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会社売却

東京の小売業はどこに多い?23区の事業所分布と事業承継

東京の小売業 23区の分布と承継

東京で小売店を営む経営者が事業承継を考えるとき、「商店街の店が減った」「駅前には大きな店が増えた」という実感と、統計が示す姿は必ずしも一致しません。店舗の数、働く人の数、商品の売上高は、それぞれ違う面を表すからです。自分の店を次の世代に引き継ぐ準備では、地域の商業の広がりを知ったうえで、店そのものの収益と運営条件を確かめる必要があります。

東京都統計年鑑の小売業の地域別集計では、2021年6月1日現在、東京都内に68,216事業所、区部に50,752事業所があります。23区のうち事業所数が最も多いのは世田谷区で、次いで大田区、渋谷区、新宿区、足立区です。一方、年間商品販売額が大きい区の並びは異なります。本記事では、この違いを地域を見る手掛かりとして整理し、小売店の承継で先に確認したい事項までつなげます。

使用するのは2021年経済センサスに基づく確定した地域別データです。2026年現在の店舗数や、今売りに出ている店の数を示すものではありません。また、ここでいう事業所には個人経営の店だけでなく法人の店舗なども含まれ、一社が複数の事業所を持つことがあります。「事業所数」を「小売会社数」と読み替えないことが、分析の出発点です。

東京の小売業を見るときは、まず数字の対象をそろえる

店舗の広がりと企業の数は別の指標

経済センサスの地域集計は、どこに経済活動の拠点があるかを捉えるものです。チェーン企業が区内に複数の店舗を持つ場合、企業としては一社でも、活動拠点は複数になります。反対に、企業の本社所在地と実際の販売拠点がある区は一致しないことがあります。区別の事業所数から、その区に本社を置く小売会社の数や、独立したオーナーの数までは分かりません。

「店が多い区だから後継者を探す店も多い」と結論を急ぐこともできません。後継者が決まっている店、チェーン本部が経営する店、経営者が若い店などが同じ集計に含まれます。ここでは、事業所数を地域にある小売活動の厚みとして読み、個々の承継可能性は別に確かめます。取引先の紹介や店舗見学を考える際の背景情報として使うと、数字の意味を取り違えにくくなります。

本記事の商業集計は、全産業の集計と対象が異なる

今回使う東京都統計年鑑第12-1表は、卸売業・小売業を詳しく集計した表です。経済センサスの商業集計には、管理・補助的な活動だけを行う事業所や産業分類を特定できない事業所などに関する集計上の扱いがあります。全産業を一括した表と、対象となる事業所が完全に同じではありません。

このため、本記事では第12-1表の小売業事業所数を、別表の全産業事業所数で割った「区内の小売業割合」は示しません。同じ小売業の表の中で区どうしを比べることと、異なる集計を組み合わせることは区別します。公表年が同じ資料でも、調査時点、対象、単位を確認してから比較することが大切です。

指標 対象・時点 読み取る際の注意
事業所数 2021年6月1日現在 企業数や売却候補数とは異なる
従業者数 2021年6月1日現在 正社員だけの人数ではない
年間商品販売額 2020年1~12月の販売額 利益ではなく、調査日とも期間が異なる
後継者不在率 別の企業調査による2025年の結果 区別・店舗別の率には使えない

小売業の事業所数は、世田谷区・大田区が上位

23区の事業所数を多い順に並べると、世田谷区3,626所、大田区3,274所、渋谷区3,045所、新宿区2,911所、足立区2,900所となります。上位五区の合計は15,756所で、区部の50,752所に対して31.05%です。残る区にも広く事業所が分布しており、一つの都心エリアだけに小売業が集中しているわけではありません。

住宅地、駅周辺、広域から人が集まる商業地など、小売店が営業する環境はさまざまです。ただし、この表自体には来店客の居住地や買物目的、通行量は含まれません。世田谷区や大田区の事業所数が多いことを、そのまま一店当たりの集客力や売上の優位性と結び付けることはできません。区の広さや人口を調整した密度の順位でもない点に注意してください。

