会社売却を考え始めたとき、多くのオーナー社長が最初につまずくのが「税金がいくらになるのか分からない」という不安です。
ネットで調べるほど情報が多くて、節税の話ばかりが目に入る一方で、いざ自分の会社に当てはめようとすると「何から手をつければいいのか」「今の動き方で合っているのか」が見えにくくなりがちです。
この記事では、難しい節税テクニックを並べるのではなく、税金対策を考える前に整理しておくと安心なポイントと、売却前にどんな順番で確認すれば不安が減るかを、できるだけ分かりやすくお伝えします。
なお、税金の扱いは状況によって変わるため、ここでの内容は一般的な考え方の整理です。実際に動くときは、税理士など専門家と一緒に数字を確認しながら進める前提で読み進めてください。
税金対策でまず不安を小さくする考え方
会社売却の税金対策というと、「節税の方法」を探したくなるかもしれません。ですが、売却を検討し始めた段階でいちばん強い不安は、多くの場合「結局、手元にいくら残るのか分からない」という点です。
ここで大切なのは、いきなり細かい節税に飛びつくよりも、まず手取りの見え方を作って、不安を小さくすることです。手取りが見えると、判断がぶれにくくなり、交渉や準備も落ち着いて進めやすくなります。
税金対策は節税よりも先に手取りの見え方を作る
税金対策を始めるとき、最初にやりたいのは「税金を減らすこと」ではなく、「手取りを読める状態にすること」です。
なぜなら、売却に関わる税金は「売り方」「受け取り方」「会社や個人の状況」によって変わるため、節税の話だけ集めても、自分に当てはまるかどうか判断しづらいからです。節税が効くかどうかを考える前に、まずは手取りがどう決まるかの地図を作る方が、結果的に近道になります。
手取りの見え方を作るときは、細かい計算を完璧にする必要はありません。最初は「ざっくりの全体像」が分かれば十分です。例えば、次の3点だけでも先に言葉にできると、不安がかなり落ち着きます。
- 誰が売るのか(株主個人が株を売るのか、会社が事業を売るのか)
- お金をいつどう受け取るイメージか(一括で受け取るのか、分けて受け取る可能性があるのか)
- 売った後に何を残したいか(会社に残す資産や、個人に残したい現金など)
この段階では、「どの方式が得か」まで決めなくて大丈夫です。まず手取りが変わるポイントがどこにあるかだけ押さえることが目的です。
できることとやってはいけないことを最初に分ける
次に、不安を大きくしないために大事なのが、行動を「できること」と「やってはいけないこと」に分けておくことです。
会社売却が絡むと、どうしても「少しでも税金を減らしたい」と焦りが出ます。その焦りが強いほど、短期的に数字を動かす行動を取りたくなりますが、やり方によっては買い手の不信感につながったり、後から説明が苦しくなったりして、結果的に損をすることがあります。
ここでは、一般論として押さえやすい整理だけしておきます。
| 区分 | 考え方の目安 |
|---|---|
| できること | 数字や資料を整えて、説明できる状態にする。相談のための情報を集める。手取りの見え方を作る。 |
| 注意が必要なこと | 税金だけを目的に、急に大きな処理や支出を入れて利益を動かす。後から理由を説明しづらい動きをする。 |
| 避けたいこと | 事実と違う見せ方をする、根拠が薄い処理を積み上げる、説明不能な取引を増やす。 |
特に避けたいのは、売却が近いタイミングで「税金を減らしたいから」という理由だけで数字を動かすことです。買い手は、税金の問題だけでなく、取引の透明性や管理の丁寧さも見ています。説明が難しい動きが増えるほど、交渉で不利になりやすいのが現実です。
逆にいうと、税金対策として一番安全で効果が出やすいのは、派手なことではなく「不安の材料を減らす整え方」です。資料が揃っている、説明ができる、数字が読める。この状態を作るだけで、売却の進み方は変わります。
