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会社売却

会社売却のための事業整理。買い手に伝わる「強み」と「課題」のまとめ方

会社売却を考え始めたとき、多くの方が最初につまずくのが「うちの会社って、結局なにが強みなんだろう?」という整理です。数字は決算書に出ているはずなのに、事業の説明となると話が散らばってしまったり、どこから手を付ければいいか分からなくなったりします。

でも、ここで大切なのは、いきなり完璧な資料を作ることではありません。まずは「買い手に伝わる形で、事業の全体像を説明できる状態」を作ることが先です。これができると、相談もしやすくなり、検討のスピードも上がります。

この記事では、会社売却に向けて「事業整理(=自社の事業を分かりやすくまとめ直すこと)」を進めるための考え方と手順を、できるだけやさしい言葉で解説します。強みを盛って見せるのではなく、事実をもとに「伝わる形」に整えることが目的です。

読み終えるころには、「自社は何をやっていて、どこで利益が出ていて、引き継ぐうえで何がポイントか」を、落ち着いて整理できるようになります。売却の準備を一歩進めるために、まずはここから始めていきましょう。

目次

そもそも「事業整理」でやることは何ですか?

会社売却の準備と聞くと、「まずは資料を作らなきゃ」と思う方が多いです。ですが、その前にやっておきたいのが事業整理です。これは一言でいうと、自社の事業を“相手に伝わる形”に整える作業です。

決算書や契約書などの書類は、あとからいくらでも整えられます。けれど、買い手にとって本当に知りたいのは、「この会社は何で選ばれているのか」「どんなお客様に、どう価値を出しているのか」、そして「それが数字にどうつながっているのか」という“中身”の部分です。事業整理は、その中身をきれいに並べ直す工程だと思ってください。

会社の良さを“説明できる形”に整える作業です

「うちの強みは、長年やってきたことです」「品質には自信があります」——こうした言葉自体は間違っていません。ただ、相手に伝わるためには、もう一歩だけ整理が必要です。

事業整理では、会社の良さを“具体的に説明できる状態”にしていきます。たとえば、次のような形です。

  • 誰に(どんなお客様に)
  • 何を(どんな商品・サービスを)
  • どうやって(提供の流れや体制で)
  • なぜ選ばれているのか(他社との違い・強み)

この4点が、つながった話として語れるだけで、会社の見え方は大きく変わります。大げさな言い回しは必要ありません。事実を、順番よく、分かる言葉で伝えられれば十分です。

やりがちな勘違い(完璧な資料作りから始めない)

事業整理でよくある勘違いは、いきなり「完成形の資料」を作ろうとすることです。たとえば、会社案内や事業計画書のように整った資料を、最初から仕上げようとしてしまうケースです。

もちろん、最終的には資料が必要になることもあります。ただ、この段階で大事なのは、見た目ではありません。先にやるべきは、内容の整理です。

完璧な資料を目指すと、こんな状況になりがちです。

  • 言葉を整えることに時間を使ってしまい、肝心の中身が曖昧なままになる
  • 「もっと調べてから」と先延ばしになり、動き出せなくなる
  • 盛って良く見せようとしてしまい、あとで説明が苦しくなる

ここでは、まず「説明できる材料」を並べることを優先しましょう。形はメモでも、箇条書きでも大丈夫です。整えるのは後でOKです。

この段階で目指すゴール(話が通じる土台を作る)

事業整理のゴールは、立派な資料を作ることではありません。目指すのは、もっとシンプルです。

「初めて聞く人でも、会社の中身が分かる」
「質問されても、落ち着いて説明できる」
この状態を作ることが、事業整理の到達点です。

もう少し具体的にいうと、次の3つができれば十分に“土台ができた”と言えます。

  • 事業の全体像(何をしていて、誰に価値を出しているか)を一通り説明できる
  • 利益の出方(どこで売上が立ち、どこにコストがあるか)をざっくり話せる
  • 強みと課題(良い点・気になる点)を、事実ベースで言葉にできる

この土台があると、次の相談や検討がスムーズになります。逆に言えば、土台がないまま進むと、途中で「結局何が強みなんだっけ?」と戻ることになりやすいです。

ですので、まずは肩の力を抜いて、「話が通じる状態を作る」ところから始めていきましょう。完璧じゃなくて大丈夫です。伝わる順番に並べ直すことができれば、もう十分に前に進んでいます。

