東京都で事業を営む女性経営者にとって、「女性社長が増えている」というニュースは、単なる多様性の話ではありません。取引先や採用市場で女性経営者の存在感が高まる一方、社長の高齢化、後継者選び、会社の売却や第三者承継をいつ検討するかという実務課題も同時に大きくなっています。
東京商工リサーチが2025年10月27日に公表した調査では、東京都の女性社長は17万5,258人で全国最多でした。前年から1万156人増え、女性人口10万人あたりでも2,459人と全国1位です。ただし、社長全体に占める女性の割合は17.47%で全国4位でした。数が多いことと、比率が高いことは同じではありません。
この記事では、2026年9月14日時点で確認できる最新の年次調査を使い、東京都の前年差、全国差、地域差、業種差、年齢差、企業規模の違いを整理します。そのうえで、女性経営者が会社を次世代へつなぐために、何をいつ準備すべきかを実務に落とし込みます。
東京都の女性社長は17万5,258人、全国の4人に1人
東京商工リサーチ「第14回 全国『女性社長』調査」によると、全国の女性社長は68万4,669人で、前年より3万5,407人、率にして5.4%増えました。社長全体に占める女性の割合は15.55%です。
そのうち東京都は17万5,258人で、全国の25.6%を占めます。大阪府の6万6,145人の約2.65倍、神奈川県の4万3,954人の約3.99倍です。都内には企業と事業者が集中しているため、絶対数では東京が突出しています。
| 見る指標 | 東京都 | 全国・他地域との比較 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| 女性社長数 | 175,258人 | 全国1位、全国の25.6% | 事業者数の集積を強く受ける |
| 前年からの増加 | +10,156人(+6.15%) | 全国の増加率+5.4%を0.75ポイント上回る | 東京では母数が大きい中でも増加が続く |
| 女性人口10万人あたり | 2,459人 | 全国1位、唯一の2,000人超 | 人口規模だけでは説明できない集積 |
| 社長全体に占める割合 | 17.47% | 全国平均15.55%を1.92ポイント上回り、全国4位 | 数の多さと比率の高さを分けて見る |

前年差で見ると、人数・人口比・社長比率のすべてが上昇
前年の第13回調査では、東京都の女性社長は16万5,102人、女性人口10万人あたり2,332人、社長全体に占める割合は17.21%でした。今回の数字と比べると、人数は1万156人増、女性人口10万人あたりでは127人増、割合は0.26ポイント上昇しています。
| 指標 | 2024年調査 | 2025年調査 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 東京都の女性社長数 | 165,102人 | 175,258人 | +10,156人、+6.15% |
| 女性人口10万人あたり | 2,332人 | 2,459人 | +127人、+5.45% |
| 女性社長比率 | 17.21% | 17.47% | +0.26ポイント |
3指標がそろって上がっているため、人口増だけで女性社長数が増えたとは考えにくいでしょう。一方で、この調査だけから「女性が起業しやすくなった」「承継が進んだ」と原因を断定することはできません。新設法人、既存企業での代表交代、個人事業の開業、データベースの収録増加などが混在しているためです。
経営判断では、伸び率そのものより「自社と同じ業種・規模で女性経営者が増えているか」「取引先や採用候補者の構成が変わっているか」を確認する方が実用的です。
東京が全国最多になる3つの背景
企業と個人事業者が集中している
東京都は本社、専門サービス、店舗、不動産関連事業などの集積が大きく、社長の総数そのものが多い地域です。したがって17万5,258人という絶対数は、女性が社長になりやすい度合いだけでなく、事業者の母数を強く反映しています。
その影響を補正するのが女性人口10万人あたりの2,459人です。この指標でも東京は全国1位なので、人口の多さだけでなく、事業活動の密度や創業・承継機会の多さが関連している可能性があります。ただし、居住地と会社所在地の違いや、複数法人を経営する人の扱いまでは公開資料から判断できません。
女性社長の多いサービス業と不動産業が厚い
全国の女性社長を業種別に見ると、サービス業が34万3,476人で全体の50.1%、不動産業が10万1,562人で14.8%、小売業が6万8,324人で9.9%です。女性社長比率では不動産業25.15%、サービス業19.38%、小売業15.87%が高く、建設業は5.52%にとどまります。
東京には専門サービス、生活関連サービス、IT、店舗、不動産賃貸・管理などの事業が集まっています。この産業構成は女性社長数の多さと整合しますが、東京都だけの業種別女性社長数が同じ資料に示されているわけではありません。「東京はサービス業が多いから17万5,258人になった」と単一原因で説明しないことが大切です。