一人で考えずに判断材料を集める前提にする
税金対策は、社長が一人で調べて結論を出そうとすると、ほぼ確実に疲れます。理由はシンプルで、税金の話は「前提が違うと答えが変わる」からです。
だからこそ、最初から一人で正解を出さないと決めてしまうのが現実的です。その代わりに、相談の場で話が早くなるように、判断材料だけ集める。これが、税金対策でつまずかない進め方です。
判断材料として最低限そろえるなら、次のようなものがあると十分です。完璧でなくて大丈夫です。
- 直近の決算書(できれば2〜3期分)
- 役員報酬や役員借入金など、社長個人と会社のお金の関係が分かるメモ
- 気になっている処理(過去に大きな費用が出た、特殊な取引がある等)を箇条書きで
- 売却後にどうしたいか(残したい条件、生活の見通し、事業に残りたいか等)を短い言葉で
ここまで整っていれば、専門家に相談したときに「それならこの前提で考えましょう」と話が進みやすくなります。逆に、何も整理しないまま「税金を減らしたいです」とだけ相談すると、前提確認に時間がかかり、結局は不安が増えがちです。
税金対策で最初にやるべきことは、難しい知識を増やすことではありません。手取りが見える状態を作り、危ない動きを避け、判断材料を集めて相談しやすくする。この3つを先に押さえるだけで、会社売却の不安はかなり小さくなります。
最初に確認したい三つのポイント
税金対策を考えるときに、いきなり「どう節税するか」を探し始めると、情報が多すぎて迷いやすくなります。先に確認しておくとラクになるのは、税金の計算式ではなく、税金が変わる前提です。
ここでは、売却を検討し始めた段階で最初に押さえておきたい三つのポイントを整理します。どれも難しい知識は要りません。社長の頭の中にある「なんとなく」を、短い言葉にしていく作業です。
どの売り方を想定しているかを言葉にする
税金の話が急に難しく感じるのは、前提が曖昧なまま考え始めてしまうからです。最初にやるべきことは、細かい手法を決めることではなく、どの売り方を想定しているかを一度言葉にすることです。
会社売却には大きく分けて、株を売る形と、事業を売る形があります。ここで大事なのは「どちらが得か」を今決めることではありません。まずは、今の自分はどちらをイメージしているのかを言葉にしておくだけで、相談や情報収集が一気にラクになります。
| 売り方のイメージ | 社長がまず言葉にしておきたいこと |
|---|---|
| 株を売る形 | 「株主として会社そのものを引き継いでもらうイメージ」 |
| 事業を売る形 | 「会社は残し、事業や資産を切り出して引き継いでもらうイメージ」 |
この段階で完璧に理解していなくても問題ありません。ポイントは、相談の場で前提がズレない状態を先に作ることです。「自分は今はこういうイメージです」と言えるだけで、相手も必要な確認を取りやすくなります。
お金の受け取り方と会社に残すものを整理する
次に、税金対策を考えるうえで見落とされがちなのが、お金の受け取り方と、会社に残すものです。ここが曖昧だと、税金の話以前に「手取りの話」が噛み合いにくくなります。
たとえば、同じ金額でもいつ、誰が、どんな形で受け取るかによって、考えるべきことが変わることがあります。また、売却後に会社側に何を残すかによっても、交渉の形や支払いの設計が変わる場合があります。
ここで難しく考える必要はありません。まずは、次のように二つの箱に分けて書き出すだけで十分です。
- 受け取りたいお金:いつ頃、どれくらい、どんな形で受け取りたいか
- 会社に残したいもの:残したい現金、不要な資産、引き継ぎたくない契約や在庫など
書き出すときは、きれいな文章にする必要はありません。例えば、こんなメモでOKです。
- 受け取りたいお金:一括で受け取れると安心、ただし一部は分割でも可
