事業承継で日本の未来へカケハシを

会社売却

東京の情報通信業はどこに多い?23区の事業所分布と事業承継

東京の情報通信業|23区の分布と事業承継

東京の情報通信業というと、渋谷のIT企業や都心の大きなオフィスを思い浮かべるかもしれません。しかし、地域の集積を確認するには、印象と統計を分ける必要があります。事業所の数、働く人の数、その区の全産業に占める割合によって、見える姿は変わります。

この記事では、東京都統計年鑑の情報通信業のデータを使い、23区の分布を整理します。調査は2021年6月1日現在の経済センサスに基づくもので、2026年現在の企業数を表すものではありません。そのうえで、中小の情報通信事業者が承継を考える際に確認したい、顧客契約、人材、システム、権利、継続運用のポイントを説明します。

情報通信業の統計を読む前に、三つの違いを押さえる

IT企業、スタートアップ、情報通信業は同じ範囲ではない

本記事の対象は、産業大分類の「情報通信業」です。通信業、放送業、情報サービス業、インターネット附随サービス業、映像・音声・文字情報制作業などを含む区分です。ソフトウェア会社やインターネット関連企業だけに限定した統計ではありません。

また、ITを活用している会社がすべて情報通信業に分類されるわけでもありません。分類は主な事業の内容に基づきます。情報通信業の事業所数を、そのままスタートアップ数、SaaS企業数、システム開発会社数として扱わないことが大切です。

事業所の数と、会社の数を区別する

事業所は、事業活動を行う場所を単位として数えます。一つの企業が本社、開発拠点、営業所などを複数持つ場合があります。反対に、個人で活動する事業所も含まれます。法人だけの企業数や、会社売却の候補数を示すものではありません。

従業者数も、各区に住む人の数ではなく、事業所に従事する人の数です。正社員だけに限定した数ではありません。従業者が多い区だからといって、その区で採用できる技術者が同じだけいると結論づけることはできません。

年鑑の対象年と、調査した年を区別する

使用する資料は東京都統計年鑑令和6年の第8-1表ですが、数値の基準日は2021年6月1日です。年鑑の年だけを見て、2024年や現在の調査結果と読み違えないようにします。移転、開業、廃業、事業再編など、その後の変化はこの表だけでは分かりません。

指標・対象 読み取れること 混同しないこと
情報通信業の事業所数 通信・放送・情報サービス等の拠点 IT企業数、スタートアップ数、売却案件数
従業者数 事業所で働く人の集積 居住者数、採用可能な技術者数
区内割合 全産業に占める情報通信業の比重 収益性、後継者不在率
調査時点 2021年6月1日の分布 2024年や2026年現在の数

情報通信業の事業所数は、港区が最も多い

2021年の情報通信業は、東京都全体で28,503事業所、従業者1,085,934人です。区部では25,914事業所、従業者1,039,716人となっています。都全体の値には多摩地域や島しょ地域も含まれるため、区部と分けて読みます。

23区の事業所数は、港区3,931所、千代田区3,692所、渋谷区3,241所、新宿区2,651所、中央区2,418所の順です。上位五区の合計は15,933所で、区部25,914所の61.48%を占めます。情報通信業の拠点は、区部の中でも複数の都心区に集まる分布になっています。

渋谷区は上位に入りますが、この大分類の事業所数では港区と千代田区が上回っています。渋谷のIT企業という印象だけで全体像を判断せず、対象業種と指標をそろえて比較することが重要です。特定の分野の企業を調べる場合は、より細かい分類の資料が必要になります。

情報通信業の事業所数は港区3931、千代田区3692、渋谷区3241、新宿区2651、中央区2418
東京都統計年鑑令和6年・第8-1表より作成。2021年6月1日現在の民営事業所。通信・放送等を含みます。

集積の理由は、この統計だけでは分からない

事業所数の多さから、取引先、採用、人材交流、交通などの利便性を連想することはできますが、この表は立地の理由を調べた資料ではありません。集積の原因や、その場所に移転したときの成果を直接説明するものではない点に注意します。