小売業事業所数は世田谷区3626、大田区3274、渋谷区3045、新宿区2911、足立区2900
東京都統計年鑑令和6年・第12-1表より作成。2021年6月1日現在。全産業の集計表とは対象が異なる商業集計です。

23区の事業所数と従業者数を一覧で確認する

次の表は、同じ商業集計から取り出した小売業の事業所数と従業者数です。一事業所当たり従業者数は、各区の従業者数を事業所数で割って計算しています。平均値であって、一般的な店舗の標準人数や中央値ではありません。大きな店舗と小さな店舗が混在する地域では、平均と実際の店の人数が大きく離れることがあります。

区 小売業事業所数 従業者数 一事業所当たり
世田谷区 3,626所 36,267人 10.0人
大田区 3,274所 32,335人 9.9人
渋谷区 3,045所 35,909人 11.8人
新宿区 2,911所 35,660人 12.3人
足立区 2,900所 27,896人 9.6人
台東区 2,520所 18,232人 7.2人
千代田区 2,480所 27,513人 11.1人
港区 2,430所 28,665人 11.8人
中央区 2,429所 29,975人 12.3人
杉並区 2,398所 20,528人 8.6人
豊島区 2,328所 27,899人 12.0人
練馬区 2,300所 26,300人 11.4人
江戸川区 2,217所 25,201人 11.4人
江東区 2,136所 26,733人 12.5人
板橋区 1,984所 21,446人 10.8人
葛飾区 1,903所 17,962人 9.4人
品川区 1,838所 21,771人 11.8人
目黒区 1,539所 14,456人 9.4人
墨田区 1,532所 14,908人 9.7人
北区 1,378所 12,658人 9.2人
中野区 1,366所 13,074人 9.6人
文京区 1,152所 9,221人 8.0人
荒川区 988所 7,934人 8.0人

区部合計には境界未定地域が含まれるため、23区を足した50,674所と区部50,752所には78所の差があります。従業者数も、23区合計532,543人に対して区部533,116人です。上位五区の割合の分母には、公表表の区部合計を使っています。合計と各区の足し算が一致しない理由を明示することで、数値の再確認がしやすくなります。

人数は売場の運営条件と照らし合わせて読む

区別の平均人数を見ると、江東区は約12.5人、中央区と新宿区は約12.3人です。しかし、従業者には雇用形態が異なる人も含まれるため、この数字をそのまま一日のシフト人数として使うことはできません。同じ十人でも、常時勤務する人の数、営業時間、休日、繁忙期の応援体制によって実際の運営は変わります。

承継の準備で必要なのは、自店の仕事と勤務体制を可視化することです。開店準備、仕入れ、検品、陳列、接客、会計、締め作業のうち、誰が担当できるかを並べます。店主が店頭を離れても営業を続けられる時間帯があるか、休みの日に判断が止まらないかを確認すると、後継者に求める役割を具体的にできます。

事業所数と販売額では、見える商業の姿が変わる

小売業の年間商品販売額は、渋谷区、中央区、新宿区、港区、江東区の順に大きくなっています。事業所数の上位五区と重なるのは渋谷区と新宿区です。この違いは、事業所の数だけでは地域の商業規模を説明し切れないことを示します。販売額を重ねると、数と金額という二つの角度から地域を見られます。

ただし、年間商品販売額の対象期間は2020年の一年間です。事業所数・従業者数の調査時点である2021年6月1日とは異なり、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた時期の数字でもあります。現在の来店状況や需要の回復を、そのまま表しているわけではありません。近年の出店判断や売却価格の見積りには、自店の直近実績と現在の商圏情報を合わせる必要があります。

2020年の小売業年間商品販売額は渋谷区15904.09億円、中央区15358.45億円、新宿区14670.44億円、港区13142.95億円、江東区11924.68億円
同第12-1表の百万円単位を億円に換算。対象期間は2020年の一年間で、現在の売上や店舗の利益を示しません。

販売額が大きくても、利益が大きいとは限らない

年間商品販売額は、商品の販売による金額です。仕入原価、賃料、人件費、物流費、決済手数料などを差し引いた利益ではありません。販売額が大きい地域の店でも、固定費が重ければ利益が残りにくいことがあります。一方、販売規模が比較的小さくても、専門性や固定客との関係によって安定して運営できる店もあります。