- 会社に残したいもの:事業に不要な資産がある、現金は運転資金分は残したい
この整理ができていると、税金の検討も「数字の話」だけで終わらず、社長の希望に沿った形で進めやすくなります。逆にここが曖昧だと、「税金が少ない形」と「社長が安心できる形」がズレてしまい、後からやり直しが起きやすくなります。
過去の処理で気になっている点をメモしておく
最後にもう一つ、早めにやっておくと気持ちが軽くなるのが、過去の処理で気になっている点をメモにしておくことです。
税金の不安は、税率そのものよりも、
- 「この処理、あとから突っ込まれないかな」
- 「説明できないお金の動きがある気がする」
- 「昔のことが曖昧で怖い」
といった説明の不安から大きくなることがあります。
ここで大事なのは、正確な答えを今すぐ出すことではありません。不安の種を見える化して、相談の場で早めに確認できる状態にしておくことです。
メモは、次のような形で十分です。
- いつ頃:例)2年前の決算のとき
- 何が気になるか:例)大きな費用を入れた、特別な取引があった
- どこに資料がありそうか:例)請求書フォルダ、契約書、通帳のこの口座
このメモがあるだけで、専門家に相談するときに「何を見ればいいか」がはっきりします。逆に、気になる点を放置したままだと、売却の話が進んだタイミングで急に不安が噴き出し、判断が止まってしまうことがあります。
売却の税金対策は、知識を増やすことよりも、前提を揃えて、迷いを減らす材料を集めることが先です。ここで挙げた三つを押さえるだけで、次に何を確認すべきかが見えやすくなり、無駄な焦りも減っていきます。
売却が近づくほど効く準備と逆に危ない動き
会社売却を意識し始めた直後は、税金の不安が「ぼんやり大きい」状態になりがちです。一方で、売却が近づくほど不安の形は変わっていきます。よくあるのは、焦って動いた結果、数字の説明が難しくなってしまうケースです。
税金対策は、うまく進めれば手取りの安心につながります。ただし、タイミングとやり方を間違えると、節税のつもりが交渉の火種になったり、買い手の不安を増やしたりすることもあります。
ここでは、売却が近づくほど効きやすい準備と、逆に避けたい動きを、現実的な目線で整理します。
決算の前後でやることを分けて考える
まず押さえておきたいのは、税金対策は「良いか悪いか」だけで判断できないという点です。特に重要なのは決算の前後で、やるべきことが変わることです。
決算前は、どうしても「利益をどうするか」「税金をどうするか」に意識が向きます。ただ、会社売却が絡むと、利益は税金だけでなく、買い手が会社をどう見るかにも影響します。だからこそ、決算前は数字を動かす行動ほど慎重に考える必要があります。
一方、決算後は「確定した数字」をもとに、説明を整えたり、次の期の方針を立てたりしやすくなります。売却に向けた準備としては、むしろ決算後に資料の整備や説明の整理を進めた方が、焦りが減りやすいです。
| タイミング | 考え方の目安 | やりやすい準備 |
|---|---|---|
| 決算前 | 数字を動かすほど影響が大きいので慎重に考える | 気になる処理の洗い出し、資料の所在確認、方針の整理 |
| 決算後 | 確定した数字で説明を作りやすい | 説明メモ作り、科目の中身整理、必要資料の整備 |
もちろん、決算前でも必要な手当はあります。ただし「節税のために今すぐ何かをやる」より先に、何をやると説明が難しくなるかを意識しておくと、後から困りにくくなります。
急な節税で数字が読みにくくなると交渉が荒れやすい
売却が近づいたタイミングで特に注意したいのが、急な節税です。節税の話そのものが悪いわけではありません。問題になりやすいのは、急いだ結果、
- 利益の理由が説明しにくくなる
- 前年との比較ができなくなる
- 数字が「たまたま」に見えてしまう
こういった状態になることです。
