会社を売却する際には、売却額や取引方法に応じてさまざまな税金が発生します。これらの税金は、売却後の手取り額を大きく左右する重要な要素です。しかし、具体的な税金の種類や計算方法を正確に理解している方は少なく、適切な対策を取らないまま取引を進めてしまうケースも見られます。
本記事では、会社売却にかかる税金の仕組みを分かりやすく解説するとともに、税負担を軽減するための効果的な方法について紹介します。これを読むことで、売却プロセスにおける税金の影響を把握し、最適な戦略を立てるためのヒントを得られるはずです。会社売却を検討中の方は、ぜひ最後までお読みください。
会社売却の仕組みとは
会社売却は、経営者が保有する会社の株式や事業を第三者に譲渡することで、新たな所有者へ経営権を移転する手続きです。このプロセスは、事業の拡大や承継、引退を目的として行われ、売却方法によって手続きや税金が異なります。以下では、会社売却の代表的な種類と、それぞれの評価基準について解説します。
会社売却の種類とそれぞれの特徴
会社売却には主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの方法があります。それぞれの特徴を理解することで、自社にとって最適な売却方法を選ぶことができます。
株式譲渡
株式譲渡は、会社の株主が保有する株式を譲渡することで、経営権を買い手に移転する方法です。この方法は、会社全体をそのまま引き継ぐ形になるため、手続きが比較的シンプルです。
メリット:
会社の組織体制や契約関係がそのまま引き継がれる。
株主間での合意が取れればスムーズに進行。
デメリット:
買い手が会社の負債も引き継ぐリスクがある。
株主構成や合意形成が複雑な場合、交渉が長引くことも。
事業譲渡
事業譲渡は、会社の特定の事業や資産を切り離して譲渡する方法です。買い手は譲渡対象を選択できるため、譲渡範囲が柔軟に設定できます。
メリット:
譲渡対象を限定できるため、不要な負債や資産を引き継がせずに済む。
譲渡後も会社自体は存続するため、他の事業を継続可能。
デメリット:
資産や契約を個別に譲渡する手続きが必要で、時間とコストがかかる。
譲渡対象によっては税金が高くなる場合がある。
株式譲渡と事業譲渡では、手続きの流れや税務上の負担が大きく異なるため、会社の状況や売却後の目標に応じた選択が求められます。
どのように市場で会社が評価されるのか
会社売却では、売却価格を決定するために市場での「企業価値評価」が行われます。この評価は、会社の財務状況や成長性、経営リスクなどを総合的に分析することで算出されます。
1. 財務指標の分析
売却価格の算定には、主に会社の過去の業績や資産負債の状況が考慮されます。特に注目される指標には以下が含まれます。
- 売上高や利益率
- 資産と負債のバランス
- キャッシュフローの安定性
2. 成長性の評価
買い手が特に注目するのが、会社の将来性です。業界の成長性や競争優位性、独自の技術やサービスが評価ポイントとなります。
3. リスク要因の確認
買い手にとってのリスクは、評価額に大きく影響します。例えば、訴訟リスクや依存度の高い取引先がある場合、価格が下がる傾向にあります。
4. 評価方法
企業価値を評価する方法として、以下が一般的に使用されます。
- DCF法(割引キャッシュフロー法): 会社が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出。
- 類似会社比較法: 同業他社の売却事例を基に企業価値を推定。
- 純資産法: 会社の純資産額を基に評価する方法。
適切な評価を受けることで、売り手と買い手の双方が納得できる条件での売却が実現します。事前に専門家の助言を受け、準備を進めることが成功のカギです。
会社売却時にかかる税金の種類
会社売却では、売却方法や対象資産に応じてさまざまな税金が発生します。売却後の手取り額を最大化するには、課税対象や計算方法を理解することが重要です。以下では、株式譲渡、事業譲渡、不動産や資産売却に関連する税金について詳しく解説します。