最初に決めておくと迷いが減る、3つの前提

事業整理は、いきなり情報を集め始めると、途中で手が止まりやすい作業です。理由はシンプルで、「どこまでやれば終わりなのか」が決まっていないと、判断が毎回ブレるからです。

そこで最初に、次の3つの前提だけ決めておくと、迷いがぐっと減ります。どれも難しい決め方は不要で、いまの状況に合わせて“現実的に”決めるのがポイントです。

どこまで整理するか(全事業か/主力だけか)

まず決めたいのは、事業整理の範囲です。よくあるのは次の2パターンです。

  • 全事業を整理する:事業が少ない/全体像を説明しやすい場合
  • 主力だけを優先して整理する:事業が多い/情報量が多すぎて混乱しやすい場合

「全部やらないと失礼では?」と感じる方もいますが、最初から全事業を完璧にしようとすると、情報が増えすぎて進まなくなることが多いです。

おすすめは、まず主力(売上や利益に影響が大きいところ)から始めることです。主力が整理できると、他の事業も同じ型で整理しやすくなります。

決め方に迷う場合は、次のどれかで十分です。

  • 売上が大きい順に上位◯つ
  • 利益が出ている事業だけ
  • 今後も続けたい(伸ばしたい)事業だけ

大事なのは、「まずここまで」という線を引くことです。範囲が決まるだけで、集める情報の量が適切になり、作業が進みます。

期間と優先順位(いま無理に変えない範囲を決める)

次に、事業整理にかける期間と優先順位を決めます。ここでのポイントは、頑張りすぎないことです。

事業整理は「改善活動」ではなく、あくまで現状を分かる形にまとめる作業です。つまり、いま無理に変えようとしなくても大丈夫です。

たとえば、こんなふうに線引きするとラクになります。

  • 今月は「整理」だけ(数字や流れをまとめる)
  • 改善は後回し(直すより、まず説明できる状態へ)
  • 優先順位は1〜2個に絞る(全部同時にやらない)

また、期限を決めると作業が終わりやすくなります。おすすめは、次のような現実的な設定です。

  • 2週間〜1か月で「ひとまず説明できる状態」を作る
  • 時間が取りづらい場合は、週に1回90分でもOK

ここで目指すのは、完璧ではなく、前に進める最低限です。途中で忙しくなるのは当然なので、最初から無理のない計画にしておくのが成功しやすいです。

社内の役割分担(誰が何を把握しているか)

最後は、社内での役割分担です。事業整理は、社長だけで全部抱えると、情報が集まらずに止まりがちです。

そこで先に、「誰が何を知っているか」を簡単に整理しておくとスムーズです。たとえば、こんな分け方が現実的です。

  • 数字(売上・原価・経費):経理担当/税理士/社内の数字に強い人
  • 顧客・案件の実態:営業担当/現場責任者
  • 運用の流れ・納品体制:現場メンバー/管理者
  • 契約や取引条件:契約を扱う担当者/総務

もし少人数の会社で担当が分かれていない場合でも大丈夫です。「聞けば分かる人」を決めるだけで十分です。

さらに、役割分担で大切なのは、集めた情報を1か所に集める役を決めることです。これは社長でも、信頼できる担当者でも構いません。

情報が散らばると、事業整理は一気に難しくなります。最初に「ここに集める」と決めておくだけで、途中のストレスが減ります。

この3つの前提が決まると、事業整理はぐっと進めやすくなります。大きな決断は必要ありません。まずは「現実的にできる範囲」で線を引いて、迷いを減らすところから始めてみてください。

事業を「見取り図」にする(まずは分けて、並べる)

事業整理で一番大事なのは、いきなり「強み」を言葉にすることではありません。先にやるべきは、自社の事業を“見取り図”のように見える形にすることです。

頭の中では分かっていても、事業が複数あったり、例外対応が多かったりすると、説明がどうしても散らばります。だからこそ最初は、分けて、並べる。これだけで一気に話が整理されます。

ここで作る見取り図は、立派な資料である必要はありません。メモや箇条書きでOKです。大事なのは、あとから誰かに説明するときに、話の順番が迷子にならない状態にすることです。

事業・サービスの区切り方(商品別/顧客別/地域別など)