会社の承継や買い手探しに使う場合は、顧客の所在地、実際に働く場所、対面が必要な業務、協力会社との関係を別に確認します。住所が近いことだけで事業の相性がよいとは限りません。遠隔で提供できるサービスと、現地対応が必要な業務を分けると、自社にとって地域が持つ意味が見えてきます。

従業者数では港区が約25万人

情報通信業の従業者数は、港区249,897人、千代田区164,656人、渋谷区106,574人、中央区105,874人、新宿区96,683人です。事業所数の順位と比べると、中央区と新宿区の順番が入れ替わります。同じ区の比較でも、拠点数だけでなく働く人の数を見ることで違いを捉えられます。

一事業所当たりの従業者数を計算すると、港区は約63.6人、千代田区は約44.6人、渋谷区は約32.9人です。これらは平均値であり、典型的な事業所の規模や中央値ではありません。大きな事業所の存在が平均に影響する可能性があります。

平均人数を使って、自社と同規模の会社が多い区を断定することはできません。また、従業者数から売上、生産性、技術力、会社の価値を直接判断することもできません。具体的な比較には、事業内容、収益の仕組み、顧客構成、技術や人材の状況が必要です。

23区の事業所数と従業者数を一覧で比較する

次の表は、情報通信業の事業所数が多い順に並べています。区内割合は、情報通信業の事業所数を、その区の全産業の民営事業所数で割った値です。企業の売上構成や後継者不在率ではなく、事業所の産業構成を示します。

区 事業所数 従業者数 区内割合
港区 3,931所 249,897人 9.58%
千代田区 3,692所 164,656人 10.26%
渋谷区 3,241所 106,574人 9.74%
新宿区 2,651所 96,683人 8.01%
中央区 2,418所 105,874人 7.09%
品川区 1,099所 88,202人 5.52%
豊島区 1,098所 25,789人 5.74%
文京区 938所 26,257人 6.82%
台東区 932所 18,131人 4.07%
世田谷区 877所 20,485人 3.19%
杉並区 691所 7,097人 3.59%
江東区 668所 68,522人 3.44%
大田区 548所 15,049人 1.92%
目黒区 547所 11,771人 4.46%
練馬区 547所 3,891人 2.69%
中野区 492所 10,833人 4.11%
板橋区 324所 2,218人 1.88%
墨田区 270所 7,052人 1.81%
北区 226所 3,177人 1.93%
江戸川区 224所 2,594人 1.13%
足立区 207所 1,226人 0.90%
葛飾区 139所 527人 0.89%
荒川区 134所 1,731人 1.61%

23区の情報通信業の事業所数を合計すると25,894所となり、区部25,914所とは20所の差があります。区部の集計には境界未定地域が含まれるためです。本記事では上位五区の構成比を区部合計で計算し、区内割合はそれぞれの区の全産業を分母にしています。

割合は計算前の元の数値から求め、表示時に小数点以下を丸めています。表の数値を確認する際は、東京都全体、区部、23区合計のどれを対象としているかをそろえてください。異なる範囲の合計を分母にすると、同じ事業所数でも割合が変わります。

区内割合では、千代田区と渋谷区が上位

各区の全産業に占める情報通信業の事業所割合は、千代田区10.26%、渋谷区9.74%、港区9.58%、新宿区8.01%、中央区7.09%の順です。事業所数で首位の港区は割合では三番目で、千代田区が最も高くなっています。

これは、各区で他の産業の事業所数が異なるためです。数が多い区は拠点の集積量を、割合が高い区は地域の産業構成における比重を表します。二つの指標を組み合わせることで、単純な順位付けよりも地域の特徴を把握しやすくなります。

情報通信業の区内割合は千代田区10.26%、渋谷区9.74%、港区9.58%、新宿区8.01%、中央区7.09%
同表の各区の全産業事業所数を分母に編集部計算。後継者不在率や売却可能性を示す値ではありません。

ただし、割合が高い区ほど会社が売りやすい、後継者候補が見つかる、価格が高くなるという意味ではありません。地域の統計は、自社の経営課題や相手企業の取得目的を代わりに評価するものではありません。立地以外の条件も確認する必要があります。