買い手が見たいのは、「この会社はこれからも同じように稼げそうか」という安心です。そこに対して、直前の決算で急に利益が上下したり、費用の出方が不自然に見えたりすると、買い手は税金ではなく、将来の安定性に不安を持ちやすくなります。
その結果、交渉は次のように荒れやすくなります。
- 数字の説明に時間がかかり、疑いが解けないまま進む
- 買い手が安全側に倒れ、条件が厳しくなる
- 追加資料や追加確認が増えて、スケジュールが伸びる
特に「節税のための動き」が、買い手から見ると「実態が分かりにくい動き」に映ると、税金よりも大きい損失につながることがあります。だからこそ、売却が近いほど、やるべきは節税の小技探しではなく、数字の読みやすさを守ることです。
もし節税の検討をするなら、なぜその処理をしたのかを短く説明できる状態にしておくのが安全です。説明できない節税は、売却の場面ではリスクになりやすいと考えておく方が無難です。
売却のための投資や採用を税金だけで止めない
売却が近づくと、「利益を落としたくない」「税金を増やしたくない」という気持ちから、投資や採用を止めたくなることがあります。ですが、ここで気をつけたいのは、投資や採用は税金の問題だけでなく、会社の将来の価値にも直結するという点です。
たとえば、売却後も伸びる事業にするために必要な採用や、顧客満足度を保つための設備投資を止めてしまうと、短期的に利益は守れても、長期的には売却条件に影響が出ることがあります。
この判断をするときは、税金だけで止めるのではなく、次の二つを分けて考えると整理しやすいです。
- 止めると売却後に困るもの:事業の継続に必要、売却後の引き継ぎに必要、顧客維持に必要
- 止めても致命傷になりにくいもの:優先度が低い、効果が薄い、説明が難しい支出
売却の直前は、判断の軸が「税金」一色になりやすい時期です。でも、買い手が見ているのは、税金よりも事業が回るか、人が回るか、引き継ぎが成立するかです。
だからこそ、投資や採用については、まず事業上の必要性を整理し、その上で税金や利益への影響を見ていく順番の方が、後から後悔しにくくなります。税金は大事ですが、税金だけで会社の動きを止めると、売却の目的そのものがぼやけてしまうことがあります。
手元に残る金額のざっくり試算を早めに作る
会社売却の税金対策で不安が大きくなる原因の多くは、専門用語ではなく「結局いくら残るのか分からない」ことです。ここが見えないままだと、提示された条件を見ても判断ができず、交渉のたびに気持ちが揺れやすくなります。
だからこそ、早い段階で手元に残る金額のざっくり試算を作っておくのが大切です。ここでいう試算は、完璧な税額計算ではありません。まずは判断に使えるレベルで十分です。
「正確さ」よりも先に、全体像が見えることを優先します。全体像が見えるだけで、交渉の不安や迷いはかなり小さくなります。
試算に必要な情報を集める
ざっくり試算を作るために、最初から細かい資料を全部そろえる必要はありません。必要なのは、試算が進む最低限の材料です。ポイントは完璧に集めることではなく、すぐ取り出せる形にしておくことです。
まずは次のような情報があると、話が進みやすくなります。
- 想定している売却価格のレンジ(希望でもOK。上・中・下の3パターンでも良い)
- どの売り方を想定しているか(株を売る形か、事業を売る形か)
- 株主の構成(誰が何%持っているか)
- 直近の決算書(1期でも良い。できれば2〜3期)
- 借入金や役員借入金など、会社と個人のお金の関係が分かるメモ
この段階で分からないことがあっても大丈夫です。重要なのは、分からない項目を分からないまま残すのではなく、「ここが未確定」と明確にしておくことです。未確定が見えていれば、試算は前に進められます。
試算は一人で抱え込まず、税理士などと一緒に数字を当てていく前提で作って問題ありません。そのためにも、手元の情報を探さず出せる状態にしておくと、相談が一気に早くなります。