そのため、区の販売額順位をそのまま「売却しやすい区」「高く売れる区」の順位として紹介するのは適切ではありません。売却を検討する店では、月次の売上と粗利益、家賃、人件費、営業日数を同じ期間で並べて確認します。店主自身の働き方や家族の手伝いが数字にどう表れているかも、相手が事業を理解するうえで重要な情報です。

立地の価値は、住所だけで説明しない

駅からの距離や商店街の名前に加え、どの時間帯にどのような客が訪れるのかを説明できると、立地の意味が伝わりやすくなります。近隣の生活客が中心なのか、通勤途中の買物が多いのか、目的を持って遠方から来る客がいるのか。これらは地域統計から直接分からないため、自店の販売記録や観察で補います。

たとえば「駅前だから良い店」という説明よりも、「平日の夕方に日用品の購入が多く、休日はまとめ買いが増える」という説明の方が、営業体制を検討する材料になります。顧客の個人情報を無制限に渡す必要はありません。まずは個人が特定されない集計で傾向を示し、詳細な資料の開示範囲と時期は支援者と決めると、検討を進めやすくなります。

東京都の小売業の後継者不在率は52.9%

帝国データバンクの「東京都・後継者不在率動向調査(2025年)」では、小売業の後継者不在率は52.9%でした。前年の54.0%から1.1ポイント低下しています。同調査の都内全業種は47.9%で、小売業の値は全業種を上回っています。後継者の問題を抱える企業が一定数あることを示す資料ですが、各店舗の事情を判定する数値ではありません。

同調査は、帝国データバンクが承継状況を分析できる都内企業を対象としたものです。経済センサスの小売業事業所と母集団が異なり、企業単位と事業所単位の違いもあります。したがって、世田谷区の3,626事業所に52.9%を掛けて「後継者のいない店の数」を出すことはしません。区別の後継者不在率も、この資料からは分かりません。

東京都の調査区分 2024年 2025年 変化
小売業 54.0% 52.9% 1.1ポイント低下
全業種 51.1% 47.9% 3.2ポイント低下

出典:帝国データバンク「東京都・後継者不在率動向調査(2025年)」。経済センサスと集計対象が異なります。

後継者が未定でも、すぐ売却が必要とは限らない

後継者不在には、候補者がいない場合だけでなく、まだ決めていない場合も含まれます。経営者の年齢、健康、家族の考え、事業の状況によって、準備の優先順位は変わります。統計の割合を見て急いで結論を出すより、いつまで現在の働き方を続けたいか、誰に何を引き継ぎたいかを整理する方が、具体的な行動につながります。

選択肢には、親族への承継、従業員への承継、第三者への承継などがあります。店舗の所有者が変わっても店名や営業を続けたいのか、会社全体を引き継ぎたいのか、一部の店舗だけを対象にしたいのかでも相談内容は変わります。「後継者が見つからない」という悩みを、引き継ぐ対象と希望条件に分けて伝えることが重要です。

小売店の承継では、売場・商品・人・契約を一緒に整理する

在庫の金額だけでなく、中身と動きを説明する

在庫は小売店の重要な資産ですが、帳簿の金額だけでは実態が伝わりません。売れ筋、季節商品、長く動いていない商品、返品条件のある商品などを分けると、買い手や後継者が運営を考えやすくなります。棚卸しの基準日と方法、保管場所、廃棄や値引きのルールも合わせて整理します。

ブランド品や専門商品の取り扱いでは、仕入先との関係や販売条件が事業の価値に影響することがあります。店主の個人的な信頼で成り立ってきた取引が、経営者の交代後も続くかは別途確認が必要です。契約書が見当たらない取引も、取引先、主な条件、担当者、過去のやり取りの所在をまとめることから始められます。

店舗の使用条件を早めに確かめる

賃貸店舗であれば、現在の賃貸借契約の名義、期間、更新、保証金などの条件を確認します。株式の譲渡と事業の譲渡では、契約関係の扱いが異なる場合があります。名義や運営主体の変更に関する条項、貸主への説明や承諾の要否は、具体的な契約と取引方法に沿って専門家に確認してください。