情報通信業の後継者不足を、別業種の数字で代用しない

帝国データバンクの東京都の後継者不在率調査には「運輸・通信業」という区分がありますが、本記事の経済センサスの「情報通信業」と同じ範囲ではありません。この率をIT企業全体の後継者不在率として使ったり、区別の情報通信業事業所数へ掛けたりすることはしません。

東京都全業種の2025年の後継者不在率は47.9%ですが、これも情報通信業だけの率ではありません。調査対象は、同社が承継状況を分析できた都内企業であり、経済センサスの事業所と単位も異なります。異なる調査を組み合わせる際は、対象、時点、数える単位を確認することが必要です。

自社の承継課題は、地域の推計ではなく、現在の経営体制から把握します。社長以外に重要な判断をできる人がいるか、顧客との契約や技術資料の所在が分かるか、障害が起きた際に対応できるかなど、事業を続けるための具体的な条件を確認します。

中小の情報通信事業者が承継前に整理したいこと

売上を、仕事の種類と継続条件に分ける

受託開発、保守運用、利用料、広告、制作など、売上が生まれる仕組みは会社ごとに異なります。定期的に入金がある場合でも、そのまま永久に続く収入とは限りません。契約期間、更新、解約、追加対応、価格の見直しなどの条件を確認します。

案件単位の事業では、受注済みの仕事、進行中の仕事、納品・検収待ち、未請求の仕事を分けます。売上額だけでは、将来必要な作業や費用が見えにくい場合があるためです。各案件の担当者、進捗、予算、納期、顧客との合意事項をそろえます。

継続的なサービスでは、顧客数や契約件数を示すだけでなく、集計方法を明確にします。無料利用者と有料契約、契約とアカウント、解約の申出と実際の終了などを混ぜないようにします。買い手へ説明するときは、数字の定義と対象期間をそろえることが重要です。

技術と顧客対応が、一人に集中していないかを確認する

システムの構成や過去の判断を、特定の技術者だけが知っている場合があります。社長が営業と技術責任者を兼ねる会社では、顧客との約束や不具合への対応も集中しがちです。誰が何を知っているかを整理し、資料と実際の操作の両方で引継ぎを考えます。

技術者の人数がそろっていても、担当範囲が偏っていれば、退任や離職によって運用が滞る可能性があります。主要なシステム、顧客、技術分野ごとに主担当と代替できる人を確認します。必要な教育や採用は、引継ぎ期間と費用の検討にもつながります。

対象 そろえる情報 引継ぎの確認点
売上・顧客 契約期間、更新、解約、請求 継続の条件と顧客への説明
進行中の案件 進捗、納期、検収、未請求 残る作業と必要な人・費用
人材 技術分野、顧客、主担当と代替 退任後も判断・対応できるか
権利 コード、制作物、外注、ライセンス 所有・利用・共有できる範囲
システム 構成、契約、管理者、更新日 必要な権限と支払方法の移行
運用 監視、障害対応、顧客サポート 責任者、連絡、切替えの手順

ソースコード、データ、利用権の所在を確かめる

作ったものを、すべて自由に移せるとは限らない

自社で開発したプログラムや制作物でも、顧客や外注先との契約によって権利関係が定められている場合があります。ソースコード、設計資料、画像、文章、データなどについて、誰がどの権利を持ち、どの範囲で利用できるかを確認します。

外部のソフトウェアやクラウドサービスを使う場合は、利用契約の名義、ライセンス、利用者数、変更や移管の条件も整理します。オープンソース等を利用している場合も、適用される条件の確認が必要です。具体的な権利や契約の判断は、担当者と専門家へ相談してください。

買い手候補への情報開示では、秘密保持、個人情報、顧客との契約に配慮し、目的と段階に応じて範囲を決めます。システムの構成を説明することと、稼働環境への管理権限を渡すことは異なります。検討に必要な情報を、適切な方法で共有することが重要です。

運用に必要な権限と、費用の支払いを見えるようにする

ドメイン、サーバー、証明書、クラウド、コード管理、監視、メールなどの管理者を一覧にします。契約更新、請求先、支払方法、担当者の連絡先も確認します。経営者個人のアカウントやカードに結び付くものがあれば、必要な変更を整理します。