株式譲渡に伴う課税
株式譲渡では、株式の売却益に対して税金が課されます。この税負担は、売却した株主が個人か法人かによって異なります。
個人株主と法人株主の異なる税負担
個人株主の場合
個人が株式を譲渡した場合、売却益(譲渡価格から取得費用と譲渡費用を差し引いた金額)は「譲渡所得」として課税対象になります。具体的な税率は以下の通りです。
所得税: 譲渡益の15.315%(復興特別所得税を含む)
住民税: 譲渡益の5%
合計で約20.315%の税率が適用されます。
法人株主の場合
法人が株式を譲渡した場合、売却益は法人の課税所得に含まれます。課税される税金は以下の通りです。
法人税: 実効税率は約30%(法人税、地方法人税、事業税を含む)
繰越欠損金を活用することで、課税所得を減らせる場合があります。
個人と法人では、税率や控除の仕組みが異なるため、どちらの形態が有利かを検討することが重要です。
事業譲渡における税金の計算方法
事業譲渡では、売却する事業や資産ごとに課税されます。事業譲渡に伴う税金の計算で注意すべき点の一つが「繰越欠損金」と「譲渡所得」の関係です。
繰越欠損金と譲渡所得の関係
- 譲渡所得の課税
事業譲渡で得た譲渡益は法人の課税所得となり、法人税が課されます。譲渡益は、売却価格から譲渡資産の帳簿価格と譲渡費用を差し引いて計算されます。
- 繰越欠損金の活用
事業譲渡時に、過去の赤字(繰越欠損金)がある場合、課税所得から繰越欠損金を差し引くことができます。ただし、繰越欠損金の控除額は通常、課税所得の50%が上限です。この仕組みを活用することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
繰越欠損金を効果的に利用するためには、譲渡のタイミングや対象資産の選定が重要です。
不動産や資産売却における税金
会社売却に伴い、不動産や設備などの固定資産を売却する場合もあります。この場合、以下の税金が発生します。
不動産取得税と印紙税の影響
- 不動産取得税
売却対象に不動産が含まれる場合、不動産取得税が課される可能性があります。この税金は、不動産の評価額に基づいて計算され、通常の税率は4%です。売却する地域によっては、軽減措置が適用される場合もあるため、事前に確認が必要です。
- 印紙税
不動産売却時に作成する契約書には、印紙税が課されます。契約金額に応じて税額が決まる仕組みで、たとえば1億円の契約の場合、軽減措置を適用すれば印紙税は6万円です。
契約書が高額になるほど、印紙税も増えるため、取引の規模に応じた計画が求められます。
不動産や資産の売却における税金は、会社の規模や売却の内容に応じて異なるため、事前のシミュレーションが重要です。税負担を最小限に抑えるためには、専門家と相談しながら進めることが推奨されます。
会社売却額に応じた税額の具体例
会社売却時に発生する税額は、売却価格や必要経費(取得費 + 譲渡費用)に基づいて計算されます。以下では、売却価格1億円のケーススタディと、必要経費の詳細について解説します。
売却価格1億円のケーススタディ
株式譲渡の場合(個人株主)
売却価格: 1億円
必要経費(取得費+譲渡費用):3500万円
譲渡所得の計算:
譲渡所得 = 売却価格 – 必要経費
= 1億円 – 3500万円
= 6500万円
税額の計算:
所得税(15.315%): 約996万円
住民税(5%): 325万円
復興特別所得税(2.1%): 約21万円
合計税額: 1342万円
事業譲渡の場合(法人株主)
売却価格: 1億円
必要経費(取得費+譲渡費用):6000万円
譲渡益の計算:
譲渡益 = 売却価格 – 必要経費
= 1億円 – 6000万円
= 4000万円
税額の計算:
法人税(実効税率約30%): 約1200万円
何が必要経費になるの?