まずは、事業やサービスを「区切る」ところから始めます。ここが曖昧なままだと、数字も強みも混ざってしまい、整理が進みにくくなります。

区切り方に正解はありません。自社が一番説明しやすい切り口を選べば大丈夫です。よく使われるのは、次のような区切り方です。

  • 商品・サービス別:Aサービス/Bサービス/スポット対応…など
  • 顧客別:法人向け/個人向け、業界別、規模別…など
  • 地域別:地元中心/県外/オンライン…など
  • 売り方別:紹介/広告/Web/代理店…など

迷ったら、次の基準で考えると決めやすいです。

  • 説明するときに話がスッと通るか
  • 数字(売上・利益)を分けて見られるか
  • 担当者や運用の仕組みが違うか

そして、ここで大切なのが、区切ったあとに「事業ごとに同じ型で並べる」ことです。型が揃うと、全体が一気に見やすくなります。

お客様は誰で、何に困っていて、何で選ばれているか

次に、それぞれの事業について「お客様のこと」を整理します。ここは、売却の場面でも質問されやすいところです。

難しく考えず、まずは次の3点を、事業ごとに書き出してみてください。

  • お客様は誰か(どんな業種・規模・立場の人か)
  • 何に困っているか(どんな不安・課題を解決しているか)
  • 何で選ばれているか(他と比べたときの理由)

ここでのコツは、きれいな言葉にしようとしないことです。最初は、現場の言い方のままで十分です。

たとえば、選ばれている理由は「品質が良い」だけでは伝わりにくいことがあります。そこで一段だけ具体的にして、次のような“根拠つき”にすると伝わりやすくなります。

  • 納期が読める(段取りが決まっていて遅れにくい)
  • 担当者が変わらない(引き継ぎで混乱しない)
  • 対応が早い(問い合わせの返答が速い)
  • 提案が具体的(相手の状況を見て提案できる)

もし「よく分からない」と感じたら、実はそれは悪いことではありません。“当たり前すぎて言語化していない強み”が眠っていることが多いからです。過去にお客様から言われた言葉や、リピート理由、紹介が多い理由などを思い出すと、ヒントが見つかりやすいです。

提供の流れ(集客→提案→納品→継続)の全体像

最後に、提供の流れをひとつの線でつなぎます。ここを整理すると、事業の「仕組み」が見えてきます。仕組みが見えると、引き継ぎのイメージも伝えやすくなります。

流れはシンプルに、次の4つで並べると分かりやすいです。

  • 集客:どうやって見込み客が来るか(紹介/Web/広告/既存客…)
  • 提案:どうやって受注につなげるか(ヒアリング/見積り/提案資料…)
  • 納品:どうやって提供するか(体制/手順/品質管理/外注…)
  • 継続:どうやって続くか(定期契約/保守/追加提案/更新…)

ここでは、立派な業務フローを書く必要はありません。大事なのは、「誰が」「何を」「どの順番で」やっているかが一通り分かることです。

また、もし事業の中に「例外対応」が多い場合は、それも隠さずに書き出してOKです。たとえば、

  • 急ぎ案件はこうして対応している
  • この条件のときだけ特別対応がある
  • 特定のお客様はこの流れが違う

こうした“実態”まで含めて見取り図にしておくと、あとで説明するときに無理がなくなります。

この章のゴールは、事業を「分けて」「同じ型で並べて」「流れでつなぐ」ことです。これができると、自社の事業が一段クリアに見えます。まずはメモで構いませんので、肩の力を抜いて見取り図づくりから始めてみてください。

数字の整理は「売上の中身」から(会計と現場をつなぐ)

数字の整理というと、決算書をきれいにまとめるイメージを持つ方が多いかもしれません。ですが、事業整理の場面で大切なのは、決算書の形式そのものではなく、「この売上は、何が積み上がってできているのか」を説明できる状態にすることです。