税金以外の出費も一緒に見積もる
「税金がいくらか」だけを見ていると、実際の手取りとズレて不安が残ります。なぜなら、売却で手元に残る金額は、税金だけで決まらず、税金以外の出費も積み重なるからです。
ここは、完璧な金額を当てる必要はありません。まずは見落としがちな項目を一緒に箱に入れるイメージで考えるとラクです。
| 区分 | 手取りに影響する例 | 最初の見積もりの考え方 |
|---|---|---|
| 税金 | 売却で利益が出た場合の税金 | まずは「税金が発生しそうか」を確認し、ざっくり幅で見る |
| 手数料 | 支援者への報酬、仲介・FAの手数料など | 契約条件が未確定なら「上限の目安」を置く |
| 専門家費用 | 税理士・弁護士などの費用 | 発生しそうなものを列挙し、後で見積もりを取る前提で箱に入れる |
| 清算コスト | 解約違約金、整理費用、不要資産の処分など | 「ありそうなもの」を先に洗い出して、ゼロだと決めつけない |
| その他 | 退職金の支給、残務対応の費用など | 方針が決まっていない項目は「未確定」として残す |
ここで重要なのは、税金以外の出費を見積もる目的は「怖がるため」ではなく、交渉の途中で慌てないためだということです。手数料や専門家費用が後から出てくると、「思ったより残らない」と感じて判断が揺れます。だから先に、ざっくりでも入れておきます。
試算は一回で固めず更新していく
ざっくり試算がうまくいかない理由のひとつに、「一回作ったら正解にしなければ」と思ってしまうことがあります。でも、会社売却は途中で条件が変わるのが普通です。だから試算も、一回で固めず、更新していくものとして扱う方がラクです。
試算は、次のように段階を分けて考えると現実的です。
- 第一段階:希望や想定で「上・中・下」の3パターンを置く
- 第二段階:売り方や受け取り方の方向性が見えたら前提を更新する
- 第三段階:条件が絞れたら税金以外の出費も現実の見積もりに寄せる
更新のコツは、試算を細かくすることではなく、前提を書き残すことです。例えば、同じ「手取り1億」という数字でも、
- 「売却価格はいくらを想定したのか」
- 「手数料や費用は入っているのか」
- 「税金はざっくりなのか、確認済みなのか」
この前提が分からないと、数字だけが独り歩きして不安になります。逆に前提が書かれていれば、更新するたびに不安が小さくなる方向へ進めます。
試算は、社長を縛るためのものではありません。むしろ、交渉や意思決定で揺れないための手元のコンパスです。完璧を目指さず、早めに作って、状況に合わせて更新していく。それだけで、税金対策の不安はかなり軽くなります。
税理士とM&Aの支援者に相談するときの進め方
会社売却の税金対策は、調べれば調べるほど不安になりやすいテーマです。その理由のひとつは、税金の話が「誰に相談するか」で進み方が大きく変わるからです。
税理士とM&Aの支援者は、どちらも大切な相談先ですが、得意分野が違います。ここを混ぜたまま相談すると、話が遠回りになったり、同じ説明を何度も繰り返して疲れたりしがちです。
この章では、相談がスムーズに進むように、税理士に先に伝えること、M&Aの支援者に先に伝えること、そして同じ話を何度もしない資料のまとめ方を整理します。
税理士に先に伝えるべきこと
税理士に相談するときは、いきなり「税金を減らしたい」と言うより、前提と不安のポイントを先に伝える方が話が早くなります。税理士が判断しやすいのは、節税アイデアよりも、状況の全体像です。
まずは、次のようなことを短くでいいので共有すると、確認すべき点が絞られます。
- 売却を考え始めた背景(いつ頃までに、どの程度の温度感で進めたいか)
- 想定している売り方のイメージ(株を売る形か、事業を売る形か)