建物や土地を経営者個人が所有している場合も、会社の売却と不動産の扱いを分けて考える必要があります。売却後も会社に貸すのか、不動産も譲るのかによって、経営者の収入と会社の固定費が変わります。建物設備の修繕や更新が近い場合は、その事実を整理し、誰がいつ負担するのかを交渉事項として明確にします。

顧客との関係と、店主の判断を引き継げる形にする

接客や品ぞろえの判断が店主だけに集まっていると、引継ぎの負担は大きくなります。どの商品を追加発注するか、問い合わせにどこまで応じるか、常連客への対応を誰が判断するかなど、日常の小さな判断を書き出してみてください。すべてを長いマニュアルにするより、迷いやすい場面から整理すると実務に使いやすくなります。

従業員に伝える時期と内容も、承継の計画に含めます。相手が決まっていない段階で不確かな説明を広げると、不安につながることがあります。一方、実行直前まで運営の中心となる人に何も伝えないと、引継ぎの準備が間に合わないこともあります。秘密保持と業務の継続を両立できるよう、支援者と説明の順番を考えます。

対象 整理する資料・事実 引継ぎで確認したいこと
商品・在庫 棚卸し、滞留品、返品条件 評価の方法と引き渡す範囲
店舗 賃貸借契約、所有関係、設備 営業を続ける条件と費用負担
人・仕事 担当業務、勤務体制、判断基準 店主が離れた後の運営方法
取引先 仕入先、販売条件、契約の所在 継続の条件と説明の順番
顧客・情報 販売傾向、会員制度、管理方法 開示の範囲と引継ぎの方法

相談前に準備するのは、完璧な資料より現在の姿

複数の店を運営している場合は、会社全体の数字に加えて、店ごとの売上、共通経費の配分、応援勤務の状況も分けて確認します。一店舗だけを引き継ぐ案では、本部や他店が担っていた仕事を誰が引き受けるかが、営業継続の条件になるためです。

最初の相談では、直近の決算資料、月次の売上が分かる資料、店舗と従業員の概要、主要な契約の所在を確認しておくと話が進みやすくなります。整っていない資料があれば、何が不足しているかを伝えれば構いません。作成に時間をかけすぎて相談が遅れるより、分かることと未確認のことを区別して持ち込む方が、準備の順番を決めやすくなります。

また、価格以外に守りたい条件を三つ程度に絞って書いておくと、候補者との比較がしやすくなります。たとえば、店を同じ場所で続けること、従業員の雇用、店名や扱う商品の方針などです。希望を持つことと、その条件が契約上確保されることは別なので、どこまで具体的な合意にできるかを確認します。

第三者への承継を含めて相談する場合は、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な窓口も選択肢になります。公的窓口の相談と、紹介先の民間事業者に依頼する業務・費用は分けて確認してください。店の規模だけで相談を諦めず、引き継ぎたい対象、時期、現在の課題を具体的に伝えることが出発点です。

地域の分布を、自店の承継準備につなげる

東京の小売業は、事業所数では世田谷区や大田区が上位に入り、年間商品販売額では渋谷区や中央区が上位になります。指標を変えると地域の見え方も変わります。どちらか一つで店舗の価値を決めず、地域の背景と自店の実績を組み合わせて考えることが必要です。

承継に向けて今日できるのは、店主が担当している仕事、在庫と仕入れの状態、店舗の使用条件、働く人の体制を整理することです。誰が次に経営しても店を理解できる資料を少しずつ増やすと、親族への引継ぎにも、従業員や第三者への相談にも役立ちます。統計は地域を知る入口として使い、店の未来を決める条件は具体的な事実で確かめていきましょう。

参考資料・集計方法

事業所数・従業者数は2021年6月1日現在、販売額は2020年1~12月。平均人数・構成比・金額の単位換算はKAKEHASHI編集部計算です。境界未定地域を含む区部と23区の合計を区別しています。異なる母集団の後継者不在率を掛けた地域別件数の推計は行っていません。

地域別データの別の見方は東京の製造業の分布と事業承継、第三者への売却を考える際は会社売却の買い手候補の種類、候補探しの手段はM&Aマッチングサービスの使い方をご覧ください。

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