明がつく形になっているか」という意味です。

たとえば、次のようなケースは、買い手が慎重になりやすいです。

  • 一時的な利益が混ざっている(たまたま大口が入った、単発の売却益がある等)
  • 数字の動きが不自然に見える(急に利益が跳ねた、説明がない)
  • 節税の影響で利益が小さく見えている(実態としてはもう少し稼げている可能性がある)

ここは誤解が生まれやすい点ですが、節税が悪いという話ではありません。問題になりやすいのは、買い手が数字を見たときに「これ、実態が分からないな」となることです。

買い手が安心するのは、利益が高いこと以上に、「なぜこの数字なのか」を説明できる状態です。説明がつけば、買い手は判断しやすくなります。

リスクで変わる(契約・訴訟・労務・取引先集中など)

最後に、相場が大きく動きやすいのがリスクです。買い手は「買ってから困ることが起きないか」をとても気にします。リスクがあると、たとえ利益が出ていても慎重になります。

よく見られやすいのは、たとえば次のような点です。

  • 契約のリスク:重要な取引が口約束に近い、契約書が整っていない
  • 訴訟・トラブル:係争中、クレームが常態化している、未解決の問題がある
  • 労務のリスク:残業管理が曖昧、労働時間の実態が把握できていない
  • 取引先集中:売上の大半が特定の1社に依存している

リスクは「ある/ない」だけで決まるわけではありません。買い手が困るのは、リスクが“見えない”状態です。見えないと、最悪のケースを想像してしまい、相場が下がりやすくなります。

逆に、多少の課題があっても、状況が整理されていて、説明ができると、買い手は判断しやすくなります。相場が動くのは「課題があること」より、課題が整理されず、買い手が怖がることが大きい、というイメージを持っておくと現実に近いです。

自社の相場感をつかむための、現実的な手順

会社売却の相場は、ネットで数字を拾うだけだとブレやすいです。だからこそ大切なのは、最初から「ぴったりの金額」を当てにいくのではなく、自社の相場感を“現実的な手順”でつかむことです。

ここで目指すのは、細かい計算を完璧にすることではありません。買い手や専門家と話を進めるために、「うちはこのあたりのレンジになりそうだ」と落ち着いて言える状態を作ります。

まずは数字の土台をそろえる(直近の決算・試算表・借入・役員貸借)

相場感をつかむ第一歩は、意外と地味ですが数字の土台をそろえることです。ここが曖昧なままだと、どんな相場の話も結局ふわっとしてしまいます。

最低限そろえておきたいのは、次の4つです。

  • 直近の決算書(できれば2〜3期分あると話が通りやすい)
  • 直近の試算表(今期の途中経過が分かるもの)
  • 借入の一覧(残高・返済額・金融機関・担保や保証の有無など)
  • 役員貸借(役員借入金・役員貸付金がある場合は金額と経緯)

難しい資料を作り込む必要はありません。大事なのは、「今の会社の数字を、誰かに説明できる状態」になっていることです。

もし「役員貸借って何だっけ?」となった場合は、ざっくりで大丈夫です。

  • 役員借入金:社長が会社にお金を入れている(会社が社長に返す側)
  • 役員貸付金:会社が社長にお金を貸している(社長が会社に返す側)

このあたりは、相場や条件に影響しやすい論点なので、金額が大きい場合ほど、早めに把握しておくと安心です。

「何が強みか」を一言で言える形にする(買い手が見たいポイント)

相場感をつかむうえで、数字と同じくらい大事なのが、「この会社の強みは何か」を一言で言えることです。買い手は数字だけでなく、「買ったあとに伸ばせるか」「引き継いで回るか」を見ています。

ここで求められるのは、上手なキャッチコピーではありません。背伸びせず、事実ベースで、短く言える形が強いです。

たとえば、次のような切り口で考えると整理しやすいです。

  • 顧客:誰に選ばれているか(法人/個人、業界、地域など)
  • 継続性:なぜ継続して買ってもらえるのか(リピート・定期契約など)
  • 差別化:同業と比べて何が違うか(技術、納期、対応力、導入実績など)
  • 仕組み:社長がいなくても回る部分があるか(担当者、手順、マニュアルなど)

「強みが分からない」と感じる場合でも、ゼロということはほとんどありません。強みは“派手さ”ではなく、「この会社が今も続いている理由」に隠れていることが多いです。

一言で言う練習としては、次の型が使いやすいです。

  • 「当社は〇〇業界の△△に強く、□□が安定している会社です」
  • 「リピートが多く、毎月の売上が読みやすいのが特徴です」
  • 「専門性が高く、同じお客様から長く選ばれています」

この一言があるだけで、相場のレンジを考えるときの前提が揃い、話が現実的になります。

比較のしかたを間違えない(似ている会社・似ている条件を探す)

相場感がズレやすい原因のひとつが、比較のしかたです。会社売却の相場は、似ているもの同士で比べないと、判断がブレます。

「同じ業種だから参考になる」と思っても、次のような条件が違うと、相場感は簡単に変わります。

  • 売上の作り方:ストック型(継続)なのか、フロー型(単発)なのか
  • 利益の安定性:毎年安定か、波が大きいか
  • 依存度:社長依存・取引先依存が強いか
  • 規模感:従業員数や拠点、管理体制の厚み

比較するときは、「業種」よりも、ビジネスの形とリスクの形が似ているかを意識した方が、相場感が現実に近づきます。

そして、相場の数字を見るときは、“一点の数字”ではなく“幅”で捉えるのが安全です。似ている条件の中で、上振れしている会社は何が強いのか、下振れしている会社は何が不安なのか、という見方をすると、学びが増えます。

一社の見立てで決めない(複数ルートで“レンジ”を持つ)

最後に、とても大事なのが、一社の見立てだけで相場感を決めないことです。

会社売却の相場は、見立てる人の立場や得意分野、過去に扱ってきた案件によって、見え方が変わります。これは誰かが悪いのではなく、扱う案件の違いで視点が変わるという自然な話です。

だからこそ、最初の段階では、ひとつの答えを信じ切るのではなく、複数のルートから情報を取り、「このあたりが現実的なレンジだな」を持つ方が安心です。

レンジを持つときは、たとえば次のように整理すると冷静になれます。

  • 強気レンジ:条件が整った場合に狙えるライン
  • 現実レンジ:今の状態で説明がつくライン
  • 守りレンジ:リスクや不安が強く見られた場合のライン

こうしてレンジで持っておくと、相場の情報に触れても振り回されにくくなりますし、交渉になったときも「どこまでなら受け入れられるか」を落ち着いて考えられます。

相場を聞くときに、ここだけは確認したいこと

相場を知るために、仲介会社やアドバイザー、知人の経営者などに「だいたいいくらくらい?」と聞く場面はよくあります。ここで大切なのは、相場の数字そのものよりも、その数字が“どんな前提で出てきたのか”を押さえることです。

相場の話が噛み合わない多くの原因は、相手が悪いというより、前提が省略されたまま数字だけが一人歩きしてしまうことにあります。以下の3点だけ確認できれば、相場の情報はぐっと使いやすくなります。

その金額は「どの前提」か(スキーム・資産負債の扱い・役員退職金など)

相場を聞いたら、まず確認したいのは「その金額は、何を含んだ金額ですか?」という点です。会社売却では、同じ「〇円」という数字でも、前提が違えば意味が変わってしまいます。

特にズレやすい前提は、次のようなものです。

  • スキーム(売り方):株式譲渡なのか、事業譲渡なのか
  • 資産・負債の扱い:現預金や借入をどう見ているか(含めて考えているのか)
  • 役員退職金:売却時に退職金を出す想定があるか(その分をどこで調整しているか)

ここは難しく考えなくて大丈夫で、聞き方はシンプルでOKです。たとえば、こんな聞き方ができます。

  • 「その金額って、株式譲渡を前提にした話ですか?」
  • 「現預金や借入は、その金額に含めて考えていますか?」
  • 「役員退職金を出す想定は入っていますか?」

相場の数字は、前提が揃って初めて比べられるものです。前提を確認せずに「高い/安い」と判断すると、後から「話が違う」となりやすいので、最初にここだけ押さえるのがおすすめです。

誰が言っている相場か(立場で“見せ方”が変わることがある)

同じ会社でも、相場の見立ては人によって変わります。これは能力の差というより、その人の立場や、普段見ている案件の種類が違うからです。

たとえば、次のように“見え方”が変わることがあります。

  • 売主側の支援が中心の人:売主の希望や条件を踏まえて、上振れの可能性も含めてレンジで語りやすい
  • 買い手側の目線が強い人:買い手が嫌がる点(リスク)を強めに見て、慎重な金額になりやすい
  • 知人の経営者:本人の経験(特定の業種・特定の規模)を前提に話していることが多い

ここで大事なのは、「誰が正しいか」を決めることではなく、その相場が“どんな視点”から出てきたものかを理解することです。

相場を聞くときは、数字に加えて、次のような一言を添えると情報の質が上がります。

  • 「その相場って、どういう案件を多く見ている立場からの感覚ですか?」
  • 「同じ業種でも、どんな会社が高くなりやすい印象ですか?」

相場の数字が「なぜそうなるのか」まで分かると、たとえ希望通りの数字でなくても、納得して次の打ち手を考えやすくなります。

情報を出す順番を間違えない(先に出しすぎて不利にならない工夫)

相場を聞く場面で、もうひとつ気をつけたいのが情報を出す順番です。善意でいろいろ話したつもりが、結果として自分の選択肢を狭めてしまうことがあります。

たとえば、最初の段階で次のような情報を断定的に出してしまうと、あとで修正しづらくなります。

  • 「希望価格はこの金額です」(根拠が薄いと、その後の交渉が固まりやすい)
  • 「この条件なら絶対に譲れません」(本当に譲れないのか、整理不足のまま固定化しやすい)
  • 弱点になりそうな情報を、整理しないまま一気に出す(誤解されたまま印象が固まる)

とはいえ、「何も言わない方がいい」という話ではありません。ポイントは、先に出す情報を“整理した形”にしておくことです。

たとえば、最初は次のような出し方が安全です。

  • 希望価格は「レンジ」で伝える(まずは幅を持たせる)
  • 譲れない条件は「理由つき」で伝える(感情ではなく背景を添える)
  • 課題になりそうな点は「現状と対策」をセットで伝える

相場を聞く段階では、相手に判断してもらうために情報を出す必要があります。ただ、出し方次第で印象が大きく変わるので、「急いで全部出す」より「誤解されない形で出す」を意識すると、不利になりにくいです。

もし迷ったら、相場を聞くときの基本はこれだけで十分です。「この金額の前提は?」「その相場は誰の視点?」「今出すべき情報はどこまで?」この3つを押さえるだけで、相場の情報を“使える形”で受け取れるようになります。

相場でよくある誤解(ここでつまずく人が多い)

会社売却の相場を調べていると、分かりやすい数字や言い切りの情報が目につきます。ですが、その分かりやすさが原因で、本当はズレている前提のまま判断してしまうことも少なくありません。

ここでは、相場でつまずきやすい「よくある誤解」を4つ取り上げます。誤解をほどいておくだけで、相場の情報を見たときに焦りにくくなります。

「売上〇倍」で決まると思ってしまう

「売上〇倍で売れる」という話を見聞きすると、ついそれを自社にも当てはめたくなります。ただ、売上は会社の規模感を表す分かりやすい数字ではある一方で、売却の金額を決める材料としては、単独では弱いことが多いです。

なぜなら、同じ売上でも、会社によって中身が大きく違うからです。

  • 利益がしっかり残っている会社もあれば、ほとんど残らない会社もある
  • 毎月安定して売上が立つ会社もあれば、波が大きい会社もある
  • 社長がいなくても回る会社もあれば、社長が止まると止まる会社もある

買い手が気にするのは、売上の大きさ以上に、「この会社は買ったあとに、どれくらい安定して回るか」です。売上〇倍という表現は、参考程度に見るのは良いのですが、それだけで決まると思ってしまうと、期待が先行しやすくなります。

過去最高益だけで判断してしまう(足元の再現性が大事)

過去にすごく良い年があると、「うちはこの利益で評価されるはず」と思いたくなる気持ちは自然です。ですが売却の場面では、買い手が一番気にするのは「その利益は今後も続きそうか」です。

たとえば、過去最高益が出た理由が次のようなものだった場合、買い手は慎重になります。

  • たまたま大口の案件が入った
  • 一時的な市場の追い風があった
  • 単発の売却益など、本業とは別の要因が大きい

反対に、足元の利益がそこまで高くなくても、安定して再現できる根拠がある会社は評価されやすいです。買い手は「最高益」よりも、“その会社の通常運転”がどれくらい強いかを見ています。

もし過去最高益を相場の根拠にしたい場合は、金額を強く言うより先に、「なぜそれが出たのか」「今も再現できるのか」を説明できる状態にしておくと、相場の話が現実的になります。

節税で利益が小さく見えているのに、そのまま受け止めてしまう

中小企業では、節税のために利益が小さく見える決算になることは珍しくありません。ここでつまずきやすいのが、見た目の利益だけを見て、「うちは儲かってないから安いはず」と決めつけてしまうことです。

実際には、決算書に出ている利益が小さくても、買い手が見るときには、次のような点を確認しながら「実態」を見ようとします。

  • 本来の利益を押し下げている費用があるか(例:一時的な支出など)
  • オーナーならではの支出が混ざっていないか(例:役員報酬の取り方など)
  • 継続する費用と、たまたまの費用が混ざっていないか

ここで大事なのは、「利益をよく見せよう」とすることではありません。そうではなく、買い手に対して「この数字はこういう背景です」と説明できる状態にしておくことです。

節税の結果、利益が小さく見えている会社でも、説明がつけば、相場の見え方が変わることがあります。逆に、説明がないと、買い手は「実態が分からない」と感じて慎重になりやすいです。

「借入がある=売れない」と決めつけてしまう

借入があると、「こんな状態じゃ売れないですよね」と不安になる方は多いです。でも、借入があること自体は、中小企業では珍しいことではありません。実際、借入がある会社でも売却が進むケースはあります。

買い手が気にするのは、借入の“存在”よりも、次のような点です。

  • 返済が無理なく回っているか(資金繰りが詰まっていないか)
  • 借入の内容が整理されているか(どこから、いくら、どんな条件か)
  • 借入の理由が分かるか(成長投資なのか、赤字補填なのか)

「借入がある=売れない」というより、売却の場面で困るのは、借入が整理されていない、または説明できない状態です。借入の全体像が分かっていて、返済も回っているなら、相場の話も落ち着いて進めやすくなります。

借入があるときほど、まずは借入の一覧を作って見える化するだけでも、相場の見え方がクリアになります。数字を隠すより、整理して説明できる形にするほうが、買い手の不安は減りやすいです。

相場を味方につけるために、売主が持っておくと安心な考え方

会社売却の相場を調べていると、どうしても「うちはいくらで売れるのか」に意識が集中しがちです。もちろん金額は大事です。ただ、相場に振り回されずに前に進むためには、相場を“答え”ではなく“道具”として扱う感覚があると安心です。

ここでは、相場を味方につけるために、売主が持っておくとブレにくい考え方を3つ整理します。

ゴールは“相場の当てっこ”ではなく、納得できる条件を作ること

最初に覚えておきたいのは、会社売却のゴールは「相場通りに売ること」ではなく、「自分が納得できる条件で着地すること」だという点です。

相場はあくまで目安です。相場が高いと言われても、条件が合わなければ意味がないですし、逆に相場より低めに見えても、条件次第では納得できるケースもあります。

たとえば、売主が「納得できる条件」には、こんな要素が含まれます。

  • 価格(もちろん大事)
  • 引き継ぎの負担(どれくらい関わるのか、期間はどれくらいか)
  • 従業員や取引先への影響(守りたいものがあるか)
  • 支払いの確実性(いつ、どう支払われる想定か)

相場の数字は目を引きますが、売却は「値段だけ」では決まりません。相場を追いかけすぎると、条件の大事な部分を置き去りにしてしまうことがあります。逆に、最初から「自分は何に納得したいのか」を持っていると、相場の情報が入ってきても落ち着いて判断できます。

相場は一点ではなくレンジで持つ(上振れ・下振れの理由もセットで)

相場で疲れてしまう一番の原因は、「ぴったりの金額」を探そうとしてしまうことです。でも現実には、会社売却の相場は一点ではなく、幅(レンジ)で考える方が自然です。

レンジで持つときは、ただ幅を作るだけでなく、上振れ・下振れの理由もセットで持つのがポイントです。理由が分かっていると、交渉の中で数字が動いても「なぜそうなるのか」を理解しやすく、気持ちが乱れにくくなります。

たとえば、こんな整理ができます。

レンジの持ち方 どういう状態を想定するか 理由の例
上振れのライン 強みが伝わり、買い手の不安が少ない状態 利益の再現性が説明できる/引き継ぎ体制が見える
中心のライン 現状の資料と説明で、無理なく納得される状態 数字と実態が一致している/大きな懸念がない
下振れのライン 買い手が慎重になり、リスクを強く見た状態 社長依存が強い/取引先集中が強い/説明が不足

レンジで持つと、「高く売れなきゃ失敗だ」という感覚になりにくくなります。相場は“勝ち負け”ではなく、判断をするための幅として持っておく方が、結果的に交渉も冷静に進めやすいです。

早い段階で「譲れない条件」を言語化しておく(価格以外も含めて)

相場の情報を集めている段階でも、できれば早めにやっておきたいのが、「譲れない条件」を言葉にしておくことです。

ここでいう譲れない条件は、「強く言い切る条件」ではありません。むしろ、自分の中で迷わないための基準です。これがないと、相場の数字を見て気持ちが揺れたときに、判断が毎回ぶれてしまいます。

言語化するときは、価格だけでなく、価格以外も含めて考えるのが大切です。たとえば、こんな項目があります。

  • 価格:最低限ここは守りたいライン(できればレンジで)
  • 従業員:雇用をどうしたいか、急な条件変更は避けたいか
  • 引き継ぎ:関わる期間の希望、現場に入り続けるのは避けたいか
  • ブランドや取引先:社名や屋号、主要取引先への対応方針

ポイントは、条件を「感情」ではなく、理由とセットで言葉にすることです。理由が整理されていると、交渉の途中で条件を調整するときも、「何を守り、何は調整できるか」が見えやすくなります。

相場は、上手に使うと心強い材料になります。ただ、相場を“答え”にしてしまうと苦しくなります。納得できる条件を作るという目線を持ち、レンジで考え譲れない条件を言葉にしておくだけで、相場は振り回すものではなく、判断を助けるものになっていきます。

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