会社売却や親族・従業員への承継を検討するとき、株価算定、財務・法務の自己調査、契約書の作成、承継後の統合計画などには専門家費用がかかります。東京都の「事業承継支援助成金」は、こうした外部専門家への委託費の一部を支援する制度です。
2026年度(令和8年度)は助成限度額が200万円、通常の助成率が3分の2です。一定の小規模企業がA・B・Dタイプで企業価値・事業価値の算定を行う場合は、その対象経費について助成率10分の10が適用されます。
第2回募集は2026年9月16日に終了しましたが、第3回は2026年10月13日から12月15日17時までの予定です。申請は先着順ではありません。しかし、申請前の支援実績や現地診断、GビズIDプライムの取得が必要になる場合があり、募集開始後に動き始めると間に合わない可能性があります。
| 確認項目 | 2026年度の内容 | 経営者が先に行うこと |
|---|---|---|
| 第3回申請期間 | 2026年10月13日~12月15日17時(予定) | 募集要項の公開を確認し、逆算日程を作る |
| 助成額 | 上限200万円・申請下限20万円 | 対象経費と対象外経費を分けて見積もる |
| 助成率 | 原則3分の2。一部の小規模企業の価値算定費用は10分の10 | 自社の企業規模と申請タイプを確認する |
| 助成対象期間 | 2026年12月1日~2027年7月31日(最長8カ月) | 契約・成果物・支払いを期間内に完了できるか確認する |
| 申請方法 | Jグランツによる電子申請 | GビズIDプライムを早めに取得する |
この記事では、2026年9月20日時点で公表されている東京都中小企業振興公社の案内とFAQを基に、会社譲渡を検討する経営者が確認したい条件、対象経費、申請手順、採択後の注意点を実務目線で整理します。
2026年度は3回募集、第3回へ向けた準備期間に入っている
2026年度の募集は3回に分かれています。第1回と第2回は終了しており、これから申請する場合は第3回が候補です。公社の案内では、第3回の申請期間は10月13日から12月15日17時までの予定とされています。
| 募集回 | 申請期間 | 2026年9月20日時点 |
|---|---|---|
| 第1回 | 2026年4月17日~6月23日 | 終了 |
| 第2回 | 2026年8月3日~9月16日 | 終了 |
| 第3回 | 2026年10月13日~12月15日17時(予定) | 準備期間 |
募集期間が約2カ月あっても、実務上の準備時間が十分とは限りません。申請タイプによっては、申請前に東京都中小企業振興公社の支援を受けていることや、現地診断を終えていることが要件になるためです。GビズIDプライムの取得、専門家の候補選定、具体的な見積書の取得、事業承継計画の整理にも時間がかかります。
なお、第3回の詳細な募集要項やDタイプの現地診断日程は今後の公表内容を必ず確認してください。予定は変更される可能性があります。
最大200万円でも、すべてのM&A費用が対象になるわけではない
助成金は、対象経費に助成率を掛け、200万円を上限として算定します。通常の助成率は3分の2です。たとえば対象経費が300万円なら、300万円×3分の2で200万円となり、上限に達します。対象経費が150万円なら、助成見込み額は100万円です。
申請下限額は20万円です。通常枠で対象経費が30万円なら、30万円×3分の2で20万円となります。一方、10分の10が認められる小規模企業の価値算定費用なら、対象経費20万円で申請下限額に達する計算です。ただし、実際の交付額は審査や対象経費の認定によって変わります。
| 対象経費の例 | 助成率 | 計算上の助成額 | 上限反映後 |
|---|---|---|---|
| 30万円 | 2/3 | 20万円 | 20万円 |
| 150万円 | 2/3 | 100万円 | 100万円 |
| 300万円 | 2/3 | 200万円 | 200万円 |
| 250万円 | 2/3 | 約166.7万円 | 約166.7万円 |
| 250万円 | 10/10の対象経費 | 250万円 | 200万円 |
10分の10は、A・B・Dタイプを利用する小規模企業のすべての費用に適用されるわけではありません。企業価値・事業価値の算定に関する対象経費が中心です。仲介手数料や契約書作成費まで自動的に全額助成される、と読まないことが重要です。

A・B・C・Dの4タイプを自社の状況から選ぶ