言い換えると、会計の数字と、現場の実感(どんな取引・どんな仕事があるか)をつなげる作業です。ここがつながると、数字の説得力が増し、話もスムーズになります。

この章では、難しい分析はしません。まずは「売上の中身」→「利益の出方」→「たまたま要因」の順で、説明しやすい形に整えていきます。

売上の柱(上位顧客・商品・チャネル)を見える化する

最初にやるのは、売上を「柱」に分けて見える化することです。売上の数字だけだと抽象的ですが、柱が見えると一気に具体的になります。

柱の切り口は、主に次の3つです。自社に合うものからでOKです。

  • 上位顧客:売上の大きいお客様は誰か
  • 商品・サービス:何が売上の中心になっているか
  • チャネル(売り方):紹介/Web/広告/既存客など、どこから売れているか

ポイントは、細かくしすぎないことです。まずは上位3〜5つくらいが見えれば十分です。

たとえば、こんな形でメモにします。

  • 売上の上位顧客:A社、B社、C社が中心
  • 売上の上位サービス:定期契約が◯割、スポットが◯割
  • 売上の流入経路:紹介が多い/Webが増えている など

この整理ができると、次の説明がしやすくなります。

  • どこに依存しているか(特定顧客に偏りがあるか)
  • 何を伸ばせそうか(伸びている商品・チャネルはどれか)
  • 売上が落ちた理由を説明できるか(柱の変化が見える)

ここでは結論を急がなくて大丈夫です。まずは売上を「顔の見える形」にすることが目的です。

利益の出方(粗利・固定費・人件費)のざっくり構造

次に、利益の出方をざっくり整理します。ここも細かい計算より、構造が説明できることが大事です。

難しい言葉を使わずに言うと、利益はだいたい次の流れで決まります。

売上から、まず直接かかる費用(仕入・外注・材料など)を引いたものが、ざっくりした粗利(あらり)です。
その粗利から、毎月かかる固定費(家賃・通信費・車両費など)や、人件費を引いた残りが利益になります。

ここでやるのは、次の3つを「だいたい」でいいので言えるようにすることです。

  • 粗利はどれくらいの感覚か(外注比率が高い/低い、仕入が多いなど)
  • 固定費は何が大きいか(家賃、リース、広告費など)
  • 人件費の考え方(正社員中心/外注中心/繁忙期だけ増えるなど)

たとえば、次のような一言があるだけで、利益の説明が通りやすくなります。

  • 外注が多いので、売上は立つが粗利は一定以上伸びにくい
  • 固定費は小さく、案件が増えると利益が出やすい
  • 人件費は固定で、繁忙期だけ外注で調整している

完璧な数字を出す必要はありません。ここでのゴールは、「利益はこういう仕組みで出ています」と落ち着いて説明できる状態です。

季節要因・一時的要因(たまたま)を分けて説明する

最後に、数字のブレを「たまたま」と「いつもの流れ」に分けます。これはとても大切です。なぜなら、数字は年によって上下しますし、そこに理由があるからです。

ここで整理したいのは、次の2つです。

  • 季節要因:毎年だいたい起こる波(繁忙期・閑散期)
  • 一時的要因(たまたま):その年だけの出来事(大型案件、設備投資、特別な費用など)

たとえば、次のようなものが一時的要因になりやすいです。

  • 大口案件が入った/終わった
  • 補助金・助成金などが入った
  • 設備の入れ替えや修繕で費用が増えた
  • 人の入れ替わりで一時的に売上が落ちた

こうした事情は、「言い訳」ではありません。むしろ、最初から分けて説明できた方が、話が誠実になります。

おすすめは、数字の変化があった年について、メモでいいので理由を1〜2行書いておくことです。

  • 前年より売上が増えた理由:新サービスが伸びた/紹介が増えた など
  • 前年より利益が減った理由:外注増/広告投資/一時費用 など

この整理ができると、数字の説明が「ただの結果」ではなく、事業の動きとして語れるようになります。

この章でやることをまとめると、次の3つです。

  • 売上の柱を見える化する
  • 利益の出方をざっくり構造で説明できるようにする
  • 季節・たまたま要因を分けて、数字の変化に理由をつける

難しい分析は不要です。まずは「数字が何を表しているかを、現場の言葉で説明できる状態」を目指して、少しずつ整えていきましょう。

強みは「言い切り」より「根拠つき」でまとめる

事業整理で「強み」を考えようとすると、手が止まりやすいものです。
「うちの強みって何だろう…」と悩んだり、逆に「品質が良いです」「対応が早いです」と言ってみたものの、どこか薄く感じたり。