- 株主の状況(誰が株を持っているか、割合が分かるならなお良い)
- 直近の決算状況(利益が安定しているか、最近大きく変動したか)
- 社長個人と会社のお金の関係(役員借入金や貸し借りがあるかなど)
- 気になっている処理(「これ説明できるかな」と不安なものがあれば先に伝える)
税理士にとっては、「何が起きそうか」を先に把握できると、注意点を早めに洗い出せます。特に、社長が不安に感じている点は、正しいかどうかよりも気になっている事実として共有しておく方が安全です。
また、税理士に相談するときは、聞きたいことを三つ程度に絞ると、回答が具体的になりやすいです。例えば、
- 「この前提だと税金はざっくりどのくらいになりそうか」
- 「今の段階で気をつけるべき処理は何か」
- 「次に揃えるべき資料は何か」
といった聞き方をすると、次の行動に落ちやすくなります。
M&Aの支援者に先に伝えるべきこと
M&Aの支援者に相談するときは、税金そのものよりも、税金に影響する売却条件の作り方が論点になりやすいです。だからこそ、先に伝えるべきは「税金を減らしたい」ではなく、社長が何を大事にしたいかです。
最初に共有しておくと話が早いのは、次のような内容です。
- 売却の目的(引退、事業の成長、後継者問題など)
- 守りたい条件(従業員、取引先、社名、役員として残りたい等)
- 希望するお金の受け取り方(一括が安心、分割も可など)
- 売却の希望時期(急ぎたいのか、良い条件なら待てるのか)
- 今の会社の状態(忙しさ、採用や投資の状況、課題だと思う点)
- 税金で不安な点(正解は不要。「ここが怖い」を言葉にして伝える)
M&Aの支援者は、社長の希望をもとに、売却条件をどう組み立てるか、どんな相手が合いそうかを考えます。ここが曖昧なままだと、提案が広がりすぎて、逆に迷いが増えます。
もう一つ大事なのは、税金の話をするときに「税金の計算をしてほしい」と頼むより、税金が動きそうな条件をどう扱うかの相談にすることです。例えば、
- 「受け取り方をどう設計するのが現実的か」
- 「会社に残すものをどう整理するか」
- 「買い手が不安に感じやすい数字のポイントはどこか」
こうした相談の方が、M&Aの支援者の守備範囲に合いやすく、具体的な話になりやすいです。
同じ話を何度もしないための資料のまとめ方
相談が長引いて疲れる原因のひとつが、同じ説明を何度もしなければならないことです。これは、社長の伝え方が悪いというより、情報が散らばっているだけで起きます。
そこでおすすめなのが、最初に一枚で全体像が分かるメモを作っておくことです。パワポのようにきれいでなくて構いません。WordでもGoogleドキュメントでも、紙でもOKです。
入れておくと効果が大きいのは、次の項目です。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 会社の概要 | 業種、規模、拠点、主要な売上の柱 |
| 売却の目的 | 引退、成長、後継者、リスク整理など |
| 希望条件 | 譲れないこと、できれば守りたいこと |
| 売り方のイメージ | 株を売る形を想定、まだ未確定、など |
| 受け取り方の希望 | 一括が安心、分割も可、時期の希望 |
| 税金の不安 | 税額が読めない、過去の処理が心配、など |
| 気になる過去の処理 | いつ頃/何が不安か/資料がありそうな場所 |
この一枚があるだけで、税理士にもM&Aの支援者にも「状況の説明」が短く済みます。さらに、相談のたびにメモを更新していけば、頭の中の整理にもなり、判断がブレにくくなります。
資料は、たくさん用意するほど良いわけではありません。最初に強いのは、全体像が分かる一枚と、裏付けになる最低限の数字です。これがあるだけで、相談は驚くほど前に進みます。
売却後に困らないために先に決めておきたいこと