本制度には4つの申請タイプがあります。会社譲渡を検討する売り手企業はAタイプ、親族や従業員への承継はBタイプ、過去の指定事業を利用した企業はCタイプ、買収を検討する買い手企業はDタイプが基本的な候補です。
| タイプ | 主な対象 | 主な活用場面 | 申請前に特に確認すること |
|---|---|---|---|
| Aタイプ | 後継者が決まっていない企業 | 第三者への会社・事業譲渡、M&A準備 | 指定期間内に公社等の所定支援を受けたか |
| Bタイプ | 後継者が決まっている企業 | 親族・従業員承継、株式移転、後継者育成 | 後継者と承継方法が要件に合うか |
| Cタイプ | 公社の指定事業を利用した企業 | 過去の支援を踏まえた事業継続・承継 | 対象となる過去事業・採択歴に該当するか |
| Dタイプ | 事業を譲り受ける都内中小企業 | 買収DD、契約書、PMI計画 | 申請前の現地診断を完了できるか |
会社を売る経営者はAタイプを軸に確認する
Aタイプでは、後継者が決まっておらず、第三者への会社・事業譲渡を検討する企業が中心になります。2026年度の第2回では、2025年8月1日から申請前日までの間に、公社などの所定の支援を受け、2026年8月1日から10年以内の事業承継を計画していることが示されていました。第3回では基準日を含め最新の募集要項を再確認してください。
対象になり得る費用には、自社株式の評価、財務・税務・法務・労務の自己調査、人材紹介、FA・M&A仲介事業者との契約に関する費用などがあります。ただしFA・仲介費用は、公社の短期支援を利用した事業者に限定されるなど個別条件があります。相談会やセミナーへの参加だけでは、申請前支援の要件を満たさない点にも注意が必要です。
会社を株式ごと引き継ぐ場合の基本は株式譲渡の手続き・必要書類・税金で、事業だけを切り出す場合との比較は事業譲渡と株式譲渡の違いで詳しく解説しています。助成金の申請タイプを決める前に、想定スキームを整理しておくと、専門家へ依頼する業務も明確になります。
親族・従業員承継はBタイプ
Bタイプは、後継者が決まっている企業を想定しています。株価算定や自己調査に加え、株式移転・相続に関する専門家費用、後継者を支える中核人材の採用・育成費用などが検討対象です。
一方、FAQでは、組織再編としての法人合併や、法人から個人への事業譲渡はBタイプの対象外とされています。また、申請後の後継者変更は原則認められません。形式だけ後継者を置いて申請するのではなく、誰に、何を、いつ承継するのかを合意してから進める必要があります。
買い手企業はDタイプ
Dタイプは、他社の事業を譲り受ける都内中小企業が対象です。デューデリジェンス、契約書の作成・確認、PMI計画の策定などが主な活用場面です。売り手が東京都外でも、申請者である買い手企業が要件を満たせば対象になり得ます。
ただし、Dタイプでは申請前の現地診断が必須です。現地診断は審査そのものではありませんが、受けなければ申請できません。第2回は診断受付期間が申請期間より短く設定されていたため、第3回も公表後すぐに予約可能期間を確認する必要があります。
対象経費は「承継に直接必要」「成果物が残る」「期間内完了」が基本
専門家へ支払う費用なら何でも助成されるわけではありません。対象事業との直接性、業務内容と金額の妥当性、成果物の有無、契約から支払いまでの時期が確認されます。
| 確認軸 | 対象になり得る例 | 対象外・不備になりやすい例 |
|---|---|---|
| 業務内容 | 株価算定、自己DD、契約書作成、PMI計画 | 承継との関係が説明できない一般経営相談 |
| 見積書 | 作業項目、工数、単価、成果物が具体的 | 「コンサル一式」など内訳がない |
| 着手時期 | 交付決定後、対象期間内に契約・実施 | 申請前・交付決定前に発注や契約を済ませる |
| 完了確認 | 報告書、算定書、契約書案など成果物がある | 助言のみで成果物を提出できない |
| 支払い | 2027年7月31日までに支払い完了 | 完了日後の分割払い・未払い |
特に注意したいのが、交付決定前の発注・契約です。見積書を事前に取ることはできますが、対象期間より前に契約・着手した費用は原則として助成対象になりません。M&Aではタイミングが重要なため、案件を止めて助成金を待つことが必ず正しいとは限りません。取引の機密性や期限を優先する場合は、助成対象にできる業務と先行させる業務を分けて判断します。
第3回へ向けた申請手順