ここで大切なのは、強みをかっこよく言い切ることではありません。根拠つきで、納得できる形にまとめることです。
強みが“根拠つき”になると、説明が自然になり、相手の理解も早くなります。

強みの型(仕組み/人/関係性/立地・許認可/データ)

強みは、ゼロからひねり出す必要はありません。まずはよくある「型」に当てはめてみると見つけやすいです。

代表的な型は、次の5つです。

  • 仕組み:仕事が回る手順・ルール・標準化がある
  • :経験や専門性のある人材がいる/育っている
  • 関係性:取引先・顧客との信頼が厚い/紹介が多い
  • 立地・許認可:場所が強い/許可や資格が必要な事業である
  • データ:顧客情報・運用データ・ノウハウが蓄積している

この型に沿って、「うちにあるもの」を棚卸ししてみてください。
ポイントは、強みを抽象語だけで終わらせないことです。たとえば、

  • 「対応が早い」→ 問い合わせから◯時間以内に返すルールがある
  • 「品質が良い」→ チェック項目が決まっていて、誰でも同じ水準で提供できる
  • 「紹介が多い」→ 既存顧客の◯割が紹介経由で来ている

“なぜそう言えるのか”が一言添えられるだけで、強みは一気に伝わりやすくなります。

再現性があるか(特定の人だけに依存していないか)

強みをまとめるときに、もう一つ大事なのが再現性です。
つまり、「誰がやっても同じように回るか」、あるいは「引き継いでも続くか」という視点です。

たとえば、強みが「社長の人柄」や「ベテラン社員の腕」に寄りすぎている場合、説明の仕方に工夫が必要になります。これは悪いことではありません。ただ、相手が不安になりやすいポイントなので、早めに整理しておくと安心です。

再現性を確認するための、やさしいチェックは次の3つです。

  • 決まりごとがあるか(手順・テンプレ・基準がある)
  • 情報が残っているか(顧客情報・案件情報・履歴が整理されている)
  • 引き継げる形になっているか(誰が何をしているか説明できる)

もし「特定の人に依存しているかも」と感じたら、強みを否定する必要はありません。代わりに、次のように現実的な言い方に整えるだけで十分です。

  • 属人化している部分と、仕組み化できている部分を分けて説明する
  • 属人部分は、引き継ぎ方法(メモ・同行・研修など)があることを示す
  • 社長が担っている業務は、「何をしているか」を具体的に書き出す

強みを「完璧に再現可能」にする必要はありません。ここでの目的は、どこまでが強みで、どこが引き継ぎのポイントかを、落ち着いて説明できる状態にすることです。

買い手に嬉しいポイントに翻訳する(引き継ぎやすさ等)

強みを根拠つきでまとめたら、最後にもう一歩だけ進めます。
それは、強みを買い手にとって嬉しい言葉に「翻訳」することです。

強みそのものが同じでも、伝え方が変わるだけで印象が大きく変わります。
買い手が特に気にしやすいのは、次のようなポイントです。

  • 引き継ぎやすいか(仕事が回る仕組みがあるか)
  • 安定しているか(売上や顧客が偏りすぎていないか)
  • 伸ばしやすいか(改善や拡大の余地があるか)
  • トラブルになりにくいか(契約や運用が整理されているか)

たとえば、同じ内容でも次のように翻訳できます。

  • 「ベテランがいる」→ 育成方法が決まっていて、引き継ぎの段取りが組める
  • 「長年の取引がある」→ 継続率が高く、売上の見通しが立ちやすい
  • 「対応が早い」→ 運用ルールがあり、再現しやすいサービス品質になっている
  • 「地域で有名」→ 紹介が生まれやすく、広告に頼りすぎない集客ができている

この翻訳のコツは、「それって相手にとって何が助かるの?」を一言添えることです。
強みを主張するよりも、相手の立場で言い直すほうが、自然に伝わります。

この章のまとめです。強みは、

  • に当てはめて見つけ、
  • 根拠を添えて薄さをなくし、
  • 再現性引き継ぎの視点で言葉を整える

この順番でまとめると、「強みが分からない」という悩みはかなり解消されます。
無理に言い切らず、事実ベースで、伝わる形にしていきましょう。

課題・リスクも“早めに”棚卸しすると、後がラクになります

事業整理というと、「良いところをまとめる作業」と思われがちです。もちろん強みは大切です。ですが、もう一つ同じくらい大事なのが、課題やリスクを早めに棚卸ししておくことです。