会社売却が決まると、ほっとする一方で、売却後にじわっと効いてくるのがお金の動かし方と手続きの段取りです。
売却前は「価格」や「条件」に目が行きやすいのですが、実際には売却後に、納税や分配、各種の手続きが一気に押し寄せます。ここで準備が薄いと、せっかくの売却がお金の不安や手続きの混乱で落ち着かなくなってしまいます。
この章では、売却後に困らないために、売却前のうちに先に決めておくと安心なことを3つに絞って整理します。
納税のための資金を分けて確保する
売却後に一番ありがちな落とし穴は、税金の存在は分かっていたのに、手元のお金を動かしてしまい、納税資金が足りない不安が出てしまうことです。
売却でまとまったお金が入ると、
- 借入の返済に充てる
- 次の事業や投資に使う
- 生活の見通しを立てて動かす
こうした判断を早めにしたくなります。ですが、納税は「いつか払う」ではなく、現実に期限が来ます。だからこそ、売却後の資金は最初に納税分を分けて確保するのが安心です。
ポイントは、正確な税額が確定するまで待つのではなく、売却が成立した段階で納税用の箱を作っておくことです。これだけで、手元のお金を動かす判断が落ち着きます。
実務的には、
- 売却入金があったら、納税用の口座や管理先を分ける
- 生活費や返済に使う分と混ぜない
という考え方がシンプルで効果的です。
分配や役員退職金を考えるなら早めに段取りを組む
次に、売却後に悩みやすいのが、売却で得たお金の分配や、社長の役員退職金の扱いです。
ここは「税金の話」でもありますが、それ以上に関係者とのすり合わせや段取りが重要になります。売却後に急いで決めようとすると、
- 「誰にいくら渡すのか」で揉める
- 後から「聞いていない」が出る
- 手続きや書類が追いつかない
こうしたストレスが出やすくなります。
だからこそ、分配や退職金を考えている場合は、売却の成立後に慌てて動くのではなく、売却前の時点で段取りだけでも先に組むのがおすすめです。
段取りとしては、次のような整理ができていると話が早いです。
- 分配の対象:株主、家族、共同経営者など、関係者を明確にする
- 退職金を考える理由:生活費の設計、功労の整理、社内外の説明など
- いつ決めるか:売却のどのタイミングで方針を固めるか
ここで注意したいのは、分配や退職金は良し悪しの話ではなく、順番の話だということです。税理士など専門家と相談しながら進める前提で良いので、まずは「考えているかどうか」を早めに言葉にしておくと、後から慌てにくくなります。
実行後に慌てやすい手続きと期限を押さえる
売却後に意外と疲れるのが、手続き関係です。売却が成立すると、やることが一気に増えます。しかも、期限が絡むものが多いので、後回しにすると焦りが強くなります。
すべてを完璧に覚える必要はありません。大切なのは、売却前の段階で、
- 期限があるものがある
- 誰が何をやるか決める必要がある
この2点を押さえておくことです。
慌てやすいのは、次のようなタイプの手続きです。
| 慌てやすい理由 | よくあるパターン | 先にやっておくと安心なこと |
|---|---|---|
| 期限がある | 税務関連の申告・納付、必要書類の提出 | 「誰が管理するか」を決め、カレンダーに入れる |
| 関係者が多い | 銀行、取引先、社内の引き継ぎ | 連絡の順番と担当を先に決める |
| 書類が散らばる | 契約書、領収書、支払い証跡などの管理 | 保存場所を一つに決める |
ここでのポイントは、売却後に全部を自分で抱え込まないことです。手続きは、社長がすべて覚えて頑張るより、担当と期限を決めてしまう方がうまく回ります。
売却はゴールのように見えますが、実務的には「売却後の動き方」まで含めて落ち着いて終わらせることが大切です。売却前のうちに、納税資金の確保、分配や退職金の段取り、手続きと期限の管理を先に決めておくだけで、売却後の安心感が大きく変わります。