申請はJグランツのみで受け付けられます。紙やメールでの提出はできません。実務では次の順番で準備すると、要件漏れを減らせます。
- 承継方針を決める
第三者承継、親族・従業員承継、買収のどれかを明確にし、A~Dタイプの候補を絞ります。 - 申請前支援・現地診断の要否を確認する
A・Bタイプは支援実績、Dタイプは現地診断が重要です。公社の担当窓口へ早めに確認します。 - GビズIDプライムを取得する
取得には時間がかかる場合があるため、募集開始を待たずに準備します。 - 外部専門家の業務範囲を切り分ける
株価算定、自己DD、契約支援など、何を依頼し、何を社内で行うか決めます。 - 具体的な見積書を取得する
「一式」ではなく、作業内容、工数、単価、成果物、実施期間が分かる形にします。 - 事業計画と資金繰りを整える
助成金は原則として後払いです。いったん自社で支払える資金を確保します。 - Jグランツで申請する
期限直前は入力・添付ミスの修正時間がなくなるため、社内締切を公式期限より前に設定します。 - 交付決定後に契約・着手する
交付決定通知と対象期間を確認してから正式に発注します。 - 成果物・証憑を保存する
契約書、請求書、振込記録、成果物、業務完了報告を一つのフォルダで管理します。

必要資料は「会社」「承継計画」「専門家費用」の3群で整理する
実際の提出書類は第3回募集要項で確定しますが、準備は大きく3群に分けると進めやすくなります。
会社の基本情報を示す資料
- 履歴事項全部証明書
- 直近の確定申告書・決算書
- 都税の納税証明書
- 従業員数や事業所所在地を確認できる資料
- 株主構成が分かる株主名簿
事業承継の計画を示す資料
- 現経営者、後継候補、承継予定時期
- 第三者承継の場合は譲渡方針と準備状況
- 親族・従業員承継の場合は後継者との関係・役割
- 買収の場合は取得目的と承継後の事業計画
- 公社等の支援を受けたことが分かる資料
専門家費用の妥当性を示す資料
- 見積書と金額の内訳
- 委託先の会社概要、資格、実績
- 業務仕様書や提案書
- 成果物の名称・内容・納期
- 実施スケジュールと支払予定日
M&A仲介会社へ依頼する場合は、成功報酬だけを見るのではなく、助成対象となる業務と対象外の業務を契約・見積段階で区分できるか確認します。価格調整やクロージング条件は取引価額に影響するため、ネットデット・運転資本による価格調整とクロージングの必要書類と流れも併せて整理しておくとよいでしょう。
会社譲渡での活用イメージ3例
例1:売却準備として株価算定と自己DDを行う
東京都内の従業員15人の会社で、後継者が決まっておらず、3年以内の株式譲渡を検討しているケースです。公社の所定支援を受けたうえでAタイプを検討し、税理士による株価算定、弁護士による法務自己DD、社会保険労務士による労務自己DDを実施します。
売却前に問題を洗い出せれば、買い手のDDで突然指摘されるリスクを減らせます。ただし、助成金が採択されることと、希望額で売却できることは別です。算定書は交渉の基礎資料であり、最終的な株価は収益力、将来性、簿外債務、買い手との相乗効果などで変わります。
例2:従業員承継で株式移転と後継者育成を進める
長年勤務する役員を後継者に決め、5年かけて株式と経営権を移すケースです。Bタイプを検討し、株価算定、税務・法務スキームの検討、中核人材の育成を組み合わせます。
この場合、後継者本人の意思、株式の取得資金、現経営者の退任時期、個人保証の解除など、助成金だけでは解決できない論点があります。補助対象業務と経営上の課題を混同せず、承継計画全体を先に作ることが大切です。
例3:買い手がDDとPMI計画に使う
都内の中小企業が事業領域の拡大を目的に、他県の会社を買収するケースです。Dタイプを検討し、財務・法務DDと契約書レビュー、買収後100日間のPMI計画の策定を専門家へ依頼します。
売り手が東京都外でも申請者側の要件を満たせば対象になり得ますが、現地診断を受けずに申請することはできません。また、DDの結果によっては取引を中止する判断も必要です。助成金を使ったから取引を成立させなければならない、と考えるべきではありません。
よくある失敗と回避策
交付決定前に契約してしまう
候補先と話が進み、助成金の結果を待てずに専門家へ正式発注してしまうケースです。対象期間前の契約・着手は対象外になり得ます。先に必要なのが見積書なのか、契約なのかを区別してください。
見積書が「コンサル一式」になっている
業務内容と成果物が見えない見積書は、金額の妥当性を審査できません。「株価算定」「財務自己DD」「法務自己DD」などに分け、各業務の工数と成果物を記載してもらいます。