「リスクを書いたら不利になるのでは…」と不安になるかもしれません。けれど実際は逆で、あとから出てくる方が、話がややこしくなりやすいです。早めに整理しておけば、落ち着いて説明できますし、対策や引き継ぎの話もしやすくなります。

ここでのポイントは、恐い言葉で大げさに捉えないことです。「今の会社の運営で、気になりそうな点をメモする」くらいの感覚で進めてください。

依存リスク(人・取引先・外注・特定チャネル)

まず棚卸ししたいのは、何かに依存している状態がないかです。依存そのものが悪いわけではありません。多くの会社には、多少の偏りがあります。大事なのは、偏っているなら、その事実を把握しておくことです。

依存が起きやすい代表例は、次の4つです。

  • 人への依存:社長や特定の社員がいないと回らない
  • 取引先への依存:売上の多くが特定の顧客に集中している
  • 外注への依存:特定の外注先が止まると納品できない
  • 特定チャネルへの依存:紹介だけ/広告だけ/特定媒体だけで集客している

棚卸しのコツは、「依存しているか?」を白黒で判断しないことです。まずは、依存度合いを“言葉で”説明できるかを目指します。

  • どの部分が依存しているのか(営業/現場/管理など)
  • なぜ依存しているのか(経験が必要/関係が深い/手順がないなど)
  • もし変化が起きたら何が困るのか(納期/品質/売上など)

そして、依存がある場合は、あわせて「支えになっている理由」も書いておくと整理が進みます。
たとえば、特定の取引先に集中しているなら「単価が高い」「長年の信頼がある」など、依存の背景も含めて把握しておくと、説明が自然になります。

契約・運用の引っかかり(口約束、例外対応、属人ルール)

次に整理したいのが、契約や運用の“引っかかり”です。ここは、日々の業務では回ってしまっているぶん、見落とされがちです。

代表的な引っかかりは、次のようなものです。

  • 口約束が多い:契約書や合意内容が残っていない
  • 例外対応が当たり前になっている:担当者の判断で特別対応が積み重なっている
  • 属人ルールがある:その人しか知らない手順、暗黙の了解がある

ここで大事なのは、「悪いことを洗い出す」感覚にならないことです。責めるためではなく、引き継ぎのときに困りそうな点を先に見つけるための棚卸しです。

整理するときは、次の2つに分けると分かりやすいです。

  • 誰がやっているか(その担当者がいないと困るか)
  • 何が暗黙になっているか(言語化・文書化されていないか)

たとえば「例外対応が多い」と感じるなら、まずは例外のパターンを3つだけ書き出すだけでも十分です。
「いつ・どんなときに・どう判断しているか」が見えると、あとで説明がしやすくなります。

「今すぐ直す」より「説明できる」に寄せる考え方

リスクや引っかかりを見つけると、「急いで全部直さないと」と焦ってしまうことがあります。ですが、事業整理の段階では、まず今すぐ直すよりも、説明できる状態を作るほうが現実的です。

もちろん、すぐ直せるものがあれば直しても構いません。ただ、いきなり大きく変えようとすると、社内の負担が増えたり、現場が回らなくなったりして逆効果になることもあります。

この章で目指すのは、次のような状態です。

  • 何が課題・リスクかを、落ち着いて言葉にできる
  • 影響範囲(どこが困るか)を説明できる
  • 引き継ぎの工夫(メモ化・手順化・分担など)を話せる

言い換えると、「うちの会社はここが課題です」で終わらせず、「だからこういう説明ができて、こういう工夫ができます」までをセットにするイメージです。

たとえば、こんな言い方に整えるだけでも、印象は大きく変わります。

  • 「社長に依存しています」→ 社長業務を分解してメモ化しており、引き継ぎ手順を作れます
  • 「特定顧客に偏っています」→ 上位顧客の構成と継続理由を説明でき、分散の方向性も整理しています
  • 「例外対応が多いです」→ 例外パターンを洗い出しており、判断基準を共有できます

課題やリスクを棚卸しするのは、怖い作業に感じるかもしれません。ですが、早めに向き合っておくほど、あとがラクになります。完璧に直す必要はありません。まずは事実を把握して、説明できる形に整えるところから進めていきましょう。

整理した結果、何をアウトプットとして残せばいいですか?