| 業種 | 全国の女性社長数 | 女性社長全体に占める割合 | 業種内の女性社長比率 | 承継で見落としやすい点 |
|---|---|---|---|---|
| サービス業 | 343,476人 | 50.1% | 19.38% | 代表者の技能・信用・顧客関係の属人化 |
| 不動産業 | 101,562人 | 14.8% | 25.15% | 所有不動産、借入、保証、管理契約の整理 |
| 小売業 | 68,324人 | 9.9% | 15.87% | 店舗契約、在庫、従業員、商圏の引継ぎ |
| 情報通信業 | ― | ― | 13.61% | 知的財産、外注、アカウント、セキュリティ |
| 建設業 | ― | ― | 5.52% | 許認可、技術者、元請関係、安全管理 |
創業だけでなく、親族内承継や代表交代も含まれる
女性社長の増加というと起業を思い浮かべがちですが、親から娘への承継、配偶者からの引継ぎ、役員や従業員からの昇格、第三者からの会社取得も含まれます。特に既存企業では「誰が株を持つか」と「誰が経営するか」が一致しないケースがあります。
代表者変更だけで完了と考えると、株式が先代や親族に分散したままになり、重要事項を決められないことがあります。東京の女性社長が増えている数字は、女性が経営の前面に立つ機会が増えていることを示しますが、経営権と財産権の承継まで完了しているかは別途確認が必要です。
全国1位でも、女性社長比率は4位
都道府県別の女性社長数は東京が圧倒的な1位ですが、社長全体に占める割合では沖縄県20.65%、山梨県17.69%、茨城県17.68%に続く4位です。大阪府と兵庫県はともに16.98%でした。
| 順位の切り口 | 1位 | 2位 | 3位 | 東京都 |
|---|---|---|---|---|
| 女性社長数 | 東京 175,258人 | 大阪 66,145人 | 神奈川 43,954人 | 1位 |
| 女性人口10万人あたり | 東京 2,459人 | 山梨・沖縄 1,459人 | 大阪 1,452人 | 1位 |
| 女性社長比率 | 沖縄 20.65% | 山梨 17.69% | 茨城 17.68% | 17.47%で4位 |
絶対数は市場の厚みを知るのに向き、人口あたりは地域の事業活動密度、社長比率は経営者構成を把握するのに向いています。会社売却の候補先を探すなら絶対数、地域施策を比べるなら人口比、社内の登用状況を考えるなら社長比率というように、目的で指標を使い分けます。
平均65.2歳、全国の女性社長の65%が60歳以上
全国の女性社長の平均年齢は65.2歳で、男性社長の63.6歳より1.6歳高くなっています。年代構成は70代25.3%、60代24.6%、80代以上15.1%で、60歳以上が合計65.0%です。東京都限定の年齢構成ではない点には注意が必要ですが、女性経営者にも事業承継が広く迫っていることは明らかです。
東京の社長全体については、既存記事「東京の社長は平均60.2歳」で、業種差や交代前後の年齢を詳しく整理しています。また、後継者不在と年代の関係は「東京都の後継者不在率を社長年齢別に分析」をご覧ください。
年齢だけで引退時期を決める必要はありません。ただ、健康、家族事情、主要取引先との関係が同時に変わると、準備期間を確保できません。承継希望時期の1~3年前ではなく、選択肢が多い段階から株主、財務、契約、業務の整理を始めることが重要です。
女性社長企業は小規模が多く、属人化が承継価値を左右する
全国調査では、女性社長企業の70.5%が売上高1億円未満で、男性社長企業の59.5%より11.0ポイント高くなっています。売上高5億円未満まで広げると女性社長企業は93.2%、男性社長企業は87.2%です。従業員5人未満も女性社長企業62.1%に対し、男性社長企業54.0%で8.1ポイント差があります。
| 企業規模の指標 | 女性社長企業 | 男性社長企業 | 差 | 承継準備で優先すること |
|---|---|---|---|---|
| 売上高1億円未満 | 70.5% | 59.5% | +11.0ポイント | 月次損益、顧客別売上、役員関連費用を分ける |
| 売上高5億円未満 | 93.2% | 87.2% | +6.0ポイント | 借入・保証・関連当事者取引を一覧化する |
| 従業員5人未満 | 62.1% | 54.0% | +8.1ポイント | 代表者だけが担う営業・制作・承認業務を減らす |
小規模であること自体は弱みではありません。固定費が軽く、意思決定が速く、顧客との関係が深い会社には買い手が価値を見いだします。問題は、その強みを社長本人から切り離して説明できるかです。