セミナー参加だけで申請前支援を満たしたと思う
公社のFAQでは、セミナーや交流会への参加だけではA・Bタイプの支援要件を満たさないとされています。利用した支援の名称と実施日を確認し、対象かどうかを窓口へ確認します。
成果物や支払証憑を残していない
専門家から助言を受けても、報告書や算定書などの成果物がなければ完了確認ができません。請求書と振込記録だけでなく、何が納品されたかを示すファイルを保存します。
助成金を前提に資金繰りを組む
助成金は後払いであり、採択されても対象経費の全額が必ず支給されるわけではありません。自社で先に支払える資金を用意し、不支給・減額でも事業が止まらない計画にします。
経営者が今から行うチェックリスト
- 第三者承継、親族・従業員承継、買収のどれに当たるか決めた
- A~Dタイプの候補を絞った
- 本店・事業所・企業規模などの基本要件を確認した
- 申請前支援または現地診断の要否を確認した
- GビズIDプライムを取得済み、または申請した
- 専門家へ依頼する業務と成果物を具体化した
- 内訳付きの見積書を用意できる
- 交付決定前に発注・契約しない社内ルールを共有した
- 2027年7月31日までに成果物受領と支払いを完了できる
- 助成金が減額・不採択でも支払える資金を確保した
- 機密情報を扱う専門家との秘密保持を確認した
- 募集要項の更新を公式ページで確認する担当者を決めた
会社売却では、助成金申請を優先しすぎて案件の機密性や買い手との交渉機会を損なわないことも重要です。契約後に重大な変化が起きた場合の扱いはMAC条項の判断基準も参考にしてください。
よくある質問
第3回はいつ申請できますか?
東京都中小企業振興公社の案内では、2026年10月13日から12月15日17時までの予定です。募集要項の公表後、日程や要件に変更がないか公式ページで確認してください。
助成金は最大いくらですか?
上限200万円、申請下限20万円です。通常の助成率は対象経費の3分の2です。一定の小規模企業がA・B・Dタイプで企業価値・事業価値の算定を行う場合は、その対象経費について10分の10が適用されます。
M&A仲介手数料は対象になりますか?
Aタイプで対象になり得ますが、公社の短期支援を受けた事業者に限られるなど条件があります。成功報酬の全額が自動的に対象になるわけではありません。最新の募集要項と見積内容を個別に確認してください。
申請前に専門家と契約してもよいですか?
見積書の取得は可能ですが、交付決定・対象期間より前の契約や着手は原則として助成対象外になり得ます。取引上どうしても先行する必要がある場合は、その費用を助成対象から外す前提で判断します。
売り手が東京都外でも利用できますか?
Dタイプでは、申請者である買い手が都内中小企業として要件を満たす場合、売り手が都外でも対象になり得ます。事業所要件や現地確認の可否は個別に確認してください。
同じ年度に複数回申請できますか?
公社のFAQでは、同一年度に複数回申請することはできません。異なるタイプであっても、採択後に同年度内で再度申請することはできないため、対象業務をまとめて検討します。
医療法人も対象ですか?
医療法人は中小企業者に該当しないため対象外とされています。一方、個人開業医は対象になり得ます。法人形態と申請資格を事前に確認してください。
採択されれば必ず200万円受け取れますか?
いいえ。交付決定額は上限であり、完了検査で認められた対象経費に基づいて最終額が決まります。対象外経費、期間外の契約・支払い、証憑不足があれば減額または不支給になる可能性があります。
公式情報と問い合わせ先
制度の最新情報は、東京都中小企業振興公社「令和8年度 事業承継支援助成金」で確認できます。個別条件は公式FAQも参照してください。申請はJグランツを利用し、事前にGビズIDを準備します。
東京都中小企業振興公社の事業承継支援助成金の問い合わせ先として、公式ページには電話番号03-3251-7885が案内されています。自社がどのタイプに当たるか、申請前支援が足りているか判断に迷う場合は、発注前に確認しましょう。
※本記事は2026年9月20日時点の公表情報を基にした一般的な解説です。第3回の日程・要件は予定を含み、変更される可能性があります。助成金の採択・交付額を保証するものではありません。個別の申請可否、税務、法務、契約判断は、必ず最新の募集要項を確認し、東京都中小企業振興公社および税理士・弁護士などの専門家へご相談ください。