事業整理を進めると、メモや資料が増えていきます。ここでよくある悩みが、「結局、何を残しておけばいいの?」というものです。

安心してください。完璧な資料セットを作る必要はありません。まずは、あとから説明しやすくなる“最低限のアウトプット”を残せば十分です。

この章では、事業整理の結果としておすすめしたいアウトプットを、3つに絞って紹介します。どれも作り込みすぎないのがコツです。「必要になったら育てられる形」で残しておきましょう。

まずは1枚:事業サマリー(事業/顧客/強み/数字/課題)

最初に作っておきたいのは、事業サマリーです。これは、難しく言うと資料の「要約」ですが、ここではもっと簡単に考えてOKです。

「この会社は何をしていて、どこが良くて、数字はどうで、何が課題か」
これが1枚で説明できる状態を目指します。

書く項目は、次の5つだけで十分です。

  • 事業:何を提供しているか(主力サービスは何か)
  • 顧客:誰に提供しているか(主なお客様像)
  • 強み:なぜ選ばれているか(根拠つきで)
  • 数字:売上の柱・利益の出方(ざっくりでOK)
  • 課題:気になりそうな点(説明できる形で)

ここで大事なのは、文章をきれいに書くことではなく、話の順番を固定することです。
箇条書きでも、短い文章でもOKです。むしろ短いほうが、更新もしやすくなります。

もし作るのが難しければ、まずは「1事業だけ」でも大丈夫です。作ってみると、次から同じ型で増やせます。

よく聞かれる質問のメモ(買い手目線のFAQ)

次におすすめなのが、よく聞かれる質問のメモです。これは難しい資料ではなく、想定問答のメモです。

ポイントは、質問を「自分目線」ではなく、相手(買い手)目線で考えることです。たとえば、次のような質問は出やすいです。

  • 売上は何で決まっていますか?(主な柱、上位顧客、売り方)
  • 利益はどこで出ていますか?(粗利の考え方、固定費、人件費)
  • 仕事は誰が回していますか?(社長の役割、現場の体制)
  • 引き継ぎで困りそうな点はありますか?(属人化、例外対応)
  • 売上の波はありますか?(季節要因、一時的要因)

このFAQは、立派な回答を書く必要はありません。「一言で答えるならこれ」というメモを残すだけで十分です。

そして、ここが大事なのですが、FAQは“弱点を隠す”ためのものではありません
むしろ、気になりそうな点があるなら、「どう説明するか」を先に用意しておくほうが、後々ラクになります。

FAQを作っておくと、説明がブレにくくなり、話す側のストレスも減ります。自分のためのメモとして作る感覚でOKです。

更新のしかた(情報が増えても崩れない管理方法)

最後に、とても大事なのが更新のしかたです。事業整理は、一度作って終わりではありません。
情報は増えますし、数字も変わります。だからこそ、最初から崩れにくい形で管理しておくと安心です。

おすすめの考え方は、次の3つです。

  • 「型」を固定する:事業サマリーの項目を毎回同じにする
  • 「一次情報の置き場」を決める:数字や根拠の資料は、決まった場所に集める
  • 「更新タイミング」を決める:毎月/四半期など、見直すリズムを作る

管理の形式は、WordでもExcelでも、メモアプリでも構いません。大事なのは、探さなくても見つかる状態にすることです。

もし迷うなら、まずは次のようにシンプルに始めるのがおすすめです。

  • 事業サマリー:1ファイル(または1ページ)
  • FAQ:追記していくメモ
  • 根拠資料:フォルダにまとめる(数字・契約・運用メモなど)

そして更新するときは、作り直すのではなく、追記・差し替えの発想でOKです。
「一度作った型を、少しずつ育てる」くらいの感覚が、長く続きます。

この章のまとめです。事業整理のアウトプットは、まず次の3つがあれば十分です。

  • 1枚の事業サマリー(事業/顧客/強み/数字/課題)
  • 買い手目線のFAQメモ(よく聞かれる質問への答え)
  • 崩れにくい管理方法(型・置き場・更新タイミング)

立派な資料を作るより、いつでも説明できる状態を残すことが先です。まずは小さく作って、必要に応じて育てていきましょう。

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