例えば、代表者の人柄で継続している顧客が多いなら、契約期間、解約率、紹介経路、担当者との接点を記録します。専門技術が代表者に集中しているなら、作業手順、品質基準、見積方法、外注先を文書化します。会社の価値を高める具体策は「会社売却前に企業価値を高める方法」でも解説しています。
調査によって「女性社長比率」が違う理由
同じ女性社長の調査でも、東京商工リサーチは全国15.55%、帝国データバンクの2025年調査は全国8.6%と、大きな差があります。どちらかが誤りなのではなく、集計対象が違います。
| 項目 | 東京商工リサーチ | 帝国データバンク |
|---|---|---|
| 公表日 | 2025年10月27日 | 2025年11月26日 |
| 主な母集団 | 約440万社の企業・経営者情報 | 約120万社の事業会社 |
| 対象の特徴 | 個人企業を含み、病院・協同組合等の一部役員も含む | 株式会社、有限会社、合同会社など事業会社 |
| 全国の女性社長比率 | 15.55% | 8.6% |
経年比較では、同じ調査会社、同じ定義の数字を並べるのが原則です。東京商工リサーチの17.47%と帝国データバンクの8.6%を直接比較して、東京が全国の2倍だと読むことはできません。
また、内閣府男女共同参画局による2025年の上場企業の女性役員比率14.0%、東証プライム市場17.7%も、役員と社長、上場企業と全事業者の違いがあります。女性登用の参考にはなりますが、女性社長比率と同列に扱わないようにしましょう。
女性経営者が事業承継を進める4ステップ

1.現状把握:株主・財務・契約を整理する
最初に株主名簿、定款、登記事項、直近3期の決算書と税務申告書、借入・保証、主要契約、許認可をそろえます。個人名義の不動産や車両を会社が使っている、会社資金と個人支出が混在している、家族従業員の役割と報酬が曖昧という状態は、承継方法にかかわらず整理が必要です。
必要資料の全体像は「会社売却に必要な書類」にまとめています。最初から完璧を目指さず、存在する資料、更新が必要な資料、未作成の資料の3つに分けると進めやすくなります。
2.候補者比較:親族・役員・第三者を同じ基準で見る
親族内承継、役員・従業員承継、第三者承継にはそれぞれ利点と課題があります。候補者の意思、経営能力、株式を取得する資金、従業員・取引先の納得、個人保証の解除可能性を同じ表で比べます。
| 承継方法 | 主な利点 | 主な課題 | 早期に確認すること |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 理念や家族の理解を得やすい | 本人の意思、株式・相続の調整 | 後継意思、育成期間、他の相続人 |
| 役員・従業員承継 | 事業と顧客を理解している | 株式取得資金、個人保証 | 資金調達、経営権、旧社長の関与 |
| 第三者承継・会社売却 | 候補を社外へ広げられる | 相手選び、情報開示、条件交渉 | 譲れない条件、企業価値、準備期間 |
後継者が見つからない場合も、すぐ廃業と決める必要はありません。「東京都の後継者不在率を全国比較」では、第三者承継を含む選択肢を整理しています。
3.会社の見える化:社長がいなくても回る状態へ近づける
買い手や後継者が知りたいのは、過去の利益だけではありません。売上が続く理由、顧客が離れない理由、人材が残る条件、リスクが発生したときの対応方法です。顧客別・商品別の粗利、継続率、受注経路、主要人材の業務、ITアカウント、知的財産、クレーム対応を見える化します。
「女性だから」という一般論で会社を評価するのではなく、事業固有の収益力、再現性、組織、契約、リスクで判断されます。経営者自身が築いた信頼やコミュニティも価値になり得ますが、個人の関係のままでは引継ぎにくいため、複数担当制や定例面談を通じて会社の関係へ移します。
4.引継ぎ計画:期限と役割を決める
承継日から逆算し、株式移転、代表者変更、保証解除、取引先説明、従業員説明、権限移譲、引継ぎ後の関与期間を工程表にします。前社長が長く残りすぎると新経営者が意思決定できず、急に退くと顧客や従業員が不安になります。
会社売却の場合は、初期検討、資料準備、相手探し、基本合意、買収監査、最終契約、決済・引渡しという段階があります。全体準備には「会社売却の準備チェックリスト」も活用してください。
承継方法を考える3つの具体例
サービス会社:代表者指名の顧客を会社の顧客へ移す
都内で専門サービスを提供する女性社長が、売上の6割を本人指名で受注しているとします。後継候補は社内にいますが、顧客が交代を受け入れるか不安です。この場合は、代表者と後継候補の共同担当期間を設け、提案書、品質基準、価格決定、トラブル対応を標準化します。顧客との契約主体が法人であることも再確認します。
半年から1年の移行で後継候補の単独受注が増えれば、社内承継にも第三者承継にも有利です。逆に移行できなければ、代表者が一定期間関与する条件や、業績連動の対価を検討します。
不動産会社:会社と個人の資産を切り分ける