必要経費とは、売却時の譲渡所得を計算する際に控除できる費用を指します。以下は、必要経費の内訳です。
取得費
株式の購入代金
株式や事業資産を取得する際に支払った金額。
購入手数料
証券会社や仲介業者に支払った手数料や名義書換料。
増資時の払込額
過去の増資時に株主が払い込んだ金額。
取得費不明の場合の特例
取得費用が不明な場合、売却価格の5%を取得費として申告可能。
(例: 売却価格1億円の場合、取得費500万円と計上可能)
譲渡費用
仲介手数料
株式や事業売却を仲介したM&Aアドバイザーや証券会社への手数料。
契約関連費用
売買契約書の作成にかかった弁護士費用や行政書士費用。
その他の諸経費
売却プロセス中に発生した合理的な経費(例: 評価費用、専門家への相談料)。
所得税、住民税、法人税の総合的な影響
株式譲渡の場合(個人株主)
所得税: 15.315%(復興特別所得税を含む)
住民税: 5%
→ 合計税率: 約20.315%
事業譲渡の場合(法人株主)
法人税: 譲渡益に対して実効税率約30%〜40%が課税。
適切な必要経費の計上により、税負担を軽減し、手取り額を最大化することが可能です。正確な計算と適切な申告のためには、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
会社売却における税金対策
会社売却では、適切な税金対策を講じることで、税負担を大幅に軽減し、売却後の手取り額を最大化することが可能です。以下では、特に効果的な法的手法をいくつか紹介します。
税金を軽減するための法的手法
役員退職金を活用する方法
役員退職金は、会社売却後に経営者が引退する際に有効な税金対策の一つです。役員退職金を支給することで、所得税の優遇措置を受けることができます。
役員退職金の特徴
役員退職金は、退職所得として扱われ、通常の給与所得よりも大幅に低い税率が適用されます。さらに、以下のような退職所得控除を利用することができます。
- 勤続20年まで: 年間40万円(20年で800万円)
- 勤続20年超: 年間70万円
退職所得 = (退職金額 – 退職所得控除額) ÷ 2
活用のメリット
退職所得は分離課税の対象となるため、高額な譲渡益が出ても総合課税の影響を受けません。
節税効果が大きく、売却後の手取り額を増やすことができます。
注意点
適切な退職金額を設定しないと、税務署から否認されるリスクがあります。そのため、同業他社の支給額を参考にしながら、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
会社分割とその他のスキームの利用
会社分割は、事業譲渡や株式譲渡を行う際に活用できる効果的な手法です。この方法を利用することで、特定の資産や負債を分離し、税務上のメリットを得ることが可能です。
会社分割の仕組み
会社を「分割会社」と「承継会社」に分け、必要な資産や事業だけを承継会社に移転します。これにより、以下のメリットが得られます。
・不要な資産や負債を切り離すことで、譲渡対象を調整できる。
・税負担を分散し、効果的な節税を図れる。
スキームの具体例
・新設分割: 事業を新設会社に移転した後、その会社の株式を売却する方法。これにより、株式譲渡として扱われるため、個人株主の場合、住民税や所得税の優遇措置を受けやすくなります。
・吸収分割: 既存の会社に事業を移転し、その会社と取引する形で売却を進める方法。
活用のメリット
特定の事業や資産を効率的に売却できるため、買い手のニーズに応じた柔軟な取引が可能。
譲渡対象の調整により、売却益に対する課税を最適化できる。
その他のスキーム
持株会社の設立: 会社売却前に持株会社を設立し、譲渡益を持株会社で管理することで、税負担を調整する方法。
資産売却の分割実施: 売却を複数年に分けて行うことで、課税所得の分散を図り、高額課税を回避する方法。
税金対策を適切に実行するためには、専門的な知識と計画が必要です。これらの手法を検討する際は、信頼できる税理士やM&Aアドバイザーに相談し、自社の状況に合った最適な方法を選択することをおすすめします。
税理士に相談するメリット
会社売却は多くの税金が絡む複雑な取引であり、適切な知識と戦略がなければ、手取り額を最大化することが難しくなります。税理士に相談することで、専門的なサポートを受け、税負担を軽減するための最適な方法を見つけることができます。以下では、税理士に相談する主なメリットについて解説します。
専門家の知識と経験を活かす
税理士は、税金に関する法律や規制についての豊富な知識を持ち、これまでの経験をもとに適切なアドバイスを提供します。特に以下の点で、税理士のサポートが有益です。
複雑な税法の適用
税法は頻繁に改正されるため、最新の情報を把握することが重要です。税理士は、最新の税制を基に売却に伴う最適な対策を提案します。
売却手法の選択支援
株式譲渡や事業譲渡などの方法ごとに異なる税金が発生します。税理士は、売却額や譲渡対象を考慮し、税負担を最小限に抑える方法を提案します。
節税スキームの構築
役員退職金の活用や会社分割など、適法な節税策を活用して売却後の利益を最大化します。これにより、売却後の資金計画がより具体的に立てられます。
税務リスクの回避
適切な申告と法令遵守を徹底することで、税務調査のリスクやペナルティを未然に防ぎます。
税理士に相談することで、複雑な税務処理を効率的に進められるだけでなく、節税やリスク回避の具体的な方法を得ることができます。専門家の力を借りることで、会社売却がよりスムーズで有利なものになるでしょう。
会社売却を成功させるためのまとめ
会社売却は、経営者にとって大きな決断であり、税金の負担が売却後の手取り額を大きく左右します。そのため、事前にしっかりとした準備を行い、専門家のサポートを受けながら最適な方法を選ぶことが成功の鍵となります。本記事で解説した内容を基に、以下のポイントをおさえて売却プロセスを進めましょう。
売却方法の選択
株式譲渡や事業譲渡など、売却方法によって税負担が異なるため、自社の状況に合った方法を検討することが重要です。
税金対策の実施
役員退職金の活用や会社分割などの手法を取り入れることで、税負担を軽減し、売却後の利益を最大化できます。
専門家への相談
税理士やM&Aアドバイザーに相談し、最新の税制や適切な手法に基づいたアドバイスを受けることで、税務リスクを回避しつつ、売却手続きをスムーズに進められます。
税金に関するよくある質問とその回答
Q1: 株式譲渡と事業譲渡ではどちらが税金が安くなりますか?
A: 一概には言えませんが、個人株主の場合、株式譲渡は所得税・住民税の合計約20.315%の税率で課税されるため、事業譲渡に比べて税負担が軽い傾向があります。一方、法人の場合は、事業譲渡で繰越欠損金を活用することで税負担を軽減できるケースもあります。売却内容や会社の状況に応じて最適な方法を選ぶ必要があります。
Q2: 売却益が高額になると税率も上がりますか?
A: 株式譲渡の場合、所得税は一律15.315%、住民税は5%(合計約20.315%)で課税されるため、売却益が高額でも税率は変わりません。ただし、事業譲渡の場合は法人税が課され、売却益が大きくなると法人税額も増加します。
Q3: 税金対策として役員退職金を支給する場合、どのくらい節税できますか?
A: 役員退職金は退職所得として扱われるため、通常の給与所得よりも優遇された税率が適用されます。退職所得控除により、課税対象額が大幅に減少するため、高額な退職金を支給しても総合課税の影響を最小限に抑えることが可能です。具体的な節税額は退職金額や勤続年数により異なります。
Q4: 売却時にかかる税金を分割して支払うことは可能ですか?
A: 税金の分割支払い(延納)は、国税や地方税で条件が揃えば可能ですが、利息に相当する延滞税が発生します。資金計画と税務調整を専門家と相談しながら進めることをお勧めします。
Q5: 不動産を含む会社売却では、どのような税金が発生しますか?
A: 不動産を含む場合、不動産取得税や印紙税が発生します。また、不動産の譲渡益に対して法人税が課されるため、売却額や帳簿価格を事前に確認し、適切な対策を講じることが重要です。
会社売却における税金対策や疑問点を解消することで、売却プロセスを有利に進められます。最適な方法を選択し、専門家の知識を活用しながら、成功に向けた準備を進めてください。
会社売却は、経営者にとって大きなライフイベントの一つです。特に税金に関する知識や対策を十分に講じることは、売却後の手取り額を大きく左右します。しかし、税金や売却手続きについて一人で判断するのは難しく、適切なサポートが必要です。
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