権限の移行は、アクセスできるかだけでなく、誰が何を操作できるかを確認して行います。旧担当者の権限をいつ見直すか、緊急時の対応をどう引き継ぐかも決めます。引継ぎ資料に秘密情報を無制限に集めるのではなく、組織の情報管理に合う方法で扱います。

サービスを止めないために、切替えの順番を決める

承継後の新しい管理方法やシステムへ移る場合でも、すべてを成立日に変更する必要があるとは限りません。契約、請求、障害対応、サポートなど、現在のサービスを続けるために必要な業務を先に確認します。変更による影響と、問題が起きた場合に戻す方法を検討します。

顧客への説明では、窓口、サービスの提供、請求、サポートの時間帯など、実際に変わることを具体的に整理します。変わらない事項と検討中の事項も、買い手と認識を合わせて伝えます。技術的な詳細をすべて説明するより、利用者の仕事に関わる内容を優先します。

旧経営者が支援する場合は、担当する顧客やシステム、対応する時間、期間、報酬、完了条件を決めます。深夜や休日の障害対応まで無期限に引き受けるような曖昧な状態を避け、会社としての運用責任者を明確にすることが必要です。

引継ぎの確認には、実際の運用を使う

たとえば保守サービスを引き継ぐ場合は、連絡先一覧を渡すだけでなく、問い合わせを受け、担当へ割り振り、対応内容を記録して顧客へ報告する流れを後任が実施できるか確認します。担当者が不在のときの連絡先、判断に必要な資料、追加作業を承認する人も確かめます。これは実務上の確認例であり、すべてのサービスに共通する手順を示すものではありません。

システムのバックアップについても、保管先を知っていることと、必要なときに復旧できることは別です。通常業務に影響しない方法で確認する範囲を、運用担当者と決めておきます。復旧手順や連絡体制の不足が分かれば、引継ぎ中に整備する項目として管理します。

情報管理の整備には、IPAが公開する中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインや資産管理台帳のサンプルも参考になります。既存のひな型を埋めるだけで終わらせず、自社が提供するサービスと利用する情報に合わせて、管理する対象と担当を決めることが大切です。

買い手の提案は、技術と運営の両方から確認する

買い手が新たな顧客、技術、人材、資金を提供すると説明した場合は、担当者、予算、日程を聞きます。技術を持つ会社同士でも、顧客の要件、開発方法、保守の考え方、情報管理の基準が異なることがあります。名前の近い業種だから相性がよいと決めないことが大切です。

従業員については、担当業務、働く場所、評価、開発環境、教育など、日々の仕事に影響する事項を確認します。買い手の計画と契約上の約束は区別し、重要な希望は具体的な条件として話し合います。人材の継続とサービスの継続は、合わせて検討する必要があります。

調査で見つかった課題は、売却を妨げるものとして隠すのではなく、対応方法と費用を整理します。古いシステム、更新が必要な契約、資料の不足などについて、誰がいつまでに対処するかを明らかにすると、成立後の運営計画を具体化しやすくなります。

立地の分布を知り、事業が続く条件を準備する

情報通信業の事業所は、港区、千代田区、渋谷区、新宿区、中央区の五区で区部の61.48%を占めます。一方、区内割合では千代田区と渋谷区が上位になります。数、人数、割合を分けることで、東京の集積を異なる角度から確認できます。

承継の準備では、地域の順位よりも、自社の契約、人材、技術、権利、運用の状態が重要です。まずは売上の仕組みと、社長がいないと止まる仕事を整理してください。その情報が、後継者の育成や買い手との面談、成立後の引継ぎを具体的に進める材料になります。

参考資料・集計方法

割合、構成比、平均人数はKAKEHASHI編集部計算。区部は境界未定地域を含みます。TDBの運輸・通信業の率を情報通信業やIT企業の率として代用していません。

専門サービスとの分布の違いは東京の学術研究・専門技術サービス業、会社全体の引継ぎは売却後のPMI、買い手探しはM&Aマッチングサービスをご覧ください。

RELATED

PAGE TOP