女性社長比率が高い不動産業では、会社保有物件、個人保有物件、管理受託、借入、個人保証が絡みます。承継前に各物件の名義、収益、担保、修繕予定、契約を一覧化し、会社に残す資産と売主個人に残す資産を決めます。
不動産を会社から切り離すと企業価値や税負担、金融機関の同意に影響します。価格だけで先に決めず、税理士、弁護士、金融機関と順序を確認します。
小売会社:家族承継と第三者承継を並行比較する
娘が会社を継ぐ可能性はあるものの、本人の意思が固まっていないケースでは、家族承継一本に絞ると時間を失います。店舗別採算、賃貸借契約、在庫、従業員の継続条件を整え、親族承継と第三者承継の両方を比較できる状態にします。
家族に継がせることが目的ではなく、事業、従業員、顧客、売主の生活をどう守るかが目的です。本人の意思を尊重しながら選択肢を残す方が、結果として納得できる承継になりやすいでしょう。
女性経営者の事業承継チェックリスト
- 希望する引退時期と、引退後の関与の範囲を言葉にした
- 株主名簿、定款、登記、株券発行の有無を確認した
- 会社と個人の資産、支出、借入、保証を分けて一覧化した
- 直近3期の決算と月次試算表を説明できる状態にした
- 顧客別・商品別・店舗別の売上と粗利を把握した
- 代表者に依存する営業、技術、承認、口座・IT権限を洗い出した
- 親族、役員・従業員、第三者の候補を同じ基準で比較した
- 後継候補本人の意思を、家族の期待と分けて確認した
- 従業員、主要取引先、金融機関へ伝える順番を決めた
- 税理士・弁護士・M&A専門家の役割と報酬を確認した
- 会社売却で譲れない条件と、調整できる条件を分けた
- 引継ぎ後の生活資金と税引後手取りを試算した
よくある質問
東京都の女性社長が全国最多なのは、女性が社長になりやすいからですか?
それだけでは説明できません。企業・事業者数の多さが絶対数を押し上げています。ただし、女性人口10万人あたりでも全国1位、女性社長比率でも全国平均を上回るため、人口規模以外の事業集積も関係している可能性があります。
17万5,258人には個人事業主も含まれますか?
はい。東京商工リサーチの調査は個人企業を含む約440万社のデータベースを対象とし、病院や協同組合などの一部役員も女性社長として含みます。法人だけの比率と比較するときは集計範囲を確認してください。
女性社長比率15.55%と8.6%は、どちらが正しいですか?
どちらも各調査の定義に基づく数字です。15.55%は東京商工リサーチ、8.6%は帝国データバンクの全国値で、母集団と対象が違います。推移を見るときは同じ調査を使います。
女性社長が多い業種は何ですか?
人数ではサービス業が女性社長全体の50.1%を占めます。業種内の女性社長比率では不動産業25.15%、サービス業19.38%、小売業15.87%が高い水準です。いずれも全国値で、東京都限定の内訳ではありません。
後継者が娘なら、早めに株式を渡すべきですか?
本人の意思、経営権、贈与・相続税、他の相続人、金融機関との関係を確認せずに株式を移すのは避けます。少数株主を増やすと意思決定が難しくなる場合があります。税理士・弁護士と移転時期や方法を設計してください。
小さな会社でも売却できますか?
可能性はあります。規模だけでなく、継続顧客、利益、許認可、人材、立地、ブランド、業務の再現性が見られます。代表者への依存を減らし、会社の強みを資料で説明できる状態にすることが重要です。
女性経営者であることは売却価格に影響しますか?
性別そのものを価格に反映するのではなく、収益力、成長性、資産負債、顧客集中、組織、契約、リスクなどを評価します。女性経営者が築いた顧客基盤やブランドが強みになる場合もありますが、引継ぎ可能かどうかが評価を左右します。
いつから承継準備を始めればよいですか?
後継者や買い手を決める前から始めて構いません。株主・財務・契約・業務を整理し、社長依存を減らすには時間がかかります。健康や市場環境の変化で選択肢が狭まる前に、まず現状把握を始めるのが現実的です。
数字を「多い」で終わらせず、承継の準備につなげる
東京都の女性社長は17万5,258人で全国最多、女性人口10万人あたりでも全国1位です。前年から人数、人口比、社長比率のすべてが上昇しました。一方、社長比率は全国4位で、調査方法によって女性社長比率には大きな差があります。
重要なのは、女性社長の増加を称賛するだけでなく、その多くが小規模企業を率い、全国では60歳以上が65%を占める現実を見ることです。株式、財務、契約、代表者依存を早めに整理し、親族・役員・第三者の選択肢を同じ基準で比べれば、会社を残せる可能性は高まります。
※本記事は公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の会社の企業価値、税務、法務、承継方法を判断するものではありません。実行にあたっては、税理士、弁護士、司法書士、金融機関、M&A専門家などへご